「一年修行してその程度か!弱い!自分を守れるのは自分だけだ!ましてや己を守れぬ者に他人を守れると思うなよ!」
俺は今、目の前で転がっている冨岡義勇と錆兎を叱咤していた。なぜ彼らは苦しそうに蹲っているのか?
二歳下の少年達を体格、修行歴その他諸々で勝っている俺が徹底的にボコッたからである(白目)
しかもあいつら修行はじめて一年しかたってないのに強いしさ、手加減とかできねぇわ。端から見たら完全に嫌な兄弟子、ごめん二人とも。だから俺に近寄るな。
「お前なに年下いじめてんだよ!?」とか「義勇と錆兎をいじめるゥ?寝言は寝ていえカスが!!」とか言われそうだが、これにはれっきとした理由がある。
『鬼滅の刃にて、鬼殺隊士でありながら生き残る方法』
俺が毎夜必死になって考えている、俺の俺による俺のための人生プログラムである。それにはこう書かれている。
――主要キャラと仲良くなってはならない!(主に炭治郎)
なぜなら、彼らは尽く強い鬼に遭遇するからである。世の中に十二体しかいない鬼、十二鬼月に会いすぎだろ。特に上弦、何で柱の奴より一般隊士の方が会ってんだよ。
主要キャラには勿論目の前の冨岡義勇が入る。錆兎は対象外だが、冨岡だけを一人省く事はできない。
別にボコる必要は無い、やみくもに関わらなければ良い――。そう思っていた時期が俺にもありました!
「今日こそは貴様に勝ってみせる!」なり「強者に挑まずして何が男か!」なり(主に錆兎が)言って向こうからめちゃめちゃ絡んで来るのである。勿論冨岡義勇もついてくる。あと、絶対後者のセリフは間違ってる。
錆兎はまだ良いよ?アイツ襲いかかってくる前に口上述べるし、煩いから直ぐに分かる。
やべぇのは冨岡義勇だよ。何も言わずに後ろから斬りかかってくるんだよ。気配消すのも異様に上手いし。お前だけ暗殺技術仕込まれてんだろ……!
途中で彼らの得物が真剣に代わって、本格的に死ぬかと思ったが、なんとか俺は生きている。
ただこれは避けるだけでは永遠に終わらないので、俺は仕方なく――本当に、仕方なく!!ボコッてるのである。
別に、日々の恨みなんか込めて無いんだからねッ!!
…………。
しかし俺も得物が切り替わった時に反省した。
嫌われるのは全然良い。むしろ嫌われたい。
だけどこのままじゃ俺、鬼以前にコイツらに殺されるんじゃね……?
生きるために嫌われ大作戦をしているのに、作戦のせいで殺されるなど言語道断。やはりアメとムチは使い分けねば!
俺は言葉をかけることにした。
「錆兎、お前は力を入れ過ぎだ!水の呼吸の真髄は何物にも変化し、それでいて本質を見失わない事だ!先生の教えをもう一度洗い直せ!」
水の呼吸の真髄?まだ習って二年目ですが。
「義勇!気配の消し方はなかなか様になってきたが、奇襲が失敗した時にどうするべきかしっかり考えろ!」
お前は一体何になるんだ。そして俺は何を言っているんだ。
「「はい!」」
何故か返事だけはしっかりしている謎。俺適当に言ってるだけだからね?覚える必要全くもって無いからね?むしろお前らには『人に暴力を振るってはいけない』という社会常識を教えたい。
だが、俺が今直面している危機はこんなものでは無い。なんと『殺る気満々最終選別』行きが決まってしまったのである。
しかも俺、岩とか切ってないんだぜ?そういう試験とか無しに、さらっと決まった。
いつも通り錆兎と義勇を転がして、「剣が無いなら鞘で戦え!鞘が無いなら拳で戦え!」と言ったのを切っ掛けに、ステゴロ勝負を繰り広げていた途中である。
先生がスタスタと歩いてきて「お前はもう合格だ。二週間後の最終選別へ行け」とアッサリ言ったのである。
俺は錆兎を殴りながら「マジか」と口を開けてしまった。
だって俺、伍ノ型までしか出来ないんだもん。
才能がないのか、俺は陸ノ型以降の技がこれっぽっちも使えないのである。先生が途中で匙を投げてしまうほどに。
大正コソコソ話
主人公、一門流(いちもん ながれ)と言います。
現在十四歳、錆兎と義勇は十二歳。真菰は十歳(まだ居ない)という設定です。