主人公がコミュ障でないと、いつ私が言った……?
どうしよう。義勇が泣いてしまった……。
俺がとんでもないデタラメを言っている事に気づいたのだろう。そして自分の失言と、周りのフォローに耐えられなくなってしまったに違いない。
すすり泣いている義勇から俺は目を離せない。というか錆兎が恐すぎて見れない。
『お前何義勇泣かせてんだよ、フォロー下手すぎだろ(意訳)』
的な事を考えているだろう。本当にごめん!俺、友達出来たの一週間前だし……慣れてないんだよ。こういうの。
もう無理。錆兎に任せた!!
俺は二人に背を向けた。
俺がここから去れば二人きりになり、錆兎がどうにかして義勇を慰めてくれるだろう。親友だもんね、君たち。
「待て、流!」
ホワァ!?
錆兎に鋭い声で呼び止められ、足を止める。錆兎は刀を構えて、俺に突進していた。
無意識に錆兎の刀を弾き返したが、錆兎は攻撃を止めない。
え?試合続いているの?それとも義勇を泣かせた恨み?
「お前がたとえどれ程の高みにたどり着いていたとしても、俺は足を止めない!必ずお前にたどり着く!」
「錆兎!」
お前――。
なんという役者精神!!あくまで俺は義勇の事を信じているぜというスタンスを保ち続けている!
そうだ、俺は何を諦めていたんだ。
冨岡義勇が言った事は全て正しいと、俺たちは演じ続けなければいけない。
例え道化になっても親友の心を案じる錆兎に俺は深い感銘を受けた。
俺も全力で錆兎に答えよう!
「ならば示せ!お前の強さを!いずれたどり着くというのならば、それを証明しろ!!」
自分の言っている事がハチャメチャだが、強キャラを演じるのならば少し理不尽なくらいが良いだろ!何か楽しくなってきたぞ!
錆兎が攻め、俺は守る。
たまに攻撃を挟むが、錆兎は全て軽くかわす。
鍔迫り合いをし、俺の力に押されつつ錆兎は後ろに飛んだ。
器用に木を蹴り、上段の構えをとりながら、今度は空から襲いかかる。
「分かった!!流、刮目しろ!」
錆兎の呼吸音が一段と大きくなる。
「え、それ」
『滝壺』の構えやん!!やっぱガチなの!俺がしくった事怒ってるの!?
「これはお前が居ない間に作り出した、俺だけの技!!」
まさかの新技!?俺は錆兎の刀に水の青ではなく、茶色い濁りを幻視する。
「水の呼吸!捌ノ型改!」
あれは……、土石流?
「滝壺――濁流!!!!」
錆兎の刀を受けた俺の体が、かつてないほどに軋む。その力は今まで受けた錆兎のどの滝壺よりも、強い!
圧倒的な衝撃!あまりにも強すぎて、受け流せない!!
「うぉぉぉ!!」
錆兎は雄叫びを上げて、力を込め続ける。
俺の足が地面にのめり込んだ。常なら『流流舞い』を繰り出すところだが、骨が折れてて足さばきが満足に出来ない。
てかこれ、斬鉄するんじゃね?刀が折れたらそのまま脳天がかち割られるぞ。
俺は力を入れたまま、持ち手から左手を離して刀の峰を押さえた。左手に刀が食い込み、とても痛いが、両腕を開く形で刀を支える。
そうして両足に力を入れ、上半身を前向きに傾けて、全力で錆兎の刀との接地面を――ずらした。
ボキリ。
骨が砕けた音がする。
だが、重心をずらされた錆兎は刀を持ったまま車輪の様に回転して、俺の体を越えて後ろの繁みへと突っ込んだ。土埃で錆兎の姿が見えなくなる。
俺、九死に一生を得たり。
俺の足は完全にひん曲がっている。
義勇はいつの間にか泣き止み、口に手を当てていた。めっちゃ俺の事を見ている。
「さすがだ。錆兎……」
錆兎を讃える。
ここで錆兎が『フッ!貴様こそ、なかなかやるでは無いか』とか言ってくれれば、いい感じに試合が終わって皆で山を下れる。
土埃が晴れた先には、白目で気絶している錆兎の姿があった。
ちょっ、おま、マジかよ……。
ここで気絶は無いんだけど。俺死にかけたのよ?何でお前が気絶すんだよ。
ハァー……強者ロールプレイなんて一生やるもんか!!
大正コソコソ話
濁流滝壺は滝壺のパワーを一点に集中させているので強いという設定です。
集中している場所と重心のバランスが上手く取れないと転倒します。