ネイア・バラハの聖地巡礼!   作:セパさん

32 / 84
・この話は後日談であり、蛇足です。ネイア・バラハの聖地巡礼!本編を前提とした話しとなっておりますので、ご了承下さい。

・IF設定が更に独自の進化を遂げた世界を舞台にお送りしております。

・キャラ崩壊注意です。

・3つめの話にはオリキャラが出てきます。苦手な方は飛ばして下さい。

 以上を踏まえた上でお読み下さい。


【後日談】伝道師シズ ジルクニフラジオ計画 など

「…………アインズ様は素晴らしい御方です。」

 

 ナザリック地下大墳墓9階層、メイドや使用人たちが食事を取る大食堂の中央に立ち、シズ・デルタは胸に手をあて天を指差しながら、無表情のままそう呟いた。食事に来ていたメイド達は目をパチクリさせている。

 

「シズちゃん、そんな当たり前のことをいきなりどうしたの?」

 

「そうよ、アインズ様は慈悲深くお優しい至高の御方々のまとめ役であらせられるのですから。」

 

「ああ!アインズ様係まであと28日もあるなんて、智謀の王たるアインズ様のお側に仕えるなんてこれ以上の幸せはないわ。」

 

「シズちゃんギミック管理の他に、アインズ様から人間の国の視察仕事を賜っているらしいわ。ちょっと疲れているのかしら?シズちゃん!疲れた時は甘い物ですよ!こちらで一緒にクレープを食べましょう!」

 

「リュミエールずるいわ!シズちゃん、イチゴヨーグルトムースがあるわ!わたしの隣で食べるべきよ。こちらに来て下さい!」

 

「シズちゃんはわたしと――!」

 

 いつの間にやらシズ争奪戦になっているメイド達を見て、シズは首を捻りながら小さく呟く。

 

「…………やはりネイアみたいにいかない。」

 

 壇上に立ち、銃で脅すでも刃物を突き立てるでもなく、口を開いて言葉を紡ぐだけで、呆然としていた多くの人間達が一斉にアインズ様を讃え出す。そんな熱狂を作り出す友人の顔が脳裏に浮かび、シズは少し〝むっ〟とする。

 

「…………〝先輩でも出来ますよ〟って言ってたのに。ネイアはうそつき。」

 

 〝むっ〟っとした無表情のどこかに、やや誇らしげな感情が宿っていたのだが、その感情に気がつける者は残念ながらこの場には居なかった。

 

 

 

 

 ●

 

 

 

 

 

「マジック・アイテムを用いた国土全域への一斉放送。今は公園などの一定区画配置で、エ・ランテルの民への娯楽に留まっているが、既に行商人や旅人の話題の中心となっていると。それが本当ならば、いや……考える時間をくれ。」

 

 バハルス帝国皇帝、ジルクニフ・ルーン・ファーロード・エル=ニクスはまたしても予想外の手を打ってきた魔導国……アインズ・ウール・ゴウンの方針に恐怖心と強い好奇心を混在させ、〝属国バハルス帝国〟としてどのように動くべきか思考を巡らせた。こんなに頭を働かせているのは、あの最初の邂逅。墳墓での舌戦以来かもしれない。

 

 報告を終えた筆頭書記官のロウネ・ヴァミリネンは、予想通りの食い付きを見せるジルクニフに同意し、静かに賢帝の考えを待つ。バハルス帝国の誇る魔法詠唱者(マジック・キャスター)……フールーダ・パラダインが束になろうと成しえない偉業であり、宣伝戦術(プロパガンダ)においては万軍に匹敵する脅威である。

 

 バハルス帝国は、魔法省に力を入れていた関係から、情報局の経験が浅い。まして騎士団の縮小に伴い、まるで門外漢な人間を多く情報局へ配置したことから、現場は混乱している。

 

「……これは、改革なんて生やさしいものではない。革命だ!」

 

 いつも冷静沈着で、特に属国指導者となってからは牙が抜けてしまったかのようなジルクニフらしかぬ、熱の篭もった声。浮かべる妖しい笑みは、かつて多くの貴族を粛清した鮮血帝の微笑だった。

 

「現在放送内容は子どもや母親、労働者層へ向けた娯楽、情報は天気予報や詩人(バード)の唄に留まっているということだが……。ヴァミリネン、我々が手の打ち方を誤れば最悪皇宮が崩壊する。それも臣民の手によってだ。」

 

 驚愕に彩られたロウネの顔を見て、ジルクニフはまだ考えが及ばないかと内心残念に思う。

 

「今後その〝ラジオ〟とやらは魔導国の属国である我が国にも近いうちに普及するだろう。その際、向こうは大衆に情報を伝える手段を持つ。そうだな、多くの信頼を獲得した段階で〝貴族の横暴を討つ〟〝魔導王の下、平等を得る〟という美辞麗句を並べられれば……」

 

「貴族や皇宮を良く思わぬ大商人や豪農がバックに付き、国内で市民との対立が起こると……。」

 

 そこまでヒントを出され、ロウネもジルクニフの意を得る。

 

「ああ、その脅威は今までの情報局などの比ではない。情報省や宣伝省とも称するべきだな。古来より、人々は情報に対し、莫大な対価を払ってきた。商人たちは取引のために各地の物産情報を欲しがり、支配者たち(われわれ)は、他国の情報を、高い金と労力・犠牲を出して求めてきた。だがそんな情報を国家が独占し、無償で提供出来るなど、民を操作し得る悪魔の装置だ。」

 

 今まで大義名分を得るために国々は様々な努力をしてきたが、この〝ラジオ〟は大義名分を【作る】ことができる。例えあの魔導王が外部で残虐非道の限りを尽くそうと、国内では改竄した情報を流してしまえば国内に不和など生じない。無償の情報を与えられ妄信した大衆に、真実を確認する術などないのだ。

 

 ……一瞬、ジルクニフの脳裏に、あのネイア・バラハの演説が国土全域へ轟く光景が過ぎり、背筋に冷たいものが走る。だが青ざめているロウネ・ヴァミリネンを見て、ジルクニフは冷静さを取り戻す。

 

「そう暗い顔をするな。今からアルベド様を通じ、〝ラジオ〟に感銘を受けた意を伝え、魔導王陛下への謁見を申し出てくれ。放送権の一部……例え1時間や30分だけでも得る事が出来れば、あの装置は我々の武器にも石垣にもなり得る。情報局の改革も進めなければならないな、情報省へ格上げし、魔導王陛下に忠義を尽くす人材で固め……いや、まだ時期尚早か。だが下地だけでも確保しておけ。」

 

「畏まりました、陛下。」

 

(ほどほどの無能でいれば安寧などと思っていた自分が馬鹿だった。まさかこんな手を打ってくるとは……。)

 

 考えを巡らせるジルクニフだが、以前の様な絶望的な胃痛やストレスは感じない。そこには魔導王の打ち出す統治者としての圧倒的な力に魅せられた、1人の皇帝がいるだけ。

 

 〝強大な魔に魅了された者よ〟

 

 あの終わりの日、闘技場で囁かれた言葉。スレイン法国神官の敵意に満ち満ちた双眸を思い出す。……だがそれも一瞬のこと、今なら帝国を裏切ったフールーダの気持ちさえ理解出来るかもしれない。人は圧倒的な力と利益と欲の前では、こんなにも脆弱なのだ。

 

 

 

 

 ●

 

 

 

 

 ローブル聖王国北部、要塞都市カリンシャ。今でこそネイア・バラハ率いる『魔導王陛下へ感謝を送る会(仮)』は首都ホバンスにあった古い貴族の屋敷をもらい受け、本部としている。だが感謝を送る会(仮)の勢力が最も大きいのは、前身組織である魔導王救出部隊の本拠地たるカリンシャだ。

 

 街には『魔導王陛下へ感謝を送る会(仮)』の会員であることを示すシンボルの付いた腕章や胸章を佩用している者の姿が目立つ。そんな重要なカリンシャ支部には、団体設立の黎明期から魔導王陛下への忠誠を確かにする、ネイアが信頼する同志が支部長となっている。

 

 そんな支部長は現在支部の会議室で、子どもを抱いた母親と対面していた。子どもは高熱を出している様で、あちらこちらに汚れや傷が見て取れる。母親も摩り切れた襤褸を纏った格好のひどい姿だ。

 

「さて、何の御用件でしょうか?」

 

 母親は支部長の事務的な問答に怒りを覚える。今この状況を見て、何故理解出来ない?緊急事態でもなければ誰がアンデッドを神と祈るような狂った集団に村から5日もかけて足を運ぼうか。

 

「子どもが何十日も熱を出しているのです!日に日に呼吸も弱まってきて……、お願いします!入会でも何でもしますから、子どもを助けて下さい!」

 

「残念ですが、病気の治癒は当会の専門ではありません。神殿に行かれては如何ですか?それに魔導王陛下への感謝も忠誠も持たない人間を当会に入会させるなど、魔導王陛下への背信に当たります。」

 

 神殿にも聖騎士にも既に相談済みだ。母親は服や家具まで売り払ったが、神殿の治癒魔法を受けられる金を得られなかった。そんな解りきったことを一々確認してくる目の前の馬鹿をぶん殴ってやりたい。

 

「確か奥様のいらした村には薬草も自生していたはず。摘んで売れば教会での治癒料金くらい稼げたでしょう。」

 

「夫はヤルダバオト襲来の戦いで亡くなったのです!わたしには毒草と薬草の区別さえつきません!そんなことは不可能です!」

 

「でしたら、あなたが弱かった……お子様を護る力が無かったということですね。」

 

「――!!この悪魔!神殿や聖騎士の人達はもっと……」

 

「それは、本当に悪魔の恐ろしさを知った上でわたしに投げかける言葉ですか?」

 

 支部長の雰囲気が一変し、突き刺さるような鋭い視線を浴びせられる。思わず激昂して立ち上がった母親も、そのまま座り込んでしまう程だった。

 

「……失礼。感情的になってしまいました。まだまだ精進が足りません、魔導王陛下の御慈悲に申し訳ない。さて、では神官のように優しい言葉をお望みですか?〝病に伏せるお子様に、我々も心を痛めるばかりです。〟〝お子様の回復を心よりお祈り申し上げます〟という言葉でしょうか、それとも聖騎士達のように、一緒に奥様の横に並んで答えの出ない問答をお望みですか?」

 

 突き付けられる言葉の刃に、母親は俯く。神官の反応も、聖騎士の反応も目の前の狂信者が言った通りで、誰も本当の意味で子どもを救ってくれなかった。

 

「当会への入会は認められませんが、当会の本部でお金を稼ぐ仕事ならば手配しましょう。5日あれば神殿で治癒を行わせるお金くらい手に入ります。当会代表のネイア・バラハへ紹介状を書きましょう。それとお子様は当支部でお預かりします。」

 

「こ、この子を!?」

 

 母親は思わずゾッとする。この狂信者に子どもがどんな目に遭わされるか……。それに、そんな都合のいい仕事、自分もどのような目に遭うか。カリンシャから首都までは距離がある。移動に5日、仕事に5日……10日ほどかかるだろう。それまで子どもが生きているかどうか……。

 

「自分は何の苦労もせず、ただ子どもを助けたいだなんて身勝手はいいませんよね。あなたに力が無い以上、子どもを助ける手段は他にありません。あるかもしれませんが、わたしには思いつきません。弱いことは悪です。自分の大切な存在1つ助けられないのですから。さぁ、どうされますか?」

 

 最早母親に選択肢は無い。断腸の思いで支部長へ自らの子どもを預け、〝仕事〟だという狂信団体の保有する立派な馬車に揺られていった。

 

「……バラハ様でしたら、もっと別の手段をとられたでしょうか。慈悲深き偉大なる魔導王陛下でしたら、無償で助けたでしょうか。」

 

 支部長は机からポーションを取り出して、子どもへ飲ませた。見る見る傷は塞がっていき、苦痛から解放された子どもは、支部長に笑顔を向け、何かを口にしようとして、そのまま疲労のためか眠りへついた。

 

 『魔導王陛下へ感謝を送る会(仮)』カリンシャ支部長、ヤルダバオトの収容所で父親と母親と妹を自分の目の前で悪魔の実験に使われ殺された少女は、少年を優しく抱いてあやしていた。

 


▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。