・IF設定が更に独自の進化を遂げた世界を舞台にお送りしております。
・キャラ崩壊注意です。
以上を踏まえた上でお読み下さい
ネイア・バラハは『魔導王陛下へ感謝を送る会(仮)』総本部の執務室で書記次長ベルトラン・モロからの報告を聞いて一瞬険しい顔をしかけ、ゆっくり目を瞑って冷静に考えている素振りに切り替えた。
……というのも、この長い長い指導者ロールで自分の険しい顔がどれほど目の前にいる同志文官やベルトラン達を怯えさせるか骨身に染みて理解してしまったためだ。
(ああ、わたしもシズ先輩のように無表情を保てる能力が欲しいです。アインズ様のように
ネイアは一瞬現実逃避も兼ねてそんな思考を過らせるが、今考えるべきはそこではないと脳内を切り替える。
「先日発生したオーガとゴブリンの異常発生に当会親衛隊が聖騎士団より先に向かい、突撃…えっと正面衝突……でなく…… ( …………機動突破 ) ッッ!?そう、機動突破戦術を敢行しようと同志達が奮闘してくださったのですが、結果的に犠牲が大になると判断し、丸く……そのぉ、えー囲んで…… ( …………包囲殲滅 ) ッッン!?包囲殲滅戦へ移行したということですか。殉死した同志が0というのは喜ばしいことですが、やはり戦術に偏りがあるのが課題であると。」
「左様でございます。勿論剣技・機動部隊の強化には力を入れているのですが、当会で最も強力なのは弓兵・レンジャー部隊、次いで
「〝そんな無駄な事をするなら罠で釣って囲んだ方が楽〟……ですか。」
「仰る通りでございます。」
眉間によりそうなシワを根性だけで抑えながら、ネイアは内心頭を抱える。今でこそ他国も無視できない……いや、各国の会集テーブルに提起されない日はないというほど武力・富・地位と存在感を高めた(仮)であるが、問題は山積していく一方だ。
そのうちのひとつが武装親衛隊問題。他国から見れば自分の死も厭わない烈々たる士気を持ち合わせた狂人だらけの【私設軍隊】という認識で共通しているが、ネイアたちの高みはその上にある。
簡単に言ってしまえば兵士の能力が極端に偏り過ぎているのだ。
(仮)の持ち合わせる部隊の半数以上が弓兵・レンジャー・
しかし花だけで植物は成り立たない。兵站や情報収集という根や葉があり、状況分析・任務配置・目的統一・指揮系統という茎があり、初めて戦術という花が咲く。アインズ様語録でいうならば【戦いは始まる前から終わっている】でなければならない。上記の偉業も、他の戦略・戦術も(仮)は迎撃戦・包囲殲滅戦に特化しすぎている。敵対組織に対策されれば同志たちが苦汁をなめることになるのは火を見るよりも明らかだ。
……とはいえ。
「しかし魔導王陛下へ敬愛の念を抱き、バラハ様に憧れを抱いた同志や新たに同志となる者たちの心を無視は出来ません。同志軍士からも〝弓兵・レンジャー志望者をふるいに掛けてはいるが、他の部隊に配属された者は弓兵が育つ速度に比べれば能力習得までの期間が倍以上かかる〟とのことです。もちろん新兵が魔導王陛下への信心不足だという訳でなく、我々の組織の構造上教育者や環境が整っていないという、魔導王陛下の素晴らしさに目覚めた同志を活かせない我々の背信です。」
これは(仮)の構造上の問題だ。なにしろ団体のトップであるネイア自身が弓兵・レンジャーなのだ、自分が今から剣士や槍兵・
「……堂々巡りですね。」
〝このまま時間が解決する〟などと思うものは(仮)に一人もいない。脳裏に蘇ることも憚られる悪夢のような経験から、何もせず指をくわえ待つ行動など二度としたくない。とはいえ答えが簡単に出るものでもない。ネイアはゆっくりと目を開く。
「お話はわかりました。わたくしも新設された剣技・騎馬兵・槍兵部隊の視察をさせていただいておりますが、アインズ様のため牙を研ぐ気持ちに陰りはないようです。でしたら我々に出来る事は、より優秀な指導者の配置と環境整備の徹底でしょう。当会と交流を持ちたいと言う国家・団体より有能な者の招致も視野に入れ、改善を急……がず丁寧に行ってください。」
〝急いで〟なんて言ったら自分よりも権謀術数に長けた国のトップや団体の長たちとの直接対談になりそうなので慌てて修正する。自分はアインズ様の素晴らしさを語るというあたりまえのことしか出来ぬ能のない人間なのだが、(仮)のみんなは自分を過大評価しすぎなのだ。
「かしこまりました。では、聖王の手前表立った行動は極力避けて参りましたが、当会規則における使者の受け入れについての規制を緩和し、連携を密にする方向へ転換いたします。もちろんアインズ・ウール・ゴウン魔導国の背信とならないよう関係性や背後には徹底的な調査をいたします。」
ネイアは内心〝あれ?なんかヤバイことになった?〟と思いながらも、鷹揚に頷いてベルトラン率いる文官たちの退室を見送った。そして……
「…………生意気。」
「痛いです!!」
背後のシズから頭部に手刀を食らい、〝絶対指導者ネイア・バラハ〟は一瞬で崩れ去る。
「何だか見るたび偉そうになっていく。生意気な後輩には指導が必要」
「わたしだってやりたくてやってないんですよ!それにいつから居たんですか先輩!?いきなり耳元で囁かれて飛び上がりそうになったんですからね!」
「…………ふぅ―――」
「うぃひぁああああああ」
「…………本当だ。飛び上がった。」
「い、今のは違います!ううう……。」
ネイアは顔を真っ赤に染めて未だ脊髄に走る電撃にも似た感覚の余韻に翻弄されていた。
「…………で。話は聞いていた。確かに今のネイアのところだと攻勢作戦の形態を執る事は困難。」
「そうなんですよ、同志のみなさんも頑張ってくれているのですが中々成果が出せなくて。」
「…………でも急ぐ必要は感じない。」
「というと?」
「…………ネイアは何処かの国を滅ぼしたいの?」
シズの質問にネイアは首を横に振る。
「…………ならよし。」
「いや!?何に納得したのですか!?」
「…………武技や
「いえ、全然普通のことではありませんか!?あのアインズ様にわたくし如きが献身出来ているなど恐れおお……うふぇああああああ!!?」
ネイアは突然訪れた電撃に近い刺激に両耳を閉じてうずくまってしまう。恐る恐る顔を上げ耳からゆっくりと手を離すと、シズ先輩の無表情には珍しく悪戯を企む悪童のような笑みが宿っていた。
「…………聞き分けの悪い耳。アインズ様がお喜びになっているというのに迷走しない。」
「はい!仰る通りです。すみません、自分の不甲斐なさに空回りをしていました。」
「…………心の底から納得してない。悪い後輩にはお仕置き」
「もう勘弁してください!」
ネイアは瞬時に両耳を塞ごうとした。しかしその速度は難度150のメイド悪魔の前ではあまりにも無力で……