ネイア・バラハの聖地巡礼!   作:セパさん

20 / 84
 ネイアちゃんは出てきません。プレアデス達に遊ばれて忙しいです。というかヒロインが出てこない誰得話です。


番外編 ローブル聖王国

「バラハ様は現在聖地……アインズ・ウール・ゴウン魔導国へ赴かれております。何分急遽決まったものでして、申し訳ございません。ええ、予定しておりました辺境伯様への食糧や飲料水の貸し出しは滞りなく行わせて頂きます。こちらの羊皮紙に割り印と署名を頂ければ直ぐにでも。」

 

 ローブル聖王国北部に本拠地を置く『魔導王陛下に感謝を送る会(仮)』は、多くの元秘書や書記を行っていた文官が書記次長ベルトラン・モロの元、寄せられる感謝の手紙や、救いの手紙、入会希望者の整理、支援物資の選別などを行い、夜でも灯りが絶えない忙しさとなっている。

 

 救国の英雄にして、伝道師ネイア・バラハの元には多くの支援品が届き、それを感謝を送る会は、復興の手が届かない地域へ惜しみなく送っている。その行動は未だ餓死者さえ出かねないヤルダバオト襲来の爪痕が強く残る地方への支援となっており、各地から多くの感謝が寄せられている。「アインズ様ならば国の復興に見返りなど求めない」というバラハの意見もあり、復興支援にあたって、魔導王陛下の布教活動は行っていない。アンデッドを憎む人々への差別もしない。

 

 それが逆に、好意的に受け取られ、感謝を送る会は益々の躍進を遂げていく。

 

「書記次長、大丈夫ですか?ここ数十日眠るどころか、お休みをとっている様子さえ見かけませんが……。」

 

「ああ、今尚国内には家族を失い、食糧も届かず餓死寸前の民がいるのだ。何よりバラハ様より事務方の長を拝命された身、わたしだけ休む訳にはいかないだろう。」

 

「バラハ様が聖地へ赴かれてから、同志たちや民衆から感謝や魔導王陛下へ関する問い合わせが殺到しております。バラハ様でしたら一度壇上に立つだけで全てを抑え切れたのでしょうが、我々の力では……。」

 

「魔導王陛下がお認めになるだけあり、バラハ様も優秀なる指導者ということだ。誇らしい話ではないか。聖地へ巡礼されている間は、我々で対処し、バラハ様のご負担を少しでも減らさなければならない。」

 

「しかし先程の辺境伯は傲慢な野郎でしたね、こちらが食糧を貸し出すというのに、踏ん反り返って礼すら言わない。」

 

「ああ、本当に食糧が民へ渡るか不安が残る。密偵を付かせて、私腹を肥やすようであれば、即座にカスポンド聖王陛下へ陳情し、こちらで直接炊きだしの班を組み向かわせろ。」

 

「畏まりました。レンジャー技能に長けた親衛隊を向かわせます。……差し出がましいようですが、やはり顔色が優れません。何か御座いましたらお呼びしますので、休息をお取り下さい。」

 

「ああ……。頭が働かない状態で仕事は出来ないな。我々の失策は魔導王陛下への背信となる。少し休ませて貰うよ。」

 

 

 ……ベルトラン・モロが、ネイア・バラハ暗殺未遂の報告を受けたのはその3時間後だった。

 

 

 ●

 

 

「真なるローブル聖王国の民よ!! 聞くのだ! ヤルダバオト襲来は魔導国、あの忌々しいアンデッドが仕組んだものだ! 我々はまんまと騙されたに過ぎん! お前達の家族を殺したのも、国を瓦解させたのもあのアンデッドなのだ! 目を覚ませ! 我が国の正義を示せ!!」

 

 痩けた頬に幽鬼の様な目だけを異様にギラつかせるのは、元は聖王国最強の聖騎士と謳われたレメディオス・カストディオ。彼女は首都ホバンスで、粗末な木の箱に乗り、演説を行っていた。美しかったであろう面影だけが残り、以前は聖剣を携えていた腰には、粗末な訓練用の剣が提げられている。

 

 彼女の演説に耳を貸す人間は居ない。ある者は目を伏せ、ある者は敵意の眼差しを向け、ある者は憐憫の眼差しを向けながら素通りしていく。……聖騎士団の団長であった時分ならば、大勢が集まり傾聴しただろうが、彼女は今や堕ちた英雄。既に聖騎士団の所属ですらなく、なまじ腕が立つだけに誰も手出しも出来ない。主を失った彷徨う亡霊にも似た剣だ。

 

 彼女は迫り来る亜人の探索を命令され、それ以外は自宅待機を命じられている。聞こえは良いが、事実上の左遷であり蟄居という刑罰だ。亜人もいない平原をかけずり回って、ただ自室で一人過ごすだけの日々。そんな日々で想像に至った答えが今演説している内容だ。彼女は居ても立ってもいられず、処刑される覚悟で、自身の正しい考えを、正義を臣民に説く道を選んだ。それなのに何故自分がこんな眼差しを向けられなければならないのだ……。

 

 レメディオスは自らの確信した真理に耳を貸さない大衆へ強い怒りを覚える。あのアンデッドが憎い、そんな骨野郎を讃える、従者に過ぎなかったネイア・バラハが英雄視されるのが憎い、カルカ聖王女から王位を簒奪し、挙げ句ネイア・バラハの活動を後押しするカスポンド聖王が憎い、自分の非力が憎い。

 

 ……最早彼女は、余りにも多くを憎みすぎ、自分でも何を憎んでいるのか解らなくなっていた。

 

 

 

 

 聖王国王城の聖王に与えられた一室。そこでカスポンド・ドッペルゲンガーは長身の紳士を前に跪いていた。

 

「……レメディオスが以上の様に命令に背き、演説活動を始めております。処分した方がよろしいでしょうか?」

 

「見せ物としても見るに堪えない無様な姿ですね。個人的には不愉快なので処分したい気持ちですが、彼女の荒唐無稽な陰謀論がどれほどの影響力を及ぼすのか観察してからでもいいでしょう。」

 

「デミウルゴス様の仰せのままに。」

 

「しかし扇動家という駒ですか……。レメディオスにその才能はありませんが、南北の対立計画において才能を開花させる人物が居れば、様々な実験を行いたいものです。」

 

「弁が立つ人間を何名かご用意致しましょうか?」

 

「今はまだ結構。時が来れば計画書を送ります。職業の貴賎・性別・年齢・経歴・武功・精神状況……様々なケースを取り上げて各所に配置致しましょう。それでも偉大なるアインズ様がお造りになられた駒と比較すれば、どれも劣ってしまうでしょうね。全く、自分の無能を呪いたくなります。」

 

 既に独り言となっているデミウルゴスを見て、カスポンド・ドッペルゲンガーは深く頭を垂れた。

 

 

 ●

 

 

 バハルス帝国皇帝、ジルクニフ・ルーン・ファーロード・エル=ニクスは、対面に座る筆頭書記官のロウネ・ヴァミリネンの不穏な報告を聞くも、眉一つ動かさず平静を保っていた。

 

「そうか、やはりエ・ランテルでネイア・バラハが襲われたか。それで、相手は何者で、何人死んだのだ?」

 

 あの常に天上人の視点から鬼謀を巡らせるアンデッドのことだ、自分ですら推測出来た襲撃など、既に計算済みに違いない。要するに昔の自分だ、泳がされまんまと利用されたのだ。となれば街や民の被害状況など聞く時間さえ無駄というもの。

 

「ローブル聖王国南派閥の神殿勢力6名とのこと。上位三大天使に位置する座天使を召喚するにあたり、6名とも力に呑み込まれ消失いたしました。座天使は漆黒の英雄モモンが致命傷を与え、ネイア・バラハ自身が討ちとったとのことです。天使の軍勢を召喚した封印の魔水晶はスレイン法国より武器供与(レンドリース)されたものとされていますが、法国は事実無根であると完全に否定。まだ噂の域を出ていませんが、ローブル聖王国との国交断絶も視野にいれているとのことです。」

 

「切り捨てられたか、一応憐れんでやろう。」

 

 改めて属国となる以前、表では魔導国と同盟を組み、裏で人類による大連合の画策などという青写真を描いていた自分が滑稽に思える。最早ローブル聖王国には魔導国に従属する以外の道はないだろう。それもバハルス帝国のように、自治権が認められるという破格の属国扱いを受けられるかさえ分からない。

 

 『魔導王陛下に感謝を送る会(仮)』の勢力地である北部は慈悲を与えられる可能性が高いが、南部は見せしめの意味を込め、搾り取られ、奪い去られ、阿鼻叫喚の地獄に落とされる恐れがある。

 

 一番の難敵をネイア・バラハ……ローブル聖王国の人間に片付けさせたというのも上手い。もし魔導王自ら若しくは配下が討伐していれば、南部と戦争をしなければならなかっただろうが、他国の人間同士の争いに留め、魔導国は何時でも南部を滅ぼせるという大義名分のみを獲得した。

 

 ましてやローブル聖王国はあのアンデッドの恐ろしさを知り尽くしている。破滅をチラつかせ交渉するだけで、領土を滅ぼすことなく、締め上げるように息の根を止め、無血で富んだ地を丸々自分の物にすることも可能だろう。

 

 自分ならば自国の首都を襲った関係者など、併呑後、全員縛り首にして街頭へ晒し挙げるが……。あのアンデッドはどのように処分するのだろう。〝鮮血帝〟と謳われたジルクニフでさえ、ゾワリと背筋に寒いものが走る。興味本位で知って良いことではない。

 

「今後もローブル聖王国の国内動向には注意を払ってくれ。魔導国属国である我が国も他人事ではない。それから、今回のエ・ランテル襲撃の報を受け、我が国で魔導国へ反旗を翻そうなどという、愚かな動きがないかも徹底的に洗い出すんだ。疑わしい人物や集団は全員アルベド様へ報告し、魔導国へ罪人待遇で送り出して構わん。」

 

「畏まりました、皇帝陛下。」

 

 自分がこのように動き出すことも計算尽くなのだろうな……。ジルクニフの脳裏にそんな思考が過ぎったが、もはや何の痛痒も覚えなかった。


▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。