Fate/Apocrypha 英雄カルナの妻 作:星空 柚木
好いた男を幸せにしたかった。
女は人間であったが、破壊神の愛娘として森に囲われ天女として生きていた。
決してそれは優しいものでなく、その唇を花の蜜で濡らし朝日を待つこともあった。
けれど女は生き、好いた男へと毎日生き物の肉を贈っていた。
「お前が毎日肉を贈る者か」
女の住む森を男が訪ねた。
肉が説明もなく毎日贈られ、遂に怯えた両親を宥める為の確認であったが、女は好いた男を近くで見る事に驚いた。
それからというもの男は毎日森へ訪れた。
どちらともなく密会を続けた。
女は男を護りたいとその想いを募らせた。
いつしかそれは、男の側でと思うようになった。
「私を守って欲しい。結婚してくれ」
「了承した」
自らを女性的でないと思う女は心優しき男が断れぬ様にと"嘘"を着いて結婚を申し込んだ。
それを男は見抜いていながらも女の申し込みを受け入れた。
女は男と結婚した。
男を確かに愛した女は貴族へ王へ、神へと恐れること無く立ち向かった。
恐れを知っていたが、抱かなかった。
夫の鎧が奪われて初めて恐れを抱いたのだ。
取り返す為に神域へと殴り込みに赴く。
その様に女の父である破壊神が問いかけた。
「何故そこまでする」
「夫を受け入れる世のためだ」
「そんな世は不可能だ」
「ならばこの世を壊して再び作り直そう」
「ならば戦に立ちはだかる神をそのどこまでも人の身である体で殺してみせよ」
女は見事人の身で神を討ち取った。
破壊神は女に褒美として力を渡したが、女は以来戦場に立つことは無かった。
同時に夫も、戦場を去った。
世界は夫を受け入れた。
だが夫が幸福であったかは死ぬ時でさえも口にしなかった。
果たして彼女は夫を幸せに出来たのか。
もし、夫が幸せで無かったのなら女が着いた"嘘"は一体何を護ったことになるのだろうか。
「___、夢か…」
流れる様に客観的に見せられたその出来事にカウレスは寝汗を拭いながら起き上がった。
昨夜、カウレスは赤のセイバー陣営に仕掛けたフィオレを心配して跡を付けた。
フィオレが危なくなって思わず手を出したが、それについてフィオレにサーヴァントも連れていないのにと怒られてしまった。
カウレスのサーヴァント_バーサーカーは城の地下牢にいる。
領主であるランサーに警戒されたが故の扱いであった。
彼女は牢に入れられて尚滔々と変わらない不遜な態度で扱いが良い等と言っているからマスターである自分も毒気が抜かれてご飯を食べ終えたらバーサーカーの食事を持って牢へと向かう様になっていた。
「バーサーカー、朝食だ」
重い地下牢の扉を開ける。
薄暗く黴臭い中自身のサーヴァントの牢の前に一人の男がいるのが見えた。
「アーチャー」
「どうも、お邪魔しています」
バーサーカーが牢に入れられて長くは無いがセイバーとライダーはよく顔を出していた。
だがそのどちらでもない清廉な青年は変わらない森のような雰囲気でカウレスに解釈をした。
「何か話してたか?」
「赤のライダー、アキレウスについてです」
「アキレウス…そっか。アーチャーの教え子だったな」
「ええ。彼はバーサーカーに狙いを定めたので私の知り得る限りの情報を伝えておこうと思いまして」
にこりと微笑んだアーチャーにカウレスは手に持つ食事をバーサーカーの前へ置く。
手錠は外せないが食事の時だけバーサーカーは腕を自由にできる。
凝ったと言わんばかりに肩を回したバーサーカーは手錠を揺らしながら食事に手をつけた。
牢のパンと言うには柔らかく上質なそれを口に入れながらバーサーカーは言った。
「勝てるかどうか、微妙なとこだな」
「バーサーカーでもか?」
「相手はアキレウスだぞマスター。私の宝具は神造兵器だし、生前神殺しも果たしてる分幾つかは有利に回るだろうが…相手が不死性を持っている中私の
バーサーカーに神性スキルは無い。
だが生前の神殺しの因果から彼女は神性を殺すことが出来る。
その上彼女の武器は神造兵器であったからこそアキレウスを傷つける事が出来たのだ。
彼の不死性はバーサーカーを前にすると効果をなさないが、彼女の回復宝具が使えない今2人がぶつかるとしたら消耗戦であった。
彼女は確かにアキレウスを傷付けられて有利ではあるが、消耗戦に持ち込まれるとアキレウスには勝てないだろう。
彼女は気の持ちようにより勝利を収めた者。
アキレウスは鍛え抜かれた武を持って勝利を収めた者だ。
バーサーカーの気合が入らない限り負けるのは想像出来た。
「狂化が強まらないと結果は分からんが、如何せんこの狂化は自分では弄れないからな」
ゴクリとお茶を飲み干したバーサーカーは小さく手を合わせて食事の挨拶を言った。
「何にせよ、向こうもそろそろ攻めてくるだろうな」
・
「どうやらバーサーカーが牢に入れられたみたいですね」
「なんだよそりゃあ。アイツ戦場に出ないって事か?」
「いえ。戦場と共に牢から出されるはずですよ。彼女は大きな戦力ですからね」
絢爛豪華な玉座の間。
玉座に座る皇女_アサシンセミラミスのマスターであるシロウは玉座に浮かび上がる監視映像を見ながらそう口にする。
ライダー_アキレウスはバーサーカーが戦場に出ると聞き、持ち上げた腰を再び落ち着けた。
「にしても何で牢になんか入れられてるんだ?」
「何かの策でしょうか。彼女程の戦力を隠すのです。策と言うならば警戒した方がいいですね」
「嫌。それは無いだろう」
ガシャリと鎧の音を立ててその場に赤のランサー_カルナが現れる。
カルナの入室をシロウはニッコリと笑って受け入れた。
「それは無い、とは?」
「アイツは確かに大きな戦力となるが、目上の者に好かれる質ではない。此度もきっとあちらのランサーを怒らせたのだろうな」
「随分と愚かな女よな。無策に衝動がまま突き進む…まさにバーサーカーよ」
「ランサーと黒のセイバーの勝負を預かったのも衝動でしょうか」
「はァ?あいつそんな事までしてたのか」
アキレウスにして見ればバーサーカーの突飛な行動は好敵手として認めた今面白くて堪らない。
その様子にシロウは困った様に笑んだ。
「にしてもランサー。よく知った仲みたいに言うが、知り合いか?」
「貴様、正気か?」
「あ?何がだよ」
アキレウスはバーサーカーの真名について教えられたが彼女の生前を調べてはいない。
聖杯による知識でアキレウスはバーサーカーが突飛な行動をする愛に生きた女と言う事しか知り得ていなかった。
「彼女の生前は俺の妻だ」
「___はァ?!」
ライダーは滔々と話すランサーをギョッとして見た。
生前の知り合い所か、最も関わり深い者だ。
夫婦で別陣営等、アキレウスにして見たら酷いと言わざるを得ない。
ハッとして慌てて辺りを見回す。
あの五月蝿い作家が喜んで食いつく話であると思ったからだ。
「キャスターはランサーと黒のセイバーの戦いの時既に真名を聴いていますよ。今は執筆中かと」
「遅かったか!」
キャスターが何をしようとアキレウスには興味は無いが好敵手と認めたバーサーカーが辱められる様な事は許せそうにない。
認めているからこその、その態度にカルナは興味深そうにアキレウスを見た。
「随分とアイツを気に入っているのだな」
それは聞き手によればカルナが嫉妬をしている様に取れてしまう言い方であったが_最も彼がどういった意図でそう口にしたのかは彼しか知らない。
ただそれを聞いたセミラミスとマスターは意外そうにカルナを見て、言われたアキレウスはしまった。と顔にありありと浮かべた。
・
「___来たか」
「来ましたね」
ぽそりとバーサーカーが呟く。
その言葉に応えるように呟いたケイローンにバーサーカーのマスター_カウレスは緊張に唾を飲み込んだ。
ギイィと音を立てて地下牢の扉が開かれる。
金色の仮面を付けたサーヴァント_キャスターが面会者の2人牢に入れられた2体のバーサーカーを見て仮面越しに口を開いた。
「___聖杯大戦が始まる」