水に溺れる感覚がする。
目に映る風景。感覚。これは、一門流が体験したことの無いもの。
これは、誰の記憶だ……?
もしかして、これが……記憶による呼吸の伝承――、
『剣が折れたら鞘で、鞘が折れたら素手で!』 CV.悠○碧
あ、前世の記憶だわ。
「一門!しっかりしろぉぉ!!」
爆音と共に筋肉を見せつける宇髄の存在で俺は一気に意識が覚醒した。
右手で鞘を引き抜き、覆い被さるように迫る手を無理やり弾き返す。
左手に残っていた柄を手鬼の目に突き刺して、俺は頭を飛び越えるように宇髄の方へ抜けた。上手く受け身が取れずに足を痛める。
宇髄は転がってる俺を脇に抱えて一目散に駆けた。
「ごめんな。無茶させた。これは俺の采配が間違えていた。お前が死ななくて本当に良かった」
「気にすんな……」
正直嫌みを言うほどの気力も無い。
死の危機に直面するのは初めてだ。たぶん、俺が見たのは走馬灯だろう。
「周囲の人払いをするのに時間をかけすぎた。でもお前のお陰で譜面は完成だ。本当は俺が奇襲をかけるつもりだったんだが、今ので手の内がバレた」
人払いなんかしてたのか……。
「悪いな、すぐに助けられなくて」
宇髄のテンションが低い。俺が死にかけたのが相当心に来てるみたいだ。
「逃げるか?正直、今の刀を無くしたお前じゃ勝てる可能性は全く無い。もちろん逃げるなら最終日まで俺が責任を持って守ってやる」
男前だな。本当にいいやつだ。
死にかけたからこそ分かる。手鬼は本当に強い。
だから、錆兎じゃアイツに勝てない。
多分俺がこれから一年間どれだけ『自分の命を優先しろ』と言っても、錆兎はここに来たら周りの人間を庇うだろう。そして刀を折って死ぬのだろう。
そしてそれを基に義勇は自分を叱咤し叩き上げ、まさに原作のような『寡黙で、厳しいながらも人情に厚い水柱』となるのだ。
それが『原作』だ。
「宇髄はさ、後悔した事あるか……?」
「たくさんあるさ。俺は今までやってきた事を死ぬほど後悔して、今ここにいる」
俺は瞼を閉じた。
真剣を持って襲いかかってくる錆兎と義勇の姿が脳裏に浮かぶ。俺の知っているあいつらの表情は笑顔だ。
「俺、弟弟子が二人いるんだ。そいつらかなり危険で、俺の事嫌いまくってるし、実際俺も全然好きじゃないんだけど……。多分俺が逃げたら、そいつら死ぬんだよね」
錆兎が死んで、一人になる義勇を想像する。
確かに強くなれるかも知れない。でも、何かを犠牲にして得る強さに意味はあるのだろうか?
「そいつら親友同士でさ。どっちが欠けてもダメなんだ」
周りの人間を全員救うなんてアホ過ぎる。
だけどそんな錆兎だから、優しくて正義感の強い錆兎だからこそ、助けたいと思うんだ。
「逃げないよ、俺。逃げたら一生後悔する」
「決まりだな」
宇髄がニヤリと笑った。
「刀なら貸してやる。絶対に折るなよ」
宇髄は背中に引っかけていた二本のうち、一本を俺に寄越す。多分拾い物なのだろう。普通の打刀だ。
「さっき何で折れたか分かってるか?」
「刀を入れる角度を間違えた。俺は斜め下から刃をいれたが、それじゃあ手鬼の頭の重さで折れるのは明白だったよ。刃を滑らせるなら地面と完全に水平にするべきだったんだ」
「よし!譜面は完成した。俺が合図をするからお前が首を切れ!手も全部俺が切ってやる!」
満足そうに笑って宇髄が俺を地面に下ろす。
「俺は派手に首を切る事だけを考えていれば良いんだな?」
「そりゃもう派手派手だ!!」
「行くぜ、相棒!」
「おう!!」
俺達は、一緒に駆け出した。