Fate/Apocrypha 英雄カルナの妻 作:星空 柚木
木にもたれ掛かり口笛を吹く男はバーサーカーとセイバーを見て軽やかな足取りで立ち上がる。
「見た所セイバーとアーチャーか」
「答える義理はないな。そちらはライダーと…なるほど、上手く隠れているな。見つけられん」
「ほぅ?俺が1人でないと言いたいのか?」
「寧ろ1人なわけが無いだろうさ。…だが簡単な事だ。見つかろうが見つけられまいがお前を討ち取れば良いのだからな」
そう言って弓を構えたバーサーカーに、彼女をアーチャーだと勘違いした赤のライダーは笑った。
「俺も甘く見られたもんだなァ…。たった2騎で俺を仕留めようとか…、
屈辱にも程があるぜ!」
ライダーの闘志が膨れ上がる。
大気を揺らす様な気迫に鳥は飛び立ち肌を刺す雰囲気にセイバーは剣を握る手に力を込める。
「改めて言うと俺のクラスはライダーだが…安心しろ、戦車は使わねぇ。たった2騎相手じゃ役不足だからな。真の英雄、真の戦士ってのをその身に刻んでやる!」
その言葉に機にセイバーが突進する。
バーサーカーは距離を取りセイバーの剣戟の隙間に蛇のように矢を送る。
ライダーはそれら全てを弾き落としてセイバーへと向かう。
形勢逆転、しかしセイバーをその槍を全て弾いた。
(___強い)
セイバー_ジークフリートは小さく息を飲んだ。
彼とて戦士としての矜持はある。
強い者と闘うのを嬉しいと感じる。
だがジークフリートは人の願いを叶えてしまう質であった。
それに勿論含まれる自身の主の希望を出来うる限り叶えたいと、念話により宝具の開放を迫るゴルドを無視出来なかった。
だが戦場での指示など、戦争の経験もないゴルドに比べたら歴戦の勇士であるジークフリートの方が当然秀でていた。
その最中も止まない攻撃は反撃をする余裕も与えてくれない。
不意に赤のランサーに剣を掴まれ腹を蹴られた。
大したダメージも受けてない顔で距離を取ったジークフリートを見て、ライダーは耐久戦になりそうだと硬い表情のセイバーを見て言った。
「戦場で笑わぬものはエリュシオンでも笑いを忘れてしまうぞ。チリざまくらいは陽気に行こうぜ」
「戦場での笑いは敵への侮蔑と繋がる事がある」
「…陽気な方が救われるぜ」
「ッぐ!?」
「セイバー!」
ジークフリートの体を貫いた矢はそのまま背後の木へとジークフリートごと刺さる。
「そこに居たのか、赤のアーチャー…!」
バーサーカーが人気のない森に吼えるように呟いた。
ぐっと足に力が篭もりバーサーカーの出せうる限りのスピードで森へと駆けようとした。
それに気が付いたライダーはバーサーカーの前へと槍を入れようとしたが、次の瞬間体の向きを変えてライダーへと向かったバーサーカーに不意をつかれる。
「ッ、…!」
初めからバーサーカーはライダーを狙っていた。
いつの間にかバーサーカーの弓は槍へと変わりライダー頬を切り裂いた。
頬が切れた感覚と、自身の視界に飛び散る赤にライダー_アキレウスは瞠目した。
アキレウスは生前産まれた時に母に神聖な炎で踵以外の体を炙られている。
それは神性を持ち得る者の攻撃以外を防ぐアキレウス自身の不死性であった。
だが現に目の前のバーサーカー_アキレウスはアーチャーと思っている_はその手でアキレウスの体に怪我を負わせたのだ。
瞠目して固まるアキレウスにバーサーカーは獰猛な目をして二撃目を放つ。
「どうした。____笑えよ」
そう言ったバーサーカーの体に赤のアーチャーの矢が向かう。
その全てを先のアキレウスがバーサーカーの矢を払うように払い除けてアキレウスを見下ろすバーサーカーにアキレウスは笑った。
「いいぞアーチャー!槍を使うアーチャーなど聞いたこと無いが、俺を傷付ける力量を持つか!」
「果たして、私だけだと思うか?」
「何?」
ヒュンと空を切る音がした。
バーサーカーが小首を傾げるように頭を傾けたらその背後から音の主が向かって来た。
それが何かと見極める前に体が動く。
バーサーカーに傷付けられた頬の側を矢が掠った。
「___!」
それはアキレウスの肉を割き、その身を傷つける。
ぞくりと腹の底から獰猛な獣のような戦闘意欲が溢れ出た。
アキレウスを傷付ける_神性を持つ者が2人も居たのだ。
腹底から溢れる欲を隠さずにアキレウスは声を上げた。
「引こう!姐さん!コイツらはここで殺すには惜しい!」
その言葉に遠くで木の葉が擦れる音がした。
赤のアーチャーが撤退の姿勢に入ったのだ。
また戦おう、そう言って背を向けたアキレウスにバーサーカーが声を上げた。
「ならば土産に持って行け!我が真名はディピカ!クラスバーサーカーだ!貴様のその首勝鬨として上げてやる!」
「会話のできるバーサーカーか、面白い!我が名はアキレウス!お前の首をとる者の名だ!」
そう言って森の奥へと引いていった2人を見届けて、自らに刺さった矢を抜いて歩み寄ってきたセイバーを見上げた。
「…助かった、バーサーカー」
「構わん。…マスターに恵まれんな、お前は。ここでお前の真名を晒していい事など1つもないと言うのに」
憐れみを含むその言葉にセイバーは言葉を返さずに礼を返した。
事実バーサーカーが間に入らなければセイバーは自身の攻撃が効かないアキレウスに無意味に真名を晒すだけの愚行を行い掛けたのだから。
勿論これらの会話はセイバーを通してそのマスターであるゴルドに筒抜けであり、彼はバーサーカーの言葉を否定しないセイバーに腹を立てていたが。
《バーサーカー、無事か?》
「マスターか。見えているなら分かるだろう。無事だ」
《良かった。なら1度帰って来て___》
「嫌、そうは行かんだろうな」
カウレスからの帰還の命を断る。
聞き返してくるカウレスはこちらの様子が見えている。
態度で示す様にセイバーの方に体を向ければ、セイバーはバーサーカーと目を合わせて口を開いた。
ゴルドの口を開くなと言う命令を守る為か言葉は最低限であった。
「_共に来るか、バーサーカー」
「ああ。いい予感がしないからな」