Fate/Apocrypha 英雄カルナの妻   作:星空 柚木

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第十七話

「ライダー。宝具の名前は思い出せたか?」

「うん、まかせて!完璧に思い出したよ!」

「では、空中庭園への突入に支障はありませんね」

 

ケイローンがカウレスに確認をとる。

カウレスはその確認を肯定し広げた紙に目線を落とした。

 

「それでは各自分散して空中庭園に乗り込む。アーチャーとルーラー、バーサーカー、ジークフリートは前衛だ。敵のサーヴァントを抑え込んでくれ。」

「了解した」

「俺と姉さんは小型機で後ろをついていく。マスターが脱落する訳にはいかないからな。」

 

バーサーカーがコクリと頷く。

カウレスもバーサーカーと目を合わせて頷いた。

 

「ライダー、お前は作戦のかなめだ。ヒポグリフで側面から回り込んで空中庭園の防御兵装を打ち砕いてくれ」

「まっかせて!新月の僕はひと味違うよ!」

 

ドン、と自身の胸を叩いたアストルフォが自慢気に笑む。

 

「万が一魔力が絶たれたら大事だからな。ジークとライダーは一緒に行動してくれ」

「ああ。了解した」

「それじゃあ各自健闘を祈る。空中庭園でまた会おう」

 

そう締め目括られた作戦会議、バーサーカーは目を細めて机上の紙を見つめていた。

 

 

「ここで一旦お別れですね。アーチャー、どうかご武運を」

「ありがとう、マスター。あなたに勝利を捧げましょう」

 

小型機の横でフィオレとケイローンが言葉を交わす。

この戦争で誰が脱落しても、誰と二度と顔を合わせられなくなったとしても誰もそれを口にはしなかった。

それでもフィオレはケイローンの従者然とした言葉に頬笑みを浮かべて首を振った。

 

「いいえ。私の為ではなくあなた自身の為に戦って下さい。宝具を無条件で解禁します」

 

ケイローンもそれに倣うように頬笑みを浮かべた。

フィオレの差し出された手を取ればその甲に刻まれた令呪の一画が光を放ち掠れていく。

 

「分かりました。使うべきと感じた時は使わせて頂きます」

「悔いのない戦いを」

「はい」

 

ひとえに、この主従は上手く回っていたのだろう。

魔術師でありながら人としてケイローンを扱ったフィオレとそのフィオレの努力を当たり前と切り捨てずに正当に評価したケイローン。

彼等の相性はとても良く見えて、そして実際にとても良いものなのだったのだろう。

 

「カウレス殿も幸運を。それから、マスターのことも…」

「ああ、分かってるよ。頼まれるまでもないさ。……勝てよ、アーチャー」

「はい。カウレス殿はバーサーカーとの話はしなくていいのですか?」

「常日頃から言いたい事は言ってるから今更話す必要は無いってさ」

「彼女らしいですね」

 

けれどカウレスは結果がどうあれそれも今日までだと分かっていた。

カウレスだけでない、ケイローンも、フィオレもここに居る全ての人物がそう思っているのだ。

聖杯大戦が有情な物でないと知っているからだ。

そして例え聖杯大戦をサーヴァントが生き延びたとして並の魔術師では彼等を存続させられるほどの魔力を有していない。

もし自分達が空中庭園に乗り込めず、はたまたもし合流するまでにサーヴァントが消滅したら。

そのどちらも決して低い確率ではない。

だからこそここでの別れが最後になるかもしれない事もカウレスは理解していた。

 

「さぁ、これが最後の戦いです。私達も生き残りましょう」

「ああ」

 

フィオレもそれを理解している。

それでも可能性が低い等と泣き言を言わずに頬笑みを浮かべた。

だからこそ、カウレスも笑みを浮かべて返事を返した。

 

「マスター、ケイローンもそのマスターも少しいいか」

「バーサーカー?」

「話がしたい」

 

小型機に乗り込もうとするのを止める。

振り返ればそこには険しい顔をするバーサーカーが居た。

 

「悪いが発破を掛けに来た訳では無い。言いたい事は2つだ。1つは私の力ではアキレウスを倒せれないことだ」

 

その言葉にカウレスもフィオレも眉を寄せる。

当然の事だった。

アキレウスはバーサーカー1人に狙いを定めていて黒の陣営で彼を倒せられるのはバーサーカーとケイローンのみであるからだ。

そんな中戦場に向かう直前でこのような事を言われればカウレスもフィオレも眉を寄せる事しか出来なかった。

そんな中ケイローンはさもそれを理解していたと言うように_実際理解していたのだろう_頷いた。

 

「そうでしょうね」

「ああ。私個人の力量はそこまで高くない。武器や防具だよりの乱雑な女でしかない。英雄としてのスキルを全て極めたアキレウスの前では乳飲み子同然だ」

「貴方が今の今までその話を持ち出さなかったのは何故ですか?」

「……もう1つの案件で悩んでいた」

 

なるほど、とケイローンは頷いた。

さしずめ予想が着いたのだろう。

ケイローンはニッコリと笑みを浮かべてフィオレの方を振り向いた。

 

「マスター、よろしければ彼女に私の智慧を授けてもよろしいでしょうか?」

「貴方の智慧ですか?」

「はい。彼女には千里眼と心眼を与えたいと思っています」

 

神授の智慧_それはケイローンが神々から与えられた賢者としての様々な知識だ。

英雄独自のものを除く全てのスキルでB~Aランクの熟練度を発揮出来る。

そしてこれらはマスターの同意さえあれば他サーヴァントに授ける事が可能であった。

最も、英霊となってまで誰かに教えを乞うような者がいなかった為ケイローンも今回は使う機会がないと判断していたが。

 

「戦場を見渡す目と窮地に陥った際に残された活路を見出す目…この2つが揃えば限定的な未来視も可能となります」

「限定的な、未来視…」

「そこまでしなければ…アキレウスには勝てないのですか…」

 

フィオレとカウレスが顔を曇らせる。

されど泣いても結末は変わらぬようにバーサーカーがアキレウスに叶わぬ事も今のままでは変わらないのだ。

 

「勝てんな」

「はい。彼女ではアキレウスに勝てません。勿論、私も相手が務まるかどうか」

 

故にバーサーカーもケイローンも事実を暈すことなく口にする。

だからこそ、その為の打開策をケイローンは行うつもりであった。

 

「バーサーカーも今のままでは無理だと理解して私の元に来たのでしょう。ならば私はそれに教師として返したい。マスター、許可を」

 

フィオレが迷う事はなかった。

今更作戦を変えられないという事もあったが、教師であるケイローンがスキルを授けることによって可能性があると口にしたのならフィオレにはそれに賭けるしか無かったからだ。

 

「バーサーカーに千里眼と心眼を授ける事を許可します。けれど、バーサーカーは絶対に勝ちなさい」

「感謝する。黒の陣営として最期までマスターの為に力を奮おう」

 

カウレスはその言葉に苦笑した。

ケイローンと同じ事を言っていたからだ。

 

「俺の為じゃなくていい。バーサーカーの思うままに戦ってくれ」

「…そうか。ではマスター、頼みがある」

「頼み?」

「もし空中庭園に乗り込めたらどこかの一室にて捕らえられている本来の赤のマスター達を助けて欲しい」

「…わかったよ。バーサーカー、勝てよ」

「了解した」

 

カウレスとバーサーカーが話終わるとケイローンが口を開く。

その目は慈愛を感じさせるほどに穏やかな目であった。

 

「では2つ目の言いたい事とはなんでしょうか。バーサーカー」

 

バーサーカーはそれに頷いた。

返事ではなく覚悟を決めるような自分に問掛けるような頷きであった。

 

「もう1つは__」

 

 

赤のサーヴァントはセミラミスとシェイクスピアを除いた3機が玉座の間に集まっていた。

しかし特に会話がある訳でも無い。

カルナは元より無口であり、アタランテは怒りの感情に没頭して思考を放棄している。

その二人の間にいるアキレウスはなんともならない歯痒さにため息を零した。

しかしそんな空気の中聞こえた音は何かにヒビの入る音だった。

ピキピキと金属が擦れ合う音を立てて聞こえた音にアキレウスは槍を手にする。

だがそれを今まで黙っていたカルナが制した。

 

「気にするな。俺の鎧が壊れる音だ」

「っはァ?」

 

パシリと音を立ててその篭手に亀裂が入った。

アキレウスも怒りに没頭していたアタランテもそれに目を丸くする。

 

「汝は何を…!」

「気にする事ではない。分かり切っていたことだ」

「何言ってんだ!その鎧は絶対に壊れないんじゃねぇのかよ!」

 

アキレウスが吠えるように怒鳴った。

アキレウスの言った通り黄金の鎧はカルナの産みの母であるクンティーが未婚の母となることに恐怖を感じ、 息子を守るためにスーリヤに願って与えた黄金の鎧と耳輪だ。

物理、概念を問わずあらゆる敵対干渉のダメージ値を10分の1にまで削減する宝具であり、カルナの受けた致命傷に及ぶ怪我も瞬時に回復させる宝具であった。

そしてこれは父であり太陽であるスーリヤ神の光そのものが形となった宝具の為神々でさえこの鎧の破壊は困難とされた。

 

「その通りだ。インドラ神であれ、この鎧の破壊は不可能だ。だからこそ生前はこの鎧を剥ぎ取ろうとしたのだろう」

「なら何故だ、ランサー。何故今その宝具が壊れ掛けている」

 

その言葉にカルナはふ、と笑みを浮かべる。

自嘲ではない。

誇らしげな笑みを浮かべてカルナは口を開く。

 

「この宝具は"共有"している」

「__!」

 

ハッとアキレウスが息を飲んだ。

目は爛々と輝き闘争心が覗く。

 

「"内側からの破壊"って事か__!」

 

アキレウスは唇を釣り上げて笑う。

その脳裏には自身よりも何よりも目の前の男を優先していた女が浮かぶ。

この黄金を女が大事にしていた事など誰の目から見ても分かった。

それを女は今自らの手で__

 

「勝つ為に壊したのか!」

 

キンと甲高い音を立てて黄金が崩れる。

砕け散った黄金を一欠片拾い上げたカルナは笑みを浮かべていた。

 

「__ホントに、良い女だな。黒のバーサーカーは」

 

ぐるるとアキレウスは喉を鳴らした。

唾液が溢れて目は瞳孔を細める。

獣じみたその笑みにカルナは言葉を返すことは無かった。

 

 

バーサーカーの手の内にある黄金は砕け、霊子として消えていく。

バーサーカーとジークの体から金糸が浮かび上がり空に解けていく。

 

「すまんな。お前には迷惑を掛けてばかりだ」

「いや。気にしていない。元より貴方の宝具だ」

 

ジークの言葉にバーサーカーは緩く頭を振った。

 

「なんにせよこれでカルナへの攻撃は意味を成すだろうな」

「ありがとうございます。バーサーカー」

「…いや。セイバーもそれでよかったか」

「構わない」

 

バーサーカーは瞼を下ろす。

そして瞼を上げる。

瞬きと称すには酷くゆったりとした時間に自身の中に何かを落とし込んだバーサーカーは小さく息を吐く。

 

「セイバー、お前はこれ以降私の宝具による再召喚が不可能となった。死ねば、そこまでだ。私の宝具によって著しいステータスの劣化が起きているのにお前にも迷惑ばかりかける」

 

ジークフリートは首を振る。

言葉を返しはしないけれど、その行動にバーサーカーは一礼をした。

 

「__行こう、戦争に」

 

 

ジャンボジェット機の上に立ち空の先にある空中庭園を見据える。

防壁装が放った魔力弾はアストルフォにより落とし込まれる。

アストルフォが無事宝具を解放出来たのだ。

それが最後まで出来るか見届ける間もなくバーサーカーは目を細めて構えをとる。

 

___見える。

 

夜空に輝く星々の輪郭も、空中庭園の細部の飾りも、真っ直ぐこちらを見据える自身の戦うべき相手も。

 

「__さぁ、決着の時だ!バーサーカー!」

 

静かな夜空を裂くように一筋の戦車が空を駈けた。

 

 

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