Fate/Apocrypha 英雄カルナの妻 作:星空 柚木
「素に銀と鉄。 礎に石と契約の大公。 祖には我が大師シュバインオーグ。降り立つ風には壁を。 四方の門は閉じ、王冠より出で、王国に至る三叉路は循環せよ。
みたせ。みたせ。みたせ。みたせ。みたせ。
閉じよ。閉じよ。閉じよ。閉じよ。閉じよ。
繰り返すつどに五度。
ただ、満たされる刻を破却する。
______告げる。
______Anfang、
______告げる、
______告げる。
汝の身は我が下に、我が命運は汝の剣に。聖杯の寄るべに従い、この意、この理に従うならば応えよ。
誓いを此処に。
我は常世総ての善と成る者、我は常世総ての悪を敷く者。
されど汝はその眼を混沌に曇らせ侍るべし。汝、狂乱の檻に囚われし者。我はその鎖を手繰る者――。
汝三大の言霊を纏う七天、
抑止の輪より来たれ、天秤の守り手よ―――!」
「召喚の招きに従い参上した。我ら黒のサーヴァント、我らが運命はユグドミレニアと共にあり。我らの剣は、あなたがたの剣である」
男_ダーニック・プレストーン・ユグドミレニアは小さく笑う。
目下には今しがた召喚された4騎のサーヴァント。
セイバー、アーチャー、ライダー、バーサーカー。
灰色長髪な端正な顔立ちに胸元と背中が開いた鎧を身に付け大剣を背負う男。
広大な森のような清冽な雰囲気を持った青年。
派手に着飾った美少女と見間違う美青年。
右耳の大輪のピアスとひとつに括りあげた髪飾りに黄金を持つ少女。
彼等の力を使役して長きに渡る聖杯にかける希望を大成するのだ。
その為に例え自身のサーヴァントに恨まれようとも。
カウレス・フォルヴェッジ・ユグドミレニアは困惑していた。
原因は今しがた召喚した目の前のサーヴァントである。
カウレスは本来マスターになるべくしてなったのでは無い。姉_フィオレ・フォルヴェッジ・ユグドミレニアのバックアップとしてルーマニアを訪れた際に令呪の_マスターの資格に恵まれてしまったのだ。彼は望んでマスターになった訳では無い。けれどこそ姉に恥をかかせられぬと姉の知乙から『理想の人間』と書かれた設計図を買い取ったのだ。
それ即ち__フランケンシュタインの設計図であった。
だが目の前にいる少女の身体には何処にも他人の手が加えられたと思わしき所がない。
だからこそ、ライダー_アストルフォに真名を聞かれた際にカウレスは言葉を詰まらせた。
「えぇっと…バーサーカーは…」
「…カウレス?」
「ふ、フランケンシュタイン…の筈なんだけど…」
そう言って自身のサーヴァントを見やる。
彼女は変わらずどこを見ているのか分からない目で、話を聞いているのかすら分からない。
「そっかそっか!じゃあフランちゃんだね?」
そう言ってアストルフォはバーサーカーに振り向く。
話が流されて行きそうな中虚ろな瞳でどこを見ているのか分からなかったバーサーカーがアストルフォと目を合わせる。
「違う」
「え?」
「私はフランケンシュタインでは無い。…様子を見るに、私は望まれたサーヴァントでは無いみたいだが…知れたことではないか」
バーサーカーにしてはハッキリとした口調だった。
自身の中で一区切り付けたのかアストルフォを見ずにカウレスと目線を合わせたバーサーカーは強い意志の感じる口調で口上を述べた。
「サーヴァント、バーサーカー。真名をディピカと言う。よろしく頼む」
その言葉に驚いたのはカウレス含め、マスター全員_と言ってもロシェやセレニケは自身のサーヴァントに夢中だったが_だ。
マハーバーラタ最大の敵として立ちはだかった英雄カルナの隣に並んでいた女。
妻として描かれ_英雄カルナよりも酷い厄災を巻き起こした。
勝利の鍵となる神の化身をただ1人で打ち倒した破壊神シヴァの愛し子。
そしてその女が、まさかこの様な少女とは誰も思わなかった。
「…その様子ならマハーバーラタは知ってるな。何にせよ、バーサーカーに似つかわしくない程度の思考回路は保有している筈だ。」
そう言って手を差し出してきたバーサーカーの手を握る。
筋力C/敏速D/幸運B/耐久A/魔力E/宝具EX/狂化E見ただけで脳裏に浮かび上がった数値にカウレスは喉を唸らせた。
「…ああ、期待に添えないステータスだったか。悪いな。この程度だ」
微塵も悪いと思っていないように言い放つバーサーカーにカウレスは頭を抱えたくなった。
ステータスはどうあれ彼女が生前に成したことは数多の英雄達の中でも一際にとんでもない事だからだ。
・
「なあバーサーカー。何でお前は会話出来るんだ?」
「マスターはバーサーカークラスを召喚するのは初めてか?」
「サーヴァント召喚自体初めてだよ。だからまるで分からないんだお前がなんで話せるのか」
「そうか。狂化Eとなれば多少の痛みに鈍い程度でな。ある程度の思考回路や理性は所持しているぞ。最も、バーサーカーらしく振舞う事も条件次第では可能だがな」
「あの、一つよろしいですか?」
カウレスはその言葉に声の主_自身の姉であるフィオレを見る。
バーサーカーに視線で促されたフィオレは口を開く。
「条件次第で可能と言いましたが、その際貴方の狂化ランクはどれ程になりますか?」
「規格外…EXだな。必要とあれば神に喧嘩を売る。必要とあれば世界を滅ぼす。要は際限のない狂行を行う事になる。最もこれは生前の行いそのものがそうしているのだがな。だがこれはスキルとして所持している。条件が揃わん限り発動せん。故に今回の聖杯戦争において私が狂化EXとなる事はないだろう」
その言葉はカウレスを黙らせるのに効果的だった。
カウレスとて馬鹿ではない。
今の言葉はバーサーカーの意図せずして彼女の行いは素で行われるものだと表したのだ。
思考して尚、ではなく思考したが故に行う狂行。
それはつまり、彼女は狂化を必要としない程に狂っていると言う事だった。
「ではその狂化ランクについてはあまり気にかけなくて良いと?」
「ああ、まあ_そうだな。これといった問題は無い」
バーサーカーにしては何とも歯切れの悪い回答だ。
けれどダーニックは詳しく詮索をせずにバーサーカーとカウレスに下がる様に言う。
何にせよ彼女の力量は自身の目で見て測ればいいのだと。
部屋を出たバーサーカーは先を歩くカウレスの斜め後ろを歩く。
部屋に着くまでの間バーサーカーは一言も話さないからカウレスが霊体化しているのか、着いてきていないのかとこまめに振り返る事になったが。
部屋に着いたカウレスはバーサーカーに断りを入れてパソコンを立ち上げる。
彼は魔術師の癖に現代的であったが_元来魔術師でも無ければ召喚されたステータスでも魔力Eランクのバーサーカーにそんな事分かる訳もなかった。
彼女は無遠慮に、丁寧に断りまで入れてくれたカウレスの背に声を掛ける。
「マスター」
「あー?何だ、バーサーカー。好きに寛いでていいぞー?」
「ああ、寛がせてもらう。だがそれとは別だマスター」
パソコンを視界にキーボードを叩く手を止める。
執拗に話し掛けてくるバーサーカーの方を振り向けば彼女はカウレスのベットに腰掛けて、部屋の扉の方を見ていた。
「私について調べるなら、パソコンよりもこれからの答弁を見ていた方が早いぞ」
その言葉にカウレスは1度検索画面を開いたパソコンを視界に入れた後バーサーカーの視線の先の扉を見る。
その一拍後、自身の部屋の扉がノックされた。