Fate/Apocrypha 英雄カルナの妻   作:星空 柚木

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第六話

「余は脱走兵を連れ戻せと命じた筈だ。この状況はなんだ」

 

黒馬の上から冷たく厳しい視線を投げ掛けてくるヴラド三世に睨まれるバーサーカーはぐっと息を飲んだ。

仕方の無い事であったが、ヴラド三世はバーサーカーを信用していない。

この現状もバーサーカーが故であると当たりをつけていた。

 

「待ってくれ。これはバーサーカーが原因でない。バーサーカーは俺の消滅を食い止めてくれただけだ」

「___…ほう?セイバー、今何といった。もう一度申してみよ」

「この状況は全て俺のせいだ。バーサーカーは何も悪くは無い」

 

その言葉にヴラドは目を顰めた。

彼からして見ればセイバーは自陣営のサーヴァントの中で最も信用し期待出来る兵であった。

 

「…ぅ、ウウ、ゥァ…ああ"!」

「ちょっと!どうしたの?!」

 

突如静かに倒れていたホムンクルスが呻き声を上げ苦しみ出す。

それを散る蜘蛛の子を見るような目で見下ろしたヴラドは地面に倒れているゴルドを連れて行くように命じた。

後はアヴィケブロンの宝具の炉心となりうるホムンクルスの回収だけであったが、様子を見る為にホムンクルスに寄ったバーサーカーの言葉に思わず言葉を失った。

 

「セイバーの心臓を馴染ませようとしてるんだ。ホムンクルスの身は魔力と馴染みやすいから、定期的な痛みはあるもののすぐ馴染むはずだ」

「良かった、生きてた!」

 

髪を梳く様にホムンクルスを撫でたバーサーカーはヴラド三世へと向き直る。

 

「このホムンクルスの体内にセイバーの心臓がある。彼が死ぬ時がセイバーの消滅の時であると理解しろ。炉心に使うと言うならそれはセイバーの殺害を意味する。その時は私はカルナとセイバーの再戦を預かる身として今度こそお前に槍を向けよう」

 

その場にいた誰もが目を見開いた。

ヴラド達はセイバーが心臓をホムンクルスに渡した事に、セイバー達はホムンクルスに無感情であったバーサーカーが責を一心に背負おうとしている事にだ。

誰もを黙らせたバーサーカーはそのままルーラーに振り向く。

 

「ゴルドは倒れ、ホムンクルスが生き残った。なら勝者には欲したものを与えるべきだろう。そのホムンクルスはこちらで預かる訳には行かない。勝者が搾取される等あってはならないからだ。お前に言うことではないが、ルーラー。そのホムンクルスを助けてやって欲しい」

 

"助けを"。

そうバーサーカーは口にした。

それはセイバーの願いそのものであった。

彼女はセイバーの願いを叶えようとしている。

時代、背景、性別。

その全てが異なって尚バーサーカーはセイバーに何かを感じた。

それがセイバーの言った夫であるのかは分からないが、ルーラーは立ち上がって旗をとった。

 

「我が真名はジャンヌ・ダルク!ルーラーの名において、この者の身は私が預かります!」

 

 

 

「バーサーカー、起きているか?」

「サーヴァントに睡眠は不要だ。マスター」

 

薄暗く湿った匂いが不快でカウレスは眉を顰めた。

ルーラーがホムンクルスを連れて行った後バーサーカーはその身を拘束され独房へと連れて行かれた。

その手をキャスター_アヴィケブロンの魔術により拘束されたバーサーカーは自身を訪ねてきたマスターに恬淡に返事を返した。

 

「ここは嫌だな。気味が悪い」

「そうだな。だが生前捕虜として捕まった時よりも扱いは良い。手駒として使い潰さないようにしてるからな」

「バーサーカーでも捕まるんだな」

「マスターは私の何を見た?見ての通り生前から敵の数は知れない」

 

ああ…とカウレスは納得した声を出した。

眼前の彼女は腕も脚も拘束され首も動かせれない状況でありながら変わりのない様子でいた。

このふてぶてしい態度を気に入らない者も数多く居ただろう。

 

「困った事はないか?」

「隣の住民が煩いな」

「おお!!圧政者よ!この身をもって汝を叛逆せん!!」

「あー…赤のバーサーカー。暴れてもその拘束は取れないから大人しくしてたらどうだ?」

「圧政ィイイイイ!!」

「な?」

 

同意を求めるように言ったバーサーカーにカウレスは引き笑いを浮かべた。

拘束に成功しこちらに引き入れたという赤のバーサーカーは魔術の掛けられた拘束具をぎしぎしと音を立て蠢いていた。

 

「それでなんの用だった?マスター」

「少し出掛けようと思うんだ。ここに顔を出せない代わりに来たがってる奴を入れる為扉を開けてもいいか?」

「む、私の顔を見たいヤツがいると?いいぞ」

「入っていいぞ!二人とも!」

「はいはーい!おっ邪魔しまーす!」

 

バーサーカーが返すや否や地下牢の扉を軋ませた音を立てて薄暗い場に不似合いな着飾った美青年_アストルフォが入ってくる。

その背後をセイバーが続いた。

 

「じゃあ、俺は出るからバーサーカーは大人しくしていろよ」

「ああ。マスターも出先では大人しくしているべきだ」

「分かってるよ。行ってくる」

 

そう言って地下牢を出ていったカウレスを見送る_と言っても首も動かないバーサーカーはその気配が遠くなるまで黙っていただけであったが。

 

「マスターへの芳心はもういいのか?」

「それについて尋ねたい。マスターの令呪が消えているんだ」

「ああ…だろうな。この聖杯戦争でお前は既に脱落兵扱いで、今ははぐれサーヴァントの様なものだ。魔力は私を通して供給されているだけのな」

 

そうか、と呟いてジークフリートは黙る。

元より彼も口数は多くなかった。

それをバーサーカーは苦に思うほど騒がしくもない。

だがアストルフォにとっては苦であったし、彼もまた報告したい事があった。

 

「でもでも、ランサーも酷いよね。あの子を連れ出したのは僕だって言ってるのに聞く耳持たないんだもん」

「多少のバツは受けていただろう」

「そうだけど…何もしてないバーサーカーに罪を全て着せるのは納得出来ないなぁ」

「何もここで殺されるわけじゃない。ランサーも寝た子を起こしたくないんだろう」

「そうかなぁ…。……あの子、無事だといいなぁ」

「無事だろうさ、きっとな」

 

滔々と返すバーサーカーにアストルフォはうん。と頷いた。

 

「ありがとね、彼を助けてくれて」

「ただの判官贔屓だ、褒められた事でない」

 

その言葉にアストルフォとジークフリートは揃って笑みを浮かべた。

 

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