ギャルゲーの友人キャラに転生したら主人公が女だった。   作:4kibou

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もう一度乗ってしまって筆が止まらない
(´・ω・`)


第二章 蒼くても熱いもの
雨の日に蒼空はなくて


 珍しく寝坊した。時季外れの雨が降るなか、玄斗は傘を片手にバス停でじっと待っている。原因なんて大それたものはない。単純に寝過ごした。気付けば時計の針は八時半を回っていて、家には誰ひとりとしていなくなっている。しまった、と肩を落としながら学校に電話をかけたのがつい三十分前。携帯には、白玖からのメッセージと着信履歴が残っていた。

 

『玄斗ー?』

『不在着信』

『おーい』

『大丈夫ー?』

『もう朝だよー』

『不在着信』

『不在着信』

『ねえ』

『玄斗ってばー』

 

「(……これは、心配してるんだろうか)」

 

 多分そうなのだろう、と思いながら返信内容を考えていると、ほどなくしてバスが来た。基本は徒歩だが、雨の日ぐらいは乗り物に頼りたい。なんとなく殆どの生徒がそうするので、玄斗にも伝染ったコトだ。

 

「……あ」

 

 と、整理券をとって乗ったバスの車内に、見知った顔をみつけた。たまたまカバンの中に入れていたソレが導いたのか。はたまたそういう今日(・・)だったからこそ入れたままで登校してしまったのか。

 

「……、」

 

 見れば、向こうもこちらを見て驚いているようだった。無言のまましばらく経って、電子音と共にバスのドアが閉まる。広い車内には運転手を含めたったの三人。彼と、もうひとりは――

 

「……とりあえず、座ったらどうかしら。十坂くん」

「……先輩」

 

 四埜崎蒼唯、そのひとだった。

 

 

 ◇◆◇

 

 

 雨の車内は静かなようでいて音が多い。雫が車体の表面を叩く音。タイヤからあがる水飛沫と、重く響くエンジンの駆動音。聞こえてくるものは沢山ある。別にしんと静まり返っているわけではない。なのに、(真面目に業務に取り組んでいる運転手を除いて)ふたりっきりの空間は驚くほど静かに感じた。

 

「…………、」

「…………、」

 

 落ち着けない玄斗の内心とは対照的に、蒼唯は窓の外を眺めている。見慣れた街の風景。雨が降っているという点を除けば、気になるところもそう多くない。……ふたりがけの席に隣同士で座っている、というのを考えなければ。

 

「……………………、」

「……………………、」

 

 どうしてこんなことになったのかといえば、座る席に迷っていた憐れな子羊を先に腰掛けていた人が無言で導いたのだ。トントン、と軽く蒼唯の座る隣のシートを叩かれたときは玄斗の心臓が跳ねた。どうするべきか悩んで、理由が見つからないまま二度目。座る以外の選択肢はないのだと、言外に告げられた。

 

「…………、」

「…………、」

 

 沈黙は長い。学校まではあと五分ほどだろうか。静かな車内は、時間の流れさえも曖昧にさせる。ふと、次のバス停が見えた。……学校までは、あと三つある。

 

「……今日は」

 

 そんな中で口火を切ったのは、意外なことに蒼唯だった。ほう、と吐いた息に色んな意味が込められている。その全容を知るには、玄斗には経験も知識も足りなかった。せめて思考を巡らせることをやめないのが、最大限の努力だった。

 

「ずいぶんなようね。……寝坊かしら?」

「あ……はい。そうみたいです」

「みたいってなによ、あなたのことでしょう?」

「……すいません」

「だから、何に謝ってるか分からない」

 

 コツ、と窓枠を爪で叩かれた。イライラしているときの蒼唯のクセだ。こういうとき、空気の読めない発言をするのが自分という人間だと思っていたが、どうにもそんな一言も出てこない。玄斗はなにを言うでもなく、カバンを抱えたまま口を閉じた。バス停を過ぎる。あとふたつ。

 

「……訊き返さないわけ? それとも、私のことには興味ない?」

「……いえ、そんなことは」

「じゃあ訊きなさい」

「……えっと」

「はやく」

「っ、先輩は、どうしてこんな時間に?」

「夜遅くまで本を読んでいたら、寝過ごしたのよ」

 

 コツコツ、と窓枠を叩く音がふたたび響く。玄斗からしても、おそらく他の誰かからしても、理由自体はなんとも彼女らしい。図書委員もつとめる四埜崎蒼唯は、学校でもわりと有名な読書家だ。

 

「おまけに雨。誰もいないバス停で二十分も待って、しかも乗ってきたのがよりにもよってあなたとはね」

 

 今日は厄日だわ、と蒼唯はもう一度息をついた。ちょうど、窓ごしに映ったバス停を通り過ぎる。あとひとつ。

 

『次は、調色高校前。調色高校前』

 

 車内アナウンスに、反射的に腕が伸びた。彼は無意識のうちに降車ボタンを押そうとして――その手首を、細い手指に掴まれる。

 

「……せん、ぱい?」

「…………、」

 

 蒼唯はなにも言わない。なにか言いたいことを悩んでいるような様子で、そっと玄斗の手首を握りしめた。……地味に爪が食い込んでいる。わりと痛い。

 

「……あの、学校……は……」

「…………、」

 

 もうしばらくすれば調色高校前の停車地点だ。降りないという選択肢はないはずなのに、蒼唯はいまだ手を離そうともしない。どこか、悩むように視線をあちらこちらへとやって。

 

「――さぼりましょうか、学校」

「え」

 

 ちょうど、その声と共にバス停を過ぎた。

 

 

 ◇◆◇

 

 

「どうかしら」

 

 試着室から出てきた蒼唯の格好は、控えめに言っても美人だった。

 

「…………、」

「……なにか言いなさいよ」

「あ、いや……すごい、似合ってます」

「……そう」

 

 短く答えて、着ていた服を脱いでから玄斗の持ったカゴの中に入れる。あれから本当に学校にも行かず、終点で降りてショッピングモールまで足を運び、こうして玄斗たちはブティックにてショッピングなんかしている。……正直学生が昼間っから、と思わないでもないが、意外なことに服さえ着替えればバレないものだった。

 

「……あの、先輩」

「なにかしら」

「やっぱり、学校を休んでまでこんなことするのは……」

「まあ、普通に考えていけないことよね。分かるかしら」

「……?」

「私たち、共犯者ってコトよ」

 

 つまり言えばおまえもタダではすまないぞ、ということらしい。……自分のことはどうでもいいにしても、蒼唯が怒られるというのは気になるところだった。逆に言うと、自分さえ黙っていればなんでもない、という意味にもなる。

 

「……やけに落ち着いていますけど、もしかしてこれが初めてじゃないんですか……?」

「そうね。学校が嫌になったらこうやって適当に出かけているわ。もちろんバレないように。……成績だけは良いのだから、見逃してほしいところではあるけどね」

 

 意外……というよりは競合相手が規格外すぎて忘れそうになるが、調色高校三年首席は現生徒会長の赤音ではなく蒼唯のほうだ。赤炎の生徒会長と蒼氷の図書委員とはよく言ったもので、ふたりの関係はちょっとよくないらしい。

 

「……学校は、ちゃんと行かないと」

「いまのあなたが言える立場ではないわね。私と一緒にさぼっているわけだし」

「……そうでした。取り下げます」

「賢い発言ありがとう。ついでに、これでもかけておきなさい」

 

 すっと手渡されたそれを、玄斗はなんだろうとじっと見る。見たところ、度の入っていない眼鏡のようだ。青い縁のそれを眺めていると、蒼唯は今日何度目か分からないため息をついた。玄斗の手から素早く引き抜いて、無駄に長い前髪をあげながら彼の顔にかける。

 

「変装。それひとつでも大分印象が変わるわ。似合ってるわよ、優等生」

「……この状況でそんな褒め方しないでください」

「冗談に決まってるでしょう。まったく会話が下手。相変わらず」

「……すいません」

「だから、何に謝ってるのか……って、これもしつこいわね」

 

 くるりとふり向いて、腕を組みながら蒼唯がなにやら考え込む。なんだろう、と玄斗がぼーっと見つめていると、ピンときたのかハッと顔をあげて、ニヤリと笑った。……どこか嫌な予感がする。

 

「そうね。今日一日、謝るの禁止。罰ゲームとして一回謝るたびに一度私のお願いを聞いてもらうわ」

「え、いや、それは……」

「うるさい。あなた反論できる立場だと思ってるの? あんなこと(・・・・・)しておいて」

「……すいません」

「はい一回」

「あっ」

 

 ばっと口を押さえるがもう遅い。出てしまった言葉は飲みこめない。はやくもカウントされてしまった無茶ぶりに、これを更新しないよう気を付けるのは無理かもしれないと玄斗は思った。

 

「いくらなんでも早すぎるでしょう。ばか?」

「……すいません」

「はい二回」

「うっ……」

 

 くすくすと、指を二本たてた蒼唯がおかしそうに笑う。

 

「……まったく、本当変わらないんだから」

 

 なんだか今日は、落ち着かない一日になる気がした。




というわけで二章です。はい、いきなりメイン章だよ先輩!

ちなみに章タイトルに入ってる色がその章のメインキャラです。





あと世の学生さんは学校はちゃんといきましょうね。どうしてもさぼるときはバレないようにしましょう。もう嫌で嫌で仕方ないときは無理してもね、と思う派。

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