感想欄に、なにか良からぬものが湧くのではないかと戦々恐々。少しパロディネタあり。
水の呼吸だからね。しょうがないね。
お館様が体調を崩されたので、柱合会議は明日へ延期になった。鬼が潜伏していた事が明らかになり、緊急事態であるので悲鳴嶼さんだけは通されたが、他の人間は解散である。
鬼に毒を盛られたりしたのかと煉獄辺りがひどく心配していた。代理のあまね様は否定していたけど。
悲鳴嶼さんと先に帰ったしのぶさんを除いた七人で恒例の手合わせをし、死の恐怖を感じながらも二戦して家に帰る頃にはもう昼になっていた。
徹夜であったので、一眠りして炭治郎と禰豆子の様子を覗きに蝶屋敷へ向かうと。
「炭治郎……、止まるんじゃないぞ……」
「義勇さぁぁぁぁん!!!!!」
人差し指を前に出しながら廊下でうつ伏せに倒れている義勇がいた。
――――
お館様が心に大きな傷を負った柱合会議の後。
「善逸も猪之助も無事で本当に良かった!」
「炭治郎は何でそんなに元気なんだよ……」
「弱クッテ、ゴメンネ……」
特に大きな怪我もしていなかった炭治郎は、善逸と猪之助との再会を喜んでいた。
「善逸は鬼の毒にやられて手足が短くなっているし、猪之助は喉を痛めているけど、どちらも三週間あれば治ると思う」
「そうか、後遺症が無くて良かった!君は?」
「栗落花カナヲ」
「カナヲ、教えてくれてありがとう!俺に何かできる事はないかな?」
「何もしないでくれるのが一番かな」
カナヲはにっこり笑うと炭治郎の握手を無視して部屋から出ていく。
炭治郎は少し寂しさを覚えながらも、禰豆子の遊び相手をしながら時が経つのを待っていた。胡蝶しのぶへ、隠の人に挨拶をするように言われたからである。
ただ、今は蜘蛛山で負傷した隊士がたくさんいるから忙しいらしい。
お手伝いをしたい所だが、カナヲには断られてしまった。
禰豆子が眠ってしまったので、炭治郎もベットを借りて寝る。
再び起きた頃には夕方で、そろそろ大丈夫かなと部屋を出たのである。
親切にも場所を教えて貰い、そこに向かう炭治郎が目にしたのは。
部屋の前の廊下で怒りを煮えたぎらせながら仁王立ちする女の人と、地面に伏している義勇。ひたすらそれを揺する錆兎だった。
「義勇、大丈夫だ!鮭大根と詰将棋がなくても男は生きていける!」
「無理だ、無理だ……。三途の川の向こうで手を振る姉さんが見える……」
「戻ってこい!」
パァン!
錆兎のビンタが炸裂する。
「すごく痛い。今俺は頭にきている。なぜしのぶ殿は安直に俺から鮭大根を奪うのか。そもそもなぜこの世に鮭大根がなくても生きていける人間がいるのか」
地面に伏せながらも淀みなく喋る義勇。
「そりゃお前、人間だからだろう」
「水の呼吸の使い手は鮭大根で強くなれると証明されている。なぜなら俺が流に会いに行くと必ず鮭大根が食卓に出てくるからだ。先生も一週間に一回は鮭大根を作ってくれた。錆兎も絶対に外食する時は鮭大根のある店を選ぶ」
「それは、本当ですか!?」
炭治郎はつい声をあげた。
「真菰もご飯を誘えば絶対に鮭大根のある店に行ってくれるし、村田も同じだ。俺たちに共通しているのは水の呼吸であるということ。つまり、鮭大根はすごい」
「俺、鮭大根食べたこと無いんですけど、どこに行けば食べれますか!?」
「水柱邸」
「それってどこらへんにありますか?正に水の呼吸って感じがします!」
「おい、水柱邸は料亭じゃないぞ」
逸れていく話。非常に心苦しいが、錆兎は男らしく今まで隠していた真実を教える事にした。
これ以上は義勇に毒だ。
「義勇、流はお前が来たときしか鮭大根を作らないんだ。流は親子丼が好きだからな」
「なん……だと?」
「俺は鰤大根が好物なんだ。真菰は菜の花のお浸し、村田は豚汁だな」
「……」
「ずっと隠していたんだ。お前があまりにも美味しそうに鮭大根を食べるものだから、みんなお前の為に鮭大根のある店を選んでいたんだ」
みんな遠慮して言えなかっただけである。義勇の為に黙っていたのに、あっさりばらしてしまう辺り、錆兎も水の呼吸だった。
物言わぬ骸と化した義勇。
炭治郎は駆け寄った。義勇を仰向けにする。
「ぎ、義勇さん」
「炭治郎……俺の頭がおかしいのか?」
幼少期のトラウマが再燃する義勇。
パァン!
「い、痛い」
錆兎は義勇の頬の、今度は反対側を叩いた。
「甘ったれるな義勇!現実を受け入れろ!鰤大根ではなく鮭大根が好きなお前は少数派なんだ!だがその事に対して鮭大根に落ち度は無いし、無論鰤大根にも落ち度は無い!今度鮭大根を侮辱するような事を言ってみろ。俺はお前と友達を止める!」
「錆兎……」
「義勇さん。俺はタラの芽が好きですけど、義勇さんの好きな鮭大根も食べてみたいです!」
「炭治郎……」
何やらいい感じの雰囲気を醸し出している三人。
しかし、ここには胡蝶しのぶがいた。
「なぁに言ってるんですか、冨岡さん?今度ばかりはわたしもビタ一文譲る気はありませんから。姉さんに言ったって無駄ですからね。事前に根回ししましたから」
「ゴフゥ!」
普段通りの無表情で血を吐く義勇。炭治郎はあわてふためいた。
「ぎ、義勇さんは鮭大根が無いと生きていけないんです!芋虫だって、葉っぱが無いと生きていけないのと同じです!どうかお情けを……!」
炭治郎、兄弟子を芋虫と同列にする。
「冨岡さんは人間ですよ」
「いいえ!普通の人間なら鮭大根程度で血を吐いたりしません!義勇さんは違います!」
炭治郎、ガチである。
流石の義勇も驚く。
「炭治郎、もういいんだ……」
義勇はふらふらと立ち上がると一歩、二歩と歩いた。しかし、しのぶの前で膝をつく。
「俺は、お前と禰豆子を信じている。だから、お前は胡蝶しのぶという壁に当たっても、絶対に諦めるな。大丈夫だ、お前な――」
「くどい!!」
「グッ」
しのぶは義勇の頭に踵落としを決めた。
一気に怒鳴り付け、足早に去っていく。
「止まるんじゃないぞ……」
「義勇さぁぁぁぁん!!!!」
泣きすがる炭治郎に錆兎は何とも言えない表情を浮かべた。
実を言うと、この茶番。初めてでは無いのである。
毎度毎度、鮭大根が禁止されるたびにしていたが、今回は全く事情を知らない炭治郎が見てしまい、劇が暴走してしまった。
炭治郎を引き剥がし、錆兎はこっそり耳打ちした。
「おい、義勇起きろ。今回ばかりは無理だ」
「…………」
「流は、」
「義勇?」
義勇は反応に困りすぎて却って能面になっている流を見た。
「流は、何が好物なんだ?」
いきなりの飛び火に戦く流。
流はお汁粉が大好物である。何時もは錆兎の好物と思われる上、作るのが楽な親子丼ばかり食べているが、こっそり汁粉を食べに出掛けたりしている。
でもいい年してお汁粉が好物とは、少し恥ずかしい。
「雑煮」
流はお汁粉を広義的に表現することにした。お汁粉だって小豆を煮たものである。
周りが静まりかえり、流は少し恥ずかしく思った。錆兎はもしかしたら俺がお汁粉好きであることを知っていたかもしれない。
炭治郎も元気そうなので、その場を去る。
「雑煮……」
「なん、だと?」
錆兎は呆然と呟いた。
笑顔で縄を持った水の呼吸唯一の常識人枠、真菰が流と入れ代わりに来る。
「近所迷惑は止めようね」
縄を義勇の体に巻き付けていく真菰。
「真菰は、何が好物なんだ?」
「鍋かな。皆で食べると美味しいよね」
「なん、だと?」
義勇を巻いた縄を、そのまま錆兎にも巻き付けていく真菰。
「炭治郎、蝶屋敷では静かにしないといけないからね」
「あ、はい」
炭治郎は素直に従った。
廊下の角から一門攸花がヒョイと顔を出す。
「まこもー!一段落したから冨岡さん来なくて大丈夫!」
「うん。じゃあ吊るしておくね」
真菰はずりずりと野郎共を引っ張り去っていった。
「炭治郎はいい子にしているんだよ?」
炭治郎は鱗滝の弟子の中で一番強いのは、真菰であると確信した。
次回予告――
「なぜ、俺はモテないのか?」
一門流は疑問に思った。
「そりゃあお前、勘違いされているからだよ」
宇髄は答えた。
番外編、『一門流がモテない理由』