勘違い鬼滅奇譚   作:まっしゅポテト

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いまは何年?

 走る。

 俺は呼吸を整えながら手鬼の後ろに飛んだ。

 

 水の呼吸、弐ノ型・水車。

 縦に振りかぶった刀は手鬼の頸にまとわりつく腕を切る。落ちる腕に乗り、もう一度飛ぶ。

 

 水の呼吸、壱ノ型・水面切り。

 距離があったためか、刀は頸の表面を削るだけだ。やっぱ硬いな頸。

 

「おお、狐の面だァ……。今年も鱗滝の弟子が来たんだな」

 

 手鬼はギョロリと目を回して俺を視認する。俺は数メートル離れて着地した。ガクブルである。

 もう逃げる事は許されない。

 

「自分から挑んで来るなんて、勇気があるなぁ!少年、今は何年だ?」

 

 きっ、来たー!!奮い立て自分!

 

「今は、明治――」

 

 アレ……何年だ?分からないな……。やっぱ西暦の方が良いと思う。

 

「何年か知らん」

「ちゃんと答えろぉぉ!!!!!!」

 

 キレたぁ!?数十本もの腕が俺に襲いかかる。

 

 水の呼吸、参ノ型・流流舞い。

 

 全てを見極め、切り落としていく。

 腕の全てが遅く感じるのは、弟弟子二人との地獄稽古の成果だろう。人生で初めて二人に心から感謝した。

 

「イヒヒヒヒッ!!鱗滝の弟子は俺が全員食ってやるんだ!四肢をもいで、なるべく苦しませながらな!」

 

 下品な笑い声を無視して、呼吸を維持させる。今俺がやるべき事は時間稼ぎだ。

 炭治郎が一人で出来た事を、俺と宇髄が二人で出来ない訳がない!

 

 

 

 

 数分前――。

 

「のろいな。地味にデカイ鬼だが、二人でやれば勝てない事はないだろう」

 

 宇髄は上半身裸のまま、鬼を見て分析を始める。百メートル程離れている上に木々が邪魔してるため、俺は大体の輪郭しか掴めない。

 いや、それより半裸の宇髄イケメンだわ。

 

「攻撃は手を伸ばす事、間合いは結構広そうだ。頸らしき所を手で守っているのも地味に面倒くさい」

 

 手鬼がよく見えない俺に情報を教えてくれている。

 それより俺は半裸の宇髄がイケメンである事に憤りを感じる。

 

「一門?聞いてるか?現実逃避すんなよ」

「脱がした俺がいうのも何だけど、服を着てほしい」

 

 宇髄のイケメンさはあの派手派手な服でイロモノ化する事により、抑えられていた事に俺は気づいてしまったのだ。

 なにか言い様のない腹立たしさが胸の内に燻る。

 

「肌がピリピリしてて新鮮だ。気分が良いぜ!冬に裸も悪く無いな!」

「それ霜焼けって言うんだよ」

 

 一気に胸の燻りが霧散した。宇髄の心は全然イケメンじゃないぜ。

 

「取り合えずお前が先に行って時間を稼げ。そうすれば後から俺が隙を作ってやれる。時間さえあれば簡単に頸を切る方法があるんだ」

 

 十中八九譜面の事だろう。宇髄天元独自の戦闘計算式。

 

「俺、一人で戦うの?」

「大丈夫だ!お前は地味だが派手に強い!この俺が言うんだから間違いない!」

 

 快活に笑って宇髄は俺の肩を叩いた。

 

「おっと、鬼が俺達の場所に気づいたな!まずは回り込むぜ。お前は左から行け!」

 

 走り出す宇髄の背中に俺は声をかけた。

 

「それってどのくらいの時間がかかるんだ?」

「三十分だ!!」

 

 

 

 

「なっっっっが!長すぎるわ!!長いにも程があるわボケぇ!!!!」

 

 

 

 

――――

 

 

「何分経った?」

 

 口に溜まった血を地面に吐き捨ててぽろっと呟く。何度かかすったものの、流流舞いでどうにか対応し続けていた。

 宇髄はまだ現れない。宇髄の譜面の原理はいまいちよく分からないが、俺が戦闘をしてないと、情報を抜くことが出来ないのだろう。

 もしかしたら流流舞いで避けるばかりではなく、こっちからも仕掛けた方が良いのだろうか。

 

「ウロコダキィ……!!」

 

 手鬼もなかなか死なない俺に鬱憤を募らせている。最初よりも襲いかかる手の数が増えていた。

 

 宇髄天元は俺の事を『地味だが派手に強い』と言った。見た目と違って言葉には飾り気が無い宇髄の事だ。信じてみても、良いかもしれない。

 

 でもなー。

 

 ここで俺の手数の少なさが仇となる。

 俺の持つ技の中で一番威力が高いのは今の所、『弐ノ型・水車』である。しかしそれは縦回転の水車であって、頸を切るのには適していない。

 

 次に『壱ノ型・水面切り』。炭治郎もこの技で頸を切っていた。 

 非常に不安だが、やるならこの技だろう。

 

 もし切れなかったら逃げて一回休もう!

 

 流流舞いを維持しながら手鬼に近寄る。手を梯子に数回飛び、頸に近づく。

 

 俺は息を吸い込んで腕を組んだ。

 

「水の呼吸、壱ノ型・水面切り!!」

 

 鬼の頸を護る手が切れ、俺の刀が頸に食い込む。

 

「オォォォ!!!!」

 

 手を振り抜き、頸を切ろうとした瞬間。

 

――パキリッ。

 

 刀が根元から折れた。呆然とする。

 

 

『刀を拾う?派手に無理だと思うぞ。刀は遺品扱いだからな。最終選別が終わった後に回収される手筈になっている。研ぎ石なら貸してやるが』

 

 

 俺が第一の錆兎になるのか……。

 

 

 

 

 

 

 




大正コソコソ話

 主人公に幼なじみはいますが友達はいません。同年代に比べて大人びていたから浮いてました。

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