・IF設定が更に独自の進化を遂げた世界を舞台にお送りしております。
・キャラ崩壊注意です。
以上を踏まえた上でお読み下さい。
広間に集まっているのは【魔導王陛下に感謝を贈る会】の保有する武装親衛隊。その末席に入隊したばかりである、本日初めて訓練を受ける正真正銘の新兵たち。
新兵の教育を任されている元軍士たちは緊張を隠せずにいる。何しろその訓練を見守るのは絶対指導者ネイア・バラハと、偉大なる魔導王陛下の使いメイド悪魔シズ。
軍士たちからすれば御前訓練ともいうべき様相を呈している。……とはいえ緊張しているのは軍士だけではなく。
「…………ネイア。落ち着く。」
「ひゃ!ひゃい!シズ先輩!」
先ほどから手遊びが止まらず首をコキコキと動かしている挙動不審なネイアに一喝が入る。今からシズ先輩にお見せするのは……ひいては偉大なるアインズ様へ報告がなされるのは、恐れ多くも御身に誓いを立てさせて頂く老若男女入り混じった新兵たち。ネイアはどうしてもアインズ様から失望される恐怖を拭うことが出来ず思考は混迷を極めていた。
シズ先輩の無表情は強い好奇心に彩られており、ネイアの
「整列!」
凛とした声が響き渡り、ほとんどの新兵はビクリと反応し行動に移す。それでも何人かは遅れて歩き……
「遅い!」
「ひっ!」
教官である軍士が持つ教鞭代わりの矢が新兵の喉笛の寸前で止まる。
「貴様の行動が遅れたことで、隣の同志が死に至る。同志が死んだことでひいては部隊が壊滅に瀕す。……それが戦場であることを忘れるな!」
ヤルダバオト襲来で培った冷酷な現実を、双眸に悲しさを浮かべながらも軍士は言葉を紡ぐ。同時に新兵たちに緊張感が走る。
「良いか、ひとりの油断と怠惰で同志の誰かが死ぬ。それは慈悲深き魔導王陛下への最大の背信であると心得よ!同志と魔導王陛下を信じ、魔導王陛下のために挺身せよ!さすれば魔導王陛下のご慈悲が我々を勝利へ導いて下さる!!」
「………」
「返事!」
「「「は、はい!!!」」」
「返事は〝魔導王陛下万歳!〟だ!それではもう一度……。整列!」
「「「魔導王陛下万歳!!!」」」
一糸乱れぬ……とまではいかないが、新兵を取り巻く緊張感が先ほどまでとは明らかに変わっており、迅速な整列を始めた。
「回れ右!矢筒より弓へ!第一射構え!!」
「「「魔導王陛下万歳!!!」」」
「放て!」
放たれた矢はバラバラな軌道を描き地に落ちた。
「ど、どうでしょうシズ先輩!?」
「…………いい兵士になる。兵卒に必要なのは命令伝達の受領の素早さと迅速に対応する柔軟性。」
そこまで言ってシズは少し思案する。
「……………せっかくだから先輩としてネイアに指南する。」
「わ!シズ先輩!」
そういうや否やシズはネイアをわきに抱えて新兵たちのもとまで一足で飛び、着地と同時に地面に手刀を入れた。地面には一線が引かれ、ちょうど新兵たちが半分ずつに分かれる。
「…………これで丁度50人ずつ。これからわたしとネイアのチームに分かれて檄を入れ新兵をうまく使った方が勝ち。種目は……ランニング。」
全員目をぱちくりとさせるが、ネイアはシズ先輩からの挑発に近い勝負の提案に心の中で笑みをこぼす。1つは部下に引き連れてもいいとお眼鏡にかなった同志たちへの誇り。もう1つは、〝みりたりーのろまん〟に
「わかりました!受けて立ちます!」
「……………じゃああの40km先の木に全員手をつかせた方が勝ち。新兵へ。命令は一つ。死ぬ気で走る。」
「「「魔導王陛下万歳!!!」」」
突然の出来事ながら救国の英雄シズの登場に、新兵の皆は並々ならぬ情熱を燃やし、シズ様に恥をかかせてなるものかと足を動かし始めた。
「……………呼吸は均一に。フォームを崩さない。目標までの距離を常に意識。……そこ飛ばしすぎない。」
シズは新兵の後ろにつき、各自に的確なアドバイスを飛ばす。その一方で、ネイアの率いる新兵も並列しはじめる。シズの指導とは真逆に、ネイアは先頭を背側歩行で走りながら、静かに新兵たちへ語り掛ける。
「本日親衛隊に入隊されし同志の皆さま!真なるローブル聖王国を守護せしめる盾にして矛となる皆さま!こうして真に強くあろうとする姿こそ、仮初めの平和への囁きに惑わされる事なく 繰り返し聞こえてくる真なるローブル聖王国の栄誉のために邁進されたる愛国者!皆様こそ、魔導王陛下の慈愛を分かち合い、正義への一歩を踏み出した、誇りあるお姿です。弱きは悪であると目覚めた皆さまであれば、最早躊躇いの吐息をもらす者はいないでしょう!迷いを捨てその身を魔導王陛下のため挺身するのです!さぁその全てをアインズ様……魔導王陛下のために!」
「「「魔導王陛下万歳!!!」」」
「むっ。全員の目つきが変わった。フォームも呼吸もめちゃくちゃなのにすごい勢い。生意気。」
後方で走るという動作に際し的確なアドバイスを飛ばすシズと、先頭で説法を解き導くネイア。対照的な二人が率いる新兵の速度はほぼ同じで、中間地点に差し掛かってもともに勢いは落ちない。
「…………最後だからと慌てない。均一の呼吸とフォームを意識。」
「さぁ!皆様の魂を魔導王陛下の繁栄のために!」
また一人とゴールの木へ手を付けていく。ネイアとシズが見守る中、お互い最後のひとりがゴールに近づき……
「うう……。わたくしにはまだまだアインズ様への信心が足りないようです。」
「…………ふふん。先輩に勝とうなんて千年……もっともっと早い。」
「それでも、シズ先輩自ら我々の同志に稽古をつけてくださるとは光栄です!同志教官も〝これほどの距離と速度を走る新兵はみたことがない〟と驚いておりました。」
「…………うん、いいシモベ……兵士になる。また気が向いたら勝負をしてもいい。」
「はい!ぜひお願いします!」
シズとネイアが指導をした新兵たちは感謝を贈る会の中でも羨望の眼差しで見られ、かつてない速度で最精鋭へと育っていった。