ギャルゲーの友人キャラに転生したら主人公が女だった。   作:4kibou

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スーパー鬱タイム()


くたばって死ね

 

「…………、」

 

 分からないものだ、と玄斗は屋上でため息をついた。らしくもなく落ちこんでいる。以前までならまるで気にならなかったことで引き摺れるようになったのは、すこしの進歩と思っていいものかどうか。ついといった風に出てしまった本心は、きっと他人に明かすべきではなかった。自制できなかったのは偏に己の弱さだ。隠すという気持ちが出る前に、言葉にしていた。そんなコトをしても、なんの意味もないというのに。

 

「……大馬鹿者だな、僕は」

 

 呟いて、また一段と落ちこんだ。そんな思考回路をしている自分自身にではない。ただ、それを誰かに言ってしまったという事実に落ちこんでいる。とてもじゃないが、口にするようなモノでもないと分かっていたはずなのに。

 

「(五加原さんも迷惑だろうに。こんな……しょうもない誰かの、一円にもならない気持ちなんか聞かされて)」

 

 はあ、ともういちどため息。見上げた空は青い。次第に日が昇ってきている。ふと、下から粒のように声が聞こえてきた。生徒が登校してきたのだろう。もうそんな時間かと思って腕時計を見ると、たしかにそれぐらいなものだった。

 

「…………、」

 

 気分は最悪だ。それこそ、このまま学校をバックレてしまおうかと思うぐらいに。考えれば考えるほど、まともな常識に則れば則るほど思い知らされる。自分なんていう人間が果たしてまともに生きて良いものなのかと。……くり返し、言い聞かせるように答えを掴まされた。

 

「なにもない……なにもありはしない……」

 

 空に伸ばした手は、文字通り空を切る。そのとおりだ。自分という生き物にはなんだってなくて。だから、生きているだけで迷惑になる。たとえば四埜崎蒼唯は、彼という存在がなければ無駄に悲しまなくて済んだ。たとえば二之宮赤音は、彼に固執しなければ鮮やかに見事なまでに綺麗な生き方をできていた。たとえば三奈本黄泉は、彼と出会わなければ好意を無碍にされることがなくて済んだ。ぜんぶがぜんぶ、零無(おまえ)がいなければ済んだ話だ。その途中になにかを与えたとしても、きっとプラスマイナスでマイナスに振り切っている。もとより、価値なんて最低だった。

 

「(……ここから飛び降りたら楽かな。きっと、楽だろう)」

 

 強い風を浴びながら、眼下を眺める。一瞬だ。痛みで苦しむ余裕すらないだろう。それはとても、魅力的に見えた。楽だ。幸せだ。いますぐ飛び降りれば、この現実から救われる。――けれど、それは、できない。

 

「(逃げるなんて、できない。僕は一生、この状況と向き合わなくちゃいけない。迷惑でも生き続けなきゃいけない。死ぬのは、逃げだ。ひとりだけ楽になろうとしてなんになる。……まだ、なにも答えを出せていないのに)」

 

 死ぬと楽だから。そんな理由で、命を繋いでいる。馬鹿らしかった。けれど考えるほどに、それ以外の理由がなくなっていく。なにせ死んでしまえばぜんぶリセットされることを、明透零無は経験している。そのうえでまだ生きている。本当に、憐れな生き物だろう。

 

「(生きるのは辛い。幸せになるのは、もっと辛い。なんで僕なんかのために、誰かの恵まれた人生が左右されなくちゃいけない。……そんなコトですら、前まで気付かなかった。最低だ。こんなの、もう、意味が分からない――)」

 

 そうだろう。すべて己の責任だ。ぜんぶ背負うなら自分がやるべきだ。そうして片付けてから、ひっそりと、苦悩の果てに死ぬのが似合っている。見たくもないものを見て、したくもないことをして、それでもなお死ぬのは最後の最後。でないと、意味がない。

 

「(意味……意味って、なんだろう……)」

 

 生きる意味。考える意味。行動する意味。死ぬ意味。分からない。でも分かっていることはある。明確にするのはそこだ。――生まれてくるべきではなかった。本当にそうだ。最初から自分という人格を消して、そのうえでやり直せたなら、きっと誰もが幸せになれていたのだろうに。

 

「(でも、手遅れだ。気付くのも、動くのも遅すぎた。……なら、せめて、片付けぐらいは……しないと)」

 

 ずるずると立ち上がる。いまにでも終わらせたい。これ以上は時間の無駄だと考えた(・・・)。二之宮赤音の誘いと好意を断って、三奈本黄泉に感謝と謝罪の気持ちを伝えて、四埜崎蒼唯に嬉しさと真実を突きつける。簡単だ。どこまでも簡単だ。さあ、いまやれ。すぐやれ。即座にやれ。――そうしてその後に、惨たらしく死ね。

 

「(誰だ……そんな、酷いコトを思ってるのは……)」

 

 〝ああ――僕か。〟

 

 気付いて、嗤った(・・・)。はじめて嗤った。十坂玄斗は、心から、己の在り方を理解して、本当に嗤えてしまった。自分というニンゲンは、なんとも、面白いぐらいに――

 

 〝歪んでいる。〟

 

……ハ

 

 嗤う。おかしくて、可笑しくて、オカしくて、くつくつと喉が鳴った。面白いものだ。変なものだ。狂っているものだ。普通に見れば分かりきっている。こんな、壊れ果てたニンゲンの――どこに、価値など、残っていたものか。

 

あはは……ふ、ふふふ……っ!」

 

 涙は出なかった。なにせ泣く理由がない。涙を流す意味が見当たらない。たかだか低俗なニンゲンが低俗な理由に気付いただけ。なにを泣く? 否、なにも。だってそれは、嗤うしかない状況なのだから――

 

はははは……っ、あー……本当、おかしいよ、ぼく(おまえ)

 

 手すりを掴んだ。飛べるか。否、否、否。飛べるものか。それは後だ。まだ時期ではない。それまでは死んではならない。ぜんぶの責を背負って、ぜんぶの要らないものを背負って、なにも繋がりすらなくなったとき。――はじめて、命を落とせるのだ。

 

「……そもそもぼく、どうして、こんな風になったんだっけ

 

 〝ああ……まあ、それも、どうでもいいか。〟

 

 どうせ先に終わる命だ。それこそ意味がない。くるりと振り返って、玄斗は屋上の出口へ足を向けた。――そんなとき。

 

「……十坂」

「……なんだ、五加原さんか」

 

 脅かさないでくれ、といつもの調子で少年が言う。扉を開けた緑髪の少女は、おそるおそると言った様子で屋上へ足を踏み入れた。

 

「あ、あの……さ……さっき、言ってたコト……なんだけど」

「……それは本当にごめん。ぼくのせいだ。あんな空気にしちゃったのは」

「そ、そっちは……どうでも、良くて。その、大事なのは……」

「大事じゃないよ。それは」

「――――え?」

 

 するり、と玄斗は碧の横をすり抜けた。さも自然と。彼にしては珍しく、とても人間らしい仕草と共に。

 

「…………とお、さか?」

「ごめん、本当に。でも気にしないで。ぼくは平気だから」

「なっ……なにが、平気……な、わけ……っ!?」

「? なにって……そのとおりだけど」

 

 おかしい? と玄斗は首をかしげながら訊いた。おかしくはない。その動作は自然だ。ただ、その黒い瞳に不穏な色が混じっていた。まるで――いいや、すでに、死んでいるような色のない瞳――。

 

「お、おかしいよ……! 十坂はっ……」

「……どうだろう。どこらへんが、そう見えるのかな」

「みっ、見えるか、どうかじゃなくて……!」

「じゃあ、大丈夫。ぼくは……いいんだよ。どうでも」

「――――っ」

 

 足音が遠ざかる。逃げるように横から抜けられていく。捕まえたわけでもないのに、碧はそんなモノを思った。わけが分からない。なにもおかしくはない。ただ、これは勘にも近かった。一年間、十坂玄斗という少年を盗むように見ていた成果かも分からない。秘めた恋心故のものなのかも不明なまま。――気付けば、勢いよく屋上のドアを閉めていた。

 

「……五加原さん……?」

「……ちがう……っ」

 

 なにが? 自分で問いかける、五加原碧はただの少女だ。別に、以前彼のもとに集まっていたような、なにか特筆したコトのある人間ではない。二年B組出席番号十二番、美化委員会および女子硬式テニス部所属。それが彼女のつまらない肩書きである。

 

「わかん、ないけど……さ……」

「…………、」

「違うよ……いまの十坂は、だめ。きっと、ひとりにしちゃ」

「……なんだい、それ。大丈夫だよ。僕はいつでも」

「だめっ!」

 

 ビリビリと、響くぐらいの叫び声だった。さすがは運動部、なんて感心している暇もない。碧はスポーツ経験から目が良い。蒼唯のように裏付けされた予測と順序立てた理論で結果を出すのでも、赤音のようにそも人の心を読み取るのに長けたカリスマ性でも、黄泉のように人並み外れた感性で判断するのでもなく。些細な変化と、見慣れたものとの差異。その事実に一瞬で手が伸びた。じっと、玄斗の瞳を碧が見る。

 

「……わかんない。わかんないよ。十坂のこと。ずっと前から、ぜんぜんわかんない」

「……じゃあ」

「でもっ……でもさあ……だからってそれは、違うよ。あたしさ、十坂が知らないぐらい、十坂のこと知ってるから……」

「…………、」

「やめて、ほしい。……十坂」

「……なにを?」

「だ、だからっ……」

 

 ああ、とか、うう、と碧は言い淀む。分からないと彼女は言う。ならばと出した答えがやめてほしいと言葉で固まる。とても、あやふやなモノだった。

 

「……――――っ!!」

 

 そうして唐突に、がばり、と。

 

「………………五加原、さん?」

「だっ……だ、大丈夫……だから……っ」

「えっと、いや、なにが――」

「いいからっ……いいから、このまま、ちょっと待って……もう、ちょっとだけ」

 

 ぎゅっと腰に回した手に力を込めながら、碧は玄斗とふたりして地面に座り込んだ。言うに、奇跡があるとするのならこういうことを言うのだろう。ヒントにすら手をかけていなかった少女だとしても、偶然で不意にそれが手にかかることもある。五加原碧は、そうして、たしかな感触を掴んでいた。





>玄斗くん壊れすぎじゃない?

自覚した瞬間に決壊しました。やったぜ。


>これ普通のJKに対処できる案件……?

むしろ彼女以外に適任がいない。




まあ過去の影響からひび割れちゃってたやつに「こうだよー」って答え教えてやれば「そういうことなのか」って受け入れて真っ直ぐ育ってきた途中で折れるよねってことです。だって土台からアレですし。むしろうまく行くわけがないですし。

……うん壊してないよ直した結果がこれだよ。はい。

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