ネイア・バラハの聖地巡礼!   作:セパさん

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2つの救世主

 ナザリック地下大墳墓、9階層執務室。アインズの横には老齢の紳士、セバス・チャンが恭しく佇んでいる。

 

(ネイアと六姉妹(プレアデス)達は上手くやってるだろうか?流石に覗き見するのは気が引けるからな、ユリ・アルファもシズも居るし、まぁ死ぬことはないだろう。それにしてもビンゴ大会か……、ギルド〝アインズ・ウール・ゴウン〟でも忘年会にみんなで集まってやったよなぁ。みんなで景品造って持ち合って……そして皆イロモノばっかり造ってきて「何処で使うんですか(笑)」って笑い合ったっけ。)

 

 ルプスレギナがネイアを歓迎してビンゴ大会をしたいと聴き、アインズが景品にと渡した低反発マットレスや空気清浄機は、その時の試作品だ。昔ナザリックでの円卓で行われた思い出に、アインズは温かな気持ちと笑いがこみ上げてくる。

 

(……ッ、沈静化されたか。)

 

 様々な場面で恩恵を受ける沈静化だが、ナザリックでの過去の仲間たちとの思い出にまで介入してくる時だけは本気で腹が立つ。

 

(それにしてもネイアはどれが当たるかな。)

 

 ルプスレギナはアインズが差し出す品に〝御身のお手持ちの品など、とても受け取れません!〟と固辞していたが、押しつけるように渡したモノだ。自分が造った品だと聞いたら必要以上に祭り上げられそうだったので、それも内緒にしている。

 

「まずセバスよ。お前の直轄であるツアレニーニャを客人待遇のメイドとして貸し出してくれたこと、そしてツアレを立派なメイドへと成長させたセバスの手腕に感謝と賛辞を送ろう。」

 

「何を仰いますか、アインズ様。ナザリックで働くメイドとして、当然の責務。むしろツアレが他国から招く初の客人のお付きという誉れを賜り、わたくしも感謝の念に堪えません。アインズ様のご期待に沿える様、わたくしも陰でサポートをさせて頂きます。」

 

「うむ、それは心強い。それにナザリックのメイド達(NPCのホムンクルスメイド)は、何と言うかその……、色々な意味で熱心過ぎるからな。人間の客人には人間のメイドを付けるに越したことはないと判断したまでだ。」

 

(あの24時間絶対監視なんて、ホラーだよ。それにネイアは人間なんだし、変に気合い入ったメイド達なら何をしでかすか……)

 

 ナザリックの一般メイドは、ブラック企業に苦しめられていたヘロヘロさん達の作製とは思えないほど……いや、だからなのか、働くことを無上の喜びとしており、その異様な勤労意欲はアインズでも若干引くほどだ。

 

「さて、セバスよ。相談があるのだが、もしツアレに友人が出来、ナザリックへやってきたとしよう。土産を贈るとすればどの様な品を適当とする?」

 

「土産ですか……。そうですな、相手が女性であれば、菓子や相手に合った化粧品などの消耗品を考えます。これならばナザリックの技術流出にもならず、無難に喜んで頂けるかと。もし男性ならばツアレの友人に相応しいか、まずわたしの拳を……。と、失礼致しました。恐らくはそのような答えを望まれていないと考えますので、改めて。土産となりますと、やはり本来相手方には手に入らず、それでいて恐縮しない程度の品が喜ばれるかと。」

 

(俺に土産や贈り物を選ぶセンスなんて無いからなぁ。会社の送別会とかでも、無難な菓子折程度しか選んだことないし。それにしても化粧品か、あの殺し屋みたいな目をなんとかする化粧品とか……いや、失礼過ぎるか。)

 

「相手がまず手に入らず、それでいて恐縮しない程度の品か……参考になった。礼を言う。」

 

「勿体ない御言葉です。」

 

(しかし、これはあくまでも〝シズの友人ネイア・バラハ〟に対する土産だ。あとは褒美だな。闘技場で俺の冒険者の考えについて正しく理解し語ってくれたこと、エ・ランテルで座天使を討ってくれたことの2つか。褒美となればこっちも〝ナザリックの技術流出〟なんてケチなこと言わず、ちょっと位サービスしないとだな。)

 

 

 ●

 

 

 ネイアは重たい眼をゆっくりと開き、天幕付きのベッドの上で目を覚ます。部屋は眠るのに最適な仄灯りに照らされ、時間が解らない。

 

「バラハ様、お目覚めですか?」

 

「うひゃ!?はい!」

 

 たおやかな笑みを浮かべるメイド……ツアレの声に思わず飛び起き、少しはしたない姿を見せてしまった。昨日まで散々に騒ぎに騒いだメイド悪魔六姉妹(プレアデス)達の姿は見えず、対面のベッドではシズ先輩がちょこんと座っている。

 

(あれ?昨日びんご大会をして、皆でトランプで遊んで、話を聞かれて、もみくちゃにされて、トランプの罰ゲームで死ぬほど擽られて……)

 

「シズ様を除く六姉妹(プレアデス)の皆様は、お仕事へ向かわれました。ネイア様には朝食……時間的には昼餐となりますが、お食事の準備が整っております。また9階層にはスパが御座いますので、浴槽に浸かりその身を休めてからでも問題御座いません。どちらを先になさいますか?」

 

「あの……それよりツアレさん、ずっと起きてたんですか?わたしのためにそんな……。」

 

「いえ、お付きのメイドとして当然の役目です。わたくし如きの身を憂慮頂き、ありがとうございます。ご安心下さい、わたくしはアインズ様より、眠りと疲労を感じないマジック・アイテムを御借り受けしております。なので、わたくしの事などお気になさらず、なんなりとお命じ下さい。」

 

「…………ツアレは働ける事を喜んでる。気にしなくても良い。」

 

「そ、そうですか。わたし、いつの間に眠っていたのでしょう?」

 

「皆様と楽しく過ごされ、そのままお疲れが出てしまったようですね。ああ、失礼ながらご休息にあたってお着替えを手伝わせて頂きました、お召し物は既に洗濯が済んでおります。」

 

 つまり、失神するように眠ってしまったということだろう。ベッドにはツアレさんが運んでくれたのか、それともシズ先輩か……。何時の間にか寝間着に着替えられている事に今更ながら気がつく。恐ろしく上品質な布で作ったどんな技法を用いたのかふわふわの巧緻な代物だ。

 

「ではすみません、湯浴み場を……シズ先輩もそれでいいですか?」

 

「…………構わない。」

 

 昨日のゲームで遊び遊ばれ、ネイアは汗だくだ。流石に汗の匂いをさせたまま、アインズの王城である食堂へ顔をだすのは気が引ける。

 

「畏まりました。ではスパへご案内します。廊下を歩くお召し物にはこちらをどうぞ。」

 

 ツアレが取り出したのは、これまた貴族の一張羅のような上品な布と染めで出来た、それでいて着脱が安易に出来る簡素ながら格式を感じる紫のドレスだった。……ドレスなど着たことのないネイアには少し……いや、かなり恥ずかしいが、折角準備してくれた品を無下にも出来ない。

 

「では、お召し物をお取り替えします。」

 

「いえ!自分でやりますので!」

 

「お客様の手を煩わせることなど出来ませんから。」

 

 ツアレの笑顔には、拒絶出来ない強い意志が感じ取れた。しかたなくネイアは顔を真っ赤に染めながら、寝間着を脱がされ、ドレスを着せられる。その後帝国の高級宿をも凌駕する大浴場に連れられて、シズ先輩と湯浴みを行い、これまた湯上がりにツアレによって自分の持ってきた以前より綺麗になった服を着せられた。

 

「バハルス帝国でもそうでしたが、魔導国ではお湯を溜めて浸かる風習があるのですね。」

 

 ネイアの母国ローブル聖王国で〝湯浴み〟と言えば、水浴びと大して変わらない。ネイアの家はそこそこ裕福だったので香油やお湯を使うことはあったが、庶民ならば本当に布を使った水浴び、冬には薪を使ってお湯にする程度だ。

 

「ええ、わたくしも魔導国のメイドになって初めて知った風習です。……昼餐の準備が整っておりますので、食堂へご案内致します。」

 

 ネイアは一瞬ツアレが何かを言い淀んだことを聞き逃さなかった。この場所には人間のメイドはツアレさんともう1人しかいないという。シズ先輩曰く、通り過ぎる一見人間にしか見えないメイド達は〝ホムンクルス〟という種族らしい。

 

「……ツアレさんは、魔導国についてどう思いますか?」

 

「偉大にして至高なる御方、アインズ・ウール・ゴウン様が統治されるだけあり、とても慈悲に溢れた素晴らしい国です。」

 

 全面的に同意だが、ネイアはもっと深く話を聞きたくなった。真なるアインズ様の王城に2人しかいないという人間のメイド。根掘り葉掘り聞くのは大変に無礼なことだが、アインズ様の新たなる神話、その言行録を聞く絶好の機会でもある。ネイアにはその好奇心が抑えられなかった。

 

「こちらが食堂となります。本日の昼餐ですが、比較的軽いものをご用意させて頂きました。メニューは一皿目オードブルが麦とアゼルリシア産豚肉のラープサラダ。 二皿目オードブルが、スパニッシュオムレツの紅葉色ソース、炙りサーモンとスティック野菜 トマトクリームソースを添えて お好みでオリーブオイル・岩塩を スープはナスとひき肉を使用したコンソメ仕立て。 メインディッシュは魚料理を選ばせて頂きました。トブの大森林の南側の湖で採れましたシェルターフィッシュ種の貝と白身魚のナージュ仕立てに御座います。 デザートですが、ネイア様はチョコレート味をお好みになられたということで、チョコレートファウンテンを、トッピングは37種予定しております。 食後のお飲み物ですが珈琲の他に、フレッシュオレンジをご用意させて頂いております。」

 

 スラスラと諳んじるように、ツアレがネイアにとっての思考停止の魔法を唱える。何がどんな料理なのかサッパリ想像できない。メニューはアインズ様が考えて下さったのだろうか?だとすれば全て記憶しておかなければと思う。固まっているネイアの腕をシズが引っ張る。

 

「…………ネイア。いこう。」

 

「はい!あ、ツアレさん。あとでメニューのメモをいただいてもよろしいですか?」

 

「はい、畏まりました。」

 

 2人が食堂に入るのに遅れ、ツアレも付き人として後に続いた。

 

 

 

 ネイアは食後の珈琲に砂糖とミルクを少しだけ入れて、甘くなった舌に染み渡る味を堪能し、のんびりと飲んでいた。軽い料理と聞かされていたが、それは〝真なる王城〟基準らしく、しばらく動きたくないほどネイアのお腹は一杯だ。

 

 どれも驚く美味だったが、特にデザートだと言われ、よく解らない機械が運ばれたかと思えば、滝の様にチョコレートが溢れ出て、優雅な煌めく何層もの噴水と化けたのには仰天した。様々なパンや果物・簡素なお菓子をそのチョコの滝に纏わせて食べるそれは、見た目の豪華さもあり、ネイアだけでなくシズ先輩も大いに満足していた様子だった。

 

「ご満足頂けましたでしょうか?」

 

「はい!今まで食べたどんな料理よりも美味しかったです!」

 

「それは良かったです。料理長には、ネイア様が満足されていたとお伝え致しますね。本日のご予定はお決まりですか?」

 

 ネイアはシズを見る。

 

「…………特に決めていない。ここに来るのは結構予想外。」

 

「では、シズ先輩。一度お部屋に戻って、今日の予定を一緒に話しませんか?」

 

「…………そうする。」

 

「畏まりました。では、客間へご案内致しますね。」

 

 ネイアはツアレに先導され、未だに迷いそうな絢爛豪華な廊下を歩く。そして朝と同じ客間へ到着する。

 

「では、もしエ・ランテルの観光をご希望でしたら、アインズ様を通じ、モモン様、蒼の薔薇の皆様へお伝えする手筈になっておりますので。」

 

「……ツアレさん。」

 

「なんで御座いましょうか?」

 

「あなた様は他のメイドの方々とは違う様子です。それにお風呂場での発言から、魔導国の出身でもバハルス帝国の出身でもない。どの様にして、アインズ様やその高官に当たられる御方々の身の回り……メイドという立場を獲得されたのですか?」

 

「それは……、アインズ様のお導きです。」

 

「わたしはネイア・バラハと申します。わたくしとアインズ様、そしてシズ先輩との出会いは、昨晩お話した通りです。何故あなたはアインズ様に選ばれたのですか!?聞かせて欲しいのです!」

 

「……つまらないお話ですよ?」

 

「1人の人間が、アインズ様の真なる王城で仕える……それを望んでも叶わない人間はわたしの国に五万とおります。だから聞きたいのです!……辛いお話ならば無理にとはいいませんが。」

 

 ツアレの表情が曇ったのを見て、ネイアは心の傷を剔ってしまったのではないかと後悔する。しかし、湧き上がる好奇心に打ち勝つことは出来なかった。そして、ツアレが静かな声で語った一言を聞き、ネイアは後悔を益々強くしてしまう。

 

「……わたしは、奴隷でした。」




 シズ先輩とネイアちゃんの入浴シーンやネイアちゃんがプレアデスとカードゲームして罰ゲームに色々悪戯されるシーンは需要があるか不明ですが、どこかで書けたらいいなぁと。

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