ギャルゲーの友人キャラに転生したら主人公が女だった。   作:4kibou

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茜色の空は何度でも

 

「(あーしんど……もう帰ったらあれだ。寝よう。すぐ寝よう……)」

 

 ずるずると満身創痍の体を引き摺りながら、木下鷹仁は生徒会室の扉を開けた。ひとまず山場は乗り切った。これからのイベント事だと生徒会がわざわざ顔を出す大きなコトというのもすこし先だ。束の間ではあるが仕事量も減るだろうと、一歩足を踏み入れて、

 

「あら、まだ残ってたの。あんた」

「……へいへい。残ってますよ。なんせ、俺だけ大変ですから」

「ご苦労さまね。ま、あんたにはあんたが処理できる分しか与えてないつもりだけど?」

「……それが限界ぎりぎりだから言ってんだろうが」

「なによブツブツと。気持ち悪いわね。玄斗ならもっと気持ち悪いわよ? なんたって文句ひとつ言わないから、あいつ」

「……は、そりゃ、気持ち悪いっすね」

 

 いまになって言えるコトに、今さらながら過去の傷が痛んだ。呑気に生きている。そう言ったこともあったか。彼が呑気に生きているのだとしたら、むしろ本当にそう生きている相手に失礼かも分からなかった。あれは言うなればただ(・・)生きている……否、生きていたというべきもので。それに気付けたのは、まあ、この会長の下で動いているせいでもあった。

 

「でもいまのあいつは違うでしょう。なんか、理由は知りませんけど」

「そうね。あいつは変わる。……あんた、そのときまで友達やっていける?」

「はあ? なに言ってるんですかね、この会長は。俺とあいつなんて、暴行沙汰のすえに仲良くなった野郎どもですよ? 大概でもなけりゃ友達やめねえわ」

「……なんだかんだあんたも好きよね」

「嫌いです。大っ嫌いです。いや本当、嫌いですから」

「……ったく……」

 

 素直じゃないヤツ、と冷たい目を向けながら赤音が息をつく。もっとも鷹仁が素直であれば逆になにかあったかというレベルで気持ち悪いのだが、生徒会のために尽力しているこの少年にわざわざ言うコトでもないだろうと心に秘めておいた。ある種の慈悲である。

 

「……んで、会長はなにを? こんなところで黄昏てるんすか?」

「ああ、黄昏れてると言えば、あいつも教室で黄昏れてたっけ」

「へえ、玄斗が。ふうん……って、いや、話逸らしても無駄っすから」

「……ちっ」

「うーわ舌打ちしやがったよこの会長……まじで親父に絞られてくれねえかな……」

 

 そんな告げ口しないくせに、とは同じ理由で言わなかった。親の七光りだとか理事長の息子だとか自慢げに口にするくせして、鷹仁は滅多に親の権力に頼るということをしない。彼なりの誠実さの表れだろう。どころか自分で出来ることはなにがなんでもやりきってしまうあたり、本当に誰かから仕事を投げられる方が向いている。

 

「……腕章かよ」

「そ。あいつが付けてた、副会長(コッチ)の腕章」

「……そのまま首輪代わりにつけときゃいいのに。会長も不器用ですね」

「まあ、それも考えてたんだけどね……」

 

 呆然、唖然。常識を覆されたみたいに固まる玄斗を見て、気が変わったのだ。あんな顔をしてくれるのは本当にズルだ。まるで迷子。道を見失って立ち止まっている子供みたいな情けない表情。剥がれ落ちたメッキの隙間から見えたそれに、どこまでもどこまでも、手を伸ばしたくなった。

 

「いいのよ。あんなときの彼につけ込んでモノにするのは、違うでしょう。フェアじゃないわ」

「いやいや……フェアとか馬鹿ですか。恋愛なんざ戦争に決まってますよ。先に撃ち抜いた方が勝ちです」

「勝ち負けの問題なんてないわよ。いちばん大事なのは、玄斗が玄斗であるように、彼なりの答えを見つけるコト。……でもって、それが私であること」

「……あーだこーだ言って結局自分に返ってくるんですね」

「当然じゃない。私は私だもの」

 

 確固たる自分を持っている。鮮烈なまでの生き方をする二之宮赤音は、ときに自己中心的に、ときに自分勝手に、ときに自己満足で終わらせながら生きていく。常にいちばんにあるのは自分自身。他人なんてその二の次。見方によっては独りよがりなそれが良い方向に傾いているのは、偏に彼女のスタンスによるものだ。人生の主役は自分だが、なにもすべてを無視して突っ切って好き勝手できるのが主役というワケでもない。

 

「……で、どうだった? お望み(・・・)の生徒会活動は」

「最高でした。もう仕事はないしあっても楽だし玄斗がやってくれるし玄斗に任せられるしもうあれ以上なんて無いに決まってんだよなあ!」

「それだけ?」

「……それだけっすよ。最高でした。それは本心です。あいつと一緒になんかやれたってのが、とくに」

「……ツンデレ」

「違えよ馬鹿か!?」

 

 吠える鷹仁に、赤音はクスリと笑った。まったく正直ではない。顔も良い、スタイルも申し分はない、性格だってその暴言を除けばまあマシなほうだろう。そんな彼が一般生徒からまったくと言っていいほどモテないのは、たぶん、そういうところが大きい。

 

「……ちょっと前、言ってくれたものね、あんた」

「…………、」

「いつまでその腕章とってるんだ、腐らせるぐらいなら無理やりでもなんでもさっさと入れろ、十坂のコトだから強引に行けばいい、なんなら俺から一言ガツンと……だっけ?」

「覚えてねえわ。手前の言ったコトをいちいち」

「で、じゃあ他のヤツでも入れましょうか? ってからかってみれば、女子の胸ぐらとか掴んで来やがるものだから。思わず投げちゃったわ」

 

 いやーあれは我ながら見事だった、と赤音は語る。鷹仁は遠い目をしていた。まあ、なんてことはない。彼がついぞカッとなって手をあげかけたのは、二之宮赤音の軽口云々に対してではなく、自分の友人が代えの効くモノとして見られていたという誤解に、とことんむかっ腹が立ったのだ。

 

「なによ、本当に素直じゃないやつ。あんたのほうが不器用じゃない」

「……殴ってそのままだった。悪いかよ、会長」

「なにが?」

「だから、あいつのこと殴って、そっからこんな関係になって……ずっと、そのまんまだろ。一緒に歩いてねえんだよ。いつも後ろをついてくるのがあいつで、俺は先導するだけだった。……並んでなにかしたコトなんて、一度もなかった」

「…………乙女かっ」

「漢だっ。……女子には分かんねえよ。こういうのは、野郎同士じゃないと」

「……男子って本当馬鹿ねえ……」

「言えてるな」

 

 ハッと笑って、鷹仁は夕陽を見た。真っ赤な空。赤みがかった雲。斜陽によって生まれた鋭利な影が、容赦なく校舎の中まで入ってくる。思えばどこぞの暴力女に殴られた昼時も、こんな世界が見えていたか。血溜まりで見上げた少女の顔は、どこまでも眉間にシワを寄せて、いまにも泣きそうだったのを思い出す。

 

「……だいたい、人のコト言えねえ筆頭だろ会長は。あいつのことになると乙女」

「別に良いじゃない。乙女だし」

「乙女って意味を辞書で三回は調べることをオススメする」

「……どういう意味よ」

「いや、破壊現象は乙女とは言わない」

 

 無言でみぞおちにトーキックをかまされた。穿つような鋭い一撃。心臓を抜いて(・・・)から遅れてダメージがやってくる。膝から崩れ落ちてうずくまる鷹仁をよそに、赤音は同じように遠く空を見た。

 

「……やっぱり夕陽って綺麗だわ」

「こ、の……っ、クソ、女……殺す……っ、絶対殴る……っ!」

「殺せないくせに、殴らないくせに。あと手加減したからそこまで痛くないくせに」

 

 最後はない。十分痛い。確実にこの女、死ななければ手加減とかそういうレベルで間違えている。……が、まあ、すぐに立てる程度には痛みも早く引いた。

 

「……席は、まだあけとくんでしょうね」

「当たり前よ。まあ、でも……」

 

 そうね、と一言だけ赤音は漏らして、

 

「あいつ次第では、こっちじゃなくて……コレ(・・)を渡すのも良いかもね」

「!」

 

 つい、と彼女が自分の制服につけられた腕章を引っ張る。それは、つまり、彼が。

 

「……まじか?」

「ええ。時期と返答次第では。……どうする? 木下。その頃にはあんたがこっち付けてるかもよ?」

「――んだよそりゃあ。決まってる。そんなん最高だろうが」

 

 もしも会長職が向こうに渡れば、自然と残された腕章が配られる。お下がりだと言われようが馬鹿にされようが、他人から見てどうであれ、鷹仁にとってそれは最良の結末に思えた。

 

「味方ひとりゲット。じゃあ、そういうことにしときましょうか」

「いいや断然ですね。そっちのほうが良すぎる。ああ、早くどっかの会長やめてくんねえかなー!」

「任期があるから。無理」

「いきなり現実的な話を突っ込んでくんなよ……それぐらい知ってるわボケ……」

 

 誰もいなくなった校舎での、秘密のやり取り。彼の行く末を決める会話に、彼自身は混ざっていない。けれど、きっと悪いことでもないのだろう。案外その少年は、思っているより幸せな環境に身を置いているのだと――  




これにて三章終了っ 幕間二話やって四章でございます。


自分ルールなので無理になるとやめますが、基本は八話+幕間二話で一章という感じ。ちなみにこの三章までで大体うっすいラノベ一冊分ぐらいらしいっすよ。プロは化け物っすねぇ……
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