ネイア・バラハの聖地巡礼!   作:セパさん

60 / 84
・この話は後日談であり、蛇足です。ネイア・バラハの聖地巡礼!本編を前提とした話しとなっておりますので、ご了承下さい。

・IF設定が更に独自の進化を遂げた世界を舞台にお送りしております。

・キャラ崩壊注意です。

 以上を踏まえた上でお読み下さい


【超番外編】狂信者は夢を見る

 ――初めに宣教師がやってきて、次に商人が商いをはじめ、最後に騎兵隊が襲ってくる――

 

 古来より大国が小国や未開の部族を効率的に侵略し征服をするための常套手段であり……

 

 ……現在ローブル聖王国各地で巻き起こっている現象だ。

 

 ローブル聖王国において神殿勢力以上の権力を手にした【魔導王陛下へ感謝を送る会(仮)】は、今までのような草の根活動をすることを止め、圧倒的な人員・資源・財力を背景として、北部のみならず、南部にまでも勢力を伸ばし始めている。

 

 最初に伝道師がこれまでの価値観を変貌させる説法(せんのう)を行い、次に支援物資を用いて生活を便利にさせ民を裕福にし、最後には親衛隊と言う名の武装兵たちが村や町を占領していく。

 

 当然、領土を管理する貴族たちは二者択一を強いられる。〝アンデッドを神とする狂信者集団など容認できない〟と緩慢な破滅を選ぶか、〝魔導王陛下の素晴らしさに目覚めた〟と聖王室や神殿勢力を裏切り、狂信者と手を結ぶか。

 

 ――現在机で頭を抱えている恰幅の良い侯爵は、勇敢にも前者を選んだ一人であった。

 

「糞!糞!糞!何が魔導王陛下だ!人の生き死にさえ嗜虐(しぎゃく)的に弄ぶただの化け物ではないか!!」

 

 部屋は盗聴を防止する魔法が掛けられており、壁も銅板で覆われているが絶対ではない。あの忌まわしき(仮)に常識などという言葉は通用しないのだ。それでも侯爵は叫ばずにはいられなかった。

 

 魔導王の行った悪行は枚挙に暇がない。リ・エスティーゼ王国における18万人の大虐殺に始まり、人類の希望たる漆黒の英雄モモンを悪辣な手段で配下とし、自国の首都エ・ランテルをアンデッドで埋め尽くし、亜人や異形種を跳梁跋扈させているとも聞く。

 

 そして狂信者集団たる(仮)の最終目標が、そんな化け物に栄えあるローブル聖王国の統治者として君臨してもらいたいという妄言なのだから平常心でいられるわけがない。だが……

 

「……(いな)を唱える力も、わが国には残されていないか。」

 

 聖王室ですら国璽に付随する印璽として(仮)の印書を求めた。最早侯爵の知るローブル聖王国は戻ってこない事を確信させる衝撃的な出来事で、神殿勢力に見切りをつけ(仮)に尻尾を振り始めた貴族は数多い。

 

 侯爵はその中でも崩御なされたカルカ聖王女や身罷(みまか)られたケラルト・カストディオ神官団団長の掲げた〝正義〟を信ずる者として、精いっぱい(仮)に対抗してきた。

 

 ……結果、民は飢え、食糧を施す(仮)に感謝し、求心力は一気に低下した。かつて大神官や聖騎士を多く輩出してきた〝名君〟は、ただ民から税を取るだけの〝暴君〟へ変貌する。

 

「最早、これまでか。」

 

 果たして最後に窓から見た、眼に怒りを滾らせた民たちは既に扉の前まで来ているだろうか。忌まわしき魔導王の名を叫び喝采し、自分を〝悪〟と呼んだ愛すべき臣民たち。

 

 どこで道を間違えてしまっただろう。……いや、ヤルダバオト襲来以降、ローブル聖王国に選ぶべき道などなかったのかもしれない。現在この地で起こっているは〝反乱〟などという生易しいものではない、〝革命〟だ。

 

 しかし、気が付いた時にはすべてが遅かった。

 

 せめて、愛する臣民に〝領主殺し〟の汚名は被せまいと……侯爵は瓶から猛毒に浸した林檎を取り出して大口をあけ一口に齧った。

 

 

 ●

 

 

「……以上のように、不敬にも聖地アインズ・ウール・ゴウン魔導国より賜る豊饒な支援物資を拒絶し、民を飢えさせていた蒙昧な領主は、同志たちによって蜂起した自領の民たちに追い詰められ自死を選びました。」

 

「そうですか……。最後までアインズ様の素晴らしさを説くことが出来なかったのは我々の不徳であり、敗北です。丁重に供養をしてください。」

 

「畏まりました。バラハ様。」

 

 ローブル聖王国首都ホバンスに構えられた【魔導王陛下に感謝を送る会(仮)】総本部。北部貴族の屋敷を改装した外観は、よく言えば歴史ある、悪く言えば草臥れた様相を呈している。

 

 その執務室で書記次長ベルトランより報告を受けたネイアは、自身の不甲斐なさ、無力という名の悪を悔いていた。もし自分にアインズ様の無上の愛を伝える力がもっとあれば、こんな悲惨な結末にはならなかったはず。慈悲深きアインズ様がお聞きになれば、さぞお嘆きになるに違いない。

 

 『力無き正義は無力であり悪である』

 

 ネイアが常々説いている内容であるが、ここにきて価値観の変容を見せ始めた『力無き正義は〝悪にも劣る〟』と……

 

「そういえば竜王国から当会にいらした使者殿の件は……」

 

「丁重にお断りさせていただこうかと考えております。隣国や友好国ならばまだしも、竜王国は地理的にもローブル聖王国と正反対、復興が完全でない現状を鑑みるに、同志達を死地に追いやるのは時期尚早かと。」

 

 理屈は解るが、ネイアは引っかかりを覚え長考する。

 

 アインズ様は王という地位にありながら、その身を顧みることなく、ローブル聖王国の危機に立ち上がってくれたではないか。

 

 目的がメイド悪魔という富国強兵のためであっても、出立段階ではメイド悪魔の存在は確定していなかった。その恩義を受けた身でありながら、〝他国の出来事だから〟〝自国の都合があるから〟と切り捨てる真似などしていいのだろうか?

 

「同志書記次長。あなたはお忘れですか?為す術無く亡国を看取る絶望を?明日には悪魔か亜人の食料にされるのではないかという怯えた瞳を?目を覆いたくなるような地獄の日々を?生きる希望さえ見いだせなくなる悪魔の実験を?」

 

 ネイアの鋭い視線に射抜かれたベルトラン・モロの瞳が見開き、直後恥じ入るよう目を伏せる。

 

「そうでした。偉大なる魔導王陛下の御慈悲を賜った身でありながら、わたくしはなんと恥ずべき事を!!」

 

「カスポンド聖王陛下に許可を頂き、同志親衛隊を向かわせましょう。まずはビーストマンについての正確な情報や生態を収集し……」

 

「…………国際問題に発展しないように。使者には〝我が国もネイアの団体も協力は出来ない、しかし今後我が国の脅威となる恐れのあるビーストマンの生態調査を行わせていただきたい〟と話す。〝国が動いた〟のではなく、〝ネイアの団体〟が勝手に動いた体裁をとる。そして交戦に向かうべき。」

 

「と、シズ先輩も仰っています。そのように動い……って!いつから居たんですか!?」

 

「…………結構最初から。気が付かれるのは悔しい。けれどここまで気が付かれないのも意外と寂しい。」

 

 そういってシズはネイアの座る椅子の後ろからチラリと顔を出した。そしてベルトランにその宝石の様な美しい瞳を向ける。

 

「同志書記次長、申し訳ありませんが席を外してください。」

 

「か、かしこまりました。」

 

 シズの意を汲んだネイアが退席を告げ、ベルトランは失礼にならない程度に早足で部屋を出ていく。そして扉が閉まると同時に【絶対指導者ネイア・バラハ】は消え【少女ネイア・バラハ】が顔を出す。

 

「シズ先輩!いらっしゃるならもっと早く……いやーー!恥ずかしいです!」

 

 ネイアは顔を真っ赤に染め自身の金髪をクシャクシャと撫でまわした。【絶対指導者ネイア・バラハ】なんてものは演技でしかなく、〝偉い人のふり〟を取ってつけた見様見真似でしているに過ぎない。あのアインズ様の傍らに居るシズ先輩からすれば滑稽劇でしかないだろう。

 

「…………アインズ様も竜王国とビーストマンの国に介入される決断をされた。」

 

「どちらにですか?」

 

 ネイアは一瞬心臓を握られた様な恐懼の念を覚えた。アインズ様の愛は全ての種族に対し平等だ。ローブル聖王国の一件では自分たち使者が救国を求めたことでヤルダバオトを撃退して頂いたが、アインズ様がビーストマンより救援を求められ、ビーストマンに与するならば、ネイアの行おうとしている事は神への叛逆という大罪だ。

 

「…………竜王国。戦線を維持する程度には援助を行うと仰せ。」

 

 一瞬安堵の息を吐きかけ、同時に自分が未だ亜人を差別している未熟な人間である事を恥じ、喝を入れる。

 

「では、わたしたちが行おうとする微力な支援など、アインズ様の邪魔になるのでは?」

 

「…………自分で考えることが大事。アインズ様は常々仰られている。そしてネイアの団体が竜王国に援助するかもしれない事をお伝えしている。けれど止められてもいない。」

 

 ネイアは今回の一件に対し様々な思考を行う。アインズ様の御力を以ってすればビーストマンの王国など次の日を待たず灰燼に帰すだろう。竜王国の逼迫した現状は使者から聞いた。スレイン法国に自国の防衛という重責を丸投げするほど追い詰められている。

 

 あの慈悲深きアインズ様ならば、そのような現状をお嘆きになっているに違いない。ならば……

 

(アインズ様の派兵、そしてわたしたち(ローブル聖王国)からの義勇派兵、ビーストマンは国を興す程度には知的な種族。竜王国が落とされた都市は3つ。しかしアインズ様の兵を見たビーストマンは必ず自国の不利を悟る。本格的に与すればビーストマン達に明日は無い。ではわたしたち(ローブル聖王国)の役割は?)

 

「……!アインズ様は竜王国とビーストマンの国との対立をまやかし戦争(ジッツクリーク)へもっていき、やがて休戦させ、その上でその慈悲深き御手で両国を抱擁されようとなさっているのですか!?」

 

 ネイアは同志親衛隊と共に学んだ聖典(ぐんじしょせき)から自分なりの回答を導き出す。

 

「…………おー。」

 

 シズは無表情に感心の感情を宿し、パチパチと拍手をした。――シズもアルベドやデミウルゴスからこの計画を聞き同じ結論に至ったためだ。

 

「…………わたしも同じ考え。もちろん」

 

「「アインズ様の叡智に及ぶほど慢心はしていない(ですが!)」」

 

 これだけは譲れないとばかりにネイアがシズの声に被せる。シズはちょっと生意気だと〝むっ〟とする。ネイアはそんなシズ先輩を見て微笑ましさを隠さずにいる。

 

「…………そんな訳でハンコ。ネイアのところからも。」

 

 シズは虚空から皺ひとつない立派な羊皮紙と、一枚の紙を出す。羊皮紙には何語で書かれているか分からない文章――さっきまでの会話から推理するとビーストマンの言語だろうか――が綴られ、もう一枚の紙には翻訳が書かれている。

 

 

(アインズ様がお考えになったのであれば、読む必要もないけれどなぁ……)

 

 そんな事を考えるが〝自分で思考することが大切〟と常々アインズ様が説かれている事はシズ先輩から聞いている。この文章もネイアに対する試練としてあえて間違った考えを記しているかもしれない。一字一句逃すことなくネイアは目を通す。

 

 簡単に要約すると「友好国である竜王国の混乱を取り除き治安を維持するために、ビーストマンの国へ軍を動かす。」「しかし我が国は互いが争い合う事を嘆くものであり、互いが対話のテーブルに立つことが望ましいと考えている。」というものだ。

 

 亜人の国家に布告状を届けるなど聞いたこともない。少なくとも【人間種以外は敵】と考えるスレイン法国はこんな真似はしていないだろう。全ての種族が平等と考えられるアインズ様であるからこその慈悲だ。

 

 羊皮紙には既にバハルス帝国の国璽と神殿の印璽、ドワーフ国の国璽が押されている。そして今回は他の亜人集落の族長から多数署名をもらっている様子だ。

 

 ……つまりビーストマン達にこのままでは亜人や異形種と呼ばれる集落からも孤立すると伝えたいのだろう。

 

 また、後者の文章は普通に考えれば狂人の戯言でしかない。戦争を行っている二つのどちらかに加担しておきながら〝和平の調停官となります〟なんて喧嘩を売っていると同義だ。

 

 しかしアインズ様ならば可能だ。竜王国の民もビーストマン達も、アインズ様の御威光に一端でも触れたのであれば平伏して然るべきであり、その叡智と慈悲深さに跪くだろう。

 

 ここにきてネイアは自分たちが何をすべきか理解した。そう、未だ母国にもアインズ様に敵対する無知蒙昧な輩がいるように、休戦状態となった両国にもアインズ様が理解できない哀れな者もいるはずだ。

 

 〝アインズ様の神話を説くこと〟

 

 それこそ自分たちの役目ではないか?もちろんアインズ様であればご自身の威光を以ってすれば容易なことであろうが、救国の使者としての謁見でアインズ様自ら仰られていたように、アンデッドに対する忌避は強烈だ。あの大英雄モモンが必要であるように……

 

 ……その役目を自分たちが賜った。

 

 そう脳裏に思考が過った瞬間、ネイアは激情でブルリと震え上がる。そのためにも親衛隊の活躍は確たるものにしなければならない。いきなり現れた他人がどれだけ正論を語ろうと戯言にしかならないのだから。

 

「…………ネイア。さっきから挙動不審。」

 

「え!?あ、いえ!印璽でしたね!あははは。」

 

「…………逆」

 

「へ!?」

 

「…………嘘。動揺しすぎ。何を考えていたのか話すべき。」

 

「はい!わたくしの勝手な妄想でしたら叱ってください!まずですね…………」

 

 

 ――スレイン法国の最高執行議会、その議題に〝ネイア・バラハ〟の名が連日上ることになった事は言うまでもない。




・聖地巡礼!+α で竜王国に行かせようかなと思ったのですが、原作でも立ち位置がよくわからないですし、独自解釈のオンパレードになるので今回はその布石?ですかね。〝当作品では竜王国をこんな立ち位置にします〟という感じです。

・何だか難しく考えすぎてよくわからない作品になってしまいました。しばらくはシズ先輩とネイアちゃんのほのぼの物語を投稿したいです。

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。