Fate/Apocrypha 英雄カルナの妻   作:星空 柚木

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第二話

「さっきぶりだな、ランサー」

「だっ、ダーニック叔父さんまで…!」

 

部屋の持ち主であるカウレスが背筋を伸ばす中、その遣いであるバーサーカーの態度は不遜なものであった。

ベットに腰掛けたまま頬杖を着いて気怠げに見上げる。

なんともチグハグな魔術師とその遣いに2人を訪ねたダーニックとそのサーヴァントであるヴラド三世は眉を寄せた。

 

「なんだ?聞き漏らしでもあったか?今なら応えてやるぞ」

「バーサーカー!」

 

不遜な態度を変えないサーヴァントにカウレスは窘める様に声を掛ける。

バーサーカーはそれを一瞥した後に態度をまるで変えずにダーニック達を不躾に見上げた。

 

 

 

ダーニックはカウレスに期待などしていない。

元より魔術師としての才能もあまり無く、フィオレの予備としての教育を受けて来たカウレスに期待しろという方が可笑しいのだとダーニックは思っている。

だからこそ彼はカウレスにバーサーカークラスの召喚を命じた。

制御も難しく、戦況をかき乱す狂戦士。

何処で潰えても大して問題ではなかった。

 

だが状況が変わった。

バーサーカークラスにも無視出来ない者がある。

カウレスの召喚したサーヴァントはその一つである神代の中心的な立ち位置であるサーヴァントだったのだから。

フランケンシュタインの召喚を_触媒が偽物であったのだろう_失敗したのは呆れて物も言えず、ユグドミレニアの長として恥じ入るばかりだったが、その副産物のサーヴァントがあまりにも規格外だったのだ。

情報として認識出来るステータスは彼女の生前を思うにやけに低いが、サーヴァントの切り札である宝具について未だ聞いていないのだ。

ステータスは期待出来ずとしても、神代の中心的な立ち位置であった彼女の宝具は知らないで放置するには危険だった。

 

「貴様の宝具について聞きたいと思ってな」

 

そう口にしたのはダーニックのサーヴァントランサー_ヴラド三世だった。

不遜な態度を取るバーサーカーに王の気品を見せる傲慢な態度で問い掛けた。

 

「このクラスであれば3つある。どれが知りたい」

「全てだ」

「…マスター」

 

そう呟いたバーサーカーはカウレスを見る。

カウレスは何故バーサーカーがこちらを見たのか一瞬理解が遅れたが慌てて首を縦に振った。

バーサーカーでありながら、彼女はマスターに伺いを立てたのだ。

 

「1つ目はこの髪飾りだな。私の夫であるカルナの黄金の鎧については知ってるな?これはそれを加工したものだ。つまり攻撃を弾いて傷を癒す」

 

「2つ目は梵天よ、地を覆え(ブラフマーストラ)だな。これについては説明は無理だぞ。攻撃宝具の認識でいい」

 

「3つ目は…、なんて言うべきか。剣でもあり、弓でもあり、槍でもある。変幻自在の武器だが、どの姿に変わろうとて破壊と再生を司るのが共通点だ。この宝具は真名解放すると私は死ぬが、"私の見る世界"を壊してくれる。捨て駒にしてくれるのは構わないが、ならばこの宝具は使わせない事だな。味方諸共破壊するぞ」

 

淡々と答えるバーサーカーの言葉を聞いてカウレスは戦慄する。

ステータスは確かに高くはないが、宝具の効果が可笑しいのだ。

かのギルガメッシュの持つ宝具と何ら相違ない対界宝具なのだから。

勿論世界を壊すと言うには些か足りないではあるがこの宝具から逃れられる物も見つからなかった。

何故このサーヴァントが自身のサーヴァントなのか。

カウレスは聖杯にかける希望もまるで思い付かない自身の元に訪れたサーヴァントが途中敗退など有り得ないようなサーヴァントである事に頭を悩ませた。

 

「そうか。ではバーサーカー、貴様は余を王として敬い使役される…それで構わぬか?」

 

尚も不遜な態度のバーサーカーにヴラド三世はそう問い掛ける。

ユグドミレニアに召喚された今彼女が現ユグドミレニアの王であるヴラド三世に使役されるのは間違い無かったが念の為の確認でもあった。

なにせ彼女はバーサーカーだ。

_望まれないと分かりきっている言葉を返す程に、狂っているのだから。

 

「構うな。王として扱うのは問題ないが、何故王如きが私を使役する?」

 

やはりか、とダーニックは額を抑えた。

彼女の生前は確かに王に仕えていたが、使役されると言うには違った。

彼女は夫に従っていた。

故に彼女とその夫の王は夫越しに使役を行っていた。

彼女は夫に無関連だとまるで動かなかったのだ。

 

(どうする)

 

今ここでランサーの機嫌を損ねるのは良策では無い。

ダーニックはサーヴァントと良好な_勿論裏に腹積もりはあるが_関係を築きたいと思っている。

多少の差障であろうとてランサーの機嫌を損ねるのは控えたい。

 

「…では、ユグドミレニアに剣を捧げぬと?」

「否。剣は捧げる。私の運命も捧げよう。だが使役される謂れは無いと言った」

「それを使役と言うのだバーサーカー」

「否。私の行動は私で決める」

(使役されるだけの駒のくせに何を言う_!)

 

「我が運命はユグドミレニアと共にあり。私がユグドミレニアを滅ぼす時、私も共に滅ぼう」

 

カウレスはその言葉にも、温度の下がった室内にも瞠目した。

彼女はユグドミレニアに運命まで捧げてなお滅ぼすと_例え話であろうと現王と長に真正面から言い切ったのだ。

なんて矛盾だろうか、忠誠を捧げたものを滅ぼして尚も忠誠は消えないと言ったのだ。

カウレスはバーサーカーの言葉がまるで聞き取れないと感じた。

不遜な態度で恩義など鼻で笑いそうなこの女は意外な事に騎士のような忠義を持っていたのだから。

だが驚いてるばかりではいられない。

バーサーカーがそう言い切ってからランサーの視線は険悪なものに変わり、バーサーカーのマスターであるカウレスを睨め付けていたのだから。

サーヴァントの殺気_彼等からして見たらほんの少しの怒気であったが_に当てられたカウレスは呼吸もままならない気持ちで矢継ぎ早に弁明しようとするが歯の根が合わずに喘息の様な呼吸音と歯のぶつかるガチガチとした音しか出せなかった。

 

「弱いものいじめか。王の癖に些細な嫌がらせをするんだな」

「…何?」

「我がマスターにこれ以上悪意を向けると言うなら私も槍を奮うまでだが、貴様のそれはそう取って問題ないのだな?」

 

言うが否や瞬時に霊子を編み上げたバーサーカーの手に1つの槍が握られる。

圧倒的な存在感に彼女が神代の英雄である事を理解せざるを得なかった。

ヴラド三世に負けない_もしかしたら勝ってしまうかもしれないそれにカウレスも自然と落ち着きを取り戻す。

そんなカウレスとバーサーカーを見たヴラドは忌々しげに顔に皺を作った。

 

「まるで親鳥が雛を守るようだな」

「なんとでも言え。こちらは最大限の譲歩をした。これ以上を望むなら、私はマスターを護る事を第一に考えてここからマスターを連れ出すまでだ」

 

勿論それはマスターも望まないであろうが_。

そう語尾に続けたバーサーカーとウラドは暫く無言で睨み合う。

不意にバーサーカーが槍を収めて、彼女はまたウラドを見詰めた。

それにウラドは息を吐いて良い、と諌めた。

 

「此度は貴殿を客将として扱おう。遺憾は無いな」

「ああ。その温情に感謝しよう」

「余は玉座へと戻る。この温情無碍にするなよ」

 

そう言って背を向けたランサーの後ろをダーニックが従うようについて行く。

まるで立場が逆だなとカウレスはぼんやりと考えた。

 

「立場が逆と言う点では私とお前もそうだろう」

「…口にしていたか?」

「いいや。ただ表情を見れば何を考えているかは大抵分かる。お前は分かりやすい部類だな」

 

カウレスは頭痛を覚えた。

このサーヴァントは人の気持ちに聡いくせに先までの行いは全て態と取っていたと言うのだ。

分かっていてそれなら質が悪い。

そう思うもそもそも自分は落ちこぼれであったし、当初予定していたフランケンシュタインも御し切れるか分からなかった。

そんな自分が神話の中心的人物を御し切れる訳がないと早めに区切りを付けて前向きに考える。

それに此度の答弁を聞くに彼女はマスターである自身を護るつもりではある様だからだ。

 

「どうなる事かと思ったが、何とかなって良かったなバーサーカー」

「面の皮が厚いな。流石はマスターだ。客将としての扱い…詰まるところ配下に入れる程認められていないという事だ。差程重要視する事では無いが、何にせよ少し動き辛いかもな」

 

なんて事ないように言うバーサーカーを見ると案外悲観的にならなくてもいい問題ではないかとカウレスは思った。

その不遜な態度に救われた_と言うにはこれが原因で起こる問題も数多くあるがそれでも頼もしいと感じることに間違いは無かった。

落ち着いたカウレスは先程思った疑問を口にする。

 

「なあバーサーカー」

「何だ」

「お前ならランサーにも勝てるんじゃないのか?」

「成程、それは無理だ」

 

すんなりと勝敗の行方を否定したバーサーカーにカウレスは理由を尋ねる。

 

「簡単だ。アイツは土地の最大限とも言える知名度補正を受けている。対して私はお前が居るだろう。サーヴァント同士の戦いになった時マスター同士の戦いにならないなんて言えないだろう?ランサーのマスターとお前じゃ魔術に疎い私でも勝敗の結果は予測できる。お前を切り捨てたら或いは…だが、そこまでお前は求めていないだろう」

「…そうだな。確かに俺にはそこまで聖杯にかける望みはない」

「やはりか。やむを得ん理由がある筈だが他人事の為に命を投げ出せるほどの勇士では無いだろう。ならば私も此度はお前をこの聖杯戦争で生き残らせる為に動こう」

 

ズバズバとものを言うバーサーカーに早くも慣れてきたカウレスは耳の痛い言葉をすんなりと受け入れる。

そして不意に湧いた疑問を問う。

 

「俺を優先してくれるのは有難いが、バーサーカーの願いはどうなる?」

「私が聖杯にかける希望は夫…カルナにとっての悔いのない人生だ。生前から力を尽くしたが…もしかしたら悔いが残っているかもしれないだろ。それを解決したい」

「それはカルナと話し合わないと無理なんじゃないか?」

「ああ。現段階ではカルナに会えていないしな。不可能だ。よって私も聖杯にかける希望は無い。お前にも希望がない以上私が聖杯をお前の為に取っても持て余すだけだろう。ならばサーヴァントとしてマスターの無事を護る事こそが此度の役割だろう」

 

バーサーカーは淡々と言った。

 

 

 

夜中、寝る準備を終えてパソコンに向かい合っていたら霊体化していたバーサーカーが不意に実体化する。

 

「どうした?バーサーカー」

「お呼びが掛かったぞ。マスター」

 

バーサーカーの顔を見た後に扉を見れば、丁度その扉がノックされた。

扉を開けると姉のフィオレとそのアーチャーのサーヴァント_ケイローンが並んでいた。

フィオレはカウレスの顔を見て真剣な表情で言った。

 

「ゴルドおじ様が赤のサーヴァントと戦闘を始めた様です。謁見の間に行きましょう」

「召喚してすぐか…。分かった。行こう、バーサーカー」

 

こくりとバーサーカーが頷いた。

 

 

 

謁見の間には既に戦闘中のセイバー陣営と集合を果たしていないアサシン陣営以外が揃っていた。

ケイローンに促されて中に入る。

バーサーカーは扉の前_ケイローンの隣で立ち止まった。

 

「あれが赤のランサーか」

 

部屋の真ん中に展開された大きなモニターを見ながらポツリと呟く。

黄金に輝く鎧を身にまとい、胸元に大きな赤色の石が埋め込まれている幽鬼の様に白く細いのに、鋭い目が印象深い。

セイバーと渡り合うほどの武勇をモニター越しでありながらも見せている。

バーサーカーの意見を求めようと振り向く前に、背後から何かが倒れる音がした。

 

「どこへ行こうとするのですかバーサーカー!」

「離せッ…!!」

 

バーサーカーに馬乗りになったケイローンがバーサーカーの女性特有の華奢な体を上から押さえつけるように_否、押さえ付けていた。

対してバーサーカーは召喚してから今まで_ランサーに槍を向けた時にも見せなかった鋭い険悪な目をして忌々しげにケイローンを見上げている。

ケイローンの筋力はBランクでありCランクであるバーサーカーは当然適うわけがない。

適うわけがなかったのだ。

 

「邪魔だ!」

「ッ…!」

 

バーサーカーの足蹴がケイローンの腹に入る。

ケイローンが仰け反った隙にバーサーカーはケイローンの下から抜け出す。

だがケイローンは敏速A+であり敏速Dのバーサーカーが逃れられるわけがない。

それもやはり、裏切られる。

 

バーサーカーはケイローンの手を逃れてそのまま部屋を出て行く。

呼び止める様に声をかけるも返事はなく、代わりに先の険悪な目を忘れさせるほど静かな_揺れのない目を向けてきた。

 

「カウレス!令呪を!」

「だ、大丈夫だよ姉さん…、多分。ほんとに危なくなったら止めるから、何するか見せてもらえないかな…」

 

そう言ってモニターを見上げる。

周りの厳しく鋭い目に震える体を抑え込みながらモニターに映るバーサーカーを見上げる。

敏速Dと言うには速すぎるスピードで、画面に映るバーサーカーは外套を被り既に森を抜けて更地を走っていた。

 

「速い…」

 

あっという間にセイバー陣営の元にまで辿り着いたバーサーカーは臆することなく激しい剣舞の中に飛び込んだ。

 

「この勝負、私が預かる」

 

セイバーの剣を腕に、赤のランサーの矛先を握り一瞬で攻防を止めたバーサーカーは腕や手から血が流れるのも気にせずに勝負を預かると口にした。

瞠目したのはその場にいた全員だ。

セイバーとそのマスターであるゴルドは勿論の事、ルーラーや___赤のランサーも酷く目を丸くした。

 

「___ディピカか」

 

そう言ったのはセイバーではなく、ルーラーでも無かった。

瞠目したままバーサーカーを凝視していた赤のランサーであった。

一度風が吹く。

風に煽られたローブのフードが外れて、短期間ながらにも見慣れた顔が晒された。

彼女は僅かに思案する様に口を動かした後ゆっくりと開いた。

 

「看取った時以来か。…カルナ」

 

 

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