勘違い鬼滅奇譚   作:まっしゅポテト

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 勘違いあるある、『偶然敵を倒す』
 今回は全ての感想に返信をしていません。すごくし辛かったので。
 後書きに今後について記載あり。


(偶然です)

 

 大変不愉快だ。

 

 村雲は膝をついている裸同期を眺め、刀を握った。

 守ってやったのに人に文句を言う、礼儀がなっていない、そもそも変態の癖に私に常識を説いてくる。それに足手まといだ。

 

 だがしかし見捨てるのは忍びない。

 

 村雲は同期を背にして風を起こした。

 風が吹けば枯れ葉が舞い上がる、見えずとも実体を持っている鬼は枯れ葉に当たる。そうして姿を確認しろ――そう村雲に助言したのは生意気な鴉である。好きになれそうにないが、言っている事は尤もだ。

 

 鬼は長い戦闘で大分消耗している。そして、今村雲の背には絶好の餌となる瀕死の人間がいる。そしてこの場所は町から離れている。

 ならばやることは一つだ。

 

 村雲を殺して、または掻い潜ってその人間を喰う。

 

「風の呼吸、肆ノ型・昇上砂塵乱!」

 

 前に竜巻を起こして鬼の姿を確認する。かなり距離が近い。

 

「弐ノ型、爪々・科戸風!」

 

 前方へ四連の同時斬撃。鬼の手が現れ、地面に落ちる。

 直ぐ様横に薙ぐが、頸には当たらない。

 

 追撃に備えて再び風を起こす。どうやら鬼は村雲を殺す事を優先したようだった。

 

 

――――

 

 

 体を感じろ。血管の細部まで意識して血を止めるんだ。

 俺は目を瞑って集中した。

 

 全集中の呼吸を用いた止血法。俺はそれを試していた。

 俺が今動けなくなっているのは出血のせいである。このまま止めなければ失血死の可能性が出てくる。それに村雲宗治だけに戦わせては必ずガタが来るだろう。彼女も足を引きずっているのだから。

 

 例え暴走女といえども、殺してやりたいほど恨んでいない。それに守って貰っているのだ。俺が動ければ勝率が上がる。

 起きろ、動け!自分を叱咤する。弱い事を嘆いても、俺が死ぬだけだ。

 

 

 でも、できないんだけど……。

 

 

 炭治郎みたいに体がホワァってしない。というか風の呼吸が煩すぎて集中できない。

 

 煉獄さん!『集中』おでこピッ、ていうの俺にやってください!

 

 俺の方が年上だぁ……。

 

 

 出血量を抑えられても止血ができない。動いたらすぐに集中が切れそう。難しい。

 村雲はよく戦っているが、どれも決め手にはならない。

 俺も主人公補正が欲しい。心なしか勘違い補正がある気がするが、正当に強くなりたい。

 

「ぐっ!!」

 

 村雲が呻き声を上げた。枯れ葉は村雲を踏みつける様に上から降る。

 

「村雲!!」

 

 村雲は刀で上からの攻撃に歯を食い縛る。だが、鬼は村雲をそのまま攻め続けるのではなく、村雲の頭を飛び越えて俺の方に流れてきた。

 

 え……。

 

 俺は血が流れるのも気にせず、刀を持ちながら伏せの態勢から仰向けに体を転がした。刃に鬼の影を写すため、少し斜めに傾ける。

 

 

 ごとり。

 

 

――――

 

 

 

 

 信じられぬ物を見た。

 村雲は驚きに目を見開いた。そこには息を荒げて仰向けになる同期と鬼の頸。

 

 鬼に襲われ喰われるかと思いきや、同期は体を翻して頸に刃を入れ、そのまま抜き取ったのだ。血鬼術が解け、姿を現した鬼は憤怒の形相を浮かべながら塵となる。

 

 

 偶然か?これは。

 

 

 寝返った瞬間に見えない鬼の頸を切るなんて事、狙ってできるわけがない。だが、村雲は見てしまったのだ。男が寝返りながら剣筋を調整する所を。

 必然であるならば、それほどの腕前ということ。しかし、この同期は今まで倒れていただけで、強いとは思えない。

 

 もしや……自身の身を囮にして、頸を切った?

 

 それならば辻褄が合う。切り傷だらけなのは鬼を油断させ逃がさないため、そして鬼の行動を分析するため。首を晒すように伏せていたのは、鬼がまず首筋に噛みつくために顔を近づけると知っていたから。

 そうして鬼を誘き寄せて頸を切った。

 

 しかし自分の命をかけるには、大博打すぎる。

 

 

 呆然としている村雲の耳に知らない声が響いた。

 

「凄いですね。寝返りのついでに頸を切るなんて」

「誰だッ!」

 

 村雲は直ぐ様振り向き、鍔に手をかけた。全く風を掴めなかった。

 

 

 

「こんばんは、村雲宗治さん。私は雨柱、白津湯渦桃といいます。貴女は鬼殺隊の隊律をご存知でしょうか?」

「隊律……?」

 

 白津湯は村雲を静かに見据えた。

 

「ご存知ありませんでしたか。鬼殺隊に所属する以上絶対に守るべき規則。無辜の民を守るための規範です。そして貴女が破ったもの……。貴女は昼間、一般人に剣を振るい、それを止めようとした彼にも攻撃しましたね?それは立派な隊律違反です」

「だがそこには鬼がいた。あの時行動を起こさねば逆に食べられていたかもしれない」

 

 そうですか、白津湯は言葉を区切った。

 

「でも、少なくとも貴女が隊律を破った事は確かですから」

 

 

 村雲は意識を手放した。

 

 




 あと数話でこの編は終わります。

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