Fate/Apocrypha 英雄カルナの妻   作:星空 柚木

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第十一話

ガクリとバーサーカーが崩れ落ちる。

その様子をモードレッドは見つめて黙って_いや、魔力が足りなくて声は出なかった。

 

我が麗しき父への叛逆_それはモードレッドの持つかの王への憎悪、情景、恐怖全てが詰まったもの。

ジークフリートはこれを己の宝具で相殺していたが_それはかのアーサー王と同等程の者でなければ不可能であった。

バーサーカーにそれ程の力量は、無い。

彼女はどこにでも居る女で_ただ1度振り返る事もせずに走り抜けた狂愛に満ちた者であるだけだ。

かのアーサー王に並ぶ程の才能も武芸も持ち得てはいない。

彼女は騎士然として立ち向かってくるモードレッドが相手ではどんな状況であろうと押し負ける。

バーサーカー本人が正々堂々とした戦い方をした事が無いこともあったのだ。

 

「__…これで、止めだ」

 

モードレッドの剣がバーサーカーの首に触れる。

その剣がバーサーカーの首を撥ねる前に高魔力の爆発によって視界が白ずんだ。

 

「おお…!おお…!圧政者を叛逆せん…!!

 

疵獣の咆吼(クライング・ウォーモンガー)!」

 

バーサーカーとモードレッドの宝具発動が起爆剤となったのだ。

スパルタクスが貯め込んだ魔力全てが塵も残さぬ勢いで破裂した。

彼の肉も、記憶も、力も、全てを焼き尽くす勢いで破裂した魔力の塊は戦場に残る魔力の残的を撫でさすり、彼の肉体と同様に塵と変えた。

それは彼に剣が届く位置にいたモードレッド、バーサーカーを1番に破壊した。

 

「___…ハッ…くそ、野郎が…」

 

血のにじむ様な声が出たが痛みは既に無かった。

ただモードレッドは目を閉じる。

剣が霊子となって溶けていく。

体の感覚が消えていく_嫌、既に消えているのかもしれない。

ただ彼女はサーヴァントとして体の大半が吹き飛んでも回る思考を持って笑った。

 

ああ、殺し損ねたな。

 

 

「_バーサーカー!!」

 

地面には花1輪も残っていない。

ルーラー_ジャンヌ・ダルクの宝具により護られ被害を受けていない逃げ延びたホムンクルス_ジークとアストルフォは何もかもなくなった戦場の中1つの影に駆け寄った。

サーヴァントとしてのスペックを駆使して駆けたアストルフォが地面に横たわり酷い傷を負ったバーサーカーを揺する。

サーヴァントは死んだ時遺体は残らない。

既に真の肉体を滅ぼした彼らは死ぬ時霊子となって解けていくのだ。

だがバーサーカーの肉体は霊子と解けずに残っている。

首を半ば撥ねられて、体は余す所なく呪いを受け、皮膚は爆発に耐えられずに爛れている。

けれど、生きているのだ。

 

「…ライダー、か」

「…!生きてた!良かった!奇跡が起きたんだ!」

「その傷では危険です。休息を取りなさい、バーサーカー。今回の大戦も一時的に終わりのはず___きゃあ?!」

 

バーサーカーが言葉を返すよりも早く地面に大きな振動が走る。

振動の大元はユグドミレニア城。

城を守る城壁がスパルタクスに破られた今、城の奥に保管された聖杯を赤の陣営が持ち出そうとしているのだ。

空中城塞に吸い上げられる聖杯を取り返すため黒の陣営のサーヴァントが後を追っている。

その様子を見たジャンヌ・ダルクはバーサーカーに合わせて屈んでいた姿勢を持ち上げた。

 

「…私は、あの城塞に行かねばなりません。ジーク君、貴方は安全な所に避難を」

「待て、ルーラー。私も行こう」

「な、何言ってるのさバーサーカー!今の君はいつ消えるか分からないんだぞ!」

「いや___治るさ」

 

そう言って上体を起こしたバーサーカーを咎めるようにアストルフォが言う。

だがバーサーカーの傷付いた体は金色の光を纏い、その怪我を塞いで行く。

日輪よ、慈しめ(カヴァーチャ・デイヤール)の常時発動により傷を塞いでいるのだ。

 

「それに、私が生きているのは奇跡じゃない。戦闘続行スキル…それが発動しただけだ」

 

だから、戦える。

そう締め括ったバーサーカーにアストルフォは目を見開いた。

彼女が生きている限り傷を癒してくれる宝具を所持して、挙句戦場で即死を防ぐ戦闘続行スキル持ちならば彼女はなんて生きる事に特化したサーヴァントなのだろうか。

それも戦場においての生き汚さに類する生存特化だ。

体を持ち上げるバーサーカーの体は既に大体の傷を塞ぎ、彼女の身体から血が流れ落ちる様子はない。

 

「_行こう。ルーラー」

 

 

「…行っちゃった」

「貴方は良かったのか、ライダー」

「僕は君を置いていく訳に行かないからね。それに聞きたいことも沢山あるし」

 

じとりとジークを睨むアストルフォにジークは少しもたじろぐ事無く「ああ」と返事を返した。

反省の様子のないその言葉にアストルフォは「もー!」と怒ったふりをして見せたが、ジークが無事であった事に安心していた。

だが、アストルフォはマスターの命令を無視し過ぎていた。

 

「令呪をもって命ずる。そのホムンクルスを___

 

殺しなさい」

 

アストルフォのマスター_セレニケはそれを許す事は出来なかった。

 

 

 

「きゃぁぁああ!?」

「ルーラー、静かにしてくれ」

「き、聞いてませんよバーサーカー!下ろして!おーろーしーてー!」

「我慢してくれ。こっちの方が早い」

 

空中城塞に向かうバーサーカーとルーラー。

バーサーカーがルーラーを抱えて魔力放出を駆使して空中を駆け昇っている。

 

「まさか私達が向かおうとした時に限って空中城塞の吸い上げが終わるなんて…!」

「余程警戒されているな、ルーラー。ほら、しっかり掴まれ。加速するぞ」

「待ってください!もう着いているでしょう?!突撃でもする気ですか!」

「そうでもしないと、入れないだろッ!」

 

ドンと激しい土埃と煙をあげて城の1部を破壊する。

パラパラと降り注いで来る壁であったものを頭を振って振り払い立ち上がる。

 

「ほら、着いたぞルーラー」

「なんて、なんて無茶を…!」

 

白い肌を青くさせその身を震わせるジャンヌ・ダルクから視線を外しバーサーカーは耳を澄ます。

 

「この廊下の先で戦闘があるようだ」

「通り道です。行きましょう」

 

その言葉を切っ掛けにバーサーカーとジャンヌは走り出す。

だがその廊下の先で戦うもの_それらを目にした時バーサーカーは足を止めた。

 

「なんて邪悪な魔力…!」

「_ランサー…?」

 

それは黒のランサー_ウラド3世であったもの。

体は血管を浮き立たせ体格を膨らませ、錯乱した目はどこに向いているのか分からない。

涎を溢れさせる開きっぱなしの口からは大きな牙が覗いていた。

ジャンヌ・ダルクは瞬時にそれがウラド3世であり、"人間と融合したもの"であると理解した。

ホムンクルスに噛み付いて、彼らの血を啜り同類にする。

伝承通りの吸血鬼のような行動にルーラーとして令呪を使用する事を考える。

だが彼女が令呪を使用するより先にウラド三世は足向きを彼女らの方へと向けて駆けてきた。

 

「___おぉ、オ"ォ"!_バーサーカァアア!!」

「_?!」

 

ジャンヌ・ダルクの横を通り抜けて、一直線にバーサーカーの元へ。

状況の理解が追いついていないバーサーカーは驚いた表情を浮かべながらもトリャンバカを剣として呼び起こす。

素手でその剣と競り合うウラド三世にバーサーカーは狙われる理由に心当たりがあるようでないような、有り体に言えば困惑していた。

ウラド三世の長い手が剣の競り合いが出来るほどの距離にあるバーサーカーの頬を切り裂く。

バーサーカーは顔を伏せて目元への傷を防ぐも自身の知るウラド三世のステータスよりも大幅に強化された目の前の化け物に押されていた。

 

「避けなさい、バーサーカー!」

 

その言葉にバーサーカーは腰を低く斬り込む。

彼女の剣がウラド三世の胸元に深く突き刺さると同時にウラド三世の頭部を矢が貫通した。

 

「なん、だコレは…?」

「ランサーのマスターが令呪と魔術を用いてランサーと融合しました。現在ランサーは第3宝具を使用した状態で暴走しています」

「そんな___」

「ウ"ゥ…ァァァア"!」

 

ケイローンの言葉にバーサーカーが返事を返すより早く心臓を貫かれたウラド三世であったものがバーサーカーへと手を伸ばす。

鋭い爪がバーサーカーの眼球目掛けて伸びていき、彼女はそれに咄嗟の判断が下せずに迫り来る爪を見た。

 

「___何故味方を狙う」

 

その爪がバーサーカーの眼球を、皮膚を抉ることはなく、間に黄金の鎧を纏った男が入った。

例え第3宝具を展開したウラド三世でアレ黄金の鎧は貫けられない。

鍔迫り合いの音を聞きやっと状況を呑み込めたバーサーカーはウラド三世の胸に突き刺さった剣を引き抜いた。

 

「カルナ!」

 

ウラド三世の2撃目がカルナに当たる前に剣をバットの容量で振りかぶりうち飛ばす。

一瞬であったが狂化の抑えが解除されたバーサーカーによる無茶苦茶な神造兵気の使い方に庇われたと理解したカルナは小さく笑った。

 

「バーサーガァァア"ア"…!!」

「私に用がある様だが、悪いが何に怒ってるのか理解出来ん!ハッキリ言葉にしてみては如何か!」

「ゥウアアア"!!」

「配下の者が問うてくるなら応えてやるのが上に立つ者でないのか」

 

バーサーカーと恨みがましく唸るだけのウラド三世は問いかけに応えること無くバーサーカーへと向かって来る。

それを再び槍で抑え込んだカルナを一瞥した後バーサーカーは抑え込まれているウラド三世を睨み付けた。

 

「穿て___"穿て、矢よ"!」

 

トリャンバカを弓に変えて放たれた矢はカルナが寸前の間合いで躱しウラド3世であったものに突き刺さる。

核を確かに砕いた手応えがあったが、次の瞬間その矢は雑に取り除かれてウラド3世であったものは消滅することなくそこに居た。

 

「キリが無いな」

「ああ。今のアレはサーヴァントでは無く伝承に聞くドラキュラ伯爵そのものなのだろう」

「であれば、こちらの言葉も届くまい」

「その様だ。___行くぞ」

 

言葉少なに交わされた会話を切り上げてカルナがウラド3世に突破をかける。

その背後でバーサーカーが弓を引き絞った。

 

「オ"ォ"…オ"ォ"ォ…!」

 

それでもヴラド3世の矛先は変わらずにバーサーカーに向いている。

不死身と謳われるドラキュラ伯爵には決め手となる攻撃は中々与えられない。

幾度となく隙をついてバーサーカーの元へと駆けようとするウラド3世を隙を与えない剣戟でカルナは押さえ込んでいた。

知名度補正を受けていたヴラド三世の暴走と渡り合えるだけの実力は確かにカルナに備わっている。

その体を傷つける事が難しい事もバーサーカーは分かっていた。

けれど彼女はカルナに任せきりという事が出来るほど落ち着いた人間ではなかった。

 

「カルナ!」

「!…待て、」

「頼む!」

「……了解した」

 

バーサーカーの懇願にカルナは眉を寄せながらも頷きを返す。

一瞬、カルナの剣戟に隙が生まれる。

認識出来ても体を動かすには追い付かない程の小さな隙であったが、明確な化け物となっているヴラド三世はその隙を潜り抜けることが出来た。

 

「オ"ォ"ッ!!」

「_ッ"!」

 

ドン!と大きな音を立ててバーサーカーの身体がヴラド三世により壁に沈む。

カフリと吐き出されたバーサーカーの血液にヴラド三世はしてやったりと笑う。

だが次の瞬間ヴラド三世の腕に矢が落ちる。

今度は唾を吐く様に血を吐き出したバーサーカーがしてやったりと口にした。

先程もモードレッド相手にそれなりの打撃を与えられた技だ。

ギュゥと魔力の反応する音にバーサーカーは口角を上げて怒鳴る。

 

「その一撃は!破壊の一手となる!」

 

 

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