ネイア・バラハの聖地巡礼!   作:セパさん

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バハルス帝国 ④

 闘技場観戦を終え、宿屋で1泊し、朝早くにシズとネイアは湯浴みをして仕度を調え、玄関へ向かう。本日はバハルス帝国の帝都アーウィンタールの観光を夕方まで行い、宮廷に招かれる予定だ。案内役は伏せられていたが、迎えに現れた人物を見てネイアは魔導国に来て何度目か解らない驚愕に陥る。

 

 そこにいるのは麗しい金髪の眉目秀麗なカリスマ性を感じる男性、皇帝ジルクニフ・ルーン・ファーロード・エル=ニクスであった。

 

「シズ・デルタ様、ネイア・バラハ様。この度は帝都のご案内の責務をアインズ・ウール・ゴウン魔導王陛下より賜りました、魔導国管轄バハルス帝国皇帝ジルクニフ・ルーン・ファーロード・エル=ニクスです。帝都においてお二人に良き思い出が残るよう尽力させて頂きますので、どうぞよろしくお願いします。」

 

 そう言ってジルクニフは爽やかな笑顔を浮かべ、静かに会釈した。

 

「こ、こちらこそよろしくお願いします!!」

 

 ネイアは慌てて深々と一礼をする、それを見てシズも首だけでコクリと礼をした。ネイアからすればバハルス帝国皇帝と聞いて連想するのは、〝鮮血帝〟〝若くして大陸に覇を唱えた大国指導者〟であり、一言で言えば天上人だ。

 

 <転移門(ゲート)>を潜り直接出迎えられた時も仰天したが、まさか帝都の案内人にまでなってくれるなど、思ってもみない。ここまで特別扱いされてしまうと、いよいよ頭が狂ってしまいそうだ。

 

(アインズ様から賜ったと言っていたけれど、どのようなお考えから?あの慈悲深い陛下の事だから、見せしめなんて真似をするはずもない。でも皇帝自らが観光案内?何がどうなっているの!?)

 

 むしろあの冗談の下手な魔導王陛下のドッキリだと言ってくれと、心が悲鳴を上げるが……

 

「朝食はまだとられていないのでしたね。この宿屋の朝食も絶品ですが、帝都風の朝食で美味しい店がありますので、是非ご一緒いたしませんか?」

 

 ネイアは一も二もなく頷き、その後シズを見る。シズも構わないといった様子だ。

 

「ではご案内させていただきますね。」

 

「あ、あの陛下!陛下に敬語を使っていただけるのは光栄ですが!わたくしはあくまで客人です!くだけた話し方でおねがいします!シズ先輩はともかく、わたしは様付けもいりません!」

 

「そうですか……。じゃあ、わたしの馴染みの店に案内するよ。ではシズ様、ネイア殿、今日は楽しい一日になるよう努力させてもらおう。ああ、わたしの名前を呼ぶときは気楽にジルクニフで構わない。」

 

「はい!」

 

 

 

「いらっしゃいませ、ジルクニフ陛下。そしてシズ様、ネイア様。」

 

「リリーア、今日の賓客はシズ様とネイア殿だ。わたしの名を優先しないでくれたまえ。」

 

 ジルクニフは挨拶をしてきた店員の女性を軽く窘めるように諭す。女性は慌てて、名前を訂正し、謝罪した。店は広くは無いが、ゆったりとした印象を抱かせる柔らかなグレーを基調とした壁で、木のテーブルもよく手入れが成されている。シズとネイアは当たり前の様に上座に座らされた。

 

 出てきた料理は甘さの強い、それでいてクドくないもちもちのパン、サクサクのビスケット、ベリーのジャムを使ったヨーグルト、甘みと酸味が調和した果実の飲み物だった。皇帝は〝既に朝食は済ませたから〟とドリンクだけを飲んでいる。

 

「飲み物以外は伝統的な帝国のモーニングなんだ、ひょっとしたら味気ないと感じたかもしれないが……、その心配は無かったようだね。」

 

 無言の答え、完食された皿をみてジルクニフは安堵の笑みを浮かべた。シズは物足りなかったのか、おかわりを所望している。

 

「さて、これから帝都を案内したいと思うんだが……。その前にネイア殿は、わたしに聞きたいことが沢山あるんじゃないかな?幸いにもまだ帝都の劇場も楽団も美術展も開演まで時間がある。」

 

 ネイアからすれば聞きたいことは確かに山ほど有る。しかし〝属国になってどんな気分ですか?〟なんて言葉の刃物を刺す度胸はネイアには無い。目の前の皇帝は数ヶ月前まで大陸有数の超大国、バハルス帝国臣民800万人の命を双肩に担う賢帝だったのだ。

 

「ふむ。とはいえ、いきなり何を聞いていいかも迷うところだろう。では包み隠さずこちらから話そう。魔導国との属国協定を調印するにあたり、大きく変わったのは2つ……〝魔導王及びその側近の絶対性を法で明文化すること〟そして〝死罪に相当する罪人を引き渡すこと〟だ。」

 

「はぁ……。」

 

「君の前でこんなことを言えば不愉快に思うかも知れない、しかし偽り無く話すと、最初罪人の引き渡しを聞いたとき、さぞ残虐な目に遭わされるのだろうと思ったよ。」

 

「……!魔導王陛下はそんな方では!」

 

 魔導王陛下を馬鹿にする者は、相手が皇帝だろうとドラゴンだろうと容赦しない。だがネイアの激発を、ジルクニフは手でさえぎる。

 

「しかし逆に死罪相当として送った罪人が一度、実は濡れ衣であると戻されたほどだ。帝国の法機関に見る目が無かったと痛感させられたね。」

 

 ネイアは見るからに安堵の表情を浮かべる。やはりアインズ様は罪人に対してでも聞く耳を持ち合わせ、正しい道へ導く偉大なる御方であると実感した。

 

「ネイア殿は属国についてどれくらい知識があるかな?」

 

「恥ずかしながら、全く御座いません。」

 

 開き直りに近いほど堂々と宣言した。ネイアは政治とは無縁の生活を営んでいたのだ、国同士の繋がりさえ未だ手探りで勉強中なのに、属国の話など解るはずがない。

 

「君が聞けないでいる事をわたしから言おう、こんな属国は有り得ない。断言できる。」

 

「……それは。」

 

 良い意味なのか、悪い意味なのか。ネイアは唾を呑み込む。

 

「もしわたしが他国を属国とするならば……、そうだね。場合にもよるが、基本は多大な賠償金で縛り付け、領土を没収し、軍事力を解体させ、産業となりうる工業地帯や鉱山地帯といった地方を制圧する。あと、叛乱分子による武装決起が予想されるから、属国を支配させる人間に義勇軍を与え反乱者は即座に抹殺させるだろう。もちろん帝国側から間者を送り込み、属国の自国民同士で争いを起こさせ、殺し合わせ、憎しみ合わせることも忘れない。それが属国の……敗北し搾り取られる国の正しいあり方だ。」

 

 ジルクニフの双眸に宿った妖しい光にゾワりと鳥肌を立てる。目の前には間違い無く、バハルス帝国を大国として発展させた〝鮮血帝〟が居た。

 

「だが、魔導王陛下はわたしに自治権を認めてくれた上、見てきたように民達も平穏に暮らしている。未だアンデッドへの忌避感は残っているし、神殿勢力は反対の立場になっているがね。……っと、ローブル聖王国からいらしたネイア殿に、神殿勢力の面倒さを説くのは、魚に泳ぎを教えるようなものか。」

 

「はい!神殿ときたら、わたし達の同志に対し治癒を拒否するなどという無慈悲で非人道的な差別をおこなっております!幸い聖王陛下の理解によって薄れつつありますが、帝国にも同じような出来事が?」

 

「もちろんあるとも。何しろ治癒魔導は神殿の独占業務と言って過言ではない。……なので、ボイコットが一度あったが、その時は魔導王陛下が無償で治癒魔法に長けた亜人を送って下さり、今や神殿の地位は下り坂だ。」

 

「流石は魔導王陛下!!しかし……属国に対してもこれだけ寛大かつ慈悲に溢れる統治をされるというのは、やはり力をもち、尚かつ優しく正しい心を持っているからなのですね!」

 

「あ、ああ。そうだね。ネイア殿の言う通りだ。」

 

(やはり力を持ち、その力を正しいことに使う事。それを行えるアインズ様こそが正義なんだ!!)

 

「…………食べた。難しい話は終わった?」

 

 二人が熱弁している間に、シズはモーニングを20皿平らげていた。

 

 

 

 

「…………む。あの店。」

 

 昼も近づいた帝都。その一角にあったのはファッションブランド店だった。

 

「ああ、帝国はファッションにも力を入れていてね。特に帝都では……」

 

「…………これください。」

 

 ジルクニフの話が終わらない内にシズは店内に入っており、ネイアが慌てて追いかけ、ジルクニフもそれに続く。シズが手にしていたのは、ヒヨコを丸くしたようなアクセサリーだった。そしてひとつを無言でネイアに手渡す。

 

「…………ん。」

 

「え?シズ先輩?」

 

「…………お揃い。」

 

「いいんですか?」

 

 ネイアはシズと一緒のアクセサリーを首からかけて、思わず笑みがこぼれる。

 

「…………かわいい。」

 

「そんな……。」

 

「…………ネイアは可愛くないけれど。」

 

「ええ!絶対言うと思ってましたとも!」

 

 ジルクニフは終始マイペースなふたりの少女に振り回されながら、夜にやっとふたりを宮廷へ招くことが出来た。




 モーニングの内容と、ファッションに力を入れている設定はローマ帝国から持ってきました。コロッセオ(闘技場)もあるし、参考にしてもいいよね!……となると、湯浴みは大浴場でのお風呂になるか?

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