がんばれ流!!
四時間前くらいに投稿しました。
so-takさん、誤字脱字報告ありがとうございました!
俺が来たことを伝えると、攸花ちゃんは何も言わずに俺を部屋に通した。
そこには疲れてぐったりした露葉ちゃんがいた。
「兄さん、来たんですね……」
「露葉」
露葉ちゃんは力なく笑んで、俺を向かいに座らせる。
「分かってますよ、兄さんの言いたいことは。わたしは露葉です。他の誰でもありません」
「知ってたのか?」
「はい。お祖父様から全て聞きました」
やっぱりお祖父様は全て知ってたらしい。よく考えたら、一門家の記録を全て処分したのもあの人だ。当然だろう。
「兄さんは気づいてたんですよね……。ずっと昔から」
「いや、違うけど」
露葉ちゃんは寂しそうに、ふ、と笑って首を振った。
「誤魔化さなくても大丈夫です。兄さんが何も言わずに家出をした理由だって、わたしは知っています。一門家の業を一人で背負うためでしょう?わたしは昔から臆病だったから……」
あの、露葉さん。一門家の業ってなんすか?
「一門の名を持つ鬼狩りは必ず上弦の壱に殺される。彼は――巌勝殿は、それほどまでにわたし達を恨んでる……」
さらっと妹の口から上弦の壱の本名出たぞオイ。どういうことやねん。
なんちゅうベリーハードな業やそれ。ほんまワケわからんわ。誰か説明してや。
「知っているでしょう?巌勝殿が、鬼になった時の事。初代様はそれを止められなかった事をずっと悔やんでいた……だから、子孫にそれを託した」
「そうなのか」
子孫に託すものがえげつなさ過ぎるだろ初代様!
あと露葉ちゃん、お前も知ってんだろ的なノリで話さないでくれる!?ぜんっぜん知らんから!
「でも、兄さん……わたし、鬼が怖いです。記憶にある上弦の壱に、どうやっても勝てる気がしなくて……!」
「まあ上弦の壱だし……」
まず鬼のナンバーツーを相手に戦う事を想定してるのがヤバイよ。初心者がいきなりエベレストに挑むくらいの心構えになってるよ。
「兄さんが何も言わずに家出をした理由にだって後から気付きました。わたしを置いて一人で上弦の壱に挑むため」
「だ、」
誰がそんな自殺行為するかボケェ!!
「日輪刀を持った兄さんを見て、今まであやふやだった記憶もはっきりしました。でもやっぱり怖くて……不甲斐ない妹で、ごめんなさいっ!」
露葉ちゃんはとうとう泣き出してしまった。
俺は全くもって彼女の言っている事が分からない。黒死牟が生理的に無理らしい事しか分からない。
それでもフォローは入れねば。
「謝罪する必要はない。一門家の使命など考えず、俺が選んだ道だ」
実際は押し付けられた、だが。
とりあえず露葉ちゃんはそのままでいいんだよーと遠回しに伝える。
「鬼は絶対に俺の代で根絶する。お前は、普通に生きていいんだ。押し付けられた自分じゃなくていい」
俺の代で(炭治郎が)根絶する。
露葉ちゃんも大切な妹だし。とりあえず鬼退治が全力で嫌なのだけは分かった。俺も上弦の壱と戦う運命知ってたら全力で逃げてたわ。
「兄さん……。ありがとう」
露葉ちゃんは泣くのを止めると、俺に頭を下げた。
そしてそのまま畳に頭をつけて動かなくなった。
疲れてるんだろうけど、この体勢で寝るか?フツー。
――――
「ようやく……男の顔になったな、炭治郎」
炭治郎は錆兎に向かって刀を構えた。錆兎も、今日は真剣を握っている。
彼らを見守るのは真菰に義勇、それと加賀見だ。
「勝負の合図はこの硬貨が落ちたとき。二人とも準備は良いな?」
義勇が硬貨を上に弾く。それが回転して、地面に落ちたと同時、炭治郎は動いた。
舞の動きは、水の呼吸の真髄だ。
全てに繋がる体の動かし方、それを炭治郎はわずかながらにも習得した。
刀を上段に構える。
『お前の人生全てをかけて、妹を取り返せ!』
炎が燃えるような音が炭治郎の口から漏れる。
「水の呼吸 拾陸ノ型――火車!!」
「水の呼吸 参ノ型――流流舞い!!」
炎を纏った一閃を、そのまま錆兎に振り下ろす。錆兎も同時に技を出した。
「ハァァァァ!!!!」
炭治郎は流流舞いによって流されそうになる力を、必死に押し止めて、錆兎の刀を押す。
あと少しで届く!
炭治郎がそう確信した時、錆兎が笑う。
「腹ががら空きだ、炭治郎」
「え!?」
炭治郎は錆兎に蹴られて地面に転がった。
「動きが制限される弱点はあるが、いい技だ。水の呼吸にはない力強さがある。認めよう、炭治郎!」
錆兎は炭治郎の手を取り、体を起こす。
「炭治郎の水の呼吸は、水の激しさ、畏れにあるんだね」
「『炎雷』と似たものを感じた」
「さすが一門君の弟弟子というか、いえ、何でもありません」
炭治郎は感極まって泣き出した。
「皆さん、本当にありがとうございます!これで、俺はやっと前に進めるっ!」
「最終選別まで二週間、まだやることはあるよ。頑張ってね、炭治郎」
真菰は炭治郎の頭を撫でた。
義勇は大きく頷いて、辞書のような厚さの紙束を出した。
「師範殿がカナヲの為に作った最終選別の手引き書は、こっそり写して持ってきた。まずこれを読み込め。そうしたら流から受け継いでる地図も渡す。最終選別は過酷だ。用心はするに越したことはない」
「はい!」
「ついでに罠の作り方も教える。誰かを助けた時や、寝るときに絶対に必要になる」
「はい!頑張ります!」
加賀見が義勇の言葉を聞いて何ともいえない表情になっている事に気づく人間はこの場にいなかった。
大正コソコソ話
流がまだ上弦の壱さんと遭遇していないのは、存在を認知されていないからです。
運が良いんだね。
ー追記ー
『火車』はヒノカミ神楽の技の一つです。水の呼吸とまぜまぜして、事前動作を最小限に押さえました。