ギャルゲーの友人キャラに転生したら主人公が女だった。   作:4kibou

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第九章 深緑にあっても紫水晶
学生の本分は


 

『どうして間違えるの!?』

 

 ――テスト中、そんな雑念が混じった。ひとつ小さく息を吐く。心音は正常だ。脈拍ともに異常なし。ただ、心のどこかで大事なソレが揺れただけ。

 

『なんで!?』

『どうして!?』

『こんなこともできないの!?』

 

 カリ、と一瞬だけペンが止まった。もう一度、息を吐く。……そっと視線をあげると、見慣れた男子の背中が見えた。いつもどおりに堂々と、なにを思っているのか分からない様子で答案用紙にペンを走らせている。いつも、いつも。追いかけてきた大きな背中。

 

「(――今度こそ)」

 

 止まったペンを動かして、目の前の問題を解いていく。時間は有限。失敗は許されない。間違えるのはきっと悪で、できないのは罪である。そう教えられて生きてきた。だから、私のなかの信念はたぶんそこ。たとえ違うとしても、そこにあるのだと思わなくてはならない。

 

「(今度こそ……)」

 

 テストは続く。時間は過ぎる。問題が解き終わって、チャイムが鳴って、束の間の休息の後にまた問題を解く。二学期はじめの期首考査。夏休み明けで浮かれていたり、近くに迫った体育祭に気合いを入れていたりする生徒は眼中にもない。目指しているのは、それらの雑草を踏みしめたもっと先。

 

「(今度こそ――)」

 

 あの背中に追い付いて見せると、私はひとり頑張っていたのだ。……本当に、たったひとり。誰よりも、なによりも。頑張って、頑張って、頑張って――

 

〝…………ああ〟

 

 望んでいた結果を得て、落胆した。なにを勘違いしていたのだろうと。たったひとり。そのとおり。頑張っていたのは自分だけで、その成果が返ってきただけで、他はなにも関係ない。ずっとその座を守り通して、固執しているモノがあるかと思っていたのだろうか。そんなモノ、彼にとってある筈もないだろうに。

 

「あれ? 十坂二位? めっずらしーじゃん」

「俺だってそんなときはあるよ。それより、広那さん知らないか?」

「おまえいつもそれだよなー……」

 

 本当に、なにを、勘違いしていたのだろう。玉座にすわって見えた景色は、地平線の向こうまで紫色に染まっていて。とても、綺麗とは言い難かった。

 

 

 ◇◆◇

 

 

「これで序列がハッキリしたな」

「ぐぬぬ……」

「…………、」

 

 どや顔で扇子をあおぐ鷹仁を、逢緒が文字通り歯ぎしりしながら睨みつける。事の発端は先日に起きたちょっとしたイベント。二学期に入って二度目の――玄斗たちにとっては初めての試験となる中間考査だった。

 

「ほらほら、どうだ見たか第七位? これが四位の実力だよ」

「うるせえちくしょう……ここが学園都市ならマジ四位とか四位だからな……っ」

「…………、」

 

 ちなみに今回一位である生徒会長はなんだか肩身が狭そうに縮こまっている。成績表を確認したかぎりでは前回の学期はじめの試験で二位だったようなので、無事首席の座を取り返したコトになるのだが――

 

「(勉強できない僕とかカレーのないルーじゃないか……? いや落ち着け。日本語がおかしい。それを言うならルーのあるカレーだ。……それって普通にカレーなんじゃ……?)」

 

 十坂玄斗、わりと他人のような自分とは言え一位から陥落した事実を気にしていた。頭の回転が悪いだけに勉強ができるというのは数少ないアイデンティティだったらしい。もっともそのあたりを気にしているのは当の本人だけである。

 

「玄斗、俺、てめえだ。跪け第七位」

「くっそ……! 七位だなんだと馬鹿にしやがって……! ラッキーセブンだぞ! セブンセンシズだぞ! すごいパーンチだぞ! 根性っ!」

「ああ? 聞こえねえなあ第七位(・・・)?」

「鷹仁、それぐらいに……」

「おう、すまねえボス。ちょっとやりすぎた」

「うちの生徒会ってマフィアかなにか?」

 

 ちなみに学年別ではなく累計での順位である。七位というのは正直玄斗から見ても高いものだと思うのだが、如何せん逢緒の身近に居るのは学年四位と学年首席である。学力の高さは平均して高い男どもだった。なお三人とも提出物をきちんと出す割合は低い。玄斗は天然で、のこりふたりはおもに面倒くさがってだった。

 

「こんちゃーす。お兄、かわいい妹が会いに来たよー」

「っ」

「あ、真墨」

 

 玄斗が反応するよりも先に逢緒が動いていた。がばっと机の下に隠れてさらにまた椅子の下へ潜り込む。完璧なまでにスムーズなスニーキング技術だった。スムーズすぎてむしろ真墨に目を付けられている。

 

「童貞インポ先輩今日も元気だね」

「アーウン元気ダヨ十坂妹チャン」

「お兄、お兄。このひとやばいよ」

「分かってるからそっとしておいてあげて」

「十坂ァ!」

 

 ガタガタと椅子を震わせる第七位。女性恐怖症特有の弱さが見えていた。飢郷逢緒十七歳。依然として妹以外の異性に対してはことごとく駄目だった。

 

「ちなみに真墨は成績どうだった?」

「中間?」

「そう」

「え、もちろん一位だけど」

「うわ、なんだこの兄妹……」

 

 十坂家はどんな英才教育施してるんだ、と鷹仁がドン引きしている。実際なんにもしていないのだから何とも言えなかった。玄斗はちょっとしたズルがあって、真墨は単純に頭が良いだけである。入院生活でゲームを除けば勉強ぐらいしかするコトのなかった日常は、いまになって思うとタメになっているとも言えた。

 

「おそろいだねー、お兄。どうする? 今日一緒にお風呂入る?」

「入らないから。背中なら流してあげるから」

「やったー♪」

「…………え? 冗談だよね……?」

「ふんふふーん♪」

「え……? え…………!?」

 

 困惑する玄斗を余所に、真墨は鼻唄を歌いながら適当なパイプ椅子を引っ張り出して腰掛けた。冗談のつもりが本気で受け取られているどころか確定までしている。こんな理不尽があっていいものか。戸惑う彼の肩をポンと優しく叩いたのは、あろうことか女性恐怖症の親友だった。同じ妹を持つ者同士、分かり合える部分があった。

 

「諦メロン、十坂」

「飢郷くん……」

「妹より優れた兄などいねえ。さすおになんて所詮はラノベのなかだけなんだよ……!」

「くっ……!」

「どうでもいいけどよ、部外者が勝手に立ち入ってるのは良いのか会長」

「まあ真墨だし……」

 

 あ、十分こいつもシスコンだ。そう鷹仁が認識した瞬間だった。おそらくは押しに押されて帰宅後は背中を流すハメになるであろう友人に彼は黙祷した。ワンチャンその隙を突いて押し倒されそうな可能性にもっと祈りを捧げた。どうか幸せであるように、との願いを込めて。

 

「失礼します。……む」

「お」

「あ」

「うん?」

 

 と、次にがらりと扉を開けて入ってきたのは紫髪の少女だった。鷹仁にとってはよく見覚えのある。玄斗にとっては何度か見かけた程度の。逢緒にとってはほぼほぼ初対面に近い関係になる生徒会会計担当。

 

「紫水さん」

「……ずいぶんと賑やかですね、会長」

「まあ、すこしね……」

「(……相変わらずかたい女だコト……)」

 

 はあ、と隠しもせず鷹仁はため息をついた。こういう場のノリや空気を読むということに関して、彼の知る生徒会――つまり赤音主導によるメンバー全員――では得手不得手もないほどに絶望的だった。真面目できっちりとした会計。物静かで優雅に紅茶をたしなむ庶務。毎日仕事に追われ続けの愛想が悪い書記。そしてこうと決めたら突っ走る暴走機関車もかくやな生徒会長である。そのうちのひとりが目の前の少女だ。自然、嫌でもその空気を思い出す。

 

「そういえば紫水さんは、今回の成績どうだった?」

「…………二位です」

「へえ」

 

 凄いね、なんて玄斗は素直に称賛した。自分の順位なんて気にした様子もなく。なにせ十坂玄斗は明透零無の分がある。その量だけズルをしているも同然だ。なので、一位だとしても威張れるようなものでもない。そう思ってのコトである。

 

「会長は、一位でしたね」

「あー、うん。そうだね。まあ、良かったには良かった。いちおう学生なんだし、成績ぐらいは気にしないとね」

「…………そう、ですか」

 

 スタスタと横を通り抜けて、紫水六花は机に鞄を置きながら椅子を引いた。アメジストのように輝く髪がふわりと揺れて顔を隠している。だから誰も気付かない。玄斗も、鷹仁も、逢緒も、ましてや真墨でさえそれは見えていない。ほんのすこし、つよく、少女が握ったちいさな拳を。――誰も、見るコトはなかったのだ。





これ何章までやるんだろうって気が遠くなる。七章でやめとくべきだったねクォレワ……

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