ギャルゲーの友人キャラに転生したら主人公が女だった。 作:4kibou
「ほら、もっと近寄りなさい」
「え。いや、あの……」
「……なによ」
「……これ以上動くと、ほっぺがあたります」
「……いいじゃない別にほっぺぐらい」
「良くないでしょう……」
ぐいぐいと身体を寄せる蒼唯に押されて、ついぞ玄斗の肌に服越しの柔らかい感触が押しつけられた。
「(いやまあ、だからどうってわけでもないけど――)」
冷や汗をたらしながら玄斗は周りを見渡す。いくら利用人数のすくない平日の昼間とはいえ、スマホ片手に男女が身を寄せ合っているというのは非常に注目を浴びる。願わくばこのわりと強引な先輩のためにも知り合いに見られていないコトを祈りながら、やっとのことで写真を撮り終えた。……そう、ツーショットの写真を。
「(……つ、疲れた……)」
「うん。よく撮れてるわ。あと十個ね」
罰ゲームの権利を行使されては避けようがない。口で抵抗しようにも上手く丸め込まれて一回分増やされるのがオチだ。ならば力尽くで、なんてことが女子相手にできるワケもない。結果、このように玄斗は無茶ぶりに付き合うしかなくなっていた。だがまあ、ツーショットぐらいなら、勘弁はしてほしいが無理ではない。
「じゃあ続いてもう一個。携帯、貸しなさい。持ってるでしょう」
「いいですけど……なにを?」
「連絡先の交換といまのツーショットを壁紙にしておくこと。これで合計三つね。拒否権はないから」
「……!?」
言うが早いか、蒼唯は取り出した玄斗のスマホを引ったくって操作をはじめる。手慣れたものだ、なんて見とれている場合ではない。なにより壁紙は別にいいにしても連絡先の交換というのがどうもマズい。そこまで行くとどうか、というのが玄斗の認識である。慌てて取り返そうとするも、彼の受け取った高性能携帯電話はしっかりと彼女の連絡先を登録していた。
「消したら許さないから。これであと六つ」
「そんな……」
「観念なさい。でもって、壁紙も変えないこと。あと五つ」
「…………、」
別に、律儀に罰ゲームを守る理由なんてない。ただ約束じみたそれを破る気にはなれなくて、結局大人しく返された携帯を仕舞った。必要以上に関わらない。それがいちばんだと知ったのが彼女との関係だ。まさかしおりまで渡されて、そういう関係が目前に近付いているなんて夢にも思わない。なにより、そんな
「言っておくけど、破ったら許さないから」
「……破りません。それで、次はどこへ?」
「さあ。気の向くままに行きましょう。それもひとつの楽しみ方よ」
そんな旅みたいな、と玄斗は思ったが、気晴らしにはそのぐらいの心構えがいいのかもしれない。いつも冷静沈着できちんとしている彼女の、珍しい面を見た気がした。
「……あの、ひとつだけ。良いですか」
「なに」
「聞いてませんでしたけど……どうして、こんなことを?」
「――馬鹿ね。それを今から、あなたに分からせていくのでしょう」
玄斗は不思議に思いながらも、蒼唯の後ろをついていった。その言葉の意味すら分からないままに、歩みをともにしていく。けれども次に行った場所で、なんとなく理解してしまった。彼女は別に、自分となにかをするために誘ったのではない。きっと愚かな彼に罰を与えるために、このデートをはじめたのだ。
◇◆◇
「(ここは……)」
ところどころに見える人影。利用客の少なさとは裏腹に、無駄に多い蔵書数があたりを埋め尽くしている。見慣れた調色高校の図書室とは違う、またもうひとつの本の楽園。つまるところの、市民図書館。そこは、他の誰かにとってはともかく、玄斗と蒼唯にとってすこし変わった意味を持つ場所だった。
「覚えているかしら。ここで、私とあなたは初めて出会ったのよ」
「……覚えてます。忘れるわけありません」
「そうね。私もそうかもしれないわ。そして、あなたが私を初めて拒絶した場所」
きっとそちらのほうが、彼女にとっては忘れられないだろう。そんな憶測でしか語れない人間に価値はあるものか。玄斗にはすでに、なにがどうかなんてしっかりとした答えも消え果てていた。
「……す」
「謝罪は、どうなの」
「……でも」
「禁止よ。そんなの。大体、そうだわ。はじめから思ってたもの。あなたの〝すいません〟に込められた意味と、私が求めているものじゃ違いすぎてる」
それは果たして、どういう意味だろうか。玄斗にはさっぱり分からなかった。四埜崎蒼唯の求めるもの。そのぐらいは簡単に導き出せると、どこかでそんな馬鹿げたコトを思っていたのか。いざとなって出てくるのは、なんのヒントにもならない疑問符でしかない。
「私の隣に座らないかって、率直な言葉だと思ったのに。それですら、あなたは拒否した。あなたが
「……はい」
「そのときの私の気持ちが分かるかしら。分からないわよね。分かるわけないもの。だってあなたは、一欠片も他人の心を理解していない」
だから会話も下手なのだ、と蒼唯は厳しく言ってのけた。こればっかりは反論の余地もない。黙りこむ玄斗をよそに、蒼唯は奥へスタスタと歩いて行った。彼もそれを、すこし急ぎ足で追いかける。
「白より白い画用紙、茜色に染まる街、黄金の経験則、青色の空と鋼色の大地、深い緑に覆われて、僕は墨をぶちまけた……だいたい、このあたりかしらね」
「……借りた本、覚えてるんですか」
「あなたが借りたものよ。ぜんぶ」
「――――、」
言われてみると、たしかに覚えのあるタイトルばかりだ。そんなものを借りていたか、と今さら昔の自分に疑問を覚える。たしかに読書をしていた時期ではあるが、その内容もいまはすっぽり抜け落ちていた。なにを読んだのか、どんな話だったのか、さっぱり頭の片隅にも残っていない。
「一言目は、なんだったかしらね」
「……すいません。同席しても、いいですか?」
「嫌よ。他をあたってちょうだい。……なんて、思えば随分と冷たい対応をしたものだわ」
玄斗としてはその台詞がイメージ通り過ぎたので、むしろ随分とは思わなかったのだが。そんな彼の事情を蒼唯が知る由もない。もちろん、他の一切も。
「初対面の印象は、とにかく不気味。大人しいくせに、どこか引っ掛かる。自分の色が悪い意味でしっかりしていて、なにもないクセに染まらない。本当、真っ黒な人だと思った」
「……?」
「同時に、嫌なぐらい似合う名前だとも。でも、似合わないとも思っていたの。あなた、黒なんてしっかりした色は持ってないはずでしょう」
「……えっと」
くるりとふり向いた蒼唯が、じっとこちらを見る。玄斗には彼女がなにを言っているのかさっぱり分からない。十坂玄斗には、なにひとつとして理解できない。けれど。もしかしたら。彼の。――あるいはそれは、おそらく。
「十坂に、玄斗。センスないわ。あなたにその名前を付けたのは、間違いよ」
「……せん、ぱい?」
「違うはず。もうまだるっこいやり取りはごめんよ、十坂くん。――いいえ、
なぜだか、心臓が跳ねた。押さえつけたはずの動悸がぜんぜんおさまらない。それ以上はダメだと、どこかでなにかが叫んでいた。十坂玄斗。その名前すら借り物だ。だから嘘だと言われたら納得するしかない。でも、まさか、それが。
「あなたは誰? いったい、どこのなんていう人?」
こんな確信をつくような質問に至るなど、思うはずも無い。
「どう、して……」
「……本当。馬鹿ね、あなた。会話が下手なのよ。分からない?」
分からない。
「あなたの歪さも、おかしさも。すべて気付かないと、本気で思っていたの?」
侮っていたのはきっと彼だ。なにせ、考えればそのとおり。四埜崎蒼唯は、あの壱ノ瀬白玖を攻略したヒロインなのだから。
なんか気にしてないというかスルーしてる人が多いので言っちゃうと、うちのヒロインって基本一年も経ってないのにまっさら精神ぶっ壊れ系主人公の本質に気付いてあまつさえ好きになっちゃうような人たちですよ。しかも先輩に至っては結構強引にやっちゃってるわけで。なにが言いたいかというと……うん……転生こじらせとか……まっさら主人公に惚れるような女子共が……ね?
オリジナルギャルゲー展開の良いところは転生オリ主の過去を思いっきりぶちまけられるところ。正直前々作のリメイクで分かる人は分かるかと思いますがやっぱり、こう……ね!
正直に白状すると型月の正義の味方くんとかニチアサでいう欲望のやべーやつとか人生リセットゲームボーイとかそこら辺の主人公がめっちゃ好き。
あと書くのに夢中しすぎて感想返し忘れておりました。明日から本気出します。
……ちなみに今日はずっとリアルタイム更新だったのですが、二万文字の壁は分厚いなあ……