二木さんならカードゲームも上手いと思ったので、クイーンと対戦してもらいました。
わたモテ勢ならみんな知ってるあのモンスターも少しだけ出てきます。

計算ミスや処理の間違いなんかは笑ってスルーしてください。

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喪154+i モテないしデュエルする

「ところで黒木はカードゲームとかやってる?」

 球技大会の打ち上げからの帰り道、二木四季から発せられた不意の問いかけに智子はうろたえた。

「へっ? な…なんで?」

 学校でカードゲームの話題を出したことや悟られるような行動をした覚えはまるでない。もしかしたら自分が気づいていないだけでカードゲーマー特有の雰囲気でもまとっていたのかもしれない。

「この前一緒に麻雀やった時、カードゲームやボードゲームプレイヤー的な考えが出来てたから。もしかしたらと思ったんだが…」

 四季はこともなげに言ってのけたが、二人の後ろを歩く陽菜とゆりは「一緒に麻雀…」と彼女の言葉を頭の中で無意識に反芻した。

「あ…うん、昔ちょっとだけね。ほら、私弟いるしさ!」

 意識することなく言い訳がましい予防線を張る。別に彼女たちにバレても構わないのだが、女子高生がカードゲームをやっているという事実が何となく気恥ずかしかった。

「もしよければ対戦しないか?」

 ためらいの感じられない誘いに智子は躊躇う。

「は? いや、でもデッキとかだいぶ古いし…」

 それに女子高生が放課後デュエルとか死にたくなるわ。心中で毒づく。

「構わないしルールも古いやつでいい。私も大会に出たりはするけど、同世代とフリーで出来ないから…」

 遠回しの拒絶を受けてもなお四季は食い下がる。

 確かに同世代、しかも同性のカードゲーマーがあまり多くないのは想像に難くない。カードゲームは純粋にお金がかかるし、上達するのにも時間も要する。そして市場に出回る大半の商品は男子をターゲットにしている。

 他の生徒と喋る機会の少ない彼女としても、共通の趣味を持つ人間と出会った機会は無駄にはしたくないのだろう。

「そこまで言うなら、まぁ…」

 最近駄菓子屋行ってないしな。久々にカード触るのも悪くないか。

 四季の置かれた状況を慮り、かつ自分の中のプレイ欲求に従って、智子は彼女の誘いに乗ることにした。

 陽菜やゆり、それに明日香も観戦したいということなので、連絡先の交換を行い場所や時間を決める約束を取り付けて解散した。

「一応ネットで最近のカード調べておくか…」

 4人の背中を見送りながら、智子は胸の奥底で静かに昂る何かを感じずにはいられなかった。

 

 

「という感じで二木さんとクロのデュエルです。実況は私根元がお送りしまーす」

 カラオケのモニターを背に、わざわざマイク越しに陽菜は名乗った。両隣には明日香とゆりが座り、一つ席を離して男子生徒の陰が。

「あとデュエリストだということで初芝くんを解説に連れてきました」

「どうも」

 初芝はいつものように無愛想にお辞儀をする。

 絵の描ける安藤…! 何でここに!?

 デッキを用意しながら智子は目を丸くした。

「場所はここ、アクレシオのカラオケルーム…なんだけど、なんでカードゲームするのにわざわざカラオケに来たの?」

 パーティルームを見回しながら問いかける陽菜に、智子と四季、そして初芝は面食らったような表情で返す。

「は? デュエルやボドゲするならカラオケ一択だろ」

「割とそうっすね。歌いに来るよりゲームしに来ることのほうが多いです」

「テーブルが広い、防音個室、ドリンクバー付き。ゲームするためにあるような空間だ」

 わからない…文化が違う。

 歌うための空間としか思っていなかった場所をさも当然のごとく別の用途に使用していた3人に対し、陽菜は若干の疎外感を覚えずにはいられなかった。

「遊戯王なら兄がやってたから、私も少しならわかるよ」

 青眼の白龍とか…と明日香は笑う。

 ここにいる誰もが明日香とカードゲームに繋がりが見いだせなかったが、なるほど年が離れたお兄さんがいれば触れる機会があったかもしれない。

「田村さんはルールとかわかるの?」

「全然」

 陽菜の問いにゆりは頬杖をついたまま答える。

 じゃあ何で実況席に座ってんだよ…! 興味なさげに特等席に座る彼女に、智子は胸中でツッコまずにはいられなかった。

「しかしすごいな。フリー対戦でこんなに囲まれながらやるのは初めてだ」

 自分のデッキをカットしながら、四季は実況席に視線を向けたまま呟いた。

「な…なんかごめん。せっかく誘ってもらったのに騒がしくなっちゃって…」

「いいよ、ギャラリーがいるのも燃えるから」

 そういえばプロゲーマー志望だっけ。

 常識的な観点からすれば、進学校に来てまでプロゲーマーになりたいなんて突拍子もないように感じる夢だ。しかし騎馬戦での大立ち回りやゲームセンターでのギャラリーに怯まない姿勢など、彼女にはショービジネスへの適性を随所に感じられたのも確かだ。案外本当にプロゲーマーとしてメディアに露出する日も遠くないのかもしれない。

 お互いのデッキのカットを終え、向かい合った二人はデッキをセットして手札を5枚引く。進行役の陽菜に目で合図をして、同時に小さく頷いた。

「それでは二人とも、デュエルスタンバイ!」

『デュエル!』

 どちらからともなく、そう声に出していた。

 

 

二木「じゃあこちらが先攻で行かせてもらう。よろしく」

智子「あ、うん。よろしく」

初芝「今回は黒木選手が復帰勢のためマスタールール3でのデュエルになります。カードプールは現在発売されているもの、禁止制限も現在のものを確認してデッキを組んでもらいました。まぁ、身内対戦なので多少のアラは笑って見逃す方向で行きましょう」

ネモ「よくわかりませんが、そういうものと把握しておきますね」

明日香「生け贄召喚はあるの?」

初芝「えっ、まぁ…ありますが…」

ネモ「おっと、そうこうしている間に二木選手が動きます」

二木「まずはレスキューラビットを召喚。効果まで通るかな?」

智子「…うん、どうぞ」

二木「じゃあウサギを除外してデッキからメガロスマッシャーXを2体特殊召喚」

ネモ「おっと、二木選手モンスターを2体並べましたね」

明日香「レベル4で攻撃力2000って凄く強いんじゃない?」

初芝「今は結構普通ですね」

明日香「そうなの? 私がやってたときの主力はメカ・ハンターだったけれど」

智子(ずいぶん昔だな…)

二木「そのままエクシーズ。バハムート・シャークを特殊召喚する」

二木「効果発動。エクストラデッキから餅カエルを特殊召喚」

ネモ「何か強そうなモンスターが2体出てきました」

明日香「枠が黒いわね」

初芝「エクシーズモンスターと言われるカードです。比較的簡単に出てきますが、効果の発動に回数制限があるのが特徴ですね」

ネモ「ほうほう」

初芝「二木選手のデッキは恐竜族かと思われましたが【水属性】ですね。種族やテーマは依然伏せられています」

二木「カードを1枚伏せてターンエンド」

 

 

二木:8000

場:バハムート・シャーク、餅カエル

 :伏せ1

手札:3

 

黒木:8000

場:

手札:5

 

 

智子「じゃあ私のターン。ドロー」

ゆり「そういえばさっき二木さんはカード引かなかったね」

初芝「今回適用されているマスタールール3からは先攻ドローがなくなりました。先行有利なゲームだったので」

智子「隣の芝刈り発動。どうかな?」

二木「おっと、それは通せない。餅カエルの効果発動。自身をリリースして無効にするよ」

ネモ「黒木選手の魔法カードは無効にされてしまったようですね」

明日香「強いカードだったの?」

初芝「相手と自分のデッキの差分、デッキを墓地に送るカードですね。黒木選手は見るからにデッキが分厚いので、20枚近く落とせたんじゃないでしょうか」

ネモ「ん? そんなことしたらデッキ切れになっちゃうのでは?」

初芝「『墓地は第二の手札』と呼ばれることもあって、墓地にあったほうが再利用しやすいカードが多いんですよ」

二木「餅カエルの効果で無効化したカードは私の場に伏せられる」

智子「まぁ消費1枚で餅をどかせたなら安い安い」

二木「そして餅カエルのサルベージ効果だが…ここは発動しないでおこう」

智子「何…? 何か意図があるのか?」

初芝「餅カエルには墓地に送られた場合に、墓地の水属性モンスターを手札に戻す効果があります。しかし二木選手意外にもこれをスルー」

ゆり「何か意図あってのプレイングでしょうか?」

初芝「うーん…よくわかりませんね」

智子「まぁ考えても仕方ない。続いてワン・フォー・ワン発動。手札のワイトプリンスを切ってデッキからワイトキング特殊召喚」

智子「そしてワイトプリンスの効果発動。デッキからワイトとワイト夫人を墓地に送る。これによりワイトキングの攻撃力は3000」

ネモ「黒木選手は1ターン目から攻撃力3000の強力モンスターを出してきました」

明日香「青眼の白龍と同じだね」

初芝「黒木選手は【ワイト】でしたか」

ネモ「けものフレンズの動画で見たことありますね」

初芝「爆発力の高さと、キーカードの少なさゆえの対応力の高さがウリのデッキですね。まぁ弱点もはっきりしてますが」

智子「さらにマスマティシャン召喚。デッキから馬頭鬼を墓地に送ってバトルフェイズに入ろう。ワイトキングでバハムート・シャークを攻撃」

二木「何もなし。そのまま破壊されよう」

智子「じゃあマスマティシャンでダイレクトアタックをしてターンエンド」

 

 

黒木:8000

場:ワイトキング、マスマティシャン

手札:2

 

二木:6100

場:伏せ2

手札3

 

 

ネモ「さぁ後攻1ターン目でライフに変動が生じましたが、二木選手はこれをどう返していくか」

二木「ドロー。深海のディーヴァを召喚して効果発動。海皇子ネプトアビスを特殊召喚」

初芝「おっと、二木選手のデッキは【海皇】でしたか。プレイしたことのない人には効果がわかりにくいので、解説は控えたいところですが…」

ネモ「えー解説役の意味ないじゃないですか」

二木「ネプトアビスの効果を発動。海皇の竜騎隊を墓地に送って海皇の狙撃兵を手札に加える」

二木「墓地に送られた竜騎隊の効果発動。デッキから氷霊神ムーラングレイスを手札に加える」

明日香「あれは何をしているの?」

初芝「えー…聞いてもわからないと思いますが、見てもわからなそうなので軽く解説します」

初芝「ネプトアビスはデッキからコストとなるモンスターを墓地に送ることで、デッキからカードをサーチできます」

初芝「そして海皇と呼ばれるカードの多くは水属性モンスターの効果のコストになった際に発動する効果を持っています。先程コストになった龍騎隊の場合は海竜族のサーチです」

初芝「つまり本来支払わなければいけないディスアドバンテージをアドバンテージに変換していくのが戦略なんですね。現に手札が2枚増えました」

ネモ「ふーん、なるほど」

ゆり「よくわかんないけど」

初芝「だと思いました」

二木「ディーヴァとネプトアビスでシンクロ召喚。たつのこ」

ネモ「今度は白いモンスターが出てきましたね」

初芝「あれはシンクロモンスターです。チューナーと呼ばれるモンスターのレベルと、それ以外のモンスターのレベルを合計したレベルを持ったモンスターを呼び出すことができます」

明日香「生け贄召喚と同じく墓地に送る必要があるわけね」

ゆり「さっきの黒いやつは上に重ねてたもんね」

二木「手札からサルベージ発動。墓地のディーヴァを手札に加えて、餅カエルをエクストラデッキに戻す」

黒木「今はディーヴァ制限カードだっけ? 使い回されるのはキツいな…」

二木「これで私の墓地にいるのは2体のメガロスマッシャーとバハムート・シャーク。そして龍騎隊とネプトアビス…」

初芝「墓地水5体…」

黒木「ここで墓地確認、そんでもってさっきサーチしたのは…」

二木「その通り。現れろ、氷霊神ムーラングレイス特殊召喚」

智子「…だよなー」

明日香「あれ、最上級モンスターが生贄無しで出てきたよ?」

初芝「墓地のモンスターの数を参照して特殊召喚するモンスターです」

二木「ムーラングレイスの効果で相手の手札2枚をランダムに捨てる」

智子「…捨てたのは馬頭鬼と生者の書-禁断の呪術-だ」

二木「やはり墓地利用デッキにハンデスは悪手だったか…まぁコストにされる心配がなくなっただけよしとしよう」

初芝「黒木選手が握っていたのはどちらも墓地にあると有用なカードでした」

ネモ「さっき言ってた墓地は第二の手札ってやつですね」

智子「あの時餅カエルの効果を発動しなかったのはサルベージの墓地調整を見据えてかよ。随分と悠長じゃねーか」

二木「まぁ決まったら気持ちいいだろう程度の考えでな。餅バハシャの構えはフリーだとそのまま積むこともあるし」

智子「見栄えも考慮して…ってか。さすがプロゲーマー志望」

二木「そのままたつのこの効果で手札の狙撃兵を素材にシンクロ。瑚之龍を特殊召喚」

明日香「シンクロ召喚は手札のカードも素材にできるの? 融合召喚と同じなんだね」

初芝「いえ、本来場のカードだけです。今回はたつのこの効果での特殊な処理ですね」

二木「瑚之龍の効果発動。龍騎隊を1枚切ってワイトキングを破壊する。そして龍騎隊の効果で手札に加えるのは重装兵」

智子「また龍騎隊か。なんで名称ターン1縛りねぇんだよ…」

二木「バトルだ。瑚之龍でマスマティシャンを攻撃」

智子「マスマティシャンは破壊されるが、効果で1枚ドローするよ」

二木「さらにムーラングレイスで追撃」

智子「…これは防ぐ手がないからそのまま受ける」

二木「これでターンエンド」

 

 

二木:6100

場:ムーラングレイス、瑚之龍

 :伏せ2

手札:3

 

黒木:4300

場:

手札:1

 

 

ネモ「さて黒木選手。一時は場と手札共に0枚となってしまい、さらにライフは半分程度になってしまいましたが、ここからどう動くのでしょうか」

智子「私のターン、ドロー」

智子「しかたない。墓地のワイトプリンスの効果発動。自身とワイト、夫人を除外してデッキからワイトキングを特殊召喚」

二木「そんなに墓地リソースを消費して大丈夫か?」

智子「だから大欲な壺を発動。さっき除外された3枚をデッキに戻して1ドロー」

智子「ここで不知火の隠者を召喚。フィールドのワイトキングをリリースしてデッキからユニゾンビを特殊召喚」

智子「ユニゾンビの効果を発動。デッキからワイトプリンスを墓地に送って隠者のレベルを1つ上げる」

智子「そしてワイトプリンスの効果が発動してデッキからワイト、夫人が墓地に落ちる」

ネモ「手札が2枚しかなかったのに随分と動きますね」

初芝「アンデットデッキは墓地のカードをフル活用するのが特徴です。なので劣勢時からの立て直しも得意なんですよ」

智子「レベル4となったユニゾンビと隠者でシンクロ召喚。PSYフレームロード・Ω」

二木「もうすっかりアンデットのメインギミックだな。隠者一枚からΩの構えも」

智子「このターンアンデット族以外は攻撃できないしΩの効果発動。Ω自身と相手の手札1枚を除外する」

二木「運がいいな。除外されるのはディーヴァだ」

智子「そして墓地の馬頭鬼の効果発動。自身を除外して墓地からワイトキングを蘇生させる。攻撃力は4000」

ネモ「黒木選手再びワイトキングを呼び出す。しかも攻撃力は先程よりも上がっております」

智子「バトル…うーん、瑚之龍の効果は面倒だけどどうせ後続の海皇で割られるし…ムーラングレイスを攻撃」

二木「ムーラングレイスは破壊される。その代償として私は次のターンバトルフェイズを行うことは出来ない」

智子「私はこれでターンエンド」

 

 

黒木:4300

場:ワイトキング

手札:1

 

二木:4900

場:瑚之龍

 :伏せ2

手札:2

 

 

二木「私のターン、ドロー」

初芝「黒木選手はなんとか二木選手の大型モンスターを突破できましたが、このターンですぐに切り替えされてしまいますね」

明日香「確か…二木さんの白いモンスターには相手のカードを破壊する効果があったから?」

初芝「はい、ワイトキングにはほぼ何の耐性もありませんので」

二木「手札から浮上を発動して墓地のネプトアビスを蘇生させる」

智子「また手札増やす流れか…」

二木「ネプトアビスの効果発動。デッキの龍騎隊を墓地へ送って双方の効果で海皇の重装兵と真海皇トライドンを手札に加える」

二木「トライドンを召喚して効果発動。場の自身とネプトアビスをリリースしてデッキから海皇龍ポセイドラを特殊召喚」

ネモ「またしても二木選手は大型モンスターを展開です」

二木「トライドンとネプトアビスの効果それぞれ発動。相手の攻撃力を300下げ、墓地から龍騎隊を特殊召喚する」

智子「…本当に減らねぇな」

二木「瑚之龍の効果発動。手札から重装兵を切ってワイトキングを破壊する」

智子「展開ができないせいで逆にコストになる海皇が腐ってるな」

初芝「本来ならばコストにした海皇の効果でも場を破壊していくのが【海皇】のコンセプトなんですが、【ワイト】はそこまで展開を得意とするデッキではないですからね。効果が無駄になってしまっています」

二木「微妙に相性が良くないかな。ターンエンドだ」

 

 

二木:4900

場:瑚之龍、ポセイドラ、龍騎隊

 :伏せ2

手札:2

 

黒木:4300

場:

手札:1

 

 

智子「ドロー。とは言っても私が不利なことには変わらないしな。多少ゴリ押しで行かなきゃな」

智子「スタンバイフェイズ。除外されていたΩとそっちの手札はそれぞれ戻っていく」

智子「手札から終末の騎士を召喚。効果によりプリンスを墓地に送り、ワイト、夫人も墓地に送る」

二木「相変わらずふざけた墓地送り性能だが…召喚されたのがワイトプリンセスじゃないだけマシか」

智子「プリンセス引けたらそっちのライフ大幅に削れたんだけどね」

初芝「ワイトプリンセスは場に出た際にワイトプリンスを墓地に送る効果、そして自身を墓地に送って場のモンスター全ての攻守をレベル、ランク×300下げる効果があります」

ネモ「えーっと…二木選手のモンスターのレベルはそれぞれ6、7、4なので大きく攻撃力が減少するのに対して、黒木選手の主力であるワイトキングはレベル1なので影響が小さいということですかね」

初芝「さらにプリンセスもワイトですのでキングの攻撃力増強に関与します」

智子「更に墓地のプリンスの効果発動。ワイト、夫人を除外してデッキからワイトキングを特殊召喚。攻撃力は5000」

二木「チェーンして儚無みずきを手札から捨てる。私のライフはワイトキングの攻撃力と同じく5000回復する」

ネモ「おっと! 二木選手ここで非常に大きなライフゲイン!」

初芝「通常ですと相手の展開阻害用カードですが、黒木選手が大型モンスターを次々立てるデッキだったのが大きいですね」

智子「ライフ9900!? これ削り切るのかよ!」

二木「サルベージに対応する手札誘発だから仕込んでおいたが、思わぬライフゲインが出来たな」

智子「くそっバトル。ワイトキングでポセイドラ攻撃」

二木「通す」

智子「続いてΩで瑚之龍攻撃」

二木「瑚之龍の効果で1ドロー」

智子「終末の騎士じゃ龍騎隊を超えられないから、メイン2にΩでそちらの手札を1枚飛ばす」

二木「除外するのはまたディーヴァだ。引きがいいな」

智子「よし、私はカードを1枚伏せてターンエンド」

 

 

黒木:4300

場:終末の騎士、ワイトキング

 :伏せ1

手札:0

 

二木:7300

場:龍騎隊

 :伏せ2

手札:2

 

 

二木「私のターン。ドロー」

初芝「盤面は黒木選手には攻撃力5000の大型と下級一体、あとは次のターン帰ってくる2800打点。対して二木選手は下級一体だが大幅なライフゲインができた…」

ゆり「どっちが有利なの?」

初芝「そうですねぇ…ワイトキングを崩せるかどうかが鍵じゃないでしょうか。倒されると黒木選手はキツいでしょうし、倒せれば二木選手は大きくリードできそうです」

二木「だいぶ墓地リソースを切らせたからこのままジリ貧に持ち込んでも有利だろうが、せっかく引けたしこっちで行こうか」

智子「決まったら気持ちいい方か?」

二木「そうだな…」

ネモ「おっと、二木選手は何か仕掛けてくるみたいです」

二木「リバースカードオープン。エクシーズ・リボーンを発動。墓地からバハムート・シャークを特殊召喚してこのカードをエクシーズ素材にする」

初芝「初ターンに伏せていたのは蘇生カードでしたね。いつでも発動機会がありましたが、ここでどう活かしてくるか」

二木「まずはバトル。バハムート・シャークで終末の騎士を攻撃」

智子「終末の騎士は破壊される」

二木「メイン2。バハムート・シャークの効果発動。特殊召喚するのは…」

智子「また餅カエルか…?」

二木『すべてをその忌まわしき力で溶かしつくせ。現れろ! No.30 破滅のアシッド・ゴーレム』

初芝「餅カエルが有用と思われましたが、ここで出したのはアシッド・ゴーレムです」

明日香「攻撃力は高いのね」

初芝「しかしオーバーレイユニットがなければ攻撃ができないというカードです」

智子「何でまたオーバーレイユニットがなけりゃ何も出来ないカードを…あっ!」

二木「そう、何も出来ないカードだ。ただし…何もできなくなるのは私じゃない!」

二木「手札から発動するのは強制転移…こちらの対象は勿論アシッド・ゴーレムだ」

初芝「二木選手が発動したのはお互いのモンスターのコントロールを入れ替えるカード。渡すモンスターは自分で決められますが…」

智子「…私はワイトキング」

明日香「黒木さんのフィールドにはワイトキングしかいない」

ネモ「だからバハムート・シャークでモンスターを破壊しておいたんですね」

二木「ワイトキングの攻撃力はコントローラーの墓地を参照にするため0になる。低攻撃力を晒すのは痛いが、その代償を払う価値はある」

智子「…アシッド・ゴーレムがフィールドに存在する限り私は特殊召喚できず、さらにオーバーレイユニットがないこのカードは攻撃ができない」

二木「さらにスタンバイフェイズごとに2000のダメージを受ける。三重苦を与える酸の巨人だ」

二木「さぁ、どう乗り越える? ターンエンドだ」

 

二木:7300

場:バハムート・シャーク、ワイトキング、龍騎隊、伏せ1

 :伏せ1

手札:1

 

黒木:3100

場:アシッド・ゴーレム

 :伏せ1

 

 

ネモ「さて、黒木選手俄然苦しくなってきました」

初芝「行動は大きく阻害される上、ライフポイントも2000失ってしまいます。このターンで勝負の分かれ目が決まってくるでしょう」

智子(さて、どうしたものか)

智子(正直アシゴをどかす手はあるんだが、そのまま削り切るには少し手が足りないな)

智子(馬頭鬼でワイトキングを蘇生させれば相手のワイトキングを殴って大きくライフを削れるが、相手の場のモンスターが多くて後続が続かなそうだし)

智子(一応サンダーボルトが解禁されたって言うから入れてみたものの、引いても二木さんのことだから伏せで全体除去対策してそうだし…)

智子(一応逆転の一手はデッキに仕込んでいるけど、引けるのか? この土壇場で)

 

智子(まぁ…今までなら引けたんだけどな…)

 

 私が【ワイト】を使っていたのは色々な理由がある。

 そこそこ強いこと、比較的安いこと、『女王に仕える死の奴隷』という絵面のがカッコいいこと。そして弱点がはっきりしているからこそ、その解がカード1枚で得やすいことだ。

 マクロコスモスやクリスティアなんかの展開阻害、ワイアームみたいな破壊耐性、ほとんどいないけどワイトキングでも超えられないバ火力。だいたいは後出しで処理する方法があるから、イカサマドローとは相性が良かった。

 そして最後に、引いたら盛り上がるあのカードを仕込みやすかったから。

 散々イカサマで引いたカードに頼るのは情けないけど…

 頼むぞ、私のデッキ。

 

智子「ドロー!」

 

『うわっ本当にここで引いてきた!』

『逆転だー! 女王つえー!』

 

智子「はは…本当に来てくれたのかよ。ありがとうな、私のデッキ」

二木「どうやらいいカードを引いたみたいだな。さぁ、どう返す」

智子「私がドローしたのは…RUM-七皇の剣!」

二木「ここで七皇の剣…! 魅せるじゃないか」

初芝「この土壇場で七皇の剣はアツいですね」

ゆり「引いたカード見せちゃってるけど、あれはいいの?」

初芝「あのカードにはドローした際に公開するという特殊な処理があるんですよ」

明日香「それで、黒木さんは逆転できるの?」

初芝「うーん、たしかに七皇の剣は大型モンスターを特殊召喚できる強力なカードです。しかし…」

二木「アシッド・ゴーレムがいるから特殊召喚は不可能。しかもそのカードはメインフェイズ1の開始時に発動しなければならない。つまり墓地の潤沢なリソースを駆使することもできない。通すのは難しいように思うが?」

智子「ふっ…それはどうかな」

二木「ほう、なら見せてみろ。その伏せ1枚でどう突破してくるか」

智子「ああ、まずはスタンバイフェイズに除外されていたΩが帰還する。これは特殊召喚扱いではないため、アシッド・ゴーレムの効果を受けない」

二木「続いてアシッド・ゴーレムの効果だ。2000ダメージを受けてもらう」

智子「ここでアシッド・ゴーレムの効果にチェーンして発動。禁断の異本!」

二木「…なるほど」

智子「昨日調べて面白い効果だとは思ったが、このルールならやっぱり強力みたいだな」

初芝「宣言した種類のモンスターが2体以上場にいた場合、お互いのプレイヤーはその全てを墓地に送らなければなりません」

智子「選択するのは勿論エクシーズモンスター! フィールドのバハムート・シャークとアシッド・ゴーレムを墓地に送らなければならない」

ネモ「でも初芝くん言ってなかった? 二木さんは複数体除去への対策をしているだろうって」

二木「もちろんしていた。だがこれは破壊ではなく『プレイヤーに墓地送りを強要する』効果…なので全体破壊対策は効果がない。なるほど、回答は既に用意されていたわけか」

智子「そう、そして勝つための最後のピースが七皇の剣だった。だからこそ言わせてもらうよ」

智子「これでいつでもネオタキオン・ドラゴンを呼ぶことができる!」

智子「魔法カード発動! 七皇の剣!」

智子「効果によりエクストラデッキからタキオンドラゴンを特殊召喚してオーバーレイネットワークを再構築。エクシーズ召喚!」

智子『逆巻く銀河を貫いて、時の生ずる前より蘇れ。永遠を超える竜の星!  顕現せよ、CNo.107超銀河眼の時空龍!』

ネモ「ここに来て黒木選手は大型モンスターを呼び出してきました!」

初芝「攻撃力4500かつフィールドのカードの効果を封じる超大型モンスターは確かに強力です。しかし手札のない黒木選手が使えるのは残り墓地リソースのみ」

二木「こちらの攻撃力0のワイトキングを殴られて4500ダメージは通るだろう。ただこの布陣を越えてライフを削りきれるかな?」

智子「越える必要はないよ。馬頭鬼の効果を発動!」

二木「ここで馬頭鬼となるとワイトキングを復活させて攻撃の手を増やすか。それともリリースしてネオタキオンドラゴンで3回連続攻撃をするか…」

智子「いや、復活させるのは…ワイト夫人!」

二木「…ワイト夫人だと…?」

初芝「…なるほど、考えましたね」

智子「そう、ワイト夫人はフィールド上のレベル3以下のアンデット族モンスターを戦闘から守る効果がある。そしてこの効果は相手にも及ぶ。これで奪われたワイトキングは私の攻撃では破壊されない!」

二木「ワイトと墓地送りにされてばかりで、効果の方は完全に意識から外れていた。最後まで魅せてくれるじゃないか」

初芝「これで二木選手の場のワイトキングは攻撃されても破壊されず、低攻撃力を晒し続けてしまいます」

ネモ「攻撃力4500のネオタキオン・ドラゴンと攻撃力2800のPSYフレームロード・Ω。二体の攻撃力を合計すれば…」

二木「ぴったり7300…ちょうど私のライフを刈り取れる」

智子「これで終わりだ! ワイトキングに攻撃! アルティメット・タキオン・スパイラル!」

 

 

「ふぅ…ありがとうございました」

 自分のライフポイントが尽きた後、しばらく合皮張りのソファにうなだれてから四季は智子に向かってお辞儀をした。

「餅カエルの封殺、海皇のアド取り、ムーラングレイスのハンデス、そして転移ゴーレム…色々なキルパターンを用意したデッキだったが、それを全部乗り越えた上であんな華麗な返しをされるとは」

「いや…二木さんがどの布陣でも抜けられる穴を残してくれてたからだよ。勝ちに拘ればもっと簡単に完封できてたでしょ?」

 どの場面も捲り返しのケアをされていたら突破できていなかった。いや、それどころかどれか一つの戦法に絞ったほうが彼女の勝率は上がるだろう。

 それでも様々な戦法を組み込んだ理由、いつもの智子なら舐めプや接待かと憤るところだが、今日に限ってはその限りではない。

「だからこそ楽しかった。この盤面をどう越えられるか、次はどんな手が待ってるのか、お互い戦ってるはずなのに協力して答えを導いてるみたいでさ。今日はありがとう」

 自然と智子から手を差し出す。四季もまたその手を握り返した。

「こっちも楽しかった。受験勉強の息抜き程度でいいからまたやろう」

「二人ともお疲れ様。私たちにはよくわからなかったけれど、とても楽しそうなのは伝わってきたよ」

 明日香が二人に烏龍茶の入ったグラスを差し出しながら微笑んだ。

「初芝くんもアリガトね。おかげで何やってるか理解しながら見れたよ」

「別にいいっすよ。じゃあ俺は部活あるんでこれで」

 挨拶もそこそこに、初芝はいつもどおり無愛想なまま帰り支度を始めた。

 デュエルも終わって一段落ついた所で、智子は駄菓子屋でのことを思い返す。あの頃もいろんな人に囲まれて、気持ちよくプレイしていた。だが自分の手で掴み取った逆転勝利というのは変え難く気持ちのいいものだ。

 綺麗どころに飲み物まで渡してもらえるしな。

 明日香のことを横目で見ながら、あの日のファミレスと同じように四季と向かい合ってストローを咥えた。

「智子はこれからどうするの?」

 智子の座るソファに寄りかかりながら、ゆりはポケットに手を入れたまま問いかけた。

「うーん…」

 彼女は唇に手を当てて少し思案したかと思うと、上着をはだけて胸のホルスターに仕舞われたデッキケースを目の前のテーブルに置く。

「あと一回相手してもらっていいかな? もう1個デッキ持ってきたから」

 はにかむ智子に向かって、いつもは表情を変えない四季もそれを崩したしたように感じられた。

「もちろん、何度でも」

 四季も鞄からレザー調のデッキケースを取り出す。両者とも1回のデュエルで満足できるとは思っていなかったようだ。

「じゃあせっかくカラオケにいるんだし、私たちは歌ってようか。加藤さんと田村さんも残るでしょ?」

 既にデンモクを片手に持ったネモが二人をソファに誘う。

「ええ、カラオケなんて久々だからうまく歌えるかわからないけどね」

 明日香も髪をかき上げながら、もう一方のデンモクを覗き込んだ。

「私は歌わないけど」

 ゆりが呟く。

「えっ、ゆりちゃん帰るの?」

「帰らないけど」

 しばらくして身支度を終えた初芝がカラオケルームの重い扉を開けて出ていくと、今期覇権と噂される日常系アニメのオープニングが廊下に漏れ聞こえた。

 

 

 机に向かい合った二人のデュエリストがお互いの盤面を睨む。

 長考の末、沈黙を破るかのように1枚のカードが場に出された。

 

 

「手札のオーバーロード・フュージョンを発動! フィールドのサイバー・ドラゴンと墓地のサイバー・ドラゴン・コア、サイバー・ドラゴン・ツヴァイを素材にしてキメラテック・ランページ・ドラゴンを融合召喚!」

「伏せてあった蟲惑の落とし穴発動。効果を無効にして破壊する」

「しかし死者蘇生を発動。このモンスターは融合召喚以外でも特殊召喚できる」

「!…それじゃこのモンスターの効果で…」

「そう、ランページドラゴンはデッキのサイバー・ドラゴンを2体墓地に送ることで3回攻撃を可能にする。まずは伏せモンスターを攻撃」

「伏せてあったのは黒き森のウィッチ。効果でトリオンの蟲惑魔を手札に加える」

「ではそのまま2回攻撃!」

「…負けた」

 

 

「あ、うっちー終わったっぽい」

 大型商業施設の一角に構えたカードショップの脇で、スマホをいじっていたカヨが画面から顔を上げる。視線の先には学生鞄にデッキを仕舞いながらとぼとぼと歩み寄ってくる絵美莉の姿。

「お疲れうっちー。どうだった」

「負けた。すごく強かった」

 宮崎の問いに答えながら、絵美莉は悔しげに前髪をかきあげた。

「しょうがないよ。うっちーがこのゲーム始めたの先週じゃん」

「でもなんでまたいきなりカードゲームなんて初めたの? 私たち受験生だよ」

 慰めるように肩に手を当てる二人に、ぽつりと呟く。

「…負けられない相手ができたから」

 学校帰りの中高生で賑わうショッピングモールの大通り。絵美莉はその一階からはるか遠く屋上の天窓を睨みつけた。まるで彼方にいる誰かに胸の内を伝えるかのような、そんな強い眼差しで。

「この【蠱惑の黒き森のウィッチ】で…いつかあいつに勝つ!」

 鞄の上からデッキにそっと触れる。

 今はまだありあわせの不完全なデッキかもしれない。

 それでも必ず届いてみせる。あいつがその先にいると言うなら…

「うっちーの勝ちたい相手って誰だろ…?」

「いや、どうせ黒木さんでしょ」

 対戦が終わるのを待っている間に買ったタピオカミルクティーのストローを咥えながら、二人は呆れたように笑いあった。

 



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