ネイア・バラハの聖地巡礼!   作:セパさん

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・この話は後日談であり、蛇足です。ネイア・バラハの聖地巡礼!本編を前提とした話しとなっておりますので、ご了承下さい。

・IF設定が更に独自の進化を遂げた世界を舞台にお送りしております。

・キャラ崩壊注意です。

 以上を踏まえた上でお読み下さい。


【番外編】異榻同夢

 シズはベッドに眠るネイアの喉笛へナイフを突き付けた。

 

 まるで虚無からナイフが生えてきたかのような一閃であり、人の身であれば自分が絶命したことにさえ気が付くことなく命を落とすだろう。……その一撃が寸前で止まってさえいなければ、だが。

 

 ネイアはシズ先輩に笑顔を向け、最早自由には動かない手を震わせながらゆっくりと伸ばし……シズ先輩の柔らかく温かな頬を撫でる。

 

「…………死は慈悲。アインズ様が言っていた。後輩の癖に先輩より先に慈悲を受けるなんて生意気。」

 

(ああ、わたしはなんて幸せなんだろう。)

 

 ネイアは様々な死を見てきた。幼子の断末魔、鉄にも似た血の香り、零れ出る臓腑……戦場において死は残酷であり、悪夢でしかなかった。そう思っていた。

 

 アインズ様――この世で最も慈悲深き神、魔導王陛下に出逢うまでは。

 

 命とは正義を貫くためにある。つまりはアインズ様の為にある。その真理に気が付いてから、ネイアの死生観は変貌した。死を怖がることも、恐れることもなくなり、残酷であるとも思わなくなった。

 

「せん、ぱい。わたくしは、シズ先輩のように、アインズ様の、お役に、立てたでしょうか?」

 

 ネイアは、自分が今どこで横になっているのかも解らない。とうの昔に、麻薬に近い鎮痛魔法で頭は悉く馬鹿になってしまっている。それでも、シズ先輩の無表情に宿った感情を汲み取る能力までは抜け落ちていない。

 

 その感情は怒りだ。ネイアでも見たことのない、強い怒りの感情……そして、同じくらい強い困惑の感情だった。

 

「…………全然役立たず。能無し。根性なし。馬鹿。大馬鹿。すごく馬鹿。」

 

「そう、ですか。残念、です。」

 

「…………とても無様な姿。許されない。だから今すぐ立つべき。」

 

 シズ先輩の怒りがオーラとなって陽炎のように立ち昇っている。ネイアにだって〝もうアインズ様のお役に立つことができない〟という後悔と絶望が心に強く残っている。だが、自分に出来なかった事は、同志達が成し遂げてくれるだろう。

 

 この命はアインズ様のためにあるもの。役に立たなくなった時点で存在する価値などない。

 

 これだけの罵詈雑言を並べ立てられ、常人ならば恐慌に陥るような覇気を受けても、ネイアは怯えない。初めての邂逅と変わらず、幼く美しいシズ先輩には微笑ましさしか感じない。

 

 シズ先輩はこんな自分など放っておいて、アインズ様に1秒でも尽くすべきだ。それなのに、こんな壊れた自分のため、ベッドサイドに居てくれる。……本来であれば不敬に思うべきなのだろうが、その行動がネイアにとって、この上なく嬉しかった。

 

 それに不甲斐なく病に伏せ、ベッドに横たわる自分に対して怒っているのではない……。おそらくシズ先輩は、何に対し怒りが湧いているのか、自分でも解っていないのではないだろうか。

 

「わたし、アンデッドになれば、死後もアインズ様のお役に……この亡骸は……」

 

「…………だめ。もし死んでも。役立たずな後輩は箱に詰めて土に埋めてやる。」

 

「酷い、先輩です、ね。」

 

 シズ先輩の声が遠ざかっていく。何時だったか見覚えのある漆黒の世界が近づいてくる。この大いなる喪失感は終わりであり、始まりだ。

 

「…………後輩。…………後輩。…………ネイア。」

 

 ネイアは、頬にあてた手が濡れる感覚にぬくもりを覚えながら、そのまま大いなる喪失感へと身を委ねた。

 

 

 

 …

 

 ……

 

 ………

 

 

 …………

 

 

 

 

 

「シズちゃ~~ん、どうしたっすか?」

 

「本当、シズがお茶会でボーっとするなんて珍しいわね。」

 

「相当疲れているのかしら?シズ、大丈夫?」

 

 プレイアデスが月例報告会(お茶会)を行っている、いつもの部屋。なにやらしばらく呆けてしまっていたようだ。

 

「…………問題ない。ぼーっとしてた。叱咤もの。」

 

「シズにしては珍しいわね。ルプーならよくあることだけれど。」

 

「あーー!ひどいっす!ユリ姉がイジメるっす!」

 

「いつもの行いよ。ほら、エントマも食べ物は粗末にしたらダメって、いつも言っているでしょう!!またシズに血が飛んでるじゃない!」

 

「あぁ~。ごめぇ~ん。」

 

「…………だいぶ目にも入った。許さない。」

 

「全く。はいシズ、ハンカチ。エントマはわたしの食事を見習いなさい。それにしても、デミウルゴス様の牧場から廃棄された一級品だと聞いていたけれど、随分血の薄い男なのね。まるで体液じゃない。」

 

 

 

 …

 

 ……

 

 ………

 

 

 …………

 

 

「バラハ様!目を覚まされましたか!?」

 

 ネイアは開眼と同時に飛び起きた。寝巻は汗でビッショリと濡れており、呼吸もかなり乱れている。周りには元神官の同志達からなる医療支援の精鋭が自分を囲んでいた。

 

「ど、どうされたのですか?わたしは何処で何を?」

 

「演説後の天幕で倒れられ、丸一日意識を失われていたのです!!高熱からか大分うなされていたご様子ですし、我々一同肝を冷やしました。」

 

 ネイアは自分の身体を触る。特段外傷は見当たらない。ただ、悪夢ともとれない朧げな夢を見ていた感覚だけ薄っすらと記憶している。

 

「一日も意識を失っていたなど、アインズ様への背信ですね。わたしには使命が……」

 

「バラハ様!!身体はご資本です!倒れるほどバラハ様に頼りっぱなしだった我々こそ、魔導王陛下への背信者です!ゆっくりお休みになってください!」

 

「しかしそういうわけには……。」

 

「いいえ!しばらくはご休息ください!」

 

 結局ネイアは強引に身体を休まされる運びとなり、しばらく暇な時間が続くこととなる。……あの日どのような夢をみただろうか。思い出そうにも思い出せず、ただ、回想しようとするたび不思議なことに顔は自然と涙でぬれていた。




・俗にいう〝いつか訪れる未来〟というのを書いてみたくなりました。でもオバロ世界だと寿命も伸ばせますし、吸血鬼化、自我のあるアンデッド化など、色々方法はありそうですよね。

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