・IF設定が更に独自の進化を遂げた世界を舞台にお送りしております。
・季節ネタのちょっと先取りです
・キャラ崩壊注意です。
以上を踏まえた上でお読み下さい
「…………以上の品が ぶくぶく茶釜様 やまいこ様 餡ころもっちもち様のお部屋より発見されました。時限開放式の金庫であることは認識しておりましたが、内部については知識を持たぬためアインズ様へご報告をさせていただきます。」
「ははは、これまた。何とも懐かしいな。」
そこにあったのはこげ茶色の塊、ミルクを織り交ぜた陰陽柄のケーキ、砂糖でコーティングされた宝石と見紛うような美しい……回りくどい言い方をしたがチョコレートの山であった。
チョコレート爆弾に弾丸、各種装備――大抵炎系攻撃に凄く弱い――が期間限定ガチャとして登場する。正直チョコレート爆弾なら第3位階魔法程度の威力であるし、超レアアイテムを引いたところで単発式の第9位階魔法程度にしかならない。レベル100のアインズからすれば全て雑魚アイテムなのだが、コレクターの悲しい性で、何度ガチャで爆死したことやら数えたくもない。
(それにしてもバレンタインかー。)
〝わたしにはチョコをくれる子がたくさんいて困るなー!画面から出てこないけど!〟と怨嗟を振りまく弟と呆れる姉、同僚からチョコを貰いすぎて妻に嫉妬されているという愚痴に対し、不幸自慢ですか?と喧嘩を始める最強の物理職と魔法職、様々な喧騒がアインズの中で想起され……
(チィ!!!)
いつものように温かな記憶は強制的に沈静化された。何度も恩恵を受けている身であるが、こればかりは本気で腹が立つ。そして冷静になると、シズと本日のアインズ当番であるメイドがアインズの言を待っていることに気が付き、一つ咳払いの真似事をした。
「ああ、これはバレンタインデーと呼ばれる祝祭に使われる品々だ。おそらくぶくぶく茶釜さんも、やまいこさんも、餡ころもっちもちさんも、皆に配るため金庫にしまっておいたままだったのだろう。」
しかしその約束は果たされることなく、皆去ってしまった……。アインズが
「アインズ様、愚かなわたくしにひとつだけお教えいただいてもよろしいでしょうか?バレンタインデーとはどのような行事でございましょう?」
「ああ、そうだなそれは……」
アインズは自分の常識にある一般的なバレンタインデーについて説明しようとしたが、自分が食べられもしないチョコレートの山に囲まれる未来を想像し、言葉を切り替える。
「……あ~。むかしむかし、とある栄えた国で時の皇帝が愛する者との婚礼を禁止し、禁令に背いた恋人たちを捕らえ、処刑させていた。その命令に断固として反対し続け、やがて暴君に処刑された者がバレンタインという。その後、バレンタインをたたえ、処刑の日をバレンタインデーと名付け、恋人のみならずかけがえのない友人、家族へチョコレートを贈る風習ができたという。」
かつて死獣天朱雀さんから聞きかじった内容をがらんどうの脳みそをフル回転させ言葉に紡ぐ。要するに【身近な人に贈るものだから、俺に贈らなくても大丈夫だよ】といいたいのだが、何だか当番メイドの目に熱が帯びており、話の運びを間違えたかと脳内で頭を抱える。
「ご教授いただき幸甚に存じます。その神聖なる儀式に見合う品を、御身のために。」
(……あ、これミスったやつだ。)
「…………ご教授いただきありがとうございます。アインズ様、別件でご相談が。」
「ん?どうしたかね?」
●
ネイア・バラハは『魔導王陛下へ感謝を送る会(仮)』総本部の執務室で、文官たちが差し出してきた茶色の塊に大きな興味をそそられていた。
「バラハ様!魔導王陛下より賜りました
「これは……。〝ちょこれーと〟ですよね!まさか作ることができるなんて!」
「 ちょこれーと? 確か名は……いいえ、何でもありません。大変溶けやすい物質でしたので、砂漠や熱帯地を想定し試行錯誤を重ね、口内熱以下であれば耐えきれる製品となっております。」
「これは溶かして飲むことも出来るのですか?」
「はい、1ブロック6欠片となっており、3欠片を雨水に溶かして飲むだけでも成人男性が一食を摂取したと同等の効果があることが確認されております。」
ネイアは会話が食い違っているような違和感を覚えるが、忘れもしないシズ先輩と初めて心を交わした友情の味。自分たち如きが作れるなど夢にも思わなかった。
しかしながら喜びも束の間、シズ先輩の〝ちょこれーと味〟はアインズ様のお仲間である【博士】が御創りになられた、美味という言葉さえ稚拙に思える神代の聖餐。自分たちに同等のものが作れるなど、ネイアは自惚れていない。
とはいえ同志たちが苦心して作り上げた品だ、落胆する様子を見せるわけにはいかないだろう。あくまでも【絶対指導者ネイア・バラハ】を保ちつつ、ちょこれーとを一欠片に割って口腔へ運んだ。
(う、うぐぅ……)
舌全体から脳に伝わるのは、生煮えの芋に砂糖をぶっかけたような想像以上に凄まじい味の暴力。異物を食道に入れまいとする
「……いかがでしたでしょうか、バラハ様。」
文官たちは緊張を隠せない様子でネイアへと尋ねる。
「そうですね。その出来栄えでしたら、ついうっかりつまみ食いをする同志もいないでしょうし、中々の出来栄えではないでしょうか。」
「なるほど!味の改善は課題の一つと考えておりましたが、確かに非常携帯食として考えれば大きなメリットとなります!流石はバラハ様、我々を正しき道へと導いて下さり感謝いたします。」
遠回しに〝不味いからなんとかしろ!〟と言ったつもりだったのだが、バラハのオブラートに包んだ苦言もむなしく、文官たちはただ感涙し傅くばかり。
(ここで〝もっと美味しく作ってほしい〟なんて……、同志にも失礼ですし、なにより知識を給うてくださったアインズ様への背信となりますね。)
その後ネイアは文官たちと数度言葉を交わし、文官たちが退室したタイミングで大きく肩を落とした。希望が大きかった分現実とは残酷だ。自分たちがどれだけ努力しようと、アインズ様の偉大さの前に呆然と立ち尽くすばかり。
御身の足元にも及ばないどころか、足を引っ張るばかりの自分が【絶対指導者】と讃えられるなど噴飯ものだ。
そんな悪循環に苛まれていると パキッという音でネイアの意識が現実にひき戻される。
「…………ん。すっごい不味い。」
「シズ先輩!?」
そこにいたのは自分たちの作ったちょこれーとを一欠片口に放り込んでいるシズ先輩だった。
「何をしているのですか!?聖地の食事で
「…………落ち着く。」
「ぐへ。」
混乱状態にあったネイアはシズから手刀の一撃を受け押し黙る。改めてシズ先輩をみると、不味いと言っているがその無表情は好奇心に満ち溢れており、どこかで見た瞳であると記憶を辿り……
バハルス帝国闘技場の興行主、その館で古く弱い武器――もちろんアインズ様基準であり、ネイアの団体でも簡単に手に入らないものだらけだ――を見ていた時の瞳だと思い出す。
「〝みりたりーのロマン〟を感じていただけましたか?」
「…………うん。
「痛い痛い!ごめんなさい!」
相変わらず〝みりたりーのロマン〟を語りだすと普段の寡黙さが星の彼方へ飛んでいくシズ先輩がおかしくて、噴き出してしまったネイアに手刀の制裁が入る。
「…………そうそう。貰ったからにはお返し。本当〝貸し〟にする予定だったけれど間に合わせるのは流石ネイア。偉い。」
そういってシズ先輩が取り出したのはリボンによって綺麗に梱包された小さな赤い箱。
「…………友チョコ。ハッピーバレンタイン。」
「ば、ばれんたいん?」
「…………いいから開ける。」
「うわぁ!」
やはり魔導国は質が根底から異なる。植物の葉を模した品、乳が混ぜられ縞柄となっている品、淡い生地に大粒の砂糖がふりかけられた品、春の花のように鮮やかな桃色の品。製造方法など全くわからないが、今の自分たちでは到底作れないことだけは確かだ。
こんなものを本当に貰っていいのだろうか?ネイアがそう逡巡していると……
「…………この反応は予測済み。はい。あーん。」
「ちょ!?シズ先輩!?」
「…………早く口開けて。」
「もぐ!?」
次の瞬間、脳天を貫くような口福がネイアを襲う。甘くおいしい独特の味、シズ先輩との思い出の味を想起して……。
「…………ネイア。どうして泣く?太るの嫌だった?」
〝そんなことはない、とても美味しいです。〟
なんて簡単なことを伝えるのに、自分はどれだけの時間がかかるだろう?そんな下らないことを考えながらも、ネイアの脳内はシズ先輩との思い出に支配されていた。
・異世界かるてっとではアルベドがバレンタインを知っていましたが、本編ではどうなのでしょう?また、クリスマスは行事として残っているみたいですが他も気になります。