ネイア・バラハの聖地巡礼!   作:セパさん

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・この話は後日談であり、蛇足です。ネイア・バラハの聖地巡礼!本編を前提とした話しとなっておりますので、ご了承下さい。

・IF設定が更に独自の進化を遂げた世界を舞台にお送りしております。

・キャラ崩壊注意です。

 以上を踏まえた上でお読み下さい。


【番外編】併呑作戦 シズのつまらない質問

 南部有権者の会合に、カスポンド聖王の名代としてやってきているのは、現聖騎士団団長グスターボ・モンタニェス。彼は、最早生理現象くらいに慣れてしまった胃痛を叫ぶ腹部を撫でる。

 

「カスポンド聖王陛下は、今こそ南北が手を取り合い、【本来のローブル聖王国を取り戻す】というスローガンの下、団結するべきとお考えです。」

 

 聖王室は……いや、ローブル聖王国はヤルダバオト襲来から国の体裁が大きく変わってしまった。あのバケモノは国民を嬲り殺し、建物を破壊するだけでは飽きたらず、ローブル聖王国の歴史・伝統・倫理観・価値観までもを狂わせた。

 

 最初に懸念されたのは襲来の爪痕が残る北部と、ヤルダバオトの襲撃を免れた南部の国力差から発生する対立……最悪、内戦であった。その国力差は、仮にも聖王が名代を立て、南部へご機嫌伺いに行かなければならない現状からも明らかだろう。

 

「我々は聖王室へ忠誠を捧げる身。当然の事に御座います。」

 

 白髪交じりの侯爵が冷たい視線を送りながら、言葉を返す。だが南部の神官や貴族達が、秘密裏に【打倒カスポンド聖王】を掲げていることは明白だ。今更になっても隠し立てしようとする厚顔を少しは分けて欲しい。

 

「……聖王陛下はヤルダバオト襲来の復興に、皆様のお力が必要不可欠であると強く話されておりました。現在ローブル聖王国が脅威に晒されていることは皆様もご周知の通りと、わたくしは確信しております。」

 

 その一言で、会議に参加する南部の有権者たちは身体を強ばらせる。南北は対立しつつも、明確な対峙はしていない。これが平和的理由ならば世界はどれだけ素敵だろう。南北両勢力にとって、より大きな問題が発生したために過ぎない。

 

「〝あの勢力〟に対抗するため、カスポンド聖王陛下は皆様のお力を……ローブル聖王国をいまこそ団結させるべきとお考えです。」

 

 ネイア・バラハ率いる『魔導王陛下へ感謝を送る会(仮)』の存在だ。救国の英雄に感謝を送る……この行為自体に問題は無い。相手がローブル聖王国にとって不倶戴天の敵、あの魔導王(アンデッド)でさえなければ。自らの国力では手も足も出ない相手を打ち倒してくれた王だ、これがスレイン法国や……最悪でも彼の亜人が多数を占めるというアーグランド評議国ならば、まだ属国となり聖王家が生き延びる道もあっただろう。

 

 しかし聖王室・聖騎士がアンデッドに従属し、剣を捧げるなど出来るはずがない。だがこのまま指を咥えて待っていれば、この国はアンデッドの手中に収まってしまう。(仮)が20万もの武装親衛隊を持ち合わせた今、最早南北で対立をしている場合ではない。

 

「聖王家から南部貴族の皆様や神官の皆様に対し、聖王室が持ち合わせる徴税権、軍事保有権、海里の領土権限、司法権限をある程度譲歩すると言付かっております。」

 

「そんな、歴史有る聖王室から我々如きが受け取ることなど出来ません。」

 

「まったくです。ですが聖王家が疲弊している現在、一時的に爵位を持つ我々が僭越ながら代行を行わせて頂くことは吝かでは御座いませんが。」

 

「そうですな。我々が法の執行人となった暁には、あの忌まわしき(仮)を異端審問に掛け、瓦解させてしまえばいいでしょう。」

 

 聖騎士たる自分には解らないが、身を乗り出し目を輝かせているあたり、爵位を持ち権威を欲する者として余程魅力的なのだろう。言動が全く噛み合っていない。

 

 大幅な規制の緩和であり、貴族や神官連中は更に富と地位・威勢を確かなモノにするだろう。

 

 ……もちろんグスターボはこんな真似、一時的な時間稼ぎにしかならないと解っている。今まで聖王家と敵対する手筈を整えていた相手に強権を与えるなど、大博打を通り越し、自殺行為だ。力を得た貴族達は聖王室に心から忠誠など誓わないだろう。まして南部は北部ほどヤルダバオトの恐怖も、それを打ち倒した魔導王の恐ろしさも、魔導王を讃える(仮)の脅威に対しても、認識が余りにも甘過ぎる。

 

 民の暮らしもどうなるか解ったモノでは無い、重税や賄賂・冤罪裁判……腐敗の温床を自ら造り上げるようなものだ。だが、代案も出ない。代案無くして反対するほど聖王国には時間も猶予も残されていない。

 

(我が国は終わりに向かっている……。)

 

 南北の和解など、今更応急処置にすらならない。グスターボは南部へ赴く道中を思い返す。聖王国聖騎士団長たる自分よりも、壇上に立つネイア・バラハに喝采が……魔導王(アンデッド)を讃える絶え間ない賛美が轟くのを見た。

 

(もし我が国が内部から腐敗すれば、裁く者は……。)

 

 グスターボは最悪の想定を脳裏に浮かべ、強烈な胃痛から身体をくの字に歪めた。

 

 

 

 ●

 

 

 

 『魔導王陛下へ感謝を送る会(仮)』総本部。ネイアは水槽にへばり付いて目を輝かせているシズ先輩を、対面の澄んだ水越しに見て苦笑していた。

 

 水槽には鮮やかな青い鱗と大きな虹の様な尾ひれをもった幾匹もの小さな魚が泳いでいる。トンと水槽を叩く度に、ビクリと泳ぎ出すのが楽しいのか、シズ先輩は角度を変えて何度か水槽を指先で優しく叩いている。

 

人魚(マーマン)の同志から支援品として頂いた海の虹という魚ですが、そんなに珍しいですか?まぁ聖王国でも宝石と同じ程度の値段で取引はされてますが。」

 

 熱帯魚を前にしたシズ先輩は〝みりたりーのロマン〟を語っている時くらいには子供じみている。その様子は正直かわいいという感情しか湧いてこないが、ネイアは黙っていることにした。

 

「…………欲しい。」

 

「海水の準備と餌があれば飼えますよ。」

 

「…………水を……海水を……博士の部屋に……う~~ん。」

 

「シズ先輩がよろしければ、持っていって下さい!元々売る予定の品でしたので!」

 

 思えば自分はアインズ様に恩義を頂いているばかりで、何もお返し出来ていない。王の中の王にして偉大なる御方であるアインズ様にお渡し出来るものなどこの世に存在するのか解らない上、自分は渡す立場にもない。そう思えばシズ先輩に形あるものをお渡しするチャンスなのではないかと考えたが……

 

「…………ダメ。諦める。」

 

 その声はネイアでなくても解るのではないかというほど、忸怩たる思いが篭もっていた。カリンシャ奪還戦で自分が死の淵に居たときでさえ冷静だったシズ先輩がと思うと逆に笑いさえこみ上げてくる。

 

「そうですか……、残念です。」

 

 シズ先輩はトントンと叩いていた小さな魚達が弱っていき、お互いを攻撃しあったのを見て目の色を変え-ネイアにしか解らない変化だろうが-水槽の反対……ネイア側に立ち少しションボリとした様子でそれを見ていた。

 

「ああ、海の虹はパニックになるとこうなっちゃうんです。直ぐに収まりますよ。」

 

「…………仲間同士。良くない。頑張れ。」

 

 水槽から手を離して、静かに海の虹達を応援している。その声はどこか儚げだ。魚達のパニックは数秒で収まり水槽に静謐が戻った。シズ先輩はその様子を見ながら、静かに話を始めた。

 

「…………昔。ちょっと昔。皆と話した事がある。つまらない話。」

 

「なんですか?」

 

 視線を相変わらず水槽に向けたまま、何かを思いだしたのかゆっくりと、ネイアの返事から一拍置き……

 

「…………アインズ様にわたしを殺せと命じられた。ネイアはどうする?」

 

「勝てないと解りつつ即座に弓を絞らせて頂きます。」

 

 ネイアは質問の内容に驚くと同時に、驚く間も無く即座に結論を出した事にも二重に驚く。あの慈悲深く深慮を巡らせるアインズ様だ。その御方がシズ先輩……メイド悪魔の抹殺を命じたということは、シズ先輩が操られて離反……自らの望まない意思で他者やアインズ様に仇成す存在となったということだ。そしてアインズ様が命じたならばネイアに解決出来る問題ではないだろう。なので取るべき行動は一つだ。

 

「…………うん。流石ネイア。皆同じ事を言っていた。わたしも同じ事を思う。」

 

「ええ!ですのでわたくしに抹殺命令が下されても躊躇しないで下さいね!死ぬならばアインズ様のご命令か、アインズ様の御手。もしくはシズ先輩がいいです。いえ他国の平民がおこがましいですね。」

 

「…………うん。」

 

「ですが、シズ先輩を……なんて、あの偉大にして智謀の王たる慈悲深きアインズ様が万策を以って不可能と判断した時です。つまり有り得ないことですよ!」

 

「…………うん。だからネイアも。ううん。つまらない話だった。叱咤もの。」

 

「シズ先輩を叱咤する者なんてこの場に……いえ、この国にいませんよ。」

 

 ネイアは何時もらしくないシズ先輩がどんな顔をしているのかとても気になった。だがシズ先輩がどんな表情をしているか、その真相を見るのは水槽の魚達だけだった。

 

 


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