Fate/Apocrypha 英雄カルナの妻 作:星空 柚木
バーサーカーによりがらりと音を立てて瓦礫を退かされた。
門を塞いでいた瓦礫を退かせば門の外で待機していた戦闘型ホムンクルス達が入って来た。
「ありがとう、バーサーカー」
「構わん。次は」
「被害の確認をしたい」
「了解した」
跳躍して見張り塔の上に登る。
辺りを見回してホムンクルスの数や強度が不安な城の部分を目確認していく。
背後に気配を感じて振り向けば城内にて彼のマスターとゴルドに戦況報告をしているアーチャー_ケイローンと目が合った。
そのアイコンタクトを受けたバーサーカーが塔下にいるカウレスに呼びかける。
「アーチャーからの呼び出しを受けた」
「そうか、ならそっちに行ってくれ!戦況の確認は……」
「俺がやろう」
「ああ、頼んだ。セイバー」
先のバーサーカーの様に塔の上に登ったジークフリートに確認を任せてバーサーカーは城内へと向かった。
広々とした部屋にこじんまりとした椅子と机だけが置かれそこにフィオレとゴルドが座っている。
バーサーカーを呼び出したケイローンはその2人の前に立ち入室したバーサーカーに横に来るように促した。
「__キャスターの事か」
「はい。彼の宝具について話していました」
ゴルドは少しだけ顔が青い。
ケイローンから既にロシェでなければゴルドがゴーレムの炉心になると言われたのだろう。
「悪いが私は召喚されて直ぐに牢に入れられたからな。炉心について既に話したと言うなら私から説明出来ることなど無いぞ」
「そうですか。ではもう一つ」
ケイローンは何も言わなかったがバーサーカーはその口振りからケイローンが聞きたいのはこれからの質問の方なのだと察した。
ケイローンもその様子に頷きを1つ返して口を開く。
「貴方がダーニックに執着された事についてです」
ケイローンは静かに凪いだ目をしている。
あくまで確認事項の様な認識なのだろうとバーサーカーは納得した。
「私が生前カルナに向けた愛情は奉仕のそれだと言われている」
「その様ですね」
「愛したものが不当な扱いを受けそれに怒った_ただそれだけの簡潔な行いであったが度を越していたらしく、他人からの感情に飢えたものや不慣れなものはそれを持つ私に酷く焦がれるらしい」
なるほど、とフィオレは口の中で呟いた。
彼女の目から見てもユグドミレニア当主であったダーニックはバーサーカーに対して他と違う対応をしていた。
それが彼女の持つ純愛に当てられてそれに焦がれた反応であったのだと理解したのだ。
ダーニックは言わば1人であった。
何十年前から魔術において肉体を拾い、捨て生き長らえた。
それは決して簡単な事でなくそれが出来るダーニックは優秀であった。
だがそんな優秀な彼の隣を歩けるものは居なかったのだ。
人から向けられる感情を全て壁一枚隔てて眺めていたダーニックはそのバーサーカーの特性によりバーサーカーの愛情に焦がれたのだ。
それは壁一枚隔てていたからこそとも言えたのかもしれない。
確かに自分に向けられた情ではなかったが、バーサーカーの情は他人からでも分かる程のものだ。
それに当てられたのだろう。
それはダーニックが魔術師然としたが為に起こった反応と言えた。
「悪いな。これだけが要因な訳では無いだろうが、少なくともアイツを殺した要因の一つなのは確かだ。ユグドミレニアの崩壊を引き起こした一因は間違いなく私にある」
ゴルドが顎を外れるほどに大きく口を開いて愕然としている。
一般的な感覚を持っていればなんてことの無い特性が一族の崩壊を引き起こしたというのだからなんて相性の悪さなのだろうか。
フィオレは小さく息を吸う。
バーサーカーから感じる魔力は召喚した時から変わらずに真っ直ぐ清廉としていた。
「構いません。この一族は廃らせませんから」
バーサーカーの目は澄んでいて深い。
召喚時は弟であるカウレスがバーサーカーの様な大英雄を召喚した事に驚き、まるで御しきれていない様にバーサーカーが召喚された理由はマスターとの波長の相性ではなく生前の縁者_カルナとの縁からだと思っていた。
けれど今この様に真っ直ぐに目を見つめたバーサーカーは確かにそこに弟と同じ光があるように感じたのだ。
弟は確かに魔術師としての適性は自身よりも低い。
だが決して弱い訳ではないのだ。
「……感謝する。私も最期まで応えよう」
仏頂面で感謝の礼を述べたバーサーカーにフィオレは笑みを浮かべる。
そして話を再開しようと口を開いた所で口を噤んだ。
「これは__!」
「マスター!キャスターの魔力反応が近付いています。同時に大きな魔力反応_彼の宝具でしょう」
「迎撃します!アーチャー!見張り塔へ移動を!」
「バーサーカーは_、」
「悪いが先に行くぞ」
フィオレがバーサーカーに指示を出す前にバーサーカーははめ殺し窓を蹴り割り外に飛び出していた。
外に出てすぐ驚いた事は自分達の拠点である城の目前まで迫った巨人の存在であった。
歩けばそこに草木が生えて行く。
豊潤な魔力、バーサーカーに馴染みの深い神代の空気に近い物だ。
(キャスターは__あそこか)
巨人の肩の上から城を見下ろす1機の魔力。
そうなれば目の前にいるこの巨人はあのサーヴァントの宝具であり_彼のマスターであったものなのだろう。
巨人の1歩は大きい。
バーサーカーが体制を整える前に城にたどり着いた巨人は城の門を蹴り破りホムンクルス達を取り込む。
カウレスもその被害を喰らわんとした時、そばに居たジークフリートがカウレスを抱えて巨人から距離を取った。
「バーサーカー!」
「ルーラーか!何だ!」
屋根の上から弓を引き絞る。
バーサーカーはアーチャーとして召喚された訳では無い。
だからこそアタランテやケイローンの様に瞬時に沢山の弓を撃つことは不可能だ。
だからこそ一撃一撃にバーサーカーは魔力を詰め込む。
「この巨人は人の在り方を変えるモノ…私の、敵です!」
「そうか。悪いが人類よりも内の問題の方が大きくてな。好きにしろ」
「好きにしろって、貴方…!」
ジャンヌがまだ言うことがあると口を開く。
それに沈黙を押し通してバーサーカーは弓の狙いをキャスターから巨人の頭へと変えた。
「その一撃は、破壊の一手と__!」
ヒュン、と音を立てて放たれた矢が巨人の咆哮に勢いを失う事無く首を飛ばす。
大地から飛ばされた首を補う為に吸い上げられる魔力がバーサーカーの弓に反応を起こして爆発が始まる__はずであった。
チッと舌打ちを零して巨人からの攻撃を避ける。
「原初の巨人…存在するだけで周囲をエデンへと変貌させる存在か」
《自立した固有結界?!ヤダヤダなんでそんな面倒なんだよォ!》
「やるしかないだろう、ライダー。ルーラー!トリャンバカでは無理だ。こいつ、傷を"無かった事にする"ぞ」
「楽園で血を流す者は居ない…そういう事ですか…!」
「なんとしてもエデンの完成前に倒さねばならんぞ。そうでなければ手に負えなくなる!」
回生の神であったシヴァ神は破壊の神であった。
故に破壊すら無かった事にされてしまえば、トリャンバカの特性である"破壊された更地に芽生える回生"は起こらないのだ。
こうなってしまえば例えシヴァ神の力と言えど無力に等しい。
空中において身動きの取れないバーサーカーに巨人の腕が振り下ろされる。
弓を剣に変えその巨人の腕へと乗ったバーサーカーは腕を駆け上がりその肩の上に居るアヴィケブロンへと剣を振り下ろす。
ガキン、と音を立てて赤紫の防壁に斬撃が拒まれた。
「僕を殺してもケテルマルクトは止まらないよ」
「百も承知だ」
「では何故僕を狙う?」
ギギとバーサーカーは腕に力を込める。
1度距離を取り突きの構えでその防壁を穿いた。
「決まっている。裏切り者は速やかに処置をした方がいい」
見張り塔の上から真っ直ぐに弓を放ったのはケイローンだ。
3本の矢に防壁を貼るも掻い潜るようにその防壁の隙間を一矢通り抜けてアヴィケブロンに突き刺さる。
「非合理的だな。君が怒りの感情で動くとは思わなかった」
「無駄口を!」
「ぐっ!__残念だったな2人とも…!僕の役割は既に終わっている。この宝具を起動した今、心残りは何も無い!」
アヴィケブロンの言葉にケイローンがグッと眉間にシワを寄せてもう一矢を放つ。
その矢はアヴィケブロンの仮面を貫通して額に深く突き刺さった。
呻き声と共にできた隙にバーサーカーは足払いを掛けてその首を剣で跳ねる。
ふわりと霊子となり空に溶けるはずのアヴィケブロンは神に懺悔するかのように言った。
「頼んだぞケテルマルクト…お前ならこの大地に必ず、必ずや楽園を創造できる__!」
「うっ」
アヴィケブロンの霊子が巨人の中へと吸い込まれる。
それに引きづられるようにグンと重くなった体にバーサーカーは呻き声を零した。
右足が巨人へと呑まれている。
迷うこと無く右足を剣で切り落とし巨人の肩から飛び降りる。
切断した足では上手く歩く事すら不可能だ。
剣を槍に変えて杖としてカウレスの傍まで下がれば入れ替わるようにジークフリートが戦線へと飛び出していった。
「バーサーカー!その足…!」
「やむを得ん。今あの巨人に張り合えるのはサーヴァントだけだ。脱落する訳にはいかんだろう」
カウレスの傍__マスターである彼との身体接触は魔力の巡りを良くする。
カウレスも魔力を吸われている事を理解した様で小さく顔を歪めている。
足1つ瞬時に回復させるにはカウレスが意識を手放してしまうような苦痛が必要だった。
「バーサーカー、この巨人は世界を無差別に変化させ、現実を変容させる存在!聖杯大戦の枠を超えるもの…即ち、私の敵です!」
「悪いが、私は未来の人類には欠片も興味が無い。あるのは夫_カルナの安寧だけだと思え」
「っですが!」
「分かっている。我が陣営の不始末だ。手を尽くす」
「貴方はもっと言葉を分かりやすくして下さい!」
なんですか!内の問題って、結局協力して頂けるんですね?!
そう憤慨しながら旗を本来と違った鈍器のように扱ったルーラーが言う。
その言葉にバーサーカーは頷きを返して立ち上がる。
ふわりと金糸がバーサーカーの体を這うように浮かび上がった。
不安定な右足を補強する様に巻き付いた金糸の温かさにバーサーカーは目を細めた。
「マスター、安全な場所まで下がって欲しい」
「…分かった」
髪飾りの効果もありすくっと立ち上がったバーサーカーは弓を出し巨人の核を見つめる。
「少しずつ動きが早くなっている…完成に近づいてっているのか!」
「だろうな。そして、完成してしまえば1つの世界となるだろう」
その時は私の宝具で対応するしかあるまい。
そう呟いたバーサーカーをカウレスは物言いたげに見つめて何か言おうとしたが振り下ろされる巨人の腕に溢れる言葉は悲鳴となった。
ギィン、と音を立ててジークフリートがその腕を抑える。
動きが早くなり、そして力も増している。
巨人の後ろには神性の濃い草木が次々と生えて行く。
「セイバー!バーサーカー!一撃で仕留めるため、宝具の解放をお願いしたい!」
「策か、了解した」
「俺も構わない」
「バーサーカー、貴方は頭蓋を狙ってください!セイバー、貴方は心臓を。足の裏が大地から離れた所を狙って下さい」
「外した場合はどうなる」
「外せば、あのゴーレムは完成し不死身となる」
「そうか。失敗したら完全復活…なるほど出し惜しみはできんな」
「タイミングは任せたぞ、アーチャー!」
体外から魔力を多く吸い上げる。
魔力の流れに髪が煽られ力が満ちる。
アーチャーが見張り塔から降りて巨人を見据えた。
「____今です!」
真っ直ぐ、高く上へと跳躍する。
空中のおいて弓を引き絞り頭部の一角を吹き飛ばす。
視界の悪くなった巨人の体に飛び乗ろうとして_しかし巨人の再生の方が早く行われ弾かれる。
「っく!」
ジークフリートが巨人の指を切り落とす。
ジャンヌが足を抉ったが、それも直ぐに再生される。
「すごい…。だが巨人の動きが、再生も早い…!」
「攻撃が再生に間に合わない…!完成が近いんだ!」
「正にキャスターの言う救いの形なんだろうな。____だが、」
巨人の間合いより少し外れた所で構えを取る。
弓を剣へと変えて息を吸う。
空には一体の幻獣が浮かんでいた。
「キャスター…貴方の巨人は確かに受難の民を救い、エデンに導くことが出来ただろう。しかし叡智を手に入れた貴方ですら知らぬ事が一つだけあったな」
ケイローンが弓を引き絞る。
魔力が込められて行く。
ジークフリートの辺りにも魔力が渦巻く。
同時刻近距離において三柱の魔力の渦が巻き起こる。
「あの英雄は、__神など恐れない」
幻獣が下降を始める。
その羽をしならせ、甲高い鳴き声を1つ零してその体は巨人の体に突撃する。
戦時であると言うのに不遜に、そして軽快に笑を零す彼がその手に持つ槍を振り上げた。
例えそれが化け物でも、人でも、__神でも。
彼は恐れない。
何故ならその様に怯える理性は彼の中から"蒸発"しているからだ。
「
その槍は触れたモノの膝下を強制的に霊体化させる事が出来る。
そしてそれは肉体の損傷ではない。
故にエデンがいくら完成に近かろうとてこの霊体化を"無かったこと"にする事は不可能なのだ。
「任せたよ、3人とも!」
「ああ、任された!」
「行くぞ、セイバー!」
空に星が輝く。
射手座が弓を構え、蠍座のアンタレスを狙うのだ。
魔剣は光を放ち、神の力は炎を纏う。
神代の力を込めた宝具が一度に三つ、稼働した。
「俺は…例え傷ついても、俺の願いを掴み取ってみせる…!」
ジークフリートが決意を示すように声を出す。
地面をえぐれるほど強く踏み締めて巨人の頭部を目の前に胸の内を叫ぶようにバーサーカーは声を上げた。
「願いは悪ではない!その全て、願う事は決して愚かではない!」
三柱の魔力が1箇所に集う。
炎を纏う剣を大きく振りかぶる。
「
「
その手から放たれた剣は真っ直ぐ巨人の頭部へと突き刺さる。
激しく燃える炎を気にせず突き刺さった剣の柄を深く突き刺すように踏み付ける。
その体の内側から炎が突き破るように巨人を穿つ。
「_
「_
その炎はバーサーカーを焦がすものでは無い。
人でありながらその生前神秘を宿す炎を最も身近で感じたバーサーカーに、その炎が襲いかかることは無かった。
破裂する様に内の熱量に突き破られたその肉がバーサーカーやジークフリートを汚す前に霊体化して消えて行く。
エデンと化していた大地に根付く花が萎れ霊子となって消えて行く。
その様を地に足つけたバーサーカーが振り返り目を細めて眺めた。
日光が東から差し込んで消え行く花を、バーサーカーの頬を照らした。
「故に…結末はどうであれ、お前の願いも愚かなんて事は無いんだ。キャスター」
消え行く霊子へと言葉を零す。
生前その身を持ってただ1人の願いを祈った女は此処に人間の欲へと慈愛を伝えるのだ。