Fate/Apocrypha 英雄カルナの妻   作:星空 柚木

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第五話

セイバーのマスターゴルドは憤慨していた。

最強と言われるセイバーの召喚を果たしたと言うのにそいつが飛んだ約立たず_最もゴルドに御しきれていないだけだが_だったからだ。

ルーラーの勧誘も断られ赤のランサーを討つことは出来なかった。

今回の迎撃戦でも迎撃のきっかけとなったのはセイバーでは無くて赤のランサーの時も邪魔をしてきた忌々しいバーサーカーであった。

終にダーニックも呆れ、ランサーには下がれと言われてしまった。

要は何の成果もあげれて居ないのだ。

故に雑用を押し付けられるのも致し方ない事であったが、プライドの高いゴルドにそれを受け入れる器は無かった。

そんなゴルドをバーサーカーは遠目にちっさい器にプライドが並々に注がれている、と称したがバーサーカーにしては利口であった彼女は口にする事は控えていた。

 

「それで、逃げ出したホムンクルスは何処にいる!」

「それを探して連れ戻すのが仕事では無いのか」

「ぐぬっ黙れ!そもそもなぜ貴様がここに居る!マスターの元へと戻ればいいだろう!」

「そうしたいのは山々だが、優秀な兵が無能な主に潰されるのは見ていられない質でな」

「貴様馬鹿にしているのか!」

「いいや事実だ。貴様の兵の運用は使役されるセイバーの方が上だ」

 

バーサーカーに悪気は無い。

ただ滾々と事実を述べただけである。

だがそれこそがゴルドを激昴させる言葉に他ならなかった。

言葉が出ない程に顔を赤くするゴルドを気にせずにバーサーカーは深い森を見渡す。

夕暮れ時であった空は闇の帳を下ろして、空に輝く月を木々が覆い隠していた。

がさりと遠くで音がした。

それはサーヴァントであるバーサーカーとセイバーにしか聴き取れなかったが、二人が聴きとったのなら充分であった。

 

「向こうに何かいるな」

「なら貴様が先導を切れ!」

「音の聞き分けの出来ないお前に先導を任せるつもりなど無い」

 

バーサーカーは自覚が無いが、言葉が足りない質であった。

彼女の夫であるカルナも言葉が足りず要約された言葉や表情でも意味を理解出来るようになった_これがきっかけでバーサーカーは表情から相手の考えてることを大体読み取れる_が、同時にカルナも相手の真意を理解するのに聡い為いつしか彼女は自覚なく言葉少なになっていた。

彼女が相手の嫌がることを進んでやると言う性格もあるが、それと同時に無自覚に敵を作ることもよくあったのだ。

 

「ライダー、駆け落ちか?知らなかったな、お前に同性愛の気があったとは。いや、少年愛だったか?」

「ば、バーサーカー…セイバーも…!」

 

彼女はライダー_アストルフォに揶揄う様に声を掛けた。

だが声は平坦で、表情は相変わらず無愛想なバーサーカーにそう言われてライダーは身を固くした。

敵意を持たれていると思ったのだ。

最も、バーサーカーが敵意を持って相手を罵る時は思わず耳を塞いで目を逸らす程の罵詈雑言がその口から飛び出る訳だが_アストルフォからしてみたらそんな事は知らない。

セイバーとバーサーカーがホムンクルスを連れ戻そうと武力行使を厭わないと追ってきたと思ったのだ。

勿論、ゴルドからしてみたら初めからそのつもりであったが。

 

「行け!セイバー!」

 

その言葉にセイバーが駆ける。

ライダーはホムンクルスを押し飛ばしてセイバーの歯を受け止めた。

 

「___!」

「…何だ。逃げないのか?」

 

ホムンクルスが顔を上げればすぐそこにバーサーカーが居た。

彼女はなんて事ないようにそう言ったが、ホムンクルスは怯えた顔を浮かべてバーサーカーの横を走り抜けた。

 

「何をしている!」

「私を宛にするな。ほら、追ったらどうだ?」

 

バーサーカーはホムンクルスに対する興味は無い。

と言うのも、ホムンクルスを一人の人間として見ている為バーサーカーの介入は不必要だと思っているからだ。

生きている者は自らの力でその生を掴み取るべきである。

ゴルドに散々に嫌われているバーサーカーだが、彼女はホムンクルスが連れ戻されようが逃げ切れようが生きている者の戦いとしてただ見ていた。

 

理導/開通(シュトラセ/ゲーエン)!」

 

不意にホムンクルスがゴルドに反撃をした。

これがゴルドの気に触れた。

ホムンクルスの攻撃なぞ彼の製作者であるゴルドにしてみたら脆く拙い。

だが重要なのは製作者であるゴルドに逆らった事であった。

 

「このっ…!この…!!」

 

無遠慮にロシェよりも細く危ういその体をゴルドの魔術が無遠慮に襲った。

その様子を眺めながらバーサーカーは小さく呟く。

 

日輪よ(カヴァーチャ)…」

《バーサーカー!》

「!」

 

ピタリとバーサーカーの唇が止まる。

そしてバーサーカーは自分が何をしようとしていたのか思い出して嫌悪感に顔を歪めた。

 

「止めてくれたこと感謝する。マスター」

 

無意識に近かったが彼女は手を出さないと決めたばかりなのにそれを反しようとしたのだ。

馬鹿げたことをする、と口の中で呟いた。

創り手の都合でもみくちゃにされるホムンクルスが一瞬だけでもカルナに被ったなど。

 

(馬鹿げたことだ。カルナは死ななかった)

 

目の前で作り物の命を終えようとするホムンクルスを見下ろして目を細めた。

彼女は善人ではない。

ただ1人が幸せとなる為になら文字通りなんだってする、それが彼女であった。

生前も必要であったならこのような犠牲はよくあった。

ただそれを、そうまでしないと1人の幸せも得られなかった世界を嘆いた事は彼女が1番に知っている。

 

「どうして!今になって!もう間に合わないよ!」

 

いつしか閉じていた目を開ける。

ゴルドは倒れ、アストルフォがホムンクルスを抱いて泣いている。

 

(間に合わなかった…か)

 

動かなかった事に後悔はない。

ただ後味悪いとは思った。

 

「…ぐっ、…ぅう…!」

「__セイバー?、セイバー、お前は何を…!」

 

呻き声が聞こえて振り向いて、バーサーカーは喉からひしゃげた様な声を上げた。

ジークフリートが自身の心臓を取り出そうとしている。

現れたルーラーが必死に止めるも彼は気にせずに横たわるホムンクルスに心臓を入れる。

ガシャリと煩わしい音を立ててジークフリートは岩に腰掛ける。

心臓が抜けたのだ、力なんて出るはずがない。

 

「俺は、誰かの願いを叶えるのではなく自分の願いを叶えたかった。欲深で浅ましいと思うが、その願いを捨てきれなかった。1度でいい。自分の意思で誰かを助けて、それを誇りにしたかったんだ。請われることが無くとも、願われる事が無くとも、ただそうしたいとずっと思っていた」

 

まるで懺悔の様な響きの声で満ち足りた顔をしたジークフリートにルーラーもアストルフォも愕然とする。

その様子をバーサーカーは他人事のように呆然と見て、ハッとした。

 

「セイバー。お前、カルナとの再戦を棄てるのか?」

 

バーサーカーは自分の声が震えていることに驚いた。

セイバーはそんなバーサーカーに小さくすまない、と謝った。

カッと頭に血が上る。

 

「再戦を諦める事は心残りだが…もう彼を助けるにはこれしか無いだろう。俺に2つの願いを叶える資格は無かったらしい」

「セイバー、…セイバーお前っ!」

《!、バーサーカー何を》

「黙ってくれマスター!」

 

バーサーカーの体は震えていた。

それは確かに恐怖では無かったが、怒りでもなかった。

バーサーカー自身何故震えているのか分からないのだ。

ただ諦めたような物言いはバーサーカーの腹奥で燻った。

願いを叶える資格がない?そんな言葉は聞きたくなかった。

何かを察したのか窘めるように声を掛けてくるマスターを黙らせて髪飾りを外す。

自分自身何をしようとしてるのか分からなかったバーサーカーであったが、その行動で自分が何をしようとしているのか理解した。

 

日輪よ、慈しめ(カヴァーチャ・デイヤール)

 

髪飾りが輝きを放つ。

炎が輪を作り回転を始めた。

日輪よ、慈しめ(カヴァーチャ・デイヤール)

それはカルナの身に着ける黄金の鎧から分かれた髪飾りであり、生前カルナがバーサーカーへと贈った婚約の証であった。

黄金の鎧の特性である無敵性と回復力をしっかりと受け継いだそれはバーサーカーの手に渡った事によりカルナ以外の者に対しても傷を癒す力があった。

 

それでも既に心臓を手放した者が生き返る程ではない。

傷を癒すものの、蘇生を可能にする宝具では無いからだ。

 

「__傷が、」

 

だがサーヴァントとは既に死んだものの身であった。

魔力で構成されたその肉体は、生き物に不可能な事も可能に出来てしまう。

 

「バーサーカー、その宝具は…」

 

ジークフリートが消えないのだ。

核の心臓を失っても。

ゆっくりと静かに髪飾りの炎が消える。

すぅ、と息を吸うバーサーカーを森が微笑むように揺れた。

 

「すまない、バーサーカー」

「謝罪を、するな」

「しかし…いや。ありがとう、バーサーカー」

 

ゆったりとした動きで顔を上げたバーサーカーが一瞬酷く安心したように笑んで見えて向かいにいたセイバーは言葉を失う。

瞬きをしたバーサーカーは既に無愛想な顔に戻っていたが。

 

「私の宝具を使ってお前の霊基を編み直した。再び死んだとしても、このホムンクルスの中に入れたお前の炉心である心臓が稼働し続ける限り再度編み直す事が出来る。髪飾りが壊れたらもう無理だが、それでも…お前が願いを叶えられない何てことは無いはずだ。…ない、筈だ」

 

最後の言葉を噛み締めるように小さな声で言ったバーサーカーにジークフリートはその言葉は自身に宛てられたものでは無いと気が付いた。

不意に口をついて言葉が出た。

 

「俺はそんなにお前の夫に似ていたか」

「___二度と、口を開けぬようにしてやろうか」

 

ドロリとした悪意がバーサーカーの目に宿る。

執念の類のそれをジークフリートは1度見たことがある。

カルナとの戦いを預かりに来た時であった。

今の言葉がきっかけと言うべきか狂化が強まった彼女に、地雷であったと悟ったジークフリートは謝罪をした。

 

「これは何の騒ぎだ」

 

ピシリと空気が凍った。

 

 

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