勘違い鬼滅奇譚   作:まっしゅポテト

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 主人公の独白が長いです(迫真)

 前世の記憶があるって辛いよね。前世をキッパリ諦められるなら良いけど。
 やっと狭霧山に光が差します。


流覚醒

「ようやく来たか……」

 

 錆兎はまっすぐに流を見据えると刀を抜いて立ち上がった。

 夕焼けを反射して刃が赤く光る。

 

「最終選別合格おめでとう。流」

 

 義勇も錆兎の横に立つ。

 

「この日を待っていた。貴様が七日間いなかった間、一度も俺は貴様を忘れた事はなかった……」

「俺もだよ……錆兎、義勇」

 

 流も刀を抜き、刀を平正眼に構える。錆兎は驚きに目を見開いた。

 流はいつも錆兎と義勇より先に剣を構えることは無かった。彼らに襲われれば正当防衛として地面に転がす事はあっても。

 

 錆兎は歓喜する。

 自分たちは今、やっと彼と同等の弟子として認められたのだ。

 

「錆兎……」

 

 義勇は錆兎と目を交わした。二人の心は通じあっている。

 

 小手先は無しで、お互いの本気をぶつけあおう――。

 

 義勇は訓練場にある仕掛けを一切放棄する事を今決めた。相手が己を認め一人の人間として相手をしてくるのならば、己もまた相手に敬意を払わなければならない。

 これは稽古ではない。

 純粋にこれまでに修めた剣技を競う、大事な試合だ。

 

「勝負は一本、寸止めで行う。この石が落ちた時が開始の合図だ」

 

 錆兎は石を投げた。 

 石が回る。

 

 そして地面に着く。

 

 

 

 

 しかし、流は動かない。

 

「ごめん。錆兎、義勇――」

「どういう事だ!流!」

 

 錆兎は慟哭した。

 

「何故だ!何故俺と戦わない!?」

 

 あろうことか。一門流は刀を下ろし、横に開いたのだ。

 それは試合において、構えを解く、すなわち試合を放棄する事を意味していた。

 

 

――――

 

 

「勝負は一本。寸止めで行う。この石が落ちた時が開始の合図だ」

 

 え……?

 

 どうやら、俺は別に命を狙われているわけでは無いらしい。

 今まで彼らに酷い事をしてきたぶん、安心がどっと迫る。

 

 実を言うと……手鬼の時に走馬灯を見て以来、俺は自分の信念に疑問を感じていた。

 

 俺は今まで自分が生き残る為に『水の呼吸』を修めてきた。

 しかし手鬼の強さを目前にして、錆兎は勝てないと確信したとき、言い知れようのない喪失感無力感に襲われた。

 

 このままで良いのか?

 自分の命だけ守って一人で生きていくのか?

 

 今なら分かる。俺は周りを捨てて一人生きていけるほど、心の強い人間ではない。

 

 自分が転生者という特殊な立場で誰にも言えない秘密を抱えているから、周りの人間と隔絶されたような感覚をずっと持っていた。

 どれほど親に愛されていても、妹に構われていても俺はどこか他人を見つめるような目で見ていたし、もちろん友達なんて作る気も起きなかった。当たり前だ。前世の家族も友人も俺はしっかり覚えているのだから。

 

 

 どうしても生に執着したのも、無意識に前世の人と会える事を期待していたからかも知れない。

 

 

 でも、最終選別で宇髄が俺を変えた。

 人生で初めて心の底から笑って、叫んで、全力を出した。

 第一印象は思い出したくも無いが、宇髄が俺の壁を無理やり壊した。そして俺と一緒に命をかけてくれた。

 

 そうして俺はやっと『周りの人間が俺という異常者を好きになるわけがない』という思い込みを壊す事ができる様になった。

 

 今まで意固地になっていたかも知れない。

 錆兎と義勇は別に俺を殺そうとしていない。稽古が俺からしてみればもの凄く危険に見えていただけで、これが普通だったのだ。

 先生も普通に指導して、下手したら半殺しものの稽古をしていただけである。

 鬼殺隊士になることがどれほど危険であるか、身をもって体験させていただけだ。

 

 気づくのが遅すぎたかもしれない。でも気づけて本当に良かった。

 

 

 よし!

 

 錆兎と義勇は本当に本気を出せる試合を望んでいる。

 なら俺も万全に体調を整えて臨むべきだ。

 

 試合開始の合図が出たが、俺は構えを解いた。

 

「ごめん。錆兎、義勇――」

「何故だ!何故俺と戦わない!?」

 

――俺骨折してるから試合は後日してくれない?

 という言葉は錆兎の怒鳴りに掻き消された。

 

 えぇ……。

 

「流はやっと俺達を認めてくれたんじゃないのか!あれは俺達の幻想だったのか!?」

 それはどんな幻想だ。

 

 どうしよう……錆兎がすごく怒ってる。

 

「錆兎!!」

 

 コミュ障じゃない冨岡義勇が錆兎の手を掴んだ。

 

「流をよく見るんだ!全集中の呼吸を維持し続けている……。流は試合を放棄したんじゃない!」

 

 うん?

 

「流は敢えて刀を下ろした。あれは、あの構えは……新しい型の構え!流は拾壱ノ型をうみ出したんだ!!」

 

 いったいお前は何を言っているんだ冨岡義勇!

 

 

――――

 

 

 藤襲山にて昼も夜も鬼の頸を切っていた流、肺が発達し、さりげなく『全集中の呼吸 常中』を獲得す。

 




大正コソコソ話

 主人公は山の頂上につくまでに、罠のせいでものすごい時間がかかっています。
 ちなみに義勇が新しい型と勘違いしたのは流が一人でよくアニメの凪シーンポーズを真似していたのをこっそり見たことがあるからです。

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