ありふれた職業で世界最強~いつか竜に至る者~   作:【ユーマ】

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制裁回終了にして、第2章本編最終話です


最終話『集う、ドラゴン・プライド』

 カナタの拳が光輝の顔面に突き刺さる。この時、カナタはあえて帝竜の闘気は使わなかった。これは人だった頃から続いた憤りだ。それを晴らすのにアジーンの力を使うのは違うだろうと思った。後は、先ほど光輝が素手の勝負を仕掛けたのと同じ様に、万一アジーンの力を乗せて全力を出せば当たり所によっては撲殺もあり得た為、気持ち的には加減無く全力で殴る為の手加減と言う意味合いもあった。

 

 とは言え、それでも素が既に竜になりつつある事と魔物肉の強化から成る5桁に及ぶ筋力から放たれる全力の一撃だ。光輝の顔からはゴキャ、と言う鼻の骨が砕ける音と同時に光輝は思いっきり吹っ飛ばされ、何度か地面をバウンドした後――

 

「「「ギャアァァア~~~っ!!?」」」

 

 先ほどハジメが積み上げたならず者の山に突っ込む。その衝撃でならず者の一部が一瞬だけ宙に舞い、そしてドサドサと光輝の上に落ち、光輝の体はならず者に埋もれる。その様子を見届けたカナタは手の甲で額の血を乱暴に拭いながら「フン」と鼻を鳴らし、その視線を永山達に向ける。

 

「あいつについては俺らが居なくなった後にでも掘り起こしておいてくれ。俺らが居る時に再起動されると色々面倒だ。悪いけど治療も頼んで良いか? 手ごたえ的に間違いなく鼻の骨いってるだろうから」

 

「お、おう……」

 

 永山が呆然としながらも、そう返事をしてカナタはハジメ達の方に向き直る。ハジメがフッ、と笑みを浮かべながら口を開こうとするが、そこにシアの姿が割って入った。

 

「カナタさん」

 

「ん?」

 

「スッキリしました?」

 

 それは嘗てフェアベルゲンにてハジメがカナタにかけた言葉。あの時はその意味は判らなかった。けれど旅の中で更に彼らの事を聞き、ある程度彼らの身の上や過去を知った今なら、その意味が判る。そして今、彼に言うべき言葉はきっとこれが正解だろうと。その言葉にカナタは一種だけキョトンとして――

 

「おう。とてもな」

 

 これまた、あの時と同じニカッと少しだけ子供っぽい笑みを浮かべて答えた。

 

「雫ちゃん」

 

「ええ」

 

 そして二人も改めて永山達の方に向き直る。

 

「そう言う事だから、私と雫ちゃんは正式にこのパーティを抜けるね」

 

「自分勝手、身勝手なのは重々承知しているわ。けれど、今回香織達が奈落に落ちた事で改めて分ったの。私にはやっぱり香織やカナタが必要なんだって。……許してなんていわない。けど、ここで彼らに付いて行く事だけはどうか……認めて下さい」

 

 雫もそれがわがままだとは理解している。だからこそ、最後はあえて敬語となり雫は永山達に深く頭を下げた。

 

「えっと……気にしないで二人とも。私達は大丈夫だから」

 

 その言葉に真っ先に返事をしたのは恵里だった。

 

「二人が完全に抜けるは確かに辛い事だけど、私も、もっと降霊術を上手く使える様になって二人の分まで頑張るから」

 

「おぉ、エリリン良い事言った~。そんな訳だからこっちの事は気にしないで二人は行って来て。私達は大丈夫」

 

「鈴ちゃん、恵里ちゃん……」

 

「二人とも……」

 

 鈴と恵里の言葉に雫と香織は感動し少しだけ目頭が熱くなった。そんな中、鈴は弱めに握った拳を自分の胸にあてて、目を閉じた。まるで大切な何かを胸に仕舞うような仕草だった。

 

「忘れもしないあの日…………城のお風呂で触ったカオリンとシズシズの胸の感触が心の支えになってくれる! 次に会えた時、男二人の手でもっと大きくなってるであろう二人の胸に触る日を夢見て私も頑張るからね!」

 

「だからお下品すぎだって、鈴!!」

 

 そんな仕草から放たれたのは、その仕草とはまるで似合わないセクハラ発言。クラスのムードメーカーにして心におっさんを飼ってると言われる少女、鈴。そんな彼女の言葉に恵里のツッコミが入る。その様子に二人はクスクスと笑い、永山達も二人の心情を察し、気にするなと手を振った。

 

 が、そんな中、空気を詠まずに檜山達が騒ぎ出す。曰く、二人が抜ける穴が大きすぎる。今回の事もあるし治癒師が綾子だけでは心許ない。その上、雫まで抜けられたら今度こそ死人が出るかもしれない。だから、どうか残ってくれと説得を繰り返す。が、二人の決意は固く、説得に応じる様子は無い。

 

「それにだ、天之河じゃねぇけど今の南雲は危険すぎる!」

 

 そんな中、檜山はハジメを一瞥し必死の形相で訴える。

 

「性格だって原型残ってねぇし、あんだけ狂暴になってる奴と一緒に居たら白崎だって何時何をされるか……」

 

(よくもまぁ、いけしゃあしゃあと言えたものね……)

 

 仮に檜山の言う通りだとしても、そのきっかけを作ったのは他でも無い檜山だ。光輝が気絶し、彼を庇う奴が居ない今の内に、もう一度檜山の行いを訴えてやろうか。そう思い、雫が口を開こうとする。

 

「檜山君」

 

 が、それを止めるように香織が先に口を開いた。その表情は笑顔だった、けれど檜山も、そして雫すら見た事無い、妖艶な笑みだった。

 

「何かって、何かな?」

 

「え!? そ、そりゃあ……あれだ、人目もつかない所に連れてかれて、その……」

 

 そこから先は童貞ゆえの羞恥心が勝っていたのか、それ以降は口ごもり何も言えなくなっていた。

 

「ハジメ君に押し倒されて襲われちゃうとか?」

 

「なっ!?」

 

 そしてその先を恥ずかしがる様子も無く口にした香織に檜山は驚愕。雫も「香織……?」と呟いた。そんな中、香織は「フフッ」と笑みを零す。その姿は少女から女になったと呼ぶに相応しい、大人の余裕を感じさせる姿だった。

 

「折角だから……良いこと教えてあげる」

 

 そう言って、香織は檜山の耳元で何かを囁く。

 

「っ!!?」

 

 それを聞いた檜山は驚愕の余り目を見開き、糸が切れたようにその場にへたり込み俯いた。そして香織はナイチンゲールを取り出し、カートリッジを交換する。

 

「あの日の事、私は許すつもりは一切無い。でも、それがきっかけで想いを伝えて晴れてハジメ君と恋人になれたのも事実」

 

 きっと地上や地球では主に光輝に邪魔されて告白なんて出来なかっただろう。かと言って、電話越しで告白なんて味気ないにも程がある。そう言う意味では奈落の底でのあの状況は告白するのに適したシチュエーションでもあった。

 

「だから、鉛じゃなくてゴムで勘弁してあげるね」

 

「ゴム……? 白崎、一体なんの――」

 

 疑問に感じ、顔上げた檜山の目に飛び込んできたのは銃口だった。その事に檜山の顔に恐怖が浮ぶと同時に額に向かって至近距離で発砲。額を赤くし檜山は白目をむいて仰向けに倒れる。

 

「メルドさん」

 

「あ、ああ……」

 

 突然の香織の行動に誰もが唖然とするなら香織はメルドに声を掛ける。

 

「ハッキリと断言します。あの日の檜山君の行いは間違い無く故意の行い。トータスの魔法を使う事に慣れた今なら判るんです。トータスの魔法は途中で制御に失敗することなんてありえません」

 

 魔法の適性はハジメより香織の方が上。となれば、生成魔法で鉱石に魔法を付与するなら香織の方が適任。現に、より綿密な術式の構成を求められた優花の千光刃に刻まれた魔法は香織が構築を担当した。その過程で魔法陣の仕組みへの理解を深めた香織だからこそ確信を持って言える。

 

 彼女が感じた事。それはトータスの魔法、陣と詠唱を用いた魔法は一種のプログラムの様なモノと言う事。術者は詠唱で魔力を流し込むだけで、魔法の挙動は予め組まれた陣が全て決定し、発動した魔法の制御を術者は一切行わない。もし、不備が出るとしたらそれは術式を組む段階で生じて不発か暴発、もしくは外的要因による干渉によるもの。

 

 それらを除き、途中で魔法の挙動が変わる事があれば、それは途中で組まれた式を変えたと言う事だ。それは普通であれば他の魔法系天職の生徒でも少し時間をかけて考えれば気づけた事。けれどそれに行き着く前に光輝が檜山を許したからこそ、誰もその考えに行き着けなかった。最低限の魔法の仕組みと扱い方しか教わってなかった前衛組なら尚の事だ。

 

「悪意の有無、動機なんてもはや関係ない。檜山君のあの日の行いは間違いなく故意に行われたもの。それは私と畑山先生も認識しています」

 

 その言葉に永山たちがざわめき、檜山を除く小悪党組はうろたえだす。

 

「私の今の発言、そして先生の口ぞえがあれば、きっと檜山君に然るべき処遇が下せるはずです」

 

 とは言え、愛子の事だ。きっと重くても、滞在中の間は常に謹慎状態に成る程度に収めて、何とか檜山を立ち直らせようとするだろうけど、それでも良い。少なくても、なんの罰も無くのさばっている現状が間違ってるのだ。

 

「そうか……畑山教諭と他でも無い香織が言うのであれば、そうなんだろうな」

 

 元々メルド自身、幾ら悪意がないにしても、遊び感覚だったと言う檜山に咎めも何も無い事は個人的には不服だった。けれど、それどころか悪意によるものなら、檜山の存在は無能を通り越して、脅威と成る。

 

「分った、畑山教諭が戻ったら、その時に彼女も交えてもう一度王に掛け合ってみよう」

 

「ありがとうございます。それと、突然の離脱。ホントにスイマセン」

 

「いや、謝るのは俺の方だ。結局あの日、カナタとハジメを助けてやれず、それどころか二人の命を張った頑張りを国を挙げて踏み躙る事になってしまった」

 

 ならばせめて、檜山には然るべき処遇を。それを以ってほんの僅かでも彼らの頑張りに報いよう。

 

「俺にお前達を引き止める資格は無い。だから香織と雫もこちらの事は気にせず、自分の信じた道を行ってほしい」

 

「はい! それじゃあ、雫ちゃん、行こう!」

 

「ええ」

 

 香織は雫の手を引き、彼女に引き連れられながらも雫はメルドの方をむいて、軽い会釈だけしてハジメ達の所に戻る。

 

「話は纏ったか?」

 

「うん、これからは雫ちゃんも一緒に旅をする。良いよね、ハジメ君?」

 

 香織の言葉にハジメは苦笑と共に軽く肩を竦める。何となくだが、ウルの町で香織が雫に会いたいといった時点でこうなる事は予想していた。

 

「まぁ、既にこんだけの大所帯だ。今更一人増えてもかわらねぇよ」

 

「私も別に良いけど、八重樫さんはこんだけあっさり受け容れられるなんて、とちょっと複雑な気持ち……」

 

 と、優花がぼやく。とは言えあの日以来、本格的な戦いからは離れていた自分と、今日まで大迷宮での訓練を続けてきた雫ではそれこそ自力に大きな差が出来ていただろうから、仕方ないと言えば仕方ないのだが・・・

 

「それにカナタだって、八重樫をあんな勇者(笑)の傍になんか置いときたくなかっただろ?」

 

「まぁな。ぶっちゃけ俺もあそこまでの奴だとは思ってなかった。完全に見誤ってたよ」

 

 「光輝NDK計画」なんてみみっちい処か無意味なものだった。香織がハジメと恋仲を知った光輝は、あろう事か香織の正気を疑い、恋心そのものを全否定した。あれでは失恋でへこます事なんて不可能に等しかった。

 

「まぁ、そう言う訳だ。こっちの旅は国の後ろ盾とかも無いし、間違いなくここで神の使徒をやってるより遥かにキツイだろうけど、それでも……一緒に来てくれないか?」

 

「行くわよ」

 

 カナタの問いに雫はハッキリと即答した。

 

「もう決めたの。私は誰よりも香織やカナタと一緒に居たいの。だから――」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「改めて、これからよろしく頼むわね!」

 

 カナタを見つめる雫の表情に笑顔が浮かぶ。それはあの日以来、全くといって良いほど見せなかった、影の無い笑顔だった。

 




これにて第2章本編は終了です。ありふれ屈指の名場面、光輝への制裁回、第一回目は……カナタよりも香織の独壇場になってましたwww

片思いの恋する少女から、思い人と恋仲になった女に成長した香織が大暴れする形になりましたね。光輝の言い分を徹底的に論破して凹まし、檜山の気持ちを圧し折って、ゴム弾でノックアウト。コレ全て香織の行いです。流石、特技「突撃」の女は伊達じゃなかった・・・

まぁ、檜山の件はどちらかと言うとハジメや香織関連ですし、光輝を精神的に抉るのは幼馴染二人。物理的にKOするのはカナタ、しかも光輝が実力差を思い知る間も与えず、全力の一撃によるワンパンKOでと言う方向は固まってました。感想の中には光輝とカナタのガチファイトで光輝に成す術与えず圧倒していくシーンを期待している方も居たようで、そちらの気持ちには応えられず、スイマセンでした。代わりに第2回制裁回はちゃんとしたガチファイトにしていく予定ですので

さて、この後は幾つかのキャラに焦点を当てた幕間話(原作では雫に慰められた、光輝の黄昏るシーン等)を幾つかと主に原作との相違点を纏めたキャラ紹介を挟んで、第3章に突入したいと思います。雫や優花も増えて、もはや原作通りに進めるのが難しくなりつつある、この作品をこれからもよろしくお願いします。

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