ネイア・バラハの聖地巡礼!   作:セパさん

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 お風呂シーン書いてみました。全年齢対象基準です。


6日目の夜

 エ・ランテルの高級宿屋、黄金の輝き亭。ネイア・バラハを襲う不穏な動きは特段なく、観光も無事に終わり、護衛任務を任されていた蒼の薔薇は、王城へメイド悪魔シズとネイア・バラハを委ね、宛がわれたスイートルームで寛いでいた。

 

「明日にはネイア・バラハはローブル聖王国へ帰るということだから、もう仕事は終わりかもしれないわね。明日は王城の内部を見学予定ですって。」

 

「ま、流石に王城の内部にまで俺らは入れねぇわな。結局俺らがやったのは天使退治だけか。」

 

「酷い目に遭った。」

 

「まさかあんなに沢山のアンデッドと共闘する日が来るとは。」

 

 忍者姉妹ティアとティナは花札で遊びながら愚痴をこぼしていた。

 

「酷い目に遭うのは覚悟の上だったじゃない。なによりエ・ランテルの情報を得られるなんて、報酬以上のことだわ。……とても正直に話をして受け入れられるとは思えないけれど。」

 

「ああ、予想以上にとんでもねぇ街になってやがる。いや、予想の遙か斜め上って言った方が合ってるか?」

 

「王国に戻ればきっとあちらこちらから質問責めね。守秘義務があるから答えられないと言うしかないわ。例えラナー王女でも。」

 

「…………。」

 

「ったく、イビルアイはさっきから辛気くせぇ顔してどうしたんだ?モモン様成分が足りなかったか?」

 

「モモン様を単位呼ばわりするな!失礼だろう!……って、そういう事ではない。モモン様のお力もあり、エ・ランテルの民は平和に暮らしている。これは認めよう。リ・エスティーゼ王国が統治していた時よりもよっぽど豊かだ。」

 

「ああ、癪だがその通りだ。王国での噂と全然違ぇ。」

 

「今の王国で魔導国を……魔導王を褒めるような言葉など、処刑や私刑(リンチ)にされてもおかしくはない。必然的に噂だって不穏なものとなる。だが、現実は違う。現実を見た以上、我々も身の振り方を考えなければならない。」

 

 室内は重い沈黙に包まれる。リ・エスティーゼ王国が崩壊寸前……最早奇跡的なバランスで国の体裁を成しているのは誰も口にしないが、明確な事実であり、目を背けてはいられない現実だ。

 

「ラナー王女が王座につけば……いえ……。」

 

 ラキュースの蜘蛛の糸を掴むような儚い望みさえ、魔導国という国家を見た後ではかき消えてしまう。トドメとばかりに目にしたのは、噂に聞いていた【凶眼の狂信者】ネイア・バラハの圧倒的な煽動能力だ。

 

 彼女の活動が今後更なる躍進を遂げ、国外まで範囲を広めれば、呪詛に染まった王国民さえも魔導王を讃えかねない。余りにも荒唐無稽な話に思えるが、彼女の演説を耳にした身としてはそんな馬鹿げた可能性も否定できなかった。

 

「イビルアイ、あなたから見て魔導王はどうだった?」

 

「一つの魔法で18万人を大虐殺しただの、単騎でヤルダバオトを下しただのという話……間違い無く事実だろう。実物を見た今なら断言出来る、アレに匹敵する領域に居るのはヤルダバオト亡き今、モモン様くらいだ。モモン様がエ・ランテルに留まり、その力の暴走を危惧されたのも納得だ。更にはメイド悪魔……一人でわたしが勝てるかどうかという存在が少なくとも5体居る。」

 

「そういやあのキモ蟲メイドは見てねぇな。まぁ見たくもねぇが。」

 

「弱いやつが死ぬのは仕方がない。わたしはそう考えていたが……、余りにもパワーバランスがおかしくなり過ぎている。……モモン様、あなた様はこの異常事態にどのようなお考えをお持ちなのですか。モモン様のお役に立てるのであればわたしも――」

 

 イビルアイは窓からの星明かりを見つめ、一人呟いた。

 

 

 

 ●

 

 

 

「…………あ。いや。だめ。」

 

「あの、シズ先輩。身体を洗うとき毎回その台詞言わないと死ぬんですか?」

 

「…………お風呂シーンの大切なお約束。ペロロンチーノ様が言っていた。らしい。」

 

 ネイアに身体を洗われているシズは、親指をビシっと立てて宣言した。シズ先輩は機械じみた印象と異なり、普通の幼児体型だ。お風呂の時でも左目の眼帯は頑なに外さないが。

 

(博士といいペロロンチーノ様といい、シズ先輩から時折出てくる謎の人物は誰なんだろう?)

 

 エ・ランテルの観光を終えたネイアは、再び〝真なる王城〟へ案内され、シズとネイアは〝真なる王城〟第9階層の大浴場、〝スパリゾート〟で、シズ先輩の身体を洗い、自身もシズ先輩に洗いっこされ、観光で汚れた身体を清めていた。

 

 シズ先輩曰く、リゾート(行楽地)という名前にピッタリな、只の湯浴み場を遙かに超えるスケールであり、大河の如く流れるお湯、柑橘の皮や炭を浮かべた木製の巨大な湯船、泡の湧き出る不思議な湯船、四方八方から水が噴射されるマッサージのような湯船、入ると身体が痺れる電気風呂なる場所、〝サウナ〟なる蒸し風呂、果ては謎の妖しい光を発するよく解らない浴槽まで……正直ここにいるだけで丸一日楽しめそうだ。

 

「うひゃあ!」

 

 急にシズ先輩がふにふにと身体を触ってきて、振り返るとふん!と胸を張っていた。

 

「…………わたしの勝ち。」

 

「いえ!なんの勝負ですか!?」

 

「…………これもお風呂シーンの大切なお約束。ペロロンチーノ様が言っていた。らしい。」

 

(だからペロロンチーノ様って誰!?)

 

「…………本来は飽満な胸部を持つ者が居ることが望ましいと聞いているけれど。」

 

 シズはネイアの身体と自分の身体を見つめる。

 

「…………ドンマイ。」

 

「何の励ましですか!」

 

(もう、そのペロロンチーノ様とやらはシズ先輩に何を吹き込んだのですか。)

 

 〝博士〟についてもそうだが、尋ねるとシズ先輩は無口になるので、脳内でだけ愚痴をこぼす。お風呂に入ると毎回このやりとりだが、慣れるはずもなく、ネイアの顔は真っ赤だ。

 

「…………じゃあ次はサウナ勝負。」

 

「20分経っても汗一つかかないシズ先輩に勝てるわけないじゃないですか!」

 

「…………後輩。諦めてはいけない。」

 

「気がつけばまた水風呂で目を覚ますのは嫌ですよ……。」

 

 ネイアは項垂れながらも、シズ先輩に手を引かれ、サウナへと入って行った。……勝敗の行方は記すまでもない。

 

 

 

 

 湯浴みを終えたネイアはシズ先輩と晩餐を共にしていた。ツアレより思考停止の呪文(本日の献立)を唱えられ、何がどんな料理かサッパリ解らない中だったが、相変わらずどれもこれも味わったことのない美味だった。

 

 メインディッシュのフロスト・エンシャント・ドラゴンの霜降りステーキを食べ終え-食べきれるか不安なほどのボリュームだったが、口腔でとろける旨さに驚きあっと言う間になくなった-食後のデザートを楽しんでいる。

 

 

(ああ、冷たくて美味しい!)

 

 聖王国九色の1人である父と聖騎士の母という清貧を尊ぶ気風があったとはいえ、裕福に数えられる家庭で育ったネイアだ、削った氷に練乳や蜂蜜、砂糖・香辛料をかけた菓子-この世界での一般的な〝アイスクリーム〟-を口にしたこともある。だが、目の前の黄金に輝く見た目も美しい冷たい乳菓子は初めての味わいだ。

 

 濃厚なミルクの味に紅茶の風味がアクセントとなり、口の熱で溶けて、冷たい甘みを伝えてくる。甘味など聖騎士団に所属してからも、未だ復興途上にあるローブル聖王国で『魔導王陛下に感謝を送る会』代表となってからも口にしていない。それほどに、格別な味だった。

 

「…………ふ。お菓子でよろこぶとは。まだまだお子様。」

 

「ああ!シズ先輩だって、ものすごく嬉しそうにアイスクリーム食べてるじゃないですか!わたしには分かるんですからね。」

 

「…………それはネイアと食べているから。」

 

「いきなり恥ずかしいこと言わないでください!」

 

 ネイアは顔を赤く染め、アイスをスプーンで大きく掬い口に入れた。

 

「…………明日で最後。」

 

 シズ先輩はアイスを口にしながら寂しげにそう言った。ネイアとしてもまだまだ魔導国を見て回りたい、知らない話を沢山聞きたい。……アインズ様の御許に居たい、シズ先輩と一緒に居たい。あっと言う間の6日間だった。改めてアインズ様の偉大さに触れられた、魔導国というアインズ様の統治される御慈悲に溢れた正義の国を見た。今のローブル聖王国に必要なのは、アインズ様の慈悲であることを確信した。

 

「また必ず会えますよ、シズ先輩。」

 

「…………もちろん、後輩。困ったときに助けるのも先輩の役目。」

 

 まだ別れではない、これは別れに際しての心の準備だ。明日が終わればネイアはまた多忙な日々が始まり、シズ先輩も休暇が終わって仕事に戻るだろう。ならば今と明日を後悔無く笑って過ごすことが、最善だ。

 

 だからネイアは笑った、明日の別れの瞬間も、笑って終われるように。

 

 

 

 

「……あの、シズ先輩?」

 

「…………どうした?後輩。」

 

「いや、な~んでわたしのベッドに居るのかなぁと思いまして。」

 

「…………よしよし。」

 

「ふわぁ。いや!答えになってないです!」

 

「…………後輩を慰めるのも先輩の仕事。」

 

「いえ、えっと。」

 

 シズの小さな身体が密着する。シズ先輩は見た目通り子どものように温かく、意外と柔らかい。

 

「…………これなら寂しくない。大丈夫。」

 

「それはそうですが……。うん、そうですね。」

 

 ネイアはシズ先輩を優しく抱きしめる。慈母のように柔らかく撫でられる頭が気持ちいい。

 

 ネイアはそのまま微睡み、眠りに入った。……シズは抱きしめられる感覚を温かく感じながら。その様子を、ただ優しく見つめていた。

 


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