勘違い鬼滅奇譚   作:まっしゅポテト

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 錆兎より三人称→流の一人称→義勇の三人称、でキャッチボールをします。
 書いてて楽しかった!

 


勘違いキャッチボール

「流は拾壱ノ型をうみ出したんだ!!」

 

 親友の言葉に錆兎は目を剥いた。

 錆兎は流を見つめ、警戒を高める。

 

 流は構えを解きながらも、確かに全集中の呼吸を続けている。目を閉じ、集中を高めていた。

 

「すまない……試合を続けよう」

 

 錆兎は相手を侮辱しかけたことを詫びた。一方で、己の未熟さが露呈した事に歯噛みする。

 流は身動ぎ一つせず、その場に佇んでいた。あまりの緊張に錆兎は攻めあぐねる。

 

 どう見ても、錆兎には流が何もしていないようにしか見えないのだ。

 

 やはり流は強い。別次元に彼は立っている――。

 

 錆兎の額から汗が流れる。

 

「構えていないからこそ、何を狙っているか分からない……。さすがだ、流。水の呼吸の『柔』を極めている」

 

 水とは、どんな形にも変化する。そして水の呼吸とは、それを表す『柔』の剣。

 真に極められた水の呼吸において、対応出来ない技など存在しない。

 

 師の言葉が蘇る。

 

 たった数分の緊張が、錆兎の精神力をかつてない程に削っていた。

 

 

 流が目を開ける。

 

 来る――!

 錆兎は身構えた。

 

 しかし流は緊張を解いて、静かに語り始めた。

 

 

――――

 

 

 どうしよう。多分俺はとてつもない勘違いをされている。

 俺は驚愕している錆兎と義勇を見た。俺も驚愕してる。

 

 整理しよう。

 俺は目を閉じた。

 

 俺、試合を中止するために構えを解く→錆兎怒る→義勇がとんでもないことを言う→みんな驚愕(イマココ!)

 

 どういうことだってばよ!?

 

 気づいて、勘違いしてるよ!義勇はドジっ子なんだよ!錆兎、騙されるな!

 

「すまない。試合を続けよう……」

 

 ああ!!

 

「構えていないからこそ、何を狙っているか分からない……。さすがだ、流」

 

 ああああ!!

 

「水の呼吸の『柔』を極めている」

 

 あああああああ!!!!なんという、勘違い!!

 

 錆兎、お前なら分かるはずだろう。俺が何もしていないことに!

 

 クソッ!落ち着け、俺!思考を止めるな!そうだ、恥じらいを捨てて勘違いを解くんだ!

 俺は錆兎を見据えた。

 錆兎の顔は今までにないほどに緊張し、俺に訴えかけるような熱い視線を送っている。

 隣には、この状況を作り出した究極のドジっ子、冨岡義勇。

 

 瞬間、俺の頭に電撃が走る。

 

 

 もしかして、錆兎は義勇の心を傷つけない為に、空気を読んでこの状況に乗っている……?

 

 

 そうだ、それしか考えられない!

 優しい錆兎はどう見ても俺が何もしていないことに気づいているが、親友の心を案じて全力で演じているんだ。そうでなければ試合中に饒舌になったりする訳がない!

 熱い視線は『空気を読め』という錆兎なりのアピールなのだ。

 

 急速に頭が冷えていく。

 俺は拾壱ノ型を扱う強者を演じればいい。

 

 今ここで必要なのは、対話だ。

 

 まずは義勇を褒める所から始めよう!

 

 

――――

 

 流は静かに語り始めた。

 

「よく気づいたな……義勇」

 

 義勇は緊張を解いた流を見て、安心した。

 

 やはり俺の考えは間違いでは無かった――。

 

 ついつい勢いで言ってしまったが、義勇の推測は正しかったようだ。

 

「全集中、水の呼吸 拾壱ノ型――『凪』。これがこの型の名前だ」

 

 なぎ、義勇は口の中で転がした。自然と馴染む感覚がする。

 錆兎は構えを維持しつつも、流の言葉に耳を傾けている。

 

「何をしていたか、分かったか……?」

「していた?」

 

 既に技は成されていた?信じられない、何も見えなかった。

 錆兎も同じように驚いた風だった。表情が変わる。

 

「分からなかったか。だが、それでいいんだ。今は理解出来なくても、もう少しすれば俺のしていたことが何なのか、分かるはずだ」

 

 流は微笑んだ。

 流が笑っているところを、義勇は初めて見たように感じる。

 

「それを理解した時、俺の『凪』がどれほど完成から遠いか分かるだろう」

 

 流の使った拾壱ノ型は、まだ完成していないのか。

 義勇は呆然とする。

 流には勝てないのはもちろん、錆兎にだって負け越してる。義勇は今ここにいる三人の中で一番才能が無いのを自覚していた。

 

 でもそれが止まる理由にはならない。

 だからこそ、先生や近隣の猟師に罠の作り方を教えてもらい、義勇なりに高みを目指していたのだ。

 

 それでもこの領域は、あまりにも高すぎる。

 

「この『凪』はお前たちが完成させるべき技だ……期待しているぞ、錆兎、義勇」

 

 義勇は溢れてくる涙を袖で拭った。

 結局、試合ではなく稽古になってしまった。そしてこの稽古は、狭霧山での最後の、流との稽古だ。

 

 流は、義勇と錆兎に、初めて自分から高みを示して激励した。

 兄弟子からの深い愛情に、義勇は嗚咽をもらした。

 

 

 




大正コソコソ話

 脳内で喋りすぎてなかなか口に出ない男、一門流。
 モノローグツッコミを全て面に出していれば勘違いされなかった。

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