勘違い鬼滅奇譚   作:まっしゅポテト

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 キメツ女子は本当に可愛い。
 女子たちの可愛さが伝わったら勝利。
 食べ物食べているカナヲの可愛いさが伝わったら勝利。
 
 合言葉は、お労しや兄上。

 
 so-takさん、simple21さん、誤字脱字報告ありがとうございました!


一門流がモテない理由

 鬼殺隊に女性隊員は非常に少ない。

 鬼を斬るというのがただでさえ重労働なうえ、筋力がなければなすすべなく殺されるからだ。呼吸を修める者が少なければ最終選別を突破できる者も少なく、高位の隊士であれば更に数が限られる。

 そんな中で生き残る者が居れば、それは即ち剣術に特に秀でた者であるということ。そこらの男性隊士よりもよっぽど人間をやめているだろう。

 

 でもやっぱり女子であるからお洒落や甘いものが好きだし、可愛いものを見ればときめき、三人寄れば恋愛の話になるのである。

 

 

 蝶屋敷の縁側、ちょっとした用で胡蝶しのぶに会いに来た甘露寺蜜璃は羊羮を舌でじっくりと味わいながら、側にある濃い緑茶を口に含んだ。小豆の甘さが口の中でふわりとほどけ、お茶と一緒に喉を通る感触に顔を綻ばせる。

 

「んー!たまらないわ!」

「羊羮はいつ食べても美味しいわねー」

 

 蜜璃の笑顔につられて笑うカナエ。忙しくて相手をできないしのぶに代わり、一緒に羊羮を食べていた。

 カナヲもカナエの膝の上に座り、もぐもぐ口を動かしている。

 

「気に入ってくれたみたいで嬉しいな」

 

 真菰は一心に食べるカナヲの頭を撫でて笑った。カナヲは不思議そうに顔を傾ける。

 

「任務がてら、銀座で買って来たんだ。いつも義勇がお世話になっているし」

「冨岡君は良く働いてくれるわよ。致命的に空気が読めないだけで」

「花柱様にそう言って頂けると、同門の身として誇らしいです。村雲さんは、どう?羊羮を食べた事が無いと聞いたけど」

 

 村雲は、人生初の羊羮に感動していた。箸を握りしめ、ぶんぶんと首を縦に振る。

 

「ング。すごく美味しい。こんな甘い食べ物がこの世にあったなんて、驚きだ」

「春ちゃんは甘いものが好きなのね!今度美味しい甘味処を教えてあげるわ」

「感謝する!」

 

 年齢差はあるものの、継子同士の二人は気が合った。

 

「にしても凄いわね。偶然でこんなに集まるなんて」

「同感です!わたしはしのぶちゃんに口紅を渡しに来たんだけど、皆は?」

「羊羮を渡しがてら、攸花ちゃんに会いに」

「虫下しを貰いに」

 

 周りが目を丸くするのを見た村雲は、照れくさそうに頭を掻いた。

 

「いや、いつもなら3日ぐらい気合いで耐えるんだが、今回は任務が重なってな……」

 

 そういうことじゃない。

 

「余分に貰っておきなさいね」

 

 村雲が魚ばかり食べている事を知っているカナエは、一切驚かなかった。

 

 

 

 

 

「村雲さん、魚の生食は危ないですから、なるべく火を通して下さい」

 

 診療を終えたしのぶが盆を持って加わった。盆の上には大福が乗っかっている。

 

「あれ?姉さん、羊羮なんてあったっけ?」

「真菰ちゃんが持ってきてくれたのよ。冨岡君がお世話になってるからって」

 

 しのぶは口をへのじに曲げた。

 

「あの人は……ううん、真菰さんに言っても仕方がないわね。でもどうしよう、豆大福はいらなかった?」

「食べます。お腹すいちゃったのよね」

 

 カナエは恥ずかしそうにもじもじしている蜜璃に視線を送る。それに気づいたしのぶは笑んだ。

 

「皿にのせてしまったから、遠慮せずに食べてくださいな」

「嬉しい!」

 

 蜜璃は小皿を受けとると、柔らかい豆大福をそっと掴み、口に入れた。

 薄皮を歯で破るとつぶあんが溢れ、口の中で一気に広がる。数回噛んで甘さが舌に馴染んできた所で塩味の豆がしょっぱさで甘さを打ち消す。

 とても甘い、けれどもくどくない。蜜璃の体が多幸感に満たされた。

 

「おいしーい!」

 

 思わず頬に手を当てる。

 

「カナヲ、あーん」

 

 カナエが大福を口に近づけると、カナヲはしばし大福を見つめ、ぱくりと口に含む。

 

「お餅は喉に詰まると大変だからね。しっかり噛むのよ」

 

 きっちり三十回噛んだ後に、カナヲはごくりと飲み込んだ。

 

「どう?おいしい?」

 

 再び口に大福を近づけるカナエ。カナヲは何も言わずにもう一口食べる。

 

「やーん、かわいい!」

 

 蜜璃が身もだえする。真菰もうんうんと頷いた。

 

 

「ングッ!」

「村雲さん!?」

 

 村雲が大福を喉に詰まらせ、別の意味で身もだえしていた。

 

 

 

 

 

「あのね、実は皆に聞きたい事があって……」

 

 村雲を救出した後、真菰に誘われた一門攸花も加えて蜜璃が口を開いた。

 

「わたし、新しい呼吸を生み出そうと思っているの。炎の呼吸ももちろん使えるんだけど、わたしの全てを生かしきれないのよね」

「型の相談?道場を使います?」

「ううん!型は出来てるの。ただ、もっと知れればもっと良くなる気がして」

 

 話の流れが掴めず首を傾げる一同に、蜜璃は覚悟を決めて言った。

 

 

「『恋の呼吸』の参考に、みんなの理想の男性を教えて欲しいです!」

 

(恋の呼吸ってなんぞ?)

 

 全員の心の声が木霊した。

 

 

 

 

 

 

 

「じゃあまずわたしから行くわね!」

 

 ノリノリで話に乗るのはカナエ。

 

「わたしはやっぱり優しい人がいいわねー。年下に優しいとなおよし!しのぶとカナヲのお兄さんになるんだから!」

「優しさは重要ですよね!分かるわー!」

 

 普通である。しのぶはほっと息をついた。

 しかし、我が姉は優しいだけのダメ男につけこまれそうだと心配になる。まあ近づく前に排除すれば良いのだが。

 

 

 

「じゃあ次ね!攸花ちゃんはどんな人が好き?」

「え、わたしですか……?うーん、夢を追いかけている人が良いですね」

「『夢を追いかけている人』!素敵な響きね!お付き合いはした事があるの?」

 

 攸花は少し苦い顔になって湯飲みを見つめた。明らかに黒歴史であることを示している。

 

「なぜか分からないんですけど、数日で向こうから離れていくんですよね……。怯えながら……」

「あらあら」

 

 カナエは眉を下げて口に手を当てた。ちらりと真菰の方を見ると、真菰はにこやかに笑ったままである。

 

「攸花ちゃんは悪くないよ、男の方がダメだったんだよ」

「真菰には何度も相談に乗って貰ってるのに、ごめんね。わたしってそんなに怖いのかなぁ……」

「攸花ちゃんは素直で優しくて教養もある素晴らしい女の子だよ」

 

 間髪入れずに答える真菰。

 

「真菰ちゃんは攸花ちゃんの事が本当に大切なのねー」

「……まあ、攸花さんが変な男に引っ掛からないのは良いことだわ」

 

 カナエとしのぶは真菰が裏で手を引いてる事を察した。

 

 

 

 蜜璃は興奮そのままに話を続ける。

 

「そういう真菰ちゃんは?」

「わたしはしっかりしている人がいいかな。周りに迷惑をかけず、分別をわきまえた、常識のある人」

 

 周りに迷惑をかけ、分別をわきまえない、常識のない人の具体例がカナエとしのぶの頭に浮かんだ。

 

「錆兎か?」

 

 投下される村雲爆弾。

 何も条件を満たせていない男を挙げる。

 

「うん、あれは無いね」

 

 真菰の笑みは変わらなかった。

 

 

 

「しのぶは?」

 

 しのぶはギクリと肩を震わせた。恥ずかしいので無難な答えを作り、答えようとするも……。

 

「そういえば、昔しのぶが理想の男の子について語っていたのよねー。確か、」

「姉さん!!」 

 

 しのぶはカナエを恨んだ。嘘をついたら幼少期の忘れたい思い出が掘り返されるということである。

 言うわよ!言えばいいんでしょ!

 半ば自棄に答える。

 

「理知的で、温厚な人物が良いです。物静かな人とか」

「いいわねー」

 

 ほけほけとカナエが笑う。

 

「冨岡か?」

 

 再度投下される村雲爆弾。

 蜜璃が「きゃ!」と声を挙げた。それ聞いちゃう?といった感じで真菰の笑いがニヤニヤになる。

 

「人の話を聞ける事が大前提ですッ!!」

 

「あらあら」

 

 カナエは妹の可愛らしい様子に目を細めた。

 

 

 

 

「んー次!春ちゃん!」

「父上のような人がいい!強く、賢く、誇り高い人物。武術を極めていればなお良し!」

「まさに武士って感じね!いいわ!」

「弱きを助け、強きを挫く!辞世の句は『我が人生に一片の後悔なし!』民衆の手本となるような、志高い人間だ!」

 

 かなりの時代錯誤である。

 

「それって一門さんですか?」

 

 しのぶの反撃!

 しかし、村雲は平然として宣った。

 

「いや、あれはないな。色恋に露ほども興味が無いと見える」

 

 

「どういうことですか、村雲さん?」

 

 攸花は声を大にした。兄の恋愛事情は把握しておきたいのが妹というものである。

 

「雰囲気で分からないか?その、女に対して硬いというか……」

「ああ、なるほど」

 

 カナエはうんうんと頷いた。

 

「あまり機会は無いけれど、話をする時も不用意に近づかないというか、距離をとるのよね。わたしの方が後輩なのに、『胡蝶さん』って呼ぶし。男性は基本呼び捨てなのにね。女の子が苦手なのかしら?」

「一門さんって、水柱様の事よね?そこそこ若い方だと思うのだけれど、結婚はなさってるの?」

「いいえ、まだです」

 

「でも妹である攸花さんは兎も角、真菰さんや村雲さんとは親しいですよね?」

 

 しのぶは純粋な印象を投げかけた。

 しかし真菰と村雲の二人はうーん、と首をひねる。

 

「わたしはそんな風に思ってないかな。そもそもあまり話さないんだよね。一門家でも狭霧山でもすれ違っていたから」

「わたしが話しかければ答えるが、向こうから話しかけてくることは稀だな」

 

 会話に置いてきぼりの蜜璃が口を挟む。

 

「煉獄さんからだけれど、無口な方って聞いたわ」

「そうね、静かな方だわ。怒ってるのを見た事が無いし、カナヲにお菓子をあげたりしているから優しい方だと思うけど」

 

「蜜璃にも分かりやすく言うと、静かな錆兎といった所か」

「静かで表情の少ない錆兎かな」

 

 蜜璃の頭に『男は……どんな壁でも、越えてみせなければ……』と無表情で呟く錆兎が浮かんだ。

 

「なんか……とても微妙だわ……」

 

「原型を留めてないわねー」

「そんなのただの冨岡さんですよ。でも、何より一門さんを語る上で外せないのは『記憶による呼吸の伝承』ですね」

 

 しのぶは手ぬぐいを出して、大福の白い粉がついているカナヲの口を拭った。カナヲはなされるがままに頭を揺らす。

 

「記憶による呼吸の伝承?」

「先代が極めた呼吸法を記憶ごと引き継ぐ、という一門家に代々伝わる術です。原理は全く分かりませんけど」

「歴史あるお家だと、そんなものもあるのね!」

 

 カナエは話を戻した。

 

「でもただ距離が遠いだけで、それ以外は違和感は無いわよ?女子が苦手なら、もっと顕著に出ても良いと思うけれど……」

 

「それだ」

 

 真菰がぽつりと、しかしはっきりと呟いた。

 

 

 

「記憶の伝承があるから、女性にあまり近づかないようにしているんだ」

「それは、どういうことなの?」

 

 真菰は人差し指を鼻に当て、思案しながら話を続ける。

 

「攸花ちゃん、流さんの性格は先代の記憶の影響がかなりあるよね?」

「うん。兄さんは昔から静かで、頭が良かったよ」

「わたしたちは『記憶による呼吸の伝承』を言葉のまま捉えて、呼吸だけを継いでいると思っていた。だけど実際は違うんだよ、呼吸以外も伝承されているんだ。記憶を受け継いでいるんだから、いわゆる『先代』の知識や経験その他諸々も受け継いでるんだよ」

 

 一旦言葉を区切る真菰。村雲は困惑を顕にする。

 

「まだ話が読めんな。どんな関係があるんだ?」

「記憶とは思い出とも言い換えられますよね?そして思い出は人間の人格形成に重大な意味を成すもの。そして今の流さんはそれを全て踏まえた上であの性格なんです。その思い出にもしかしたら――」

 

 しのぶが真菰の言葉を引き継ぐ。

 

「もしかしたら、恋愛関連の記憶もあるかもしれないってことですか?」

「はい。一門家が今まで続いているということは、先代にも奥方がいらっしゃったということ。流さんはその方を一途に思い続けているのではないでしょうか?」

 

 迷探偵マコモ、爆誕!!

 

「なるほど!あれは亡き奥さんを思っての態度と言われれば分からなくもないわ!真菰ちゃんさすがね」

 

 カナエはポンと手を叩いた。

 

「前世の奥さんを思い続けるなんて、ロマンティックねー!わたしもそのくらい一途な人と結婚したいわ!」

 

 蜜璃はキュンとして、体をくねらせた。

 しかし攸花はイマイチ納得がいかない。あれはただ単に口下手なだけな気がする。

 

「でも真菰、それは――」

「それは、そもそも女なのか?」

「へ?」

 

 攸花の言葉を遮って村雲が異議を唱えた。

 

「これはわたしの師範から聞いた話なのだが、一門は始まりの水の呼吸使い手の記憶を受け継いでいるらしい。戦国時代の人間だ」

 

 全員が黙っていた。

 

 

 

「衆道じゃないのか?」

 

 三度目の村雲爆弾。

 

「女に近づかないようにしているのではなく、男に近づきすぎなんじゃないか?」

 

 まさに逆転の発想である。

 

 ちなみに戦国時代において、衆道は珍しいものでも何でも無かったのである。そういう事がタブー視されるようになったのは西洋文化が入って来てからであり、日本では(以下略)

 

 

「え、じゃあ錆兎とも……」

「冨岡さんとも……」

 

 真菰としのぶは震えた。

 

「そういう関係かも知れないわねー」

 

 カナエは笑った。結局、そういう方が話として面白い。

 蜜璃は硬直している。

 

 

 

 そのなかで、一名、本当に震えている者が一人。

 

「お姉ちゃんが言ってた巌勝殿って、そういう関係の人だったの……?確かに一族ぐるみで付き合うなんて生半可な思いじゃないと思うけど……。え、え?」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 流はりんごを剥く手を止め、ぶるりと肩を震わせて周りを見回した。

 

「どうした?」

 

 錆兎がりんごを爪楊枝でさし、口に放り込んだ。しゃくしゃくと小気味良い音をたてて口を動かす。

 

「いや、俺も何か感じてしまった」

「流もか……、義勇はあんなに寒がっているし、風邪が流行りそうだな」

「錆兎も少し顔色が悪いぞ」

「なんかな、ぞわっと来たんだ」

 

 折角水柱邸に来ているのに、布団にくるまっている義勇。

 流はりんごを小さく切って義勇の口へ落とした。何も言わずに義勇はもぐもぐ食べる。

 

「大丈夫か?」

「非常に悪寒がするだけで、咳も喉の痛みもないから問題ない……」

「とりあえず葱を沢山食べろよ」

 

 流は残りのりんごを口に入れ、夕飯の準備をするべく立ち上がった。いわずもがな、鮭大根である。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「どうした、黒死牟?」

「いえ……なんでもありませぬ…………」

 

 

 

 

 

 

☆お労しや、兄上――!




オマケ

「さーて、カナヲはどんな男の子が好きなの?」

 クルクル、パッ。






「冨岡…………以外」


「あらあらー」




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