Fate/Apocrypha 英雄カルナの妻   作:星空 柚木

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第十八話

蛇のように空を裂くように戦車が駆ける。

2匹の神馬と1匹の名馬に引かれるその戦車は轟音と共に空を駆ける。

真っ直ぐに向かってくるその戦車にバーサーカーは弓を起こした。

 

「何処を狙っている!」

「流石に速いな」

 

放つ矢は全てアキレウスが払うまでもなく戦車で避ける。

弓を放ってもそれを避ける事が出来るほどに速いソレは正に英霊最速と言えるだろう。

アキレウスの槍がバーサーカーの乗るジェット機を捉える。

 

「捉えたぞ、バーサーカー!」

 

1寸も外れる事無くジェット機が突き破られる。

エンジンに大穴をあけられたジェット機は内側から行き場のない熱が膨れ上がり爆発する。

しかしバーサーカーへの手応えを感じなかったアキレウスは逃がしたと理解する。

探す為に振り返ればその頬を矢が裂いた。

 

「そこか!」

「空を自由に駆けると言うのは厄介なものだな」

 

大きな着地音を立てて別のジェット機の上へと移る。

バーサーカーの勢いのある着地を受けても揺らぐことの無いジェット機はけれど容易くアキレウスの戦車に容易く突き破られる。

元よりアキレウスとバーサーカーであれば敏速に大きな差がある。

このまま後手に回っていればバーサーカーの首が離れるのもそう遅くはないだろう。

故に例え部が悪くてもバーサーカーはアキレウスに向きなおらなければならなかった。

 

目を凝らす。

アキレウスの表情、戦車、それを引く馬。

自身へとまっすぐ向かうその矛を逃げることなく真っ直ぐ睨んで弓を構える。

引き付けてかそれともアキレウスに隙がないからか矢は放たれる事無くアキレウスの矛がバーサーカーの首へと伸びた。

 

「はァっ!」

「!」

 

その矛がバーサーカーの首を穿つ前にその間に剣先が入り込む。

魔剣であり聖剣である黄昏の剣がアキレウスの槍を払ったのだ。

銀の髪を靡かせてその身に邪竜の血を浴びた英雄がバーサーカーへの攻撃を困難にした。

そしてアキレウスとて邪魔が入らないという傲慢は持っていない為その横槍にもニヤリと笑った。

 

「お前が相手をするか?だが残念だ、お前じゃ俺を傷付けられねぇだろ」

「その通りだ。そして俺も英雄同士の一騎打ちに手を加えるほど無粋な事はしない」

「はァ?」

 

邪魔をしないと宣言しながらなおバーサーカーを護るように立つジークフリートにアキレウスは眉を寄せた。

ギリ、と弓のしなる音がする。

その音にアキレウスはハッとしてジークフリートの後ろにいるバーサーカーへと矛を狙い付けるも再びジークフリートに拒まれる。

確かにジークフリートは神性や神殺しの逸話は所持していない。

しかし彼とて大英雄であり、その武勇はアキレウスと双璧とする赤のランサー_カルナと打ち合うことが可能である程だ。

ジークフリートはアキレウスを傷付けることは出来ない。

けれど傷付ける事が可能な者へ時間を稼ぐ事が可能な力量を持っているのだ。

 

「走れ、トリャンバカ!」

「しまっ__!」

 

バーサーカーの奮う力とは破壊の力だ。

魔力を有しているものであれば尚のこと強く効果のあるそれが狙うはアキレウスではない。

 

「その一撃は、破壊の一手となる!」

 

放たれた矢が真っ直ぐに突き刺さるのはアキレウスの戦車を引く三体の馬だ。

神馬であった二体の馬は宝具としての召喚に応じて頑丈なサーヴァント程となっている。

つまり、トリャンバカでの攻撃が最も通る様になったのだ。

突き刺さった矢に溢れ出た血が魔力反応を起こし神馬の核ごと呑み込むほど大きな爆発を起こした。

アキレウスはその爆発に呑まれない為に戦車を捨てざるを得なくなったのだ。

 

「__やってくれたな、バーサーカー」

「何を言う。英雄同士の"一騎打ち"だろう?」

 

バーサーカーの言葉にアキレウスは唇を吊り上げた。

腰を落として槍を構える。

すぅ、と息を吸ったアキレウスに応えるようにバーサーカーも弓を槍へと変えた。

ゆるりと矛先をアキレウスへと向けたバーサーカーは横目でジークフリートを見た。

 

「セイバー、カルナを頼んでいいか。ライダーの妨害が酷い」

「了解した」

 

ジークフリートはジェット機を移動する際にバーサーカーを見つめたが、バーサーカーはそれに気付いていながらも振り向く事は無かった。

ジークフリートはカルナの元へと向かった背をアキレウスは口笛を吹いて見送る。

 

「本気で俺と一騎打ちする気か、バーサーカー」

「本望だろう」

 

ゾクリと背筋を駆け抜ける戦闘意欲にアキレウスは喉を鳴らして笑った。

ジェット機を強く蹴りつけてバーサーカーへと距離を詰めた。

初手から首を狙ったその一撃をバーサーカーは槍の柄で受け流す。

その勢いのまま槍を回しアキレウスへと突こうとするもアキレウスの槍が持ち直し再びバーサーカーへと向かう。

 

「っ、デタラメな…!」

「ああそうさ、俺は最速の英雄アキレウスだ!」

 

バーサーカーの槍がアキレウスの腕に傷を付ければ既にバーサーカーの身にはアキレウスの矛が頬を裂いた。

そのまま首を切らんと振り下ろされる矛を手で掴みアキレウスの肩を強く蹴る。

その衝撃に槍から手を離せばバーサーカーにより後方へと蹴り飛ばされる。

アキレウスは舌打ちをひとつ零すも直ぐに自身の肩を蹴り付けたバーサーカーの足を掴む。

そのまま加減もなく握り潰しながら、足首を捻り潰す。

声の出ないほどの苦痛にバーサーカーは喉を唸らせ槍を投げ捨て空いた手でアキレウスの肩を掴み体を持ち上げる。

流れるようにアキレウスの首に手を回し、上体を足で固定したままに首をぐるりと捻じる。

ゴキリとアキレウスの耳に自身の首が捻れる音が聞こえる。

 

「離れェろっ!」

「ぐっ」

 

ジェット機に背中を叩き付けるように押し倒される。

上から肩を掴み力を掛けて肩の間接を外しに掛かるアキレウスに顔を歪めその腹に膝を打ち込んで距離をとる。

ボキリと肋の数本を折られたアキレウスが胃酸を吐き出しながら後ろへと引く。

しかし息付く間もなくバーサーカーが懐へと飛び込む。

その手には剣も槍も弓もなく、構え直したアキレウスは頭痛がする程の狂喜に目を細める。

バーサーカーの上体を捻った肘打ちを腕で衝撃を押し殺し、間髪入れずに頭部を狙った蹴りを頭を下げて避ける。

 

「殴り合いでもするつもりか!バーサーカー!」

「止むを得んだろう!最速の英雄を前にして息などつける訳が無い!」

「ははっ!その通りだなぁ!」

 

耳鳴りがする。

頭痛がする。

視界が真っ赤に染ってチカチカと瞬いている。

それが先の首を捻られた際のダメージなのか自身が脳を壊すほどに興奮しているのかアキレウスにはそれが分からなかった。

けれどアキレウスにとってそんな事はどちらでも良かった。

血流が逆流していると思える程に血が早く巡る。

立っているだけでも膝を着いてしまうほどに鼓動がうるさく鳴り響く。

 

「本当に、最高だ!バーサーカー!」

「それはなによりだ!」

 

1歩引いたバーサーカーに今度は自分だとアキレウスから迫る。

拳を叩きつけ、胴を蹴りあげ、肉を潰す。

そのどれもにバーサーカーは反応を返す。

本来バーサーカーはアキレウスの行動に追い付くことは出来ない。

最速の英雄とはそれ程までに疾いのだ。

バーサーカーがアキレウスが動いたと認識した頃にはその体にアキレウスの拳が沈んでいてもそれは当然の事と言える程に。

では何故バーサーカーがアキレウスの動きに反応してるのか。

 

「__先生から智慧を貰ったのか」

「ああ、実にいい教鞭だったな」

「ハッ!だろうな!」

 

それはケイローンから与えられた心眼と千里眼を用いてアキレウスの次の行動を"未来視"しているのだ。

視たと同時に体を動かして、その攻撃を防ぐ。

そうしてバーサーカーはやっとアキレウスに食らいついているのだ。

 

「だがどうした!防ぎ切れていないぞ!」

「このっ…!デタラメが過ぎるぞ、アキレウス!」

 

しかし視えるだけであり、バーサーカーが早く動ける訳では無い。

その体には打ち身や脱臼が増えていく。

もしバーサーカーが智慧を受けるのが早ければそれに伴う反応速度も得られたかもしれないが、つい先程貰ったばかりのそれではバーサーカーが怪我をしないと言うことは不可能でありどうしても隙が生まれてしまう。

 

勝負を分けるのはいつだってその一瞬だけだ。

 

バチリと音を立ててアキレウスの手に魔力が渦巻く。

それが何を起こすかバーサーカーは未来視を経て理解するも、その体は間に合わなかった。

 

「____ハ、ァ"」

 

ため息をこぼすように吐き出された小さな吐息も次の瞬間に体内から逆流した大量の血液に掻き消される。

咳をこぼすように喘ぐ度血液が絶えず流れでるバーサーカーの腹には鈍い色を放つ槍がその身を貫いていた。

 

空駆ける星の穂先(ディアトレコーン・アステール・ロンケーイ)_それは師であるケイローンの手により作られたアキレウスの愛用の槍。

独自の固有結界を持つ宝具であるその槍は敵に与えた傷の治癒を不可能にする効果があり、そして持ち主の元へと飛んで戻る機能があった。

 

そう、"飛んで"戻ったのだ。

 

「__ふっ、ヴ…カフッ」

 

びちゃりと地面に血液が吐き出される。

アキレウスの元へと勢い良く飛び戻ったそれはアキレウスの目の前で避ける事の叶わなかったバーサーカーの腹に穴を開けた。

日輪よ、慈しめ(カヴァーチャ・デイヤール)を自らの手で破壊したバーサーカーはその身の回復は叶わない。

そうでなかったとしてもアキレウスのこの槍は傷を癒す事が出来ないのだ。

 

バーサーカーの体から力が抜けてがくりと膝を着いた。

驚愕に開かれていたその目をゆったりと閉じて、先の激闘など無かったように静かに倒れ伏した。

 

「完敗…だ……」

 

腹から血液が止まることなく流れ出る。

既に起き上がる力もないバーサーカーにアキレウスは息をついた。

 

「いつも思う事だが…決闘というのは終わりがあるのが寂しいものだな」

「永続して戦いたいと…?はっ…もの好きめ」

「そうかもな。いい好敵手だったぜアンタは」

 

ふ、とバーサーカーは息をこぼした。

それは返事だったのかただの呼吸であったのか。

血にまみれ引きつったその頬をアキレウスは指の腹で撫でて空を見上げた。

決着がつくまでの数分間であったが、戦況は大きく変わったようだ。

空の先に鈍色の光とアキレウスのよく知る声が響いた。

強い怒りと恨みの籠ったその声にアキレウスは小さく息を飲んだ。

 

「姐さん…?」

 

何が起きているのか、それが分かっていながらもアキレウスはそれを信じたくはなかった。

けれど分かった事はまた自分は間に合わなかったという事だ。

すぐにでもアタランテの元へと向かおうと足を出した。

 

「真の英雄は__」

 

ぞくりと肌が粟立つ。

大英雄であろうと身の危険を感じれば喉は呼気音を零し背筋は凍る。

何故、何故まだ生きている。

 

「__目で、殺す!」

 

腹を槍が貫通しようと、頭部が潰されようと彼女は止まることは無い。

確かにアキレウスとの一騎打ちには完敗だろう。

だが負ければそれまでにして手を出さないとはバーサーカーは考えてすらいなかった。

勝てないからなんだ、完敗がなんだ。

目の前に敵が居て、自分の使命は1人でも敵を殺す事だ。

それならば、ならば起き上がらない理由など一つもなかった。

 

アキレウスの足を地に伏せたまま掴む。

立ち上がる事も億劫なその身でバーサーカーは魔力を放つのだ。

彼女の戦闘続行スキルはA+だ。

例え首が落とされようとて必ず、殺すと決めたならば殺すのだ。

 

梵天よ、地を覆え(ブラフマーストラ)!」

 

開かれたその目は諦めて等いない。

魔力の暴発を繰り返しながらそのビームはゼロ距離においてアキレウスの踵を_アキレウスの不死性を剥奪する。

 

「ヴ、ア、ア、ア、ア!!」

 

アキレウスの体から不死性と7割の速度が奪われる。

彗星走法(ドロメウス・コメーテース)_アキレウスの速度_も勇者の不凋花(アンドレアス・アマラントス)_アキレウスの不死性_も彼の弱点であるアキレス腱を貫かれれば効果を失う。

そしてそれは今確かにバーサーカーによって貫かれ、破壊された。

 

「このッ!!」

 

アキレウスが怒りに身を滾らせバーサーカーを見下ろす。

だが見下ろした先のバーサーカーが余りに安心したような穏やかな表情を浮かべていた為にその怒りも一瞬で掻き消えた。

この女は理解していたのだ。

例え自分がケイローンにより智慧を与えられてもアキレウスに勝てない事を。

ケイローンとてそれは例外でなく、だからこそ不死性と速度を奪い他のサーヴァントに託そうとしたのだ。

自身の誉れでなく最後まで全体の勝利を見据えていたバーサーカーにアキレウスは息を吐いた。

 

「…やりにくいったらねぇなァ」

 

まるで自身の師と同じような目をしているのだから。

 

ずるりと足場にしていたジェット機が傾く。

あれ程乱雑に暴れた上に最後のダメ押しとばかりにバーサーカーの宝具だ。

翼をダメにしたジェット機はそのまま速度を失ってゆっくりと地面へと向かうだろう。

 

「_アンタは、」

「気にするな。…もう指先1つも、動かせん」

 

宝具を撃った反動だ。

その反動でバーサーカーは動けないでいる。

だがそう出なかったとしてもこの腹の穴だった。

このままだとバーサーカーはこのジェット機と共に地面へと墜落し、そして消えるのだろう。

アキレウスは口笛を吹いた。

戦車を引く馬は2体のみだが、走る事は可能だ。

ぐったりとジェット機に身を崩れさせたバーサーカーの体を両手で丁寧に持ち上げる。

バーサーカーの体から溢れる血がアキレウスの体を赤くして尚のことアキレウスはその手に力を込めた。

 

「__俺の負けだ」

 

空中庭園へと降り、バーサーカーの体をゆっくりと地面へと降ろした。

情けでは無かった。

ただその高潔で美しい在り方の最期が誰も知らぬ所であると言う事を嫌だと思ったのだ。

戦況は大きく変わってしまった。

カルナはジークフリートと庭園内で戦闘して、ケイローンもアストルフォも庭園内に既にいるだろう。

そしてルーラー_ジャンヌ・ダルクが変質してしまったアタランテと戦っている。

アキレウスのする事はそんな中たった一つで、変質してしまったアタランテを止めに行くのだ。

アキレウスは小さく息を吐いて笑みを浮かべる。

どうしようもなく愚かであった自分には余りに不釣り合いな程美しく高潔であったそれがアキレウスには何よりも尊ぶべきものであると思えた。

 

「アンタは、いい女だな」

 

 

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