・IF設定が更に独自の進化を遂げた世界を舞台にお送りしております。
・キャラ崩壊注意です。
・本編込みで記念すべき77話なので七姉妹の話にしました。
以上を踏まえた上でお読み下さい。
「頭が高い!あなたはこれまで何を学んでいたのですか!」
ナザリック第9階層で掃除の手を止め廊下で挨拶を行ったツアレ――既にエ・ランテルのメイド主任を拝命しているが、休日はナザリックへ戻ってメイド修行を続けている――の頭上を、ユリ・アルファの手刀が
「も、申し訳ございません。」
ツアレはユリの壊れた調度品を見るような、不愉快を孕んだ瞳に違和感と恐懼の念を覚えつつ、即座に深々と謝罪する。
「掃除の手を止め挨拶を行うまでの機序に美しさがありません。あれだけ練習したというのに挨拶の角度がまったくなっていない。それにわたしに道を譲る際、後方の確認をしていませんでしたね?もしそこに調度品があればどうしていたのですか?あなたが至高の御方々の調度品を壊した場合、畏れ多くもアインズ様の御手を煩わせてしまうのですよ。それだけではありません、周りが見えていない事が一番の問題です。わたしが来るのを察し、あなたはあいさつに専念するためほうきを床に置くべきでしたよね?そうすれば先ほど話した後方の確認も行え、慌てる事もなかったのではないですか。違いますか?」
詰問するような厳しい口調のユリに、ツアレの全身が変な汗でぬれる。
〝何かがおかしい〟
ユリ様は直属の上司であるセバス様と、メイドとしての上司ペストーニャ様に並び、ナザリック内ではツアレに優しい方であったが、今のユリがツアレをみるその瞳は、たまにすれ違うことのある同じ
「ユリさん!?どうされたのでしょうか、ツアレに何か粗相が?…………あ、わん。」
「いえ、アインズ様の御手に抱擁されたるエ・ランテルで人間たちのメイド長の地位を担う人物に指導をしていたまでです。人間というのは目を離すとすぐ楽に流れ怠惰となります。憧れの目で人を率いることも重要ですが、指導を行う人間であれば鞭の痛みと扱い方も熟知しなくてはなりません。」
「は、はぁ。ですがツアレは休日でもメイド修行を欠かさず、接遇や掃除についてナザリック基準でも及第点に達しておりますわん。」
ペストーニャとて鬼ではない。それこそ挨拶に0,000ミリ単位のズレすらも許さないホムンクルスメイドと人間であるツアレを一緒にしては酷であるし、現実問題としてツアレに求めるのは不可能だろう。
「脆弱な人間に過度な期待をすることが間違いなのは知っております。ですが最善は尽くすべきかと。まず出来損ないをとりあえず殴ってから指導する方法を……。」
「ゆ、ユリさん!?それはいくらなんでも……。」
ペストーニャも何時もらしくないユリの様子に困惑を隠せずにいる。その後、二人の間で〝指導〟と〝体罰〟の議論が続き、ツアレはただオロオロと様子を見守ることしか出来なかった。
●
アインズは本日魔導王としての業務が特になく、久々に〝モモン〟として街を歩いていた。正直自分よりも英雄然とした演技が可能なパンドラズ・アクターと比較されボロが出ないか心配だったが、特に問題はないようだ。街に住む人間や異形種に話を聞いているが、当初よりもアンデッドに対する忌避感が薄れていることに満足する。なにより――
「モモン様ーー!ナーベ様ーー!」
以前モモンで出かけた際はもっと怪訝な表情、それこそ腫物に触るような感覚であったように思える。〝モモン様は殺されていて中身はアンデッドなのではないか〟なんて言われていたほどだ。
しかし住民がアンデッドに慣れ、アインズ・ウール・ゴウンの統治がそんなに残酷でないことを知ったためか、はたまたパンドラズ・アクターの住民へのケアが丁寧であったためか、そんな噂を流す者もおらず、立派に街に溶け込んでいる。
ナーベもパンドラズ・アクターに演技指導をしてもらっている成果か、黄色い声援に対して睨むでも不快気に顔を歪めるでもなく手を振って返している。
「ああ、ナーベ様が俺に手を振ってくれた。今日は良いことがありそうだ。」
「何をいっていやがる。ナーベ様は俺に向かって返礼して下さったのだ!」
「なにを!」
〝美姫ナーベ〟の人気は健在のようで、若い男二人が不毛な議論をしている。
(ユグドラシルでも人気プレイヤーには〝追っかけ〟という存在が居たな。〝ミーハー〟というやつか。)
アインズはやや呆れた様子で男たちを一瞥し、前を向こうとした刹那。ナーベラルが颯爽とハムスケから降り立ち、口論をしている男たちに向かって歩き出した。アインズも慌ててハムスケから飛び降りる。悪漢以外への殺傷行為は禁じているものの、物理的に口をひねりつぶすくらいのことはしでかしそうだ。
そして〝美姫ナーベ〟が自分たちに向かって歩いてきているという状況に当惑している男二人は、逃げるでもなく呆然としている。そしてナーベラルは男二人の手を取り……
「争いは止めてください。」
「「「 へ? 」」」
3つの間抜けな声が漏れた。
「わたしたちはエ・ランテルの皆さまを宝のように思っております。そこに優劣はありません。先ほどの返礼もお二人へ平等に行ったつもりでしたが、伝わらなかったのはわたしの不徳がなすところです。」
「え、あ、いあ。こ、こ、こちらこそ申し訳ございません!」
「つまらない理由で口論をしてしまいました。ナーベ様が気に病むことでは御座いません!」
ナーベラルの美しい顔に見据えられ優しく手をとられた二人の男は、タジタジと返事を行う他なかった。
「救われる言葉です。……モモンさーん。お騒がせいたしました。街を回りましょう。」
「あ、ああ。そうだな。」
アインズはハムスケに戻り〝しばらく手は洗わない〟なんて喜々と話している男たちの戯言を聞き流しながら、頭に疑問符を浮かべていた。そして同時にルプスレギナから<
(またか、今日で何回目だ!?いや、報告の重要性を説いたのは俺だ。ここで怒ってはそれこそパワハラ上司じゃないか。)
《アインズ様。御多忙の中失礼いたします。カルネ村にて無辜の牛が人間とゴブリンに殺されようとしております。保護対象外の下等種ですが、<
「……ん!?」
●
時は少し
「なんすか?これ?」
「…………博士の部屋にあった。〝頑張って造ったが使い道が限られており実用に向かず。泣く泣くボツとする。だが捨てるのはもったいない。〟と綴られていた。」
「ガーネット様の創造されたマジック・アイテム!?どのような効果があるの?」
「…………不明。正式にナザリックのギミックに使用されていないのでわたしにも解らない。ただひとつ分る事は他の〝おもちゃ箱〟の中でこの品だけが突出した魔力量を有している事だけ。」
「アインズ様へご報告する前にわたしたちで話し合おうと持ってきたわけね。でも<
「
ソリュシャンがポンコツぶりを見せたナーベラルに挑発的な言葉を掛ける。〝愛想を尽かされる〟なんて強い言葉を使ってしまったのは嫉妬だ。ソリュシャンは男性が――アインズ様がお好みになるかは解らないが――女性のこのような愛嬌を好むことを知っており、それを無自覚にやらかす同じ三女に見苦しい感情を抱いてしまった。
しかし言葉の威力は抜群で、ナーベラルは一瞬ソリュシャンを睨んだ後、しゅんと花が萎れたように大人しくなった。
「でもナーちゃんの言う事は一理あるわ。アインズ様は常々自分たちで考えることを説かれておられます。」
ナーベラルならばスクロールを使用して、至高の御方の遺したマジック・アイテムの価値を計る事は可能だが、あまりの恐れ多さに誰もが二の足を踏む。
「あ!でもユリ姉!ホウレンソーも重要だと仰っていたっすよ!?」
「やはりアインズ様へご報告を一番にすべきかしら……。う~~ん。」
ユリはシズの持ってきた箱の処遇に悩む。そうして答えの出ない悩みは、いつしか造物主であるやまいこ様への祈りに変わり……
「【押せ】と書いているのですから、とりあえず押してから考えましょう。」
ユリは理知的な口調を崩さないまま、凄まじい脳筋発言を発し、ボタンを指で押した。その瞬間、お茶会の部屋が紫の光に包まれる。
……ガーネット作成のトラップ。第八位階魔法
●
〝明らかにおかしい〟
カルネ村の村長・族長・将軍、エンリ・エモットは村から次々寄せられる情報に狼狽していた。
曰く〝ルプスレギナさんがドワーフの職人たちの細かな古傷まで治してしまい、ドワーフ達は「職人の証」を奪われたと激高している〟。
曰く〝ベータさんが疲労回復のポーションを山ほどくれた〟。
曰く〝乳の出なくなった牛を捌こうとしていたら、ルプスレギナさんが牛に<
曰く〝スラムからやってきた問題のある移住者の悩みを聞き、即座に解決していた(病弱な妹と生き別れたらしいが、どうやったのか即座に見つけ出したらしい)〟。
曰く〝近衛のゴブリンに【従者の何たるか】を優しく説いていた〟。
曰く、曰く、曰く……
兎に角村にやってくる神出鬼没の美女、ルプスレギナ・ベータの様子が今日1日かなりおかしいのだ。今まで村に直接干渉することなど、トロールの襲撃から夫であるンフィーレアを救った以外ほぼ無かったのだが、今日一日だけで100に届こうとしている。
「ご、ゴウン様の御城で何かあったのかしら?」
「エンちゃん!」
「ひぅ!!」
エンリの後ろから優し気な声が響く。同時に近衛のゴブリンたちが最大限の警戒を以って対応に当たる。
「ビックリさせちゃったっすねぇ。申し訳ないっす。移住者も増えて疲れが出てないっすか?ンフィー君にも施したっすけどパーっと疲労全回復の魔法で解決してあげたいっす。」
「い、いえ!わたしは大丈夫です。少し疲れている程度の方が頭も働くので!」
「そっすか?」
その笑顔は見慣れたものとやや異質の……本当に心優しい清廉な聖女を思わせる微笑だった。
「いずれアインズ様の裁きを受ける身っす。それまでに出来ることをしたいっすよ。……エンちゃんやンフィー君と居た時間は楽しかったっすよ。」
まるで遺言のような事を言い出すルプスレギナにエンリは更に困惑する。
「後任が誰になるか解らないっすけど、優しくしてあげて欲しいっす。じゃ……。」
「待って、ルプスレギナさん!わたし何が何だか!」
エンリはルプスレギナの消えていった扉を追いかけるが、そこには既に誰も居なかった。
●
ローブル聖王国北部、魔導王陛下へ感謝を送る会(仮)の執務室で、ネイアはシズ先輩から聞いた提案に喜びを抑えきれず思わず立ち上がっていた。
「貴族のマナーや立ち振る舞いを学べるのですか?」
「…………そう。ネイアが以前から気にしていた事。とっておきの場所を紹介する。」
「それは嬉しい限りです!も、もしかして、また真なる聖地ですか!?」
「…………特別に御許可を頂いた。
「きゃああああああああああああああ!」
ネイアはそのまま絶叫し、足元に手を差し伸べる。
「あ、アインズ様の真なる王城に住まう方をわたくしの汚い足で踏みつぶしてしまいました!わたしはなんて畏れ多いことを!!」
シズはネイアの反応が予想外だったのか、少し驚きの表情で振り返る。
「これはこれは、ようこそお越しくださいました。我輩この地をアインズ様より賜る者。恐怖公と申します。過去様々な女性がこの地に足を踏み入れましたが、第一声に我が輩の眷属を心配して下さったのはバラハ嬢が初めてです。」
「恐怖……公。ということは!あなた様はアインズ様より爵位を賜った公爵様なのですか!なんと気品ある御方!」
「ふむ……我輩の姿を見ても動じないとは、〝そうあれかし〟と創造された我輩としては複雑ですね。おっと話が逸れてしまいました。貴族のマナーと立ち振る舞いについて講義をしてほしいとの事。バラハ嬢はローブル聖王国の民ですが、南部と北部で微妙な違いがあることは御存じでしたかな?以前魔導国へいらした際は宮廷料理の食仕方に難儀されたとのこと。まずは昼餐会・晩餐会のマナーからお教えいたしましょう。」
……その後ネイアは何故か帰りたそうにしているシズ先輩と一緒にテーブルマナーやダンスの嗜みを学び、有意義な時間を送っていた。
「では次は男役と女役を逆転させましょう。シズさんが男役、バラハ嬢が女役。我輩の楽曲に合わせ、先ほど指導したように踊ってください。」
一方でカルマ値がマイナスに傾いたシズは、ネイアにちょっとした意地悪をしようとして自爆したことに〝むっ〟としながらも、共に行うダンスの時間をそれなりに楽しんでいた。
●
「なるほど……。昨日一日ナーベラルやルプスレギナの様子がおかしかったのはガーネットさんの作品が原因か。」
玉座に座るアインズ・ウール・ゴウンに跪くのはオーレオール・オメガを除く
(どうするかなぁ。怒るのが筋なんだろうけれど、〝ネイアを恐怖公のところに連れていきたい〟とシズが提案した時点で違和感に気が付くべきだった。それにルプスレギナの善行を積むような報告を放置していたのも俺だ。完全に俺の監督不行き届きだ。)
そう考えるとアインズは強い罰を与える気になどなれない。〝危ないものに勝手に手を出すな〟と叱りたい気持ちはあるが、NPCを子ども扱いしているようでそちらも気が進まない。アルベドやデミウルゴスに丸投げすると強烈な罰を与えそうなので、この場に呼ぶこともやめている。
(この一件、何処が落としどころだ?まずシズの部屋にそんな危ない品があることを認識していなかった俺の責任がある。勝手に動いたのは確かに悪い事だが、ユリが行ったのは〝【押せ】と書いているボタンを押した〟だけだ。それに今回得られた情報は感情論を除けばお釣りがくるくらい有意義なものだ。……なら。)
「……どうだった?」
アインズの一言に6人が同時に震える。
「ふふふ、何を震えている。我がナザリックの誇るギミックをその身で体験した感想はどうだったか? と問うているのだ。まぁ無理もない。我々アインズ・ウール・ゴウン……お前たちが至高の御方々と呼ぶ者の罠に掛かったのだ。さぁ顔を上げ、忌憚の無い意見を述べよ。」
「あ、アインズ様!まさか、わたしたちがこのような愚行を犯すことを読んで」
「お前たちにも隠していた計画だったことは謝罪しよう。〝敵を騙すには味方から〟誰でも楽ら……情報戦における初歩の初歩だ。」
「いえ、我々がアインズ様の高尚なる計画の一端を担えた喜びに勝ることなど御座いません!」
6人の震えが恐怖によるものから狂喜によるものに変わる。すべては目の前の至高の御方、アインズ・ウール・ゴウン様の手のひらの上だったのだ。
「そうか、ではそれぞれ感想を聞いていこう。まずはユリ。」
「はい。自分が自分で無くなったような奇妙な違和感はこの場に居る全員が覚える感情と考えます。しかしながら失われない感情……わたくしの場合では、〝人にものを教えたい〟という恐らくはやまいこ様より賜りました感情があり、我ながら興味深く、そして造物主たるやまいこ様の偉大さの一端に触れられた次第です。」
「ふむ、面白い意見だ。ルプスレギナ。」
「えっと……。思い出すと何であんなことをしてしまったのかと気持ちが悪いです。アインズ様のご命令が無ければ今すぐにでも村を焼き払いたい気分……です。」
(解るぞ、黒歴史というのはそういうものだ。)
アインズは軍服姿で敬礼するNPCを想起し、鷹揚に頷いた。
「興味深い意見だな。だがカルネ村はお前にある程度の権限を委ねてはいるが、無駄な殺生は禁じる。今回の件で何かを責められてもそれが罰であると思え。」
「か、畏まりました!」
「では、ナーベラル。」
「ルプスレギナと同じく、今すぐにでもおかしくなったわたしを知る
「……わかっているだろうが厳禁だ。次にソリュシャン。」
「わたくしの場合は食事をひと思いに消化してしまった悔しさだけが残っております。」
「ふむ。エントマ。」
「申し訳ございません、アインズ様。わたくしは行動に大きな変化が見られず、ご報告できる事案が御座いません。」
「そうか、いいのだ。〝何もなかった〟という事も立派な情報だ。では最後にシズ。」
「…………ネイアに意地悪をしようとしました。逆にやり返された気分です。それとダンスが踊れるようになりました。」
アインズを含めた6名はシズの報告に疑問符を浮かべる。しかしシズの無表情は複雑な感情が混じりすぎ、それこそユリでさえ読み解けなかった。
・正直どこに投稿するかかなり迷いました。カルネ村を書いている【我らエンリ将軍閣下!】でも通用しますし、小話集でもよさそうなので。ですが、カルマ-になったシズ先輩とネイアちゃんが書きたかったのでこちらに投稿しております。