勘違い鬼滅奇譚   作:まっしゅポテト

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 全てが勘違い。お館様がヤヴァイ。
 


放課後お八つタイム 後編

「いきなり言われて驚かせてしまったかな?」

 

 産屋敷輝哉は明らかに動揺している一門流を見て自身の推測に確信を得た。最終選別の時から一門家について水柱の加賀見道鏡と共に調査を重ね、この結論に至ったのだ。間違えている訳が無い。

 隠している本人には悪いが、一門流の存在はいずれ鬼殺隊にとっても重要なものとなるだろう。いまいる柱の中だけでも、確認をする必要があると感じた。

 

 何も言わない一門流の代わりに、輝哉は言葉を重ねる。

 

「私と道鏡はこの一ヶ月、一門家について調べさせて貰ったよ。もちろん、『記憶による呼吸の伝承』について」

 

 一門家は代々水柱を輩出していた名門であったが、それももう半世紀以上前の事。それ以降、一門家からは柱はおろか鬼殺隊士になるものだって一人も居なかった。実際に一門家は鬼殺から手を引き普通の道場となる、と産屋敷家に保管されている書簡に残っていた。

 だから最終選別時、一門流という名前を見つけた事に興味を持ったのだ。水を意識した名前をつけるのは一門家代々のならわしである。

 

「最終選別の時、流はあえて素肌を晒して挑んだようだね。これは君の家に伝わる『気空一体』の修行かな?」

 

 一門家が鬼殺から退いた時、せめてものお詫びにと代々伝わってきた呼吸の指南書、歴代の手記が産屋敷家に寄贈された。『気空一体』とはその内の一つである。

 その昔、雨乞いの神事を行い、水の神を祀っていた一門家。呼吸にしても自然を感じ、自らもその一部として溶け込ませる技が一門家独自の修行法として成立したらしい。

 しかし産屋敷家に指南書があるのだ。徹底的に鬼殺への道を閉ざした一門家であるから流が知ることなど出来るわけが無いのである。

 これがひとつめの理由。

 

 

「次に、君の育手である元水柱の左近次にも話を聞いた」

 

 一門流は陸ノ型以降の型を使えない。

 

 それは、『記憶による呼吸の伝承』を継承したものの最大の特徴ともいえる。

 先祖の記憶を継承した一門家の者は水の呼吸に対して柱になるほどの高い適正を持つにも関わらず、型が全て使えない事例が多い。記憶が目覚めた瞬間、記憶にある以外の型が習得出来なくなってしまうのだ。数少ない拾ノ型を使えた継承者は元から拾ノ型を習得している、即ち記憶が目覚めるのが遅かった人間のみである。

 陸ノ型以降を使えない、というのは呼吸の使い手でもかなり初期、初代もしくは二代目の水柱の記憶であると推測できた。

 

「そして日輪刀の色」

 

 深い藍色を示す彼の日輪刀は水の呼吸でもかなり異色だ。

 元来、水の呼吸に適正のある者の刀は薄く青みがかった様に色が変化する。黒刀にも近いといえる藍色は刀鍛冶の里で、『最後の一門家の水柱の日輪刀と同じ色である』と証明する人間がいた。一門流の刀を打った鋼山銘鉄である。

 

 ここまで説明した所で輝哉は言葉を区切った。この場にいる全員が一門流という人を見つめる。

 

 

「俺は、そんな大層な人間ではありません」

 

 

 だがしかし、一門流から出たのは否定の言葉。全員が目を丸くする。

 ここまで証拠を並べられて否定する彼に輝哉は疑問を感じる。そこで産屋敷輝哉は一門流がまだ癸の隊士であることに思い出す。

 

 輝哉は小さく笑いを溢した。水柱も同じ考えに至ったようだ。薄く笑っている。

 

「君は謙虚な子だね。流」

 

 輝哉は流という少年の事を忘れていた。彼自身は水柱でなく、まだ入隊したばかりの子どもだ。

 流は自分自身が未熟である事を十分に理解しているのである。彼は、どんなに凄い自分の才にも驕れず高みを目指す人間であるのだ。

 その事を輝哉は嬉しく思う。

 

「期待してるよ」

 

 輝哉は流の肩に手を置いた。

 

 

 

 

――――

 

 

 

 いやだから『記憶による呼吸の伝承』って何だよ!?

 

 

 まず一つ目の説明がおかしいでしょうが!

 『気空一体』?なんやねん!ソレ!

 

 うちのご先祖様は皆真冬に裸で訓練してたんですか?普通に考えてキモいだろ!誰か止めようとしなかったの?

 そんなんで自然と一体って……宗教かよ!!真理の会得でもすんのかよ!!

 

 

 フゥー……。普通に違いすぎて途中記憶が飛んでた。落ち着け。落ち着け。

 

 

 さすがの俺もこれはまずいと思って勇気を振り絞り、お館様に異論を唱えたが。普通に笑って流された。

 これ絶対言葉通じて無いよね。

 

 

「新参者の私にはよく分からなかったが……鬼殺隊に将来有望な隊士が入るのは良いこと……。精進するといい……南無」

 

 悲鳴嶼さん思い切り困惑してんじゃねーか。お館様めっちゃドヤ顔だったけど言っている事全部間違えているからな。

 

「俺の家に伝わる炎柱の手記にも、一門家については言及されていたな。かなり古いが……。たしか、『一門家に伝わる水の呼吸は少し違う』だったか?」

 

 あの、先祖が凄いのはよく分かったんで、もう新しい情報出さないでくれます?

 

「それは、興味がありますね。是非とも見せて頂きたい」

 

 ほら見たことか!現役水柱がやれやれオーラ醸し出してんじゃねぇか!!

 

「すいません。できません」

 

 俺は速攻で否定する。こうすれば先ほど俺の言った言葉の意味が……。

 

 

「なるほど。体がまだついていけないのですね。君は成長期、無茶をするのはよろしくない」

 

 全然伝わってないよコレ!?一門家に伝わる型って、俺型稽古したけど全部頭から吹っ飛んだわ。すぐに家に帰って露葉ちゃんに教えて貰おう。

 

 

「そういえば一門君、私の継子になりませんか?」

 

 そうやってご飯感覚で継子に勧誘するなぁぁ!!




大正コソコソ話

 流が陸ノ型以降を使えない理由は、理論的に考えて意味が分からないと本人が思っているためです。
 ねじれ渦の水。雫波紋突きの波紋。生生流転のバフ。本人は仕組みを考える人間なので『あんなのできるわけねーだろ』と思っています。
 本当は練習すれば滝壺はできない事もないのですが、鱗滝さんが勘違いして教えなくなったことや本人も伍ノ型までばっかり練習していた事から使う事が出来ません。

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