・IF設定が更に独自の進化を遂げた世界を舞台にお送りしております。
・キャラ崩壊注意です。
・海の日に投稿したかったのですが、筆者は普通に仕事でした。誰か慰めてください。
以上を踏まえた上でお読み下さい。
湾岸都市リムン。ヤルダバオト襲来において、最後に奪還を成功させた都市であり、未だ虐殺と蹂躙の爪痕が強く残る都市。……それ故に、都市を解放してくれた上、支援物資を送ってくれる魔導国・魔導王陛下への感謝は深く、(仮)への入団者・【弱さは悪である】というネイアの
そんな湾岸都市に造られた海軍鍛錬場では、現在30日の行程で行われる
魔導王陛下へ感謝を送る会(仮)の武装親衛隊に入隊すべく訓練を志願した100を超える老若男女の新兵のみならず、元軍士から構成される教官たち――艱難辛苦を潜り抜けた百戦錬磨の古参武装親衛隊員達も緊張の色を隠せずにいた。
その理由は、鍛錬を見守る二人の少女の影があるため……
「同志諸君!本日の海洋演習は、バラハ様……そして彼のシズ様がご見学になっている!!決して悪たる醜態を見せる事無く臨むように!!」
「「「「「魔導王陛下万歳!!」」」」」
万歳の合唱と共に、4人一組で
「魔導王陛下の慈悲と訓練の成果を信じ専念せよ!! 〝良いところを見せよう〟〝上手く当てよう〟という意識すらも邪念であり、心の悪だ!!」
教官の軍士はかつて偉大なる魔導王陛下の前で犯した失態を想起しながら新兵へ檄を飛ばす。その様子を見ているのは、左目をアイパッチで覆い右目には
そして緊張のため、ただでさえ凶眼と称される殺人鬼の様な目つきを、見れば人が死ぬレベルまで高めている――幸いバイザー型ミラーシェードで覆われているが――ネイア・バラハの二人。
「…………うん。流石ネイアのシモ……同志。新兵にしてはまずまずの練度。」
そう言ってシズは訓練する新兵たちと指導教官達へ軽く拍手を贈る。ネイアはその言葉を聞いて身体の芯から脱力し、安堵の溜息をひとつ。
「ありがとうございます!シズ先輩!」
今までも同志たちの練度をシズに見てもらったことはあったが、今回の訓練はアインズ様より賜った
そしてアインズ様の下で働くメイド悪魔たるシズ先輩の【まずまず】がどれほどのレベルを要求されるか、ネイアも解っている。慢心という名の背信を行うつもりはないが、シズ先輩からお褒めの言葉を貰った同志達を誇らしく思う。
以前アインズ様の前で犯した失態……良いところを見せようとして逆に下手になるようなこともなく、訓練は滞りなく終わった。ネイアとシズは宿舎に帰る新兵と教官に激励と称賛を贈り、ネイアの同志達は涙しながら聞き入って宿舎の最終座学・訓練総括へ戻っていった。
整頓までが訓練と徹底しているため、海や砂浜には矢羽一つ落ちていない。ネイアとシズが残されたのは、先ほどの荒天が嘘と思える、まるで眠ったような凪の海。
「ふ~~~。緊張しましたよ~~。視察にシズ先輩が来るなら事前に準備いたしましたのに。」
「…………邪魔だった?」
「そんなわけないじゃないですか!!」
小首を傾げ、無表情にやや罪悪感を宿すシズ先輩をみて、ネイアは慌てて声を弾けさせ、千切り取れんばかりに首を横に振る。そんなネイアの様子を見て、シズは目線を海に向ける。静かな海を見つめるシズの瞳は大波のように好奇心に揺れていた。
「……シズ先輩、ひょっとして海をあまりみたことがないのですか?」
「…………知識にはある。でも実物はあまりない。プレア……メイド悪魔の中でも実際に見たのは多分わたしだけ。アインズ様に報告したらとても喜んでいた。ブループラネット様に見せたいものだ。とも仰っていた。」
博士・ぺロロンチーノ様・コキュートス様に続き、またしてもネイアには未知の人物の名が挙がった。しかし、問うたところでシズ先輩が無言になるのは目に見えているので、そのまま受け流す。
「折角ですから、少し泳ぎましょうか?」
ネイアはシズに対して、そんな提案を行い、シズはネイアを見つめ一拍置いて首を縦に振った。その瞳は好奇心に溢れており、まるで見た目通りの子供みたいだとネイアは微笑ましく思ってしまう。
「わたしも海で泳ぐのは久々です。同志達は【水中順応訓練】で慣れているでしょうが、不信心ながらわたしが訓練に参加しようとすると同志達が止めるのですよ。〝バラハ様に万が一の不慮があっては大変です!〟なんて言って!」
ネイアはそんな愚痴をこぼしながら、月明かりに照らされる砂浜で、ローブル聖王国では当たり前の泳ぐための格好、装備や服をすべて外し、一糸まとわぬ裸体となって……シズに肩をガッチリと掴まれた。
「…………ネイア。その恰好はダメ。」
「え!?何がですか!?」
「…………その姿は危ない。」
「いえ、リムンの海はシードラゴンの加護で、魔物や鮫などが出ない事でも有名ですし。」
「…………そうじゃない。海には正装がある。それを着るべき。」
「海で泳ぐのに正装……ですか?」
海で泳ぐと言えば、下着姿のままか、生まれたままの姿が当然と思っていたネイアの頭に疑問符が浮かぶ。男性がいたり、大勢の前ならまだしも、ここはシズ先輩しかいない上、誰かが来る予定もない夜の海。
普段着のままや下着姿で海に入っては張り付いて泳ぎにくい上、泳いでいる最中波にさらわれ紛失する可能性が高い。
なのでネイアは間違った選択をしたつもりなどないのだが、シズ先輩の目は真剣だ。そしてシズ先輩は虚空から見たことのない素材の布を取り出した。
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「いや!シズ先輩!これ付ける意味あります!?逆に恥ずかしいんですけれど!」
ネイアが着せられたのは、小さな正三角形の生地と紐だけで構成された、どう考えても扇情的としか思えない代物であり、恥ずかしさで逆に布部分3か所を手で隠してしまう。豊満な胸部を持つ女性や母性的な肉体をした女性ならば、さぞ様になるだろうが、残念ながらネイアは自分にそのような女性的魅力は皆無だと思っているし、間違っているとも思わない。
「…………ネイアに合うのがこれしかなかった。」
シズ先輩は全身に密着するような紺単色の〝すくーるみずぎ〟なるものを纏っており、胸部分には四角い白の生地が張り付けられてあり、見たことのない奇妙な文字が2つ描かれている。
「ううぅ……これなら着ない方がマシですよぉ……。」
「…………イジワルしすぎた。これ。」
ネイアが涙目で顔を真っ赤にしているのを見て、罪悪感を覚えたのか、シズは目を背けながら別の布をネイアに渡す。それは小さなスカートの付いた、明るい色の袖が無いドレスを思わせる代物で、ネイアはこれはこれで恥ずかしいと思いながらも、現在身に着けている三角の布と天秤に掛け、渋々シズ先輩から新たな【ミズギ】を受け取った。
燦々と照りつける太陽に反射する白い砂浜……とは異なる、月夜に星砂が淡く光る夜の海。
ひと泳ぎしたネイアとシズは―シズは泳ぐと言うより、海底を歩いていたが―砂浜で〝チョコレート味〟を飲んでいた。
「…………これが海。悪くない。」
シズはほっこりとした様子で、初めての海を楽しんでいたようだ。その様子にネイアも満足を覚える。
「急だったもので今回は本当に泳ぐだけでしたが、今度は
「…………うん。わたしも今度。【ばかんす】の作法を勉強してくる。」
無表情に楽し気な感情を宿すシズ先輩を見て、ネイアは微笑ましく思いながら、チョコレート味の残りを静かにすすった。