ギャルゲーの友人キャラに転生したら主人公が女だった。   作:4kibou

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第十五章 白くなくても終わらせよう
エンディング


 

 ――そんな風に、ちょうどキリのいいところまで済ませたとき。狙ったように、寝室の扉が開いた。見ればどこか遠慮がちに、こちらを伺う少女の姿がある。

 

「……お父さーん……もう八時だよ……?」

「ああ、ごめん。ちょっと、集中しちゃって」

「まったく……ご飯もお風呂も準備しちゃったよ」

「うん」

 

 うなずきつつ、椅子に座ったままぐっと伸びをした。ちょうど佳境だったというところもあって、だいぶ熱中してしまったらしい。思えば昼過ぎからなにも口にしていないことに気付いた。健康に気を遣っていることもあって、それになんとも相当だと自覚する。

 

「……っ、ぃ、たた、た……」

「もうー……大丈夫? お父さんだって歳なんだから。無理しちゃだめだよ」

「歳って……僕はまだ三十八……」

「アラフォーじゃん」

「うっ……」

 

 ぐさっと突き刺さる実年齢のあれこれにうめいた。まだ三十八。言い換えればもう三十八だ。色々と体にもガタというのが出てくる。いくら健やかな毎日を過ごしていても、人間は二十歳を過ぎれば日々老いていくものなので仕方ない。

 

「……お仕事人間だよね、お父さんも。ワーカーホリックってやつじゃない?」

「いや、そこまでではないと思うんだけど」

「いやいや、十分だって」

「いやいやいや……おじいちゃんの話とか、聞いたことない?」

 

 問いかけると、「おじいちゃん?」なんて彼女は首をかしげる。まあ、個人的にワーカーホリックといえばあの人だ。あれほど仕事熱心というよりも仕事人間という言葉が似合う人物を知らない。

 

「あれでおじいちゃん、若い頃はすごかったんだよ。仕事、仕事、仕事で」

「うっそだー! ……ええ? だって、あのおじいちゃんが……? 今年私のお年玉に三万入れてくれてたけど」

「あの人は……!」

「あ、これお父さんに言っちゃダメなやつだった」

 

 パパ許して、なんて言ってくる少女より、孫娘に甘々な父親に嘆いた。たしかにもう高校生なのでまとまったお金があっても良いだろうが、にしても三万はそこそこ大金というか、なんというか。

 

「……まあおじいちゃんらしいけど。それでも昔は結構だったからね。いまのお父さんに比べたら、まだまだ全然」

「ふーん……どうでもいいけど、無理だけはしないでね。本当」

「しないしない。流石にそれはね?」

 

 所帯を持ったいま、身勝手に自滅して苦労をかけさせるワケにもいかなくなった。最近の信念は健康第一である。食生活から日ごろの運動までこなしていれば、わりと体の調子は整うもので。そうなれば仕事中も急な腰痛や肩こりに悩まされることは少なくなった。

 

「……で、どこまで進んだの」

「こらこら、お仕事関係だから。さすがに詳しくは言えないよ?」

「いいじゃん、私口が堅いし。それに、あれなんでしょ。それ、お父さんとお母さんが元になってるんでしょ」

「……まあ、そうだけど……」

 

 どれどれ、なんて言いながら娘が身を乗り出してパソコンの画面を見ようとしてくる。それをやんわりおさえながら、一応はプライベートな代物でもないのでガード。……まあガッツリとプライベートな部分があるにはあるのだが。いや、中身的な意味で。

 

「気になるなあ。あんまり覚えてないから、お母さん」

「……そうだね。まだ小さかったから」

「うん。……だから気になるの。お母さんってどんな人だったのかなって。ねーねー。うちのこんなお父さんを射止めたのはどんなタイプだった!?」

「どんなって……」

 

 まあ、ああいうタイプだったのだが。

 

「……恋愛事もいいけど、ちゃんと勉強もね。ほら、学生の本分は――」

「おやおやお父様。忘れたかなー? 私の二学期の通信簿は五段階評価のオール五でしたけどー? ついでに成績もトップですけどー?」

「……すごいね、うちの子は」

「でしょでしょー。だから、ほら、聞きたいなー」

 

 馴れ初めを聞かせろ! と目に書いてある。らんらんと光る瞳はまるで猫みたいだった。こういうところはどちらの血筋かというとたぶんこちらで、いまだにからかってくる妹あたりを想起させた。血の繋がりは恐ろしい。

 

「……子供のときにね」

「うんうん!」

「お父さんが公園で、お母さんに向かって絶対幸せにする、って宣言をしました」

「きゃー! きゃー! うそー! お父さんってばだいたーん!」

 

 わーきゃー、といった風に跳ね回る少女。嘘ではない。嘘は言っていない。そのときは意味合い自体が結構違ったようなものだが、回り回って結局約束自体は成されたと言っても良い。ので、まあ、嘘ではないと言えるだろう。

 

「で、それからずっと離れ離れで。高校生になって再会して、いまここ」

「なるほどなるほどー……その間のお父さんはハーレム主人公だったわけだ」

「いや、そういうわけじゃ……」

「ないの? 赤音さんとか。あとうちによく遊びに来る人で蒼唯さん。黄泉さん。碧さん。六花さん。七美さん。零奈さん……」

「いやいやいや、待って待って。そういう言い方はちょっと語弊があるって」

「それと真墨おばさん」

「真墨は妹だし……あと怒られるよ」

「いいのいいの。聞こえてないし」

 

 昔からのコトではあるが、妹は彼女から「おばさん」と呼ばれるたびにキレる。それはもうキレる。ブチギレからなんとかおさえて半ギレまで持っていっているあたりの努力を称賛してあげたい。

 

「あ、あと広那さんもかな?」

「あの子はちょっと違うかなあ……?」

「あらら。珍しく言い切るんだね。お父さん的になにかありましたか」

「さあ、どうだろう」

「……怪しい」

 

 じっと睨む彼女の頭に手をやって、そのまま乱暴に撫でた。うわーやめろー! なんて吠える声をスルーして、ゆっくりと椅子から立ち上がる。

 

「そういうそっちはどうなの?」

「? どう、っていうのは?」

「良い人とか。いない?」

「えー……どうだろ。恋愛とか正直興味ないなあ……」

「へえ……なんで?」

「? だって結婚したらお父さんひとりじゃん。それは嫌だよ。私お父さんとは死ぬまで暮らしていくつもりだし」

「どうしよう。お見合いの場とか設けるべきかな……」

「いやいやいや!」

 

 ちょいちょいちょい、と待ったをかける少女と見つめ合う。むしろこっちがそう言いたいぐらいなので、間違いなくお互いの意見が別たれた瞬間だった。冗談にしてもそれは笑えない。

 

「娘の気持ちをありがたく受け取っておくべきだって! 大丈夫! 苦労はさせないから!」

「いやそういう問題じゃなくて……流石に、普通にお父さんとしては幸せになってほしいよ? そのためにこれまで色々とね……」

「私にとっての幸せはお父さんとの日常です! はい終了! 閉廷ーっ!」

「いやだからそれはダメだって!」

「なにがダメなの!」

「孫の顔とか見せてくれないのかい!?」

「えっ……じゃあ、あの……」

「ストップ。もしかしてそれ、真墨から教わった?」

「なんだ、おばさん見破られてるじゃん」

「あの娘は……っ!」

 

 人の家の子供になにを教えているのか。毒されている。これは間違いなく毒されている。すくすくと元気に成長してもらいたかったのに。

 

「まあ半分冗談だけど、半分本気だよ?」

「……どこまでが本気なんだい?」

「お父さんと死ぬまで暮らすってこと。だってさ、私がいないとお父さん死んじゃうでしょ」

「いや、そんなことないって……」

「いいや死ぬ! 断言するね! ……だから、私はお父さんと一緒にいまーす」

「……まったく……」

 

 頑固なところは、まあ……どちら譲りかなんて考えるまでもなく。実際死ぬ気は毛頭なければ、ちゃんと娘には良い人を見つけてお嫁にいってほしいというのが親心だ。正直、できすぎた娘なのでどこへ出しても恥ずかしくない……と思っているのだが。

 

「私、お父さんのことならなんでもお見通しなんですよー?」

 

 

 

 

 

 

『あなたのことならなんでもお見通しなんですよー? 玄斗さん』

 

 

 

 

 

 

「――本当、お母さんに似てきたね。白無(シロナ)

「そうかなあ?」

「うん。よく似てる。とくにその髪色とか」

「あー、これ。これは真似ただけだよ? なんか、良いなーって思って」

「……そっか」

 

 くすりと笑って、少女と一緒に寝室を出る。階段を降りて一階のリビングまで行けば、たしかにテーブルには料理が並んでいた。

 

「……休みの日だからって、豪勢じゃない?」

「そりゃあそうでしょ。だって、ほら。もう十年だし」

「……ああ。そういうことか。なら、豪勢にもしなくちゃね」

「うん」

 

 この家に暮らしているのは、たったふたり。自分を含めれば娘だけで、ちょっと広すぎるのが悩みどころになる。そんなものにすら慣れはじめて、だからまあ、その日だけはなにより感じることができた。十年。彼女が死んでから、もうそんなに経つ。

 

「……そうだね。なら、そういうことで」

「そ。だから、それでね。じゃあ、うん」

 

「「「――いただきます」」」

 

 手を合わせて、箸をつける。辛いことも、苦しいことも、思えば沢山あった。折れてしまいそうなコトの連続で、本気で投げ出したいと思ったことだってある。それでもまだ生きていて、些細な幸せが続いている。だから、それでいい。そんなもので良いのだろう。人生なんてそう上手くはいかないし、なにが起こるか分からない。

 

「(僕はもうちょっとだけ頑張ってみるよ、白玖)」

 

 すくなくともこの娘に悲しい顔をさせないためにも、病気だけはしないでおこうと心に誓った。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ◇◆◇

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

【企画】Not(ノット)/(ゼロ)コーポレーション

 

【設定・ストーリー原案・シナリオ】明坂零斗(アサカレイト)

 

【原画】三奈本黄泉(ミナモトヨミ)

 

【作品コンセプト】不思議な日常に紛れこんだ少年の、心を繋ぐ恋愛ビジュアルノベルゲーム

 

 

 

 

 

 

【タイトル】ギャルゲーの友人キャラに転生したら主人公が女だった。

 

 

 

 

 

 

 

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ご愛読ありがとうございました! 4kibou先生の次回作に(ry

以下あとがきにつき反転。




ということで終わりです。ここまでついてきてくれた方はお疲れ様でした。本当にありがとうございます。およそ三か月間また走らせていただきました。なのに話数が膨れ上がってるのはナンデナンダロウネーオカシイネー。……はい。


一先ずやりたいことは全部やれたと思うので良かったと思います。序盤のドシリアスでふるいにかけすぎて最後のあたりはもう何をどう書いても「あーはいはいそういうことね」で流される安心感がやばかったです。耐性ついてる人多くない……?


そんな風に好き勝手やらせてもらった作品でした。書いててそれはもう楽しかったです。途中お仕事のつらみで執筆時間減ったりしたけど毎日だけは死守しようと頑張ってました。結果は……うん……。


なにはともあれ読んでくださった皆様に感謝です。また今度も機会があれば拙い文章を読んでやってください。長くなりましたが、最後にひとつだけ。




もう二度とハーレムは書かねえ。

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