うぉぉぉん、裁判サクッと終わらせてギャグに戻すぞ!
本日二回連続投稿です。
Re;Qさん、KJAさん、誤字脱字報告ありがとうございました!
「大丈夫ですか?出血多量で死にかけていた事、覚えてます?」
目を開けると眼鏡をかけ、いかにもインテリ風の男がいた。柔和な笑みを湛えて俺を上から覗きこんでいる。
視線を巡らせると、障子から光が透けているのが分かった。太陽だ。
俺は鬼と戦っていて、貧血になって、殺されそうになって……。わかんねぇな。
「意識がまだ朦朧としているみたいですね。ゆっくりで良いですよ、自分の名前を言ってください」
「敬介……」
ふと頭に思い浮かんだ名前を口に出す。
「やっぱり混乱してますね。もう少し寝ていた方がいいかもしれません」
「あ……一門流です」
うっかり前世の名前を口走ってしまった。
「丁寧にどうも。私は水柱、加賀見道鏡といいます」
「み……水柱」
柱って感じがあまりしない。何か細いし、年も三十くらいだろうか?
いや待てよ。なんで水柱なんか居るんだ。んん?
「ここは鬼殺隊の首領たる方、産屋敷輝哉さまの御邸宅です。貴方は先日の村雲隊員への証人として呼ばれました。裁判が始まる前にいくつかの質問に答えて頂けますか?」
「裁判、ですか?」
村雲といえば、思い付く事は一つしかない。
「はい、柱合裁判です。村雲隊員による暴力事件。それを直接見た貴方の口から伺いたい。鎹鴉達はよく見ていなかったそうなので」
おつうちゃん、だからあんなこと言ったのか。確かに夕方は食事の為に俺から離れる。鬼を見かけた上で気絶した俺と周りの発言から推測したんだろうな。
「あなた達はまだ若い。それに常中を会得していることから、才能もあります。私としては彼女を隊から追放したくありません。ただ……」
「反省してないんですね」
追放したらかえって周りに迷惑かけそう。だから困っているわけだ。
「いいえ、自分のしたことに対しては反省の態度を見せました。一晩たって頭が冷えたみたいで。今は隊律をひたすら紙に写しているでしょう」
地味にすごいな、それ。
「ただ、貴方に会わせて欲しいと頼まれているのです。構いませんか?」
――――
村雲宗治は沈んだ表情で隊律をひたすら書き写していた。持ちなれていない筆を持つ事も苦痛だったが、一門流というらしい同期の男が目を覚まさないのが一番の理由だ。
村雲の横では白津湯という五つほど年上の女が違う書類を作成している。お館さまへの定期報告だと言っていた。
ずっと考えていた。自分の行為の正当性について。
最初こそは迷いなんて欠片も無かった。鬼がいるかもしれなかった上、周りの人に迷惑をかけていた悪漢ども。
別にそんな人間、力づくでねじ伏せても良いではないか。そう思っていた。
『貴方一人ならそれで良いかもしれない。だけど鬼殺隊の隊服を着るからには、規律を守りなさい。ただでさえ私達は力があるのです。秩序がなければ鬼殺隊は鬼を殺す為になんでもする無法者集団と化してしまいます』
確かに、規律を守る事の意味は理解した。守る事に異論はない。でも何故一門流があそこまで怒ったのか村雲には理解出来なかったのだ。
やはり私が特殊な出で立ちだからだろうか――村雲は思案する。
村雲はまともな育ち方をしていない。母がいなかったから父に男のように育てられ、漁をしながら刀を振るった。
『たとえ私がいなくても生きれるよう、強くなれ』
父の口癖だった。村雲は父の教えを何より尊んでいたし、実際に強くなった。
でもこれが普通ではないことを村雲は知っている。
父が死の間際に残した後悔の言葉。『普通の女として育てていれば』、という言葉はもしかして村雲が父の思う通りに成長できていなかったからなのか。呼吸を教えた事を悔いていたのか。それとも私の力ではなく、それ以外に問題があったのか。
答えてくれる人間はいない。
人と関わる事が無かったから、人の目を気にするなんて事も無かった。
ただ父に言われた通りに生きた。
鬼は人を喰う、だから鬼を殺す。喰われたら、悲しいから。そんな人間を減らすため。
村雲は自身が人の為に鬼を殺していると思っていた。同時に人に悪行を働いている人間も鬼とほぼ同列に見ていた。さすがに殺しは不味いと分かっていたけれども。
何度考えても一門流の思考が理解出来ない。あれほどの技術を持つのに、命を擲つような行動をしたことも。
本人に直接聞いてみよう、と思った。
壁の向こうに小さな風が生まれる。
「村雲さん、一門隊士が目を覚ましましたよ。貴方に会うとの事です」
襖を開いて現れた男に、村雲は緊張しながら頷いた。
大正コソコソ話
白津湯渦桃(しらつゆ うずもも)
加賀見道鏡(かがみ どうきょう)です。