ネイア・バラハの聖地巡礼!   作:セパさん

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魔導国首都 エ・ランテル ③

 目の前に広がるのは、最前列と最後尾の先が見えない大行列。

 

 皮の鎧や獣の牙で出来た粗末な槍を持つ駆け出し冒険者、屈強な装備の筋骨隆々の男達から可憐な装備で固めた戦乙女、獣の耳を生やした亜人に至るまで、様々な人間や亜人が列を成して自らの武勇伝や、これからの未知なる夢の冒険に思いを馳せ語り合っていた。

 

「ここの行列の先は、魔導国の冒険者組合です。観光地……というほどではなかったのですが、ネイア様には是非一目見て頂きたく。ご案内致しました。」

 

 突如現れた英雄、漆黒のモモンと美姫ナーベ、蒼の薔薇という冒険者の憧れに黄色い歓声が響き渡る。中にはシズやネイアへ歓声を挙げる者達も居た。その歓声に適当に反応しながら、ネイアと蒼の薔薇は同時に覚えた驚愕を口にする。

 

「この行列の先が冒険者組合なのですか!?」

 

「魔導国の冒険者組合は、閑古鳥が鳴いていると聞いていましたが……。」

 

「そうです。モンスターの脅威がなくなり、国内における警備もアンデッドが行っている魔導国において、冒険者に依頼される仕事はほぼ皆無となりました。冒険者を辞めてしまった過去の仲間も多くいます。」

 

 モモンは寂しげに拳を握りしめた。

 

「……しかし、魔導国では既存の冒険者の概念を覆し、〝真なる冒険者〟を求めて活動をしております。」

 

「〝真なる冒険者〟……魔導国が全面的にバックアップし、未知なる土地を踏破するという例の構想ですか?」

 

 蒼の薔薇も噂には聞いている。何でも魔導王陛下自らバハルス帝国の闘技場に立ち、彼の武王を下した後にその可能性を提示したという。ラキュースは表面上平静を取り繕って報告を聞いていたが、【未知なる冒険】というワードに不覚にも心躍らせたものだ。

 

「と、言うことは!此処に居る皆様全員がアインズ様の素晴らしいお考えに共感された方々なのですね!ああ……前人未踏の地を思い、未知を既知とする〝真なる冒険者〟!!彼らが踏破するのは未知なる王国か、過去の偉大なる遺跡か、未だ登頂叶わぬ極地の山脈か、はたまた海の果てにある新たなる大陸か!」

 

「やばい、鬼リーダーの闇の人格が暴走しかけている。」

 

「うん、これはやばい。」

 

「おい!?それ放っておいて大丈夫なのか!ラキュース、意識を保て!」

 

「……ラキュースは後で説得するからいいとしてよぉ。モモンさん、確かに冒険者を名乗る者として魅力的な話だが、毎日こんな行列が続いてんのかい?」

 

「いいえ、普段は先程ラキュース様が話されたように、閑散としております。ここに並ぶ皆様は、ほとんどがバハルス帝国から入国された方々です。……より正確に言えば、帝国の闘技場でネイア様の演説を聴き、触発された方々と言えましょう。帝国でも高名なワーカーや冒険者の姿も見えます。」

 

「わ、わたしに……触発されてですか!?」

 

 ネイアは改めて自分に向けられる熱を帯びた視線や歓声を送る人々の顔を見る。伝道師として常に聴衆を観察する癖のついた彼女だ、確かに見覚えのある顔がチラホラ見えた。

 

「ええ、見事な演説であったと聞いております。バハルス帝国から大量の入国希望者が出たと入国審査官達がパニックに陥っていたほどですから。しかしバハルス帝国は魔導国の庇護下にありますので、他国ほど厳重な審査はなく、無事に終わったようですが。」

 

「見事なんてそんな!わたしはただ、アインズ様の偉大なるお考えを人伝に聞き、感銘を受けたに過ぎません。過ぎた真似をしてしまったでしょうか?」

 

「いえ、冒険者組合に活気が出るというのはわたくし個人としても嬉しい限りです。組合長アインザック氏にとっても嬉しい悲鳴でしょう。未だ監査機関などは完全とは言えませんが、これほどの騒ぎになったのです。予定よりも早急に整備されることでしょう。一冒険者として、感謝を申し上げます。」

 

「えっと……、わたしはそんな大層なことは……」

 

「…………ネイアお手柄。アインズ様も喜んでいる。」

 

「本当ですか!!シズ先輩!」

 

「…………アインズ様のお考えは常に正しい。それを伝えたネイアも褒められるべき。」

 

「わたしが言うのもなんだが、確かに大手柄なのだろうな。」

 

(こいつは……これは、武力とは毛色の違うバケモノだ。)

 

 無難な褒め言葉とは正反対に、イビルアイが覚える感情は、恐怖。狂気を……理解不能な現象を前にした原始的で強烈な恐怖だった。列に並ぶ者たちの熱に浮かされた目、先の見えない大行列を見て、改めてメイド悪魔の言葉に顔を赤らめる目付きの悪い少女……【凶眼の狂信者】ネイア・バラハに対し戦慄を覚えていた。

 

 

 

 ●

 

 

 

 ナザリック地下大墳墓、アインズ・ウール・ゴウンの寝室。ベッドで伏臥位となっているのは、ナザリックの支配者であり、魔導国魔導王アインズ・ウール・ゴウンその人である。しかし普段の威厳は皆無であり、眼窩に宿る炎の瞳も儚げだ。

 

(いや、いきなりあそこまで来る!?ありえないでしょ!まだ全然制度も整ってないしさぁ。これじゃあ折角ネイアが宣伝してくれたのに、こっちのミスで顧客失うじゃん。ニーズの把握も出来なかった典型的な駄目会社じゃん。最初に飛び込み営業したのは俺だしさ、〝真なる冒険者〟っていう商品開発をしたのも俺だよ?ああ、なのにアルベドへ丸投げしちゃったし、完全に駄目上司だなぁ。)

 

 アインズはアルベドを通じ、魔導国の冒険者組合、その登録希望者が今日だけで数千を越え、組合長のアインザックからSOSコールが来たとの報告を受けた。〝適切な処理を行え〟と威厳たっぷりに言ったものの、内心は、発注ミスをやらかした営業マン時代の気分だった。アインズはベッドから起き上がって端座位となり、首を俯かせた。

 

(それにデミウルゴスの〝あの件ですが〟ってどの件だよ……。いきなりドラゴン飛ばして街に俺のビラ大量にばらまくとか言ってたし、今度は何を考えてんだ?嫌がらせか?ああ、肝心の褒美も考えてないし、明日でネイアは帰るし、やることだらけだ……。もうこうなりゃ奥の手だ。)

 

 アインズは眼窩の炎を揺らめかせ、<伝言(メッセージ)>を送る。

 

「アルベド、第四・第八を除く階層守護者全員を1時間後に玉座の間へ集めよ。」

 

『畏まりました、アインズ様。』

 

(あ、ネイアとシズへの晩ご飯の献立どうしよう。すっかり忘れてた。ンフィーレア達の時と同じ……は流石にマズいか?いや、文句も言われないだろうし、これでいこう。昼は主食をサッパリさせた魚料理で、デザートに力を入れたチョコファウンテンだった。晩は逆にメインの料理を強調させてドラゴンステーキなんていいじゃないか。デザートはアイスクリームでサッパリしてもらおう。ステーキや魚介の料理は兎も角、チョコファウンテンもアイスクリームもナザリックでしか出せない品だ!)

 

 そんな主夫じみた考えを過ぎらせながら、ナザリックの絶対支配者、死の支配者(オーバーロード)は眼窩の炎を赤黒く揺らめかせ、堂々と立ち上がった。

 

 


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