ネイア・バラハの聖地巡礼!   作:セパさん

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・この話は後日談であり、蛇足です。ネイア・バラハの聖地巡礼!本編を前提とした話しとなっておりますので、ご了承下さい。

・IF設定が更に独自の進化を遂げた世界を舞台にお送りしております。

・キャラ崩壊注意です。

・かなり独自設定多いです。閲覧注意。(今更感)

 以上を踏まえた上でお読み下さい。


【番外編】戦いの在り方 悪魔シズ など

『誰かを護るためならば、実力以上の力を発揮する。』

 

 ……まるで冒険活劇の主人公が如き、歯の浮く台詞であるが、実に自然な野生の(ことわり)でもある。

 

 事実、百戦錬磨の狩人でさえ逃げ出す獣とは、手負いの獣でも、空腹の獣でもなく、後ろに幼子を抱える子連れの獣だ。子供と油断し傷の一つもつけようものならば、親の獣が文字通り地の果てまで追ってくる。

 

 そういう意味で肉親の次に信頼に足る戦友から結成された兵士というのは――

 

「って、お父さんが言っていたかな。」

 

 ネイア・バラハは今は亡き父が趣味であった家族キャンプで喜々と話していた内容と、〝娘に何を吹き込んでいるんだ〟と冷たい視線を送っていた同じく亡くなった母を追想する。

 

 同時に今はそのような場面でないと、自分に言い聞かせる。何しろ同志達の反対を押し切り無理を言って戦場に立っているのだ。

 

 立ち向かうは不気味な霧を放つ燃え上がった幽霊船であり、魔化の施された鉄の網が魔法詠唱者(マジック・キャスター)である同志達数十名によって飛行(フライ)で八方の鉄を飛ばし上空で交差、まるで風呂敷のように包み込んでいる。

 

 これによって幽霊船の脅威である15mの目視不能を無効化し、攻撃個所の明確化が可能となった。また無数に湧き出るアンデッドの群れを抑える役目も持つ。

 

 同志数十名の尊い犠牲の下、幽霊船は隘路に誘導されており、広範囲の攻撃を放てなくなっていることも大きい。アインズ様から賜った聖典(ぐんじしょせき)を預けた元軍士である同志は〝部隊の意思疎通の統一化〟やら〝風浪の状況〟やら〝威力偵察〟やら〝攪乱の機能〟を以前よりも格段に向上させることに成功したと鼻息を荒くしてネイアに語っていたが、何を言っているかサッパリわからない。

 

 恐らくシズ先輩がいたら普段の寡黙さを置き去りに、子供のように翠玉(エメラルド)の瞳を燦然と輝かせ滔々と語りだすだろう。……そう考えると、またも戦場に似合わない温かな笑みがネイアを襲う。

 

 しかし同志の尊い犠牲のもと作りだした【勝利への道】を足蹴にする真似は許されないと自らに活を入れ、アルティメット・シューティングスター・スーパーを構え、弦を絞る。

 

 矢に聖騎士の力を宿し、炎の揺れから船長と思わしき強大な力を感じ取り……。その矢を放った。そして幽霊船はみるみるとその力を失っていく。

 

「同志の皆様!今です!アインズ様万歳(上位・神の御旗の下に)!」

 

 無数の咆哮が轟き、〝魔導王陛下万歳〟という合唱と共に矢が一斉掃射される。そうして【英雄級を超えない人間の集団による幽霊船の討伐】というデタラメ極まる伝聞が国境を越えて伝えられ、魔導王陛下へ感謝を送る会(仮)の脅威が改めて広まることとなる。

 

 

 ●

 

 

 

 

 

「……聖王室が、あの狂信者集団に印璽を求めただと?何の、何の冗談だ?」

 

 火の最高神に仕える聖印を提げる髭を蓄えた神官長は、卓上で頭を抱え、その眼は虚空を見つめていた。周りの神官たちも目を伏せ、口を噤み、割れんばかりの歯軋りだけがキリ、キリ、と聞こえるばかり。

 

 神殿内の空気は形容しがたく、匂いに例えるなれば【不安と絶望と憎悪の匂い】と言ったところだろう。国璽に付随する印璽がどれほど重たいものであるか解らぬ聖王室ではあるまい。……〝ローブル聖王国は神殿よりも、忌まわしき(仮)の手を取った〟。そう他国から判断されることを意味する。

 

 そんな暗澹たる神殿内部の空気を彩るのは、四方壁一面に貼りだされた無数の破門状と絶縁状。ほとんどがローブル聖王国北部に所属していた神官・聖騎士の名であり、最近では南部の人間の名が刻まれることも多くなってきている。

 

 神殿からの破門・絶縁処分とは、聖王国民……特に神職者や聖騎士にとって、神の御許へ行く事が約束される死罪よりも重い処分。

 

 宗教国家であるローブル聖王国においては社会的な死……自殺か犯罪者――聖騎士であれば暗黒騎士――へ身を(やつ)すかの二者択一を強いられる、誰もが恐れる神殿の鬼札とも言える宣告であった。

 

 ……彼のヤルダバオト襲来、そして忌まわしき【魔導王陛下へ感謝を送る会(仮)】の台頭までは。

 

「……我々神官は、ケラルト・カストディオ最高司祭の後釜争いに執着しすぎてしまいました。北部の現状を鑑みれば、我々は力を合わせ、民からの求心力を維持するべきだったのです。」

 

「愚か者共め……。しかし行く先がよりにもよってアンデッドを神と崇拝する背信者の集団とはどういうことだ!!」

 

 国が一丸となって聖王国を復興すべき時に、権力闘争や権謀術数に執心する神殿に辟易し去っていった者は多い。まして『魔導王陛下へ感謝を送る会(仮)』は元神官・元聖騎士であろうと分け隔てなく入会を歓迎しており、【救国の英雄】たる魔導王への唯一の忌避……アンデッドであることに目を瞑ってしまえば、身の振り方としては最良ともいえる。頭では解っているが、感情が追いつくかは別の話だ。

 

 こうした聖職者として許すまじき人道に対する裏切りの数々に加えて、神殿の凋落に拍車をかけているのが、財政の圧迫だ。北部では布施を受けに家を回った修道女に対し塩を撒かれる事案が多数報告されている。また、神殿の独占事業でもあった治癒魔法についても、(仮)が聖王国民に対し神殿よりも安価な料金で治癒を行う【治療院】を作り上げたこと。

 

 そして忌まわしき魔導国から運ばれる復興支援品に水薬(ポーション)――何故か毒々しい紫色をしており、幸いにも南部では忌避されている――が多くあることから、神殿は収入を得る手段、そのほとんどを失った。

 

 神官長は上納された以前の1/10にも満たない金貨・銀貨に混ざり、【報酬】と【感謝状】の入った小さな麻袋の数々に目を落とす。そこには銀貨とともに〝聖王国の脅威を討っていただいたことに感謝を申し上げます。〟という文面と、彼のネイア・バラハの署名が入っている。

 

 

 ……未だ(仮)を敵視する信心深い者たちが、(仮)への嫌がらせ目的でアンデッドを討伐し、その残骸を本部へ送ったのだ。しかし向こうの対応は、まるで冒険者に対する報酬そのものであり、向こうは強烈な皮肉で返答してきた。いや、ひょっとすれば本心であり、意にも介していないのかもしれない。

 

「……どうやら民はハンマーと鎌を、神官と聖騎士は聖印と剣を齧って生きていく道を選ばなかったようですね。」

 

 青い目を持つ神官の一人が皮肉気にそう言った。虚空を見つめていた神官長が、敵意に満ちた眼差しを向け、舌打ちを一つ。

 

「(仮)の様子はどうだ?偉大なる4大神ではなく、忌まわしきアンデッドに祈りを捧げ信仰系魔法を操るなど……。わたしは未だに信じられぬ。」

 

「そろそろ我々も現実を受け入れるべきです。魔導王へ……、魔導王を信仰することで、元聖騎士は今まで通り、いえ今まで以上に強力な聖撃や治癒魔法を使い、元神官も位階魔法を操っております。」

 

 先ほどから唯一多弁な青い目の神官は、堂々とした様子で話を進めていく。……周りの神官も、神官長も血管が千切れるのではないかというほどの苦悶の表情を浮かべるばかり。

 

 【偵察任務】を任せた神官が北部へ行ったきり戻らなくなることは多くあった。しかし今回この青い目の神官は北部から情報を持って無事に帰還を果たしたのだ。

 

 

 ……恐らくは忌まわしき(仮)に洗脳された状態で。

 

 

 ここで拷問にでも掛け、2重スパイの容疑を認めさせ、見せしめとすることもできるだろう。だが、そんな真似をすれば(仮)がどんな報復をしてくるか解らない。それに程ほど有益な情報をもたらしてくれるだけにタチが悪い。

 

「我々はこれからどうすればいい?神殿にも私兵はいる。このまま凋落を見届けるくらいならば、玉砕を覚悟で……。」

 

「まるで無駄な死を私兵たちが受け入れてくれればですが。かの団体が所有する武装親衛隊は、アダマンタイト級冒険者の案件とされる、ギガントバジリスクや幽霊船の討伐をも成功させています。恐らく一方的な虐殺が起こるだけでしょう。それに一つ伺いたいのですが、皆様は人間を相手に剣と弓を振るえますか?」

 

 神官長は一瞬言葉に詰まる。聖王国は今まで対亜人を想定した訓練のみを実施しており、人間を相手取った殺し合いはしたことがない。

 

「それは、(仮)も一緒ではないのか?」

 

 絞りだすような声に対し、青い目の神官は爽やかさすら感じさせる笑みを浮かべ断言した。

 

「我わ……彼らならば躊躇なく、魔導王へ敵対する異端者へ弓を絞れるでしょうね。」

 

 

 ●

 

 

 ローブル聖王国首都ホバンスに構えられた【魔導王陛下に感謝を送る会(仮)】総本部。北部貴族の屋敷を改装した外観は、よく言えば歴史ある、悪く言えば草臥れた様相を呈している。

 

 その執務室で、ネイア・バラハは書記次長ベルトランと直轄の文官より渡された資料に目を通していた。文官たちはネイアの視線が文面を通るたび、その鋭い視線に緊張を宿し震えそうな身体を必死に隠している。

 

「〝6面のサイコロを無造作に振り、50%の確率で自分の好きな目を出せる。〟〝装備も魔化もせず水中に入っても皮膚がふやけない〟〝一度飲むだけでどの地域の海水か覚え、言い当てる〟〝目視できる範囲であれば、放った矢に書かれた文字でさえ一瞬で読むことができる〟……1名豚鬼(オーク)の同志ですが、〝虫に毒があるか見極められる、ただしどんな毒かは判らない〟ですか。」

 

 まとめられている書類に記されているのは、所属する同志たちや、(仮)が運営している孤児院から集められた生まれながらの異能(タレント)を持つ者たちとその能力について。

 

 ネイアが未だ正義について確信する前……魔導王陛下の従者であった時分から、アインズ様は生まれながらの異能(タレント)について多大な関心を寄せられていた。そしてシズ先輩から聞く話では、驚愕することに生まれながらの異能(タレント)……それは、《武技》と並びアインズ様の叡智を以ってしても謎に包まれる能力であるという。

 

 シズ先輩も《武技》《生まれながらの異能(タレント)》についてはネイアの団体にかなり期待をしてくれているらしく、ネイアも偉大なるアインズ様、そしてシズ先輩のため、同志達に最優先事項の一つとして研究及び発見を訴えているが、難航しているのが現状であり、大抵は今報告を受けたような、今一パッとしない――それでもシズ先輩は目を輝かせ聞いてくれているが――能力ばかりが報告される。

 

(ああ……この世に無駄な知識などひとつもなかったということですね。ヤルダバオト襲来以前、何故わたしは生まれながらの異能(タレント)に興味を持てなかったのでしょう。これではアインズ様のお役に立つなど……)

 

 この貴重な知識についての情報を「ふーん」と聞き流していた自分を力いっぱいぶん殴ってやりたい。ネイアの自責を怒りと捉えられたのか、同志である文官たちが俯き身体を震わせているのを見てネイアは慌てて真面目な表情――前に笑顔で対応したら余計に怖がられた――を取り繕う。

 

「同志書記次長、並びに皆様!大変有益な情報をありがとうございます!きっとアインズ様……魔導王陛下もお喜びになられるでしょう!」

 

 アインズ様が喜ばれる……ネイアにとっては自身の存在証明に匹敵するほどの事柄だ。シズ先輩が奮闘するも空回りするネイアに掛けてくれた慰めの言葉であると薄々感じているも、懸命に研究を重ねてくれた同志への労いに同じ言葉を贈る。

 

 その効果は劇的であり、ベルトランや文官たちの目に燦然とした光が宿る。そして執務に専念したいからと、ネイアはベルトランたちを下がらせた。そして溜息を一つ吐き……

 

「シーズせーんぱーい。いくら先輩でも盗み聞きって良くないと思うんですけれどー?」

 

 ネイアの横にあった虚空は人の形をみせ、幼さの残る美少女……シズ先輩が無表情の中に不機嫌な感情を宿して立っていた。

 

「…………む。またバレた。生意気。」

 

「ですから!素直に歓迎するのにどうして神出鬼没に現れたがるんですか!?悪魔だからですか!?」

 

「…………むーー。悪魔……。うん。じゃあそれで。」

 

 シズ先輩は何処か不満げな様子でネイアにそう言った。

 

「まぁ今回は報告の手間が省けたのでいいですが、今回も当会でみつかりました生まれながらの異能(タレント)はこんな感じです。」

 

 ネイアはやや申し訳なさそうに……若干、アインズ様に失望されるのではないかという恐怖さえ交えながら報告する。

 

「ネイアお手柄。アインズ様も喜ばれる。」

 

 しかしシズ先輩は気にした様子もなく報告書に目を通し、ほっこりとしていた。実際生まれながらの異能(タレント)発掘のため、死なない程度―重度の障害が残る程度――の人体実験をしてでも魔導王陛下のお役に立つ者を探すべきではないか、それは尊い犠牲ではないかという議論がされたことも――ヤルダバオトの収容所に囚われていた同志たちは断固反対していた――あるが、そんな実験の中止を決定したのは誰でもないシズ先輩だ。

 

「アインズ様がお認めになられた、聖地へ招聘される羨望すべき者はいまだに見つかりません。」

 

「大丈夫。ネイアの会に居ることがとても大事。アインズ様も…………仰っていた。」

 

 一瞬アインズ様の御名に続き、誰かの名を言いかけたことに気が付かないネイアではない。それはあの宰相アルベド様か、時折シズ先輩から出てくる謎の人物〝博士〟か……。とはいえシズ先輩が一度無言になればその真相は藪の中。お手上げとしか言いようがないので、悶々とした気持ちをため込むほかない。

 

「わかりました。先輩を信じます。……謎で思い出したのですが、シズ先輩って本当に悪魔なんですよね?」

 

 アインズ様が自国の強兵……あの偉大なる御方でさえ大切な者を護るための勝利へ邁進する手段として欲した、ヤルダバオトが持つメイド悪魔。すっかり忘れてしまいそうになるが、シズ先輩はその一人なのだ。だが、シズ先輩がどれほど慈悲深く優しい者であるか、聖王国ではネイアが一番よく知っている。御伽噺や吟遊詩人(バード)の唄に登場する悪魔とは似ても似つかない。

 

「…………むーーー。そう。悪魔。恐ろしい悪魔。がおー。」

 

「あ、シズ先輩。氷結の神器でアイスクリームが出来てますけれど食べます?」

 

「…………スルーとはいい度胸。食べる。飲み物はこっちで準備する。一緒に食べよ。」

 

 ネイアはシズ先輩に背を向け、あまりにもあざとく可愛い姿に緩んだ口元をみられまいと肩を小刻みに震わせていた。

  

 


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