ナザリック宝物殿。全10階層からなるナザリック地下大墳墓において、どの階層からも足で赴くことが叶わない場所。その内部はギルド”アインズ・ウール・ゴウン”が溜め込んだ財宝が収められている。 天高く積み上げられた燦然と煌めく金貨・宝石・宝剣の山々を保管する第一の部屋。
そこを抜けた先に、談話室があり、アインズは
(今のところネイア・バラハに渡っているのはカルネ村のドワーフに造らせているルーン武器……ただ、実戦で使用出来る領域には程遠く、研究は途上、匕首ほどの短い鋼の刃に6つの文字がまだ限界。これをナザリックの技術流出と捉えるべきか、それともナザリックが誇る技術の流布と捉えるべきか。)
「パンドラズ・アクターよ、ルーン武器をローブル聖王国……正確にはネイア・バラハ率いる団体へ持たせることをどう考える?」
パンドラズ・アクターは舞台俳優さながらに、床を軍靴で打ち鳴らしながら姿勢を正し、仰々しく頭を下げた後、カッ!と首だけで頭を上げ答えた。
「はい!我が創造主たる偉大にして至高なるアインズ様!ローブル聖王国は遠からずアインズ様の思うがまま、その慈悲深き御手に導かれたる
宝物殿という性質上、メイドや
(それにしても、帝国の闘技場で俺が言いたかったことを代弁してくれるなんて、思った以上に賢い子だ。……ちょっとあの熱狂ぶりはどうかと思うけれど。これは褒美が必要だよな。勿論シズの友人としてのお土産は渡すつもりだったけれど、信賞必罰は世の常。褒美は別に考えるべきだ。あまりナザリックの技術流出にならず、それでいて喜んで貰えるものか……。)
「パンドラズ・アクターよ。ネイア・バラハの見事な働きを讃え、わたしは褒美を与えたいと考えている。何が適当であるか?」
「おお!アインズ様御自ら、麗しき
人間なら確実に胸椎と腰椎がおかしくなり、腹筋が千切れるのではないかというくらい仰け反りながら、左手を胸に当て、右手は天に向け指をワキワキと動かしている。
「であれば、100万からなる可憐な花束を……」
「お前に聞いたわたしが馬鹿だった!」
(やっぱりデミウルゴスかセバスに聞くかなぁ。ネイア・バラハの率いる団体がどんな困難に直面しているか一番知っているのはデミウルゴスだろうし、〝娘の友人への贈り物〟でまともな返答が得られそうなのがセバス。アルベドへ相談は……絶対止めた方がいいな。)
「ああ、アインズ様。
(う~ん。一応エ・ランテルでの移動は、
「お前ならばわたしの計画、その意図を読み解き、不慮の事態があっても問題無く修正できるだろう。蒼の薔薇の処遇については、お前に一任しよう。」
パンドラズ・アクターは感激したように軍帽を正し、カツンと軍靴を鳴らして足並みを整え、深々と頭を下げ、最早決め台詞となった言葉を発する。
「
(うわぁ……。やっぱダッサイわぁ……。)
そうしてもうひとつアインズが気がかりになっていること……。それはネイア・バラハの職業レベルと総合レベル、そして異常なる扇動家の能力だ。
(死からの復活で
思考を中断するように、パンドラズ・アクターが話し掛けてきた。
「話は変わりますがアインズ様、
「ああ、それは簡単だ。シズには現在七日の休暇を与えている。休暇中に職場から掛かってくる連絡ほど鬱陶しいものなど、早々ないからな。休暇を満喫してもらう配慮に過ぎん。」
「おお!!休暇!アインズ様がかつてあれほど熱望し渇望し切望された休暇を!!その御身ではなく、部下に分け与えるとは!!何と慈悲深い!」
(あ~、そうだよなぁ。ユグドラシル時代はボーナス期間中なのに仕事があって行けず、よく愚痴ってたもんな。本当に重要なイベントボーナスには有給を貰ってたけれど、通らなかったことも多かったし。)
思わず過去の仲間たちとの思い出を追想して、温かくも寂しげな気持ちになる。アンデッドの身体になってから、精神面のあらゆる思考基盤が変化したが、ユグドラシルとナザリックの思い出だけはひとつも色あせない。
「パンドラズ・アクターよ、もし機会が有ればお前にも休暇を与えるが、何を行う。」
「愚問で御座います!アインズ様!!」
パンドラズ・アクターは今にもオペラを歌い出しそうなポーズを取り、断言する。
「この宝物殿で、至高なる御方々の残したマジックアイテムに触れ合い、その心を癒す時間とさせて頂きます!」
「お前に聞いたわたしが馬鹿だった!」