Fate/Apocrypha 英雄カルナの妻   作:星空 柚木

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第十六話

「ふぅー、ったく2日前だってのに遠い昔の事みたいだぜ」

「戦争とはそういう物だ。あっという間に過ぎ去り、全てを奪う」

「俺のセイバーみたいにか?」

「お前とてその覚悟はあっただろう。サーヴァントの相手はサーヴァント…今お前が生きてる事こそ珍しい」

「ま、アンタは俺が思った以上に理性的らしいからな」

 

じとりと横目で獅子劫を見れば獅子劫は軽快にすまんと言った。

 

「犠牲は最低限であるべきだ」

「バーサーカーにしては珍しいくらいに理性的だな、アンタは」

「何を言う。英霊となっている時点で何百人も殺した」

「最低限の犠牲で、何百人か」

「私の夢は叶える為に何万人も不幸にするものだ」

「英霊カルナを助く為に何万人か…」

 

バーサーカーは黙って頷いた。

獅子劫は昼間でありながらガランとした公園を見渡した。

 

「お前さんはなぜそこまでやったんだ?」

 

視界端の噴水からバーサーカーの顔へと視線を移す。

その目は理性の無い虚ろな目でありながらも深く澄んでいる。

バーサーカーは獅子劫からの問い掛けに1寸の間を置くことも無く滔々と答える。

 

「愛しているからだ」

 

その目はあまりにも慈愛の込められた目だ。

母が子の無事を願うような、女が好いた男を見つめる様な目で淀みなく口にしたその言葉に獅子劫はいつしか詰めていた息を吐き出して口に笑みを浮かべた。

 

「難儀だな、愛ってのは」

「ああ、その通りだ。ただ1人を愛す為に何万もの愛を壊した。愛とは狂気であり、何よりも無情だ。私はカルナを助く為にカルナの大切にしていたものを壊してしまった」

 

お前も気を付けるといい。

そう言ったバーサーカーに獅子劫はタバコの煙を吐き出した。

 

「俺が誰かを愛する事はもう無いからな」

「なるほど、以前はあったのか」

「お前さんズカズカ聞きに来るなぁ」

 

けたけたと笑った獅子劫はされど直ぐに笑みを潜めて目を閉じる。

誰かを想うその様子をバーサーカーは一瞥して前を向く。

 

「俺が聖杯にかける望みは俺の魔術回路に掛かっている呪いを解くためだった」

「呪い?」

「ああ。衰退していた獅子劫家は悪魔との契約により復興した。よくある話だな。そしてその対価としてこの魔術回路には呪いがある。俺以外に移植すると途端に毒を発生させる呪いがな」

「…なるほど。養子か息子かを喪ったのか」

「ああ。養子を一人な」

 

サングラス腰に瞳が何を浮かべているのかはバーサーカーには分からず、知ろうともしなかった。

ただ黙りこくった獅子劫にバーサーカーは変わらず滔々と言う。

 

「愛していたのだな」

 

獅子劫は言葉を返さなかった。

ただその口端を引き上げて笑うのだ。

なんだ、とバーサーカーは息を着いた。

獅子劫界離は魔術回路の呪いよりもその養子の事しか願っていなかったのだから。

話す事はもうないとベンチから腰を上げる。

そこそこに時間は潰せたようで今戻っても怒られる事は無いだろう。

何も言わずに公園の出口へと向かうバーサーカーの背に獅子劫は口を開いた。

 

「彼の王をお前はどう思った」

 

ピタリと足を止める。

しかし振り返る事はせずにバーサーカーは応える。

 

「王ではない。あれ程の忠誠心を持つ者を王にするにはあまりに惜しい」

 

その言葉に獅子劫は喉を鳴らして笑った。

獅子劫がこれを聞くためにバーサーカーに話し掛けたのだとバーサーカーは理解した。

このまま出て行くつもりであったがバーサーカーは振り向いて獅子劫の顔を真っ直ぐと見つめた。

 

「獅子劫界離、何故赤のセイバーに応えた」

 

あの時何故令呪を撤退に使わずに赤のセイバーの自滅を覚悟した宝具を許可した。

そう問えば獅子劫はタバコを地面に落として靴で火を消した。

 

「アイツの為じゃない。俺の為だ。俺が彼の王の民草として彼の王に全てを託したんだ。マスターとしてよりも、自身の願望を優先した。救えねぇが、自分の為だ」

 

良き王を目指したモードレッドを使い魔としてでなく王として見た獅子劫にバーサーカーは息を吐いた。

 

「後悔はないか」

「ああ、悔いは無い」

 

その言葉にバーサーカーは馬鹿なことを聞いたなと口の中で呟いた。

それ程までに獅子劫界離の目は真っ直ぐバーサーカーを見詰めていた。

 

「お前達は似ているな」

「愚かだってか?」

「いいや。__……大儀であった」

 

ぐっ、と獅子劫が息を飲んだ。

自身の味方を殺した敵に褒められて、けれど確かにその言葉に獅子劫は救われたのだ。

バーサーカーが今度こそ公園の出口を目指して足を踏み出した。

獅子劫はその背に向かって発破をかけた。

 

「__セイバーの分まで、荒らして来い」

 

その言葉にバーサーカーは今度こそ止まることは無く、増して手を振る事もなく公園を後にした。

獅子劫界離、脱落した赤のセイバーのマスター。

彼はこの大戦を最後まで見届けるだろう。

 

 

「マスター、赤のアーチャーは引いたぞ」

《そうか。バーサーカーも戻って来てくれ。アサシンの消滅も確認したしな》

「了解した」

 

夜が明ける最中赤のアーチャーがジャンヌへと恨みを、怒りを募らせ空へと消える。

バーサーカーをその様子を眺めて目を閉じた。

 

「では、準備が整い次第特攻を仕掛けるという事でよろしいでしょうか」

「構いませんよ」

 

アサシンの討伐が終わり、残った事はただ赤の陣営との交戦だけとなった。

数日の内に準備が整うだろうと計画を立て出したところバーサーカーが作戦を練っているケイローンへと問掛ける。

 

「だが問題はアサシンの攻撃だ。あれのせいではろくに近付く事も難しい筈だ」

 

ケイローンも同意を示す様に頷きを返す。

 

「その通りです。この中で防御系の宝具を持つ方はいらっしゃいますか?」

「盾か…持ちえんな」

「俺も肉体の頑丈さはあれど盾の宝具はないな」

「僕も〜」

「アサシンからの攻撃をそのままにした時生存率はどれ程だ」

「それは……限りなく、低いかと」

 

そうか、とバーサーカーが呟く。

自然と重々しい雰囲気になり皆が口を噤んだ中アストルフォのどうしようもなく参ったという声が響いた。

 

「あーあ。僕が宝具の名前を覚えてたらなぁ〜」

 

数拍置いて、アストルフォを除いた全員の口から聞き返す言葉が漏れた。

 

 

話し合いも終わりカウレスの後ろをバーサーカーが歩く。

作戦内容を考えながらバーサーカーの先を歩いていたカウレスが足を止めて振り返った。

 

「姉さんと話をしようと思うんだ」

「込み入った話か」

「ああ」

 

真剣な顔をしているカウレスを見てバーサーカーは頷く。

 

「思うがままに動くといい。私はお前のサーヴァントだ。マスターの決断に従おう」

 

カウレスは困った様に、けれど憑き物が落ちたように笑みを浮かべた。

 

 

「魔術刻印の移植?」

「ああ。姉さんの刻印を俺に移して、俺がこれからユグドミレニアの長になるつもりだ」

「そうか」

「魔術師の秘匿とされるべきものだし、バーサーカーは明日城にいてもいいけど地下には入らないで欲しい」

「なるほど。了解した。泣き言を零すなよ」

「分かってるよ」

 

バーサーカーがカウレスに呼び出された先ではカウレスはフィオレと向かい合って話をしていたらしい。

バーサーカーは直ぐにそれが先の言ってたフィオレとの会話だと理解し、カウレスの言葉を問い質すことをせずに頷いた。

 

「そこまでやらなくてもいいですよ?バーサーカーは貴方のサーヴァントなんですから…」

「気にするなアーチャーのマスター。弟ではなく魔術師の発言だ。であれば、マスターに従うのがサーヴァントの役割だ」

 

無様を晒すなよと言えばカウレスは苦笑を零し努力すると言った。

 

「けれど意外ですね。サーヴァントと良好な関係を築こうとする貴方ならバーサーカーにも隠し事はしないと思っていたのですが」

 

ケイローンが心底意外に思い口にする。

バーサーカーもカウレスも特に気分を悪くする様子もなくケイローンへと視線を移した。

カウレスは言われた言葉に苦笑を浮かべる。

 

「バーサーカーが居たら俺が甘えてしまうかもしれないだろ」

 

その言葉に首を傾げたのはバーサーカーだ。

こてりと首を倒してカウレスを見つめる。

 

「私はお前を甘やかしたつもりなどないが」

「ああ、厳しくされてるよ」

「?…変わったことを言うな、マスターは」

 

益々意味が分からないとバーサーカーは眉を寄せる。

対してカウレスは穏やかにそうか?と聞き返した。

その様子を眺めていたケイローンとフィオレは互いに顔を見合わせた後にクスリと吹き出した。

 

「貴方達は相性が良いのですね」

「そうか?」

「そう見えるか?」

「はい、とっても」

 

決して不愉快では無かったが話の飛躍にバーサーカーは顔を顰めてフィオレ達の言いたいことを理解したカウレスは擽ったそうに笑った。

 

 

次の日の夜カウレスが自室に戻れば一目散にとベットの上へ向かった。

霊体化していたバーサーカーがベットの横に姿を現しベットに腰かけてもカウレスは額に汗を滲ませてバーサーカーに返事もしなかった。

手を伸ばして脂汗の滲む額に張り付いた髪を払う。

クシャクシャに顰められた目が薄く開いてバーサーカーを見た事に気付けばバーサーカーは仏頂面のまま口を開く。

 

「痛むか」

「すごく、な」

「そうか」

 

カウレスの顔は笑みを作ろうとしたのかそれとも作っていたのが引き攣ったのか、どちらにせよ普通の状態でないことは一目瞭然であった。

テーブルの上に置かれた小瓶をバーサーカーが手にすればカウレスの手は縋るようにその小瓶を追った。

 

「使うか」

「、………いや。やめとくよ」

「そうか。強いな」

「一通りの拷問を耐えた奴がよく言うよ」

 

ぐぅ、と痛みを耐えるように息を詰めたカウレスの目をバーサーカーは覆う。

その手を恐れる事無く受け入れたカウレスにバーサーカーは目を細めて_最もその顔はカウレスには見えなかったが_そして務めて優しい声で_あまり普段と大差はないが_歌を口ずさんだ。

カウレスが驚いた様に気を抜いた様に息を吐き出す。

彼女が口ずさむそれが親が子に歌う子守唄であるとカウレスは気付いていながらも何も言わずに耳をすませた。

聞けばバーサーカーがその歌を止めると思ったからだ。

そしてそう思う程に、カウレスはその歌を聴いていたいと思ったのだ。

 

 

ガランと人のいない整備された空間。

町外れの時間も少し外していた公園とは違って大きく整った施設は空港であった。

秘匿とされる魔術の為貸切として、ゴーレムが自家用ジャンボジェット機に結界と整備をしている。

最終確認だと紙を広げたカウレスにその場の面々は覚悟を決めた顔をした。

この新月の夜に決着をつけるのだ。

 

 

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