・IF設定が更に独自の進化を遂げた世界を舞台にお送りしております。
・キャラ崩壊注意です。
以上を踏まえた上でお読み下さい。
宵闇に包まれる森の中、迷彩服に身を包んだ若い男女が一つの天幕を囲んでいた。全員が苛烈な訓練によって暗闇を見通す能力を有しており、会話も手話信号によって行われ、草木の揺れる音すら聞こえない。
【魔導王陛下へ感謝を送る会(仮)】直属の親衛隊によって構成されるレンジャー部隊。その一員である女性の一人が同志【魔導王陛下
このマジックアイテムは〝光の機微によって音の振動を拾う〟という魔導王陛下から賜った
その気になれば1km先の窓ガラスから明瞭な会話を盗聴する事さえ可能であり、防諜として広く使われる銅板からも内部の会話が拾える。そんな代物だ。
しかし女性の顔が一瞬険しくなり、マジックアイテムの効果を消す。
『無音。警戒されたし。』
女性は同志たちに手話信号を送る。例え天幕内の人物が全員眠りについていたとしても、生活音は拾えるはずだ。つまり最低でも第二位階魔法<
『見張りの男は母国南部の者に似た服装をしているが、あれほどの強者を知らない。法国か評議国の手の者による変装だろう。いずれにせよ招かれざる客である。』
天幕の見張りをしていた男の顔つきが一瞬変わり、目線が天幕に向きかけて再び平静を取り戻す。瞬く間の出来事であったが、囲んでいるレンジャー部隊にこの致命的なミスを見逃す愚者は一人もいない。
……恐らく先ほどの一瞬で、〝れーざ〟による盗聴がバレたのだろう。これほど微弱な魔法を瞬時に看破するほどの部隊だ、余程の精鋭であると考察出来る。
『撤退しますか?わたしが囮になります。』
『感謝する。魔導王陛下のお導きがあらんことを。他の者は西へ向け撤退。』
囮の男は見張りをしている男の喉笛へ向けナイフを投擲した。ナイフは当然のように避けられ、地面に突き刺さる。
「敵襲!」
その声と同時にテントから5人の男女が姿を現す。しかし人影は1名しか感知出来ない。いや、隠れる気配すら無い様子を見るに、その一人は囮で、他は宵闇の中待機しているか、既に逃げられた後だろう。
「深追いはするな!相手は忌まわしきアンデッドの名を喝采し自滅すら厭わない狂信者集団だ!囮に釣られては相手の思う壺だ。」
【魔導王陛下へ感謝を送る会(仮)】の調査を神官長より賜った密偵――水明聖典精鋭の一団は、(仮)の力を侮っていた事に後悔の念を浮かべる。
「ちぃ……。凶眼の狂信者肝いりの弓手部隊とレンジャー部隊は練度が桁違いであると聞いていたが、これほどとは。何時から付けられていたかも解らん。」
「顔が割れてしまった以上、(仮)の本部・支部への調査はおろか、ローブル聖王国北部へ侵入することも困難でしょう。化粧や幻術を施し強行する手もありますが、如何致しますか?」
「我々だけならばその手段も
「それにしても、この闇の中正確に喉元を狙ってきたものです。並みの者ならば即死でしょう。奴らは〝人を殺すことを躊躇しない。〟この情報だけでも大きな収穫です。」
そういいながら男は地面に突き刺さったナイフを引き抜き――刃が地面に刺さったまま、柄の部分だけが引き離され、パチンとか細いワイヤーの切れる音がした。
「伏せろ!!」
魔法を感知出来なかったため軽率な行動に出てしまった男は、罪悪感に押しつぶされるよう柄に覆いかぶさり自らを盾とする。ブービートラップだ。このまま爆発し、自分は神の御許へ行くことになるのだろうか。無限にも思える数秒を、最高神である水神に祈りながら耐える……。
「……何も起きない?」
恐る恐る伏していた全員が起き上がり、最後にナイフの柄を覆っていた男が起き上がる。そこからは強固なバネがお道化るように跳ねていた。
●
「…………おー。」
今日も今日とてネイアの団体へ視察兼技術指南へやってきたシズは、武器庫の机に並べられた武具・防具・マジックアイテムの数々に宝石の様な緑の瞳を燦然と煌めかせ、興味深く観察していた。
ネイアとしてはシズ先輩が持っている【白色の魔導銃】が一番得体が知れず、アインズ様のお持ちになっているマジックアイテムと比べられるなど、不敬とさえ思うのだが〝みりたりーのロマン〟を前にした先輩は気にする様子も無い。
「戦術に多様性を持たせるため、アインズ様より賜りました
「…………スペツナズ・ナイフ。博士の部屋にも4つしかない。」
「ああ、射出ナイフですか?レンジャー部隊の同志にテストで持たせております。実用性についてはまだ検証段階で……ってシズ先輩!!」
シズは射出ナイフを構えるや否や、部屋に飾られていた鎧に向かってナイフの留め金を引き、刃を射出させた。射出されたナイフは鉄で造られた鎧を貫き、大きな傷を与える。
「…………威力は十分。でも弾道にズレがある。残念。要改良。」
「訓練用の丸太もありますのに……。でもありがとうございます。同志達に伝えておきます。」
「…………わたしも接近戦は苦手。重視するのは奇襲性と隠密性。そういう意味ではこの武器は理にかなっている。ただスペツナズ・ナイフは一度射出してしまえば後が無い。そのため予備武器が必要になるが野伏では多重装備は命取り。一の矢で仕留めるべき。そのため弾道がぶれるということは致命的で――」
いつもの寡黙さを置き去りにしたよう滔々と語りだすシズ先輩を見て、ネイアは思わず微笑みを浮かべてしまう。本当に見た目通りの子供みたいだ。
「…………むっ。笑ってないで聞く。」
「イテ!はい、すみません。」
ネイアの頭にシズ先輩から御叱りの手刀が入った。次にシズは筒状のマジックアイテムに興味を移す。
「…………これはレーザー?既存の仕組みと異なっている。興味深い。」
「同志達が苦心しておりました。不敬ながら原理が解らないからと、位階魔法を扱い独自に造った代物です。」
「…………第三位階魔法をここまで工夫するとは。すごい。」
「あはは、ありがとうございます。」
ネイア自身〝盗聴〟という活動そのものがアインズ様の聖名を穢す不敬な行いのようで好きになれないが、シズ先輩は素直に感心しているようだった。
「…………むっ。納得していない。情報はとても大切。戦いは始まる前から終わっている。」
「いえ!当然情報の大切さは理解しております。しかし、王道を邁進されるアインズ様の名を冠しておきながら卑劣な行為を行っているのではないかと不安になってしまう事がありまして。……痛い!」
ネイアはシズから頭部に手刀を食らい涙目になる。
「…………アインズ様の名を冠しながら敗北する事こそ不敬。」
「そ、その通りですね!アインズ様の高潔さに近づこうとするあまり、大切な事を見失っておりました。」
「………やはり後輩。ネイアにはまだまだ指導が必要。」
ここで〝わたし良い事言ったぞ〟とばかりに可愛らしく胸を張らなければ素直に尊敬出来たのだが、シズ先輩の微笑ましい態度にネイアは笑みを浮かべてしまう。
「…………笑っている。生意気。」
「痛い!痛いです!シズ先輩!」
ネイアはペシペシと手刀を食らい、頭を抱えてうずくまる。その後も〝みりたりーのロマン〟に暴走するシズ先輩はやはり微笑ましく、ネイアは何度もチョップを食らうこととなる。それでもネイアの顔はどうしても笑みの混じったものになってしまっていた。