The sleeperさん、so-takさん、誤字脱字報告ありがとうございました!
「あー!わたしも見たかったわ!露葉ちゃんの舞!!」
甘露寺蜜璃は腕をジタバタさせて、刀を振るった。
彼女の特別製の日輪刀は大きくしなり、鬼を切り裂く。
「だが、今年は流も行くからな。柱が夜中に三人も抜けるわけにはいかない!」
「それもそうだけど……」
蜜璃は今日だけの助っ人、村雲宗春を見た。
蜜璃は煉獄に代わり、臨時で炎柱の担当地域を巡回してたのだ。いつもの二倍になってしまうが、その為に非番の隊士が駆り出されたのである。
「わたしだって、今日はやることがあったんだぞ」
後輩への土産にカブトムシを捕まえる気満々だった村雲は、少し不機嫌だった。
腰にかごを引っ提げ、背中に虫取網をしょいながら刀を振るう村雲に、蜜璃はキュンとする。
(春さん、口調は格好よくて見た目は綺麗なのに中身が天然なの、すごくかわいいわ!)
「でもでも、見たかったものは見たかったのー!!」
――――
煌々と燃え盛る炎の中、その人は居た。
ドン、と一定間隔で打たれる拍子にあわせ、その人は滑るように動きだす。
一点の狂いもなく刀が振られ、その人の頭にある鈴が、しゃらんと音をたてた。
舞は止まらない、そのまま流れるように続いていく。
あれは、肆ノ型。打ち潮の原型か……?
炭治郎は目を凝らして、舞を見続ける。すごく複雑な舞だ。そして、美しい。
ヒノカミ神楽は、同じ型を延々と続ける物だったから、迫力はあっても芸術性はあまりなかった。
同じ剣舞でも、違う。
この舞は進むごとに動きが洗練されていく。剣術を学んでいたからこそ分かる違いだ。一年前の炭治郎には分からなかっただろう。
まるで別人になっているかのようだ、と炭治郎は思った。匂いも変化していく事に驚く。
弐ノ型、壱ノ型。
順繰りに舞の中で振るわれるそれは、もしかしたら鱗滝さんよりも冴えている。
参ノ型、流流舞い――。
水飛沫が上がった。
剣先から生まれた水が軌道を描いて、川のように繋がっていく。
静かにしなければいけない、と思いつつも炭治郎は感嘆に息を吐いた。
『炭治郎君、水の呼吸を学ぶ者として、今から見る舞は非常に参考になります。頭に焼き付けなさい』
炭治郎は加賀見に言われた事を思い出す。
この舞から得られる物は全て得る。炭治郎は動き、筋肉の弛緩、呼吸の仕方まで、全てを観察する。
水の呼吸 伍ノ型、干天の慈雨。
これだけは、今と何も変わらない。
その人は刀を水平に滑らすと、静かに鞘に納めて、祭壇に礼をした。やぐらから降りるときに再び礼をすると、門下生の人たちと共に、山を下っていく。
その姿が見えなくなると、あたりの緊張がほどけていく。
「す、すごかったです!すごく綺麗で、一太刀をとっても全部シュンシュンって!なのに全然音は鳴らないし、水も見えるし!」
炭治郎は興奮そのままに加賀見に語った。加賀見はそんな炭治郎を微笑みながら相づちを打つ。
「俺、新しい型を作れるような気がします!早く狭霧山に帰って刀を振りたいです!」
「はい。頑張って下さいね、炭治郎君。でもまだ帰るのは早いですよ」
加賀見は右に人差し指を向けて、少し声を潜める。
「実は、一門君がそこに居るんです」
「え!?あ、本当だ!!」
炭治郎は驚いて大声を出す。その大声に反射的に振り返った流は、炭治郎とばっちり目を合わせた。
流は炭治郎を認識した瞬間、全身の筋肉を総動員させて、その場から逃走した。
「あれ、消えた!?」
「一門君……」
炭治郎が一瞬で消えた流を探してキョロキョロしている横で加賀見は額に手を当てた。
――――
(ゲエ!!炭治郎や!ムリ、俺の心が死んでしまう!!!!)
そんなことは思っていない。
炭治郎は俺が相当のトラウマだろうから、近づくのは止めておこう。
全速力で森を駆け抜けながら、俺は家を目指した。別に、ビビってるわけじゃないし。俺、ヘタレじゃないし。
いや、いま気にすべきなのは炭治郎じゃない。露葉ちゃんの事だ。
もしも『記憶による呼吸の伝承』が実在するとすれば。露葉ちゃんは、絶対にそれだ。
確信を持てる程に、彼女の舞は素晴らしかった。
とりあえず、本人に話を聞こう。
下弦の弐が言った通りなら、ちょっとあの人が変わったようになる舞は心配だし。
いやーそれにしても、俺の立場なさすぎワロタ!!
~理想が高すぎな乙女たち~
蜜璃ちゃんも露葉と手合わせをした事があります。
蜜璃ちゃんは露葉の悩みに共感する所があり、すぐに二人は仲良くなりました。
「やっぱりね!守ってくれるような強い人が良いと思うのよ!」
「分かる……!!具体的には煉獄さんくらいがいいです!!」
「そうなのよぉ!わたしも柱になれば、そういう人たちに会えるって思って頑張ったの!」