ネイア・バラハの聖地巡礼!   作:セパさん

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・この話は後日談であり、蛇足です。ネイア・バラハの聖地巡礼!本編を前提とした話しとなっておりますので、ご了承下さい。

・IF設定が更に独自の進化を遂げた世界を舞台にお送りしております。

・キャラ崩壊注意です。

 以上を踏まえた上でお読み下さい。



【後日談】ナザリックラジオ計画 ④ など

 アインズはメイドに見守られる中、相変わらず何が書いてあるかサッパリ解らない書類に目を通す振りをして押印をしていく。あまり早すぎても不自然だし、遅すぎれば書類は溜まっていく一方だ。他の仕事もあるので、時間を見つけ行わなければ大変なことになる。

 

(営業マン時代は稟議書に役員の印鑑貰うため何回もトライさせられてイライラしてたけれど、偉い人も忙しかったんだなぁ……。いやあの糞専務は接待の名で遊んで回ってたっけ。うん、そんな上司にはならないようにしよう。)

 

「……18時か。」

 

(確か執務室に入ったのが朝の4時頃だったから……もう半日以上も判子押し作業してるのか。)

 

 今のアインズに肉体的な疲労は感じないが、鈴木悟の残滓が精神的な疲れを訴えてくる。それに最近は興味を惹かれる事柄も出来た。

 

「ふむ……。この案とこの案は興味深い。複合も出来るかもしれないな。長考させてもらおう。」

 

 アインズは複数の書類を手に取り適当な事を言って頭に指を当て……<伝達(メッセージ)>の周波数を〝ラジオ〟に合わせ、机の下でマジック・アイテムを起動させる。やはり自分が聞いているとなると、周りの反応が大きすぎた。以前モモンの格好でラジオを聞きに行った際、前回放送を聴いたアウラとマーレ、恐怖公が驚愕しており。感想を求められ対応に苦慮するはめとなった。

 

(これでよし。感知不能の情報系魔法も使っているから、俺が聞いているってバレないだろう。)

 

 なんで自分の名を冠したラジオを、他国のスパイみたいに聴かないといけないのか……。アインズは一瞬浮かんだ不満を胸に仕舞い込んだ。

 

『――――♪ アインズ・ウール・ゴウン魔導国ラジオですぅ。18時をお知らせしますねぇ。お隣さんやご近所のひとに迷惑かけたらダメぇ!ご傾聴をお願いしますぅ。』

 

 

『皆様、コンバンハ。此度ノ御伽衆ヲ任サレタ、コキュートスダ。今日モ昔話ヲ語ッテイク』

 

(あ、ラジオネームじゃない。まぁコキュートスにはリザードマンの集落を任せているし、姿や名前を隠す必要もないか。)

 

『5回目デアルガ、多クノ反響ヲ感謝スル。〝正ニ涙モ凍ル戦慄〟〝現実トハ斯クモ恐ロシイ〟……マダマダ稚拙ナ語リ手デアルガ、感謝スル。』

 

(昔話の感想としておかしい……。え?桃太郎と白雪姫かそんなのじゃないの?)

 

『デハ前回ノ続キ御伽噺【雪ノ彷徨】ヨリ。前回ノ粗筋ダガ、遭難三日目、部隊デハ遂ニ発狂者ガ出始メル「筏ヲ作ッテ川下リヲシテ帰ルゾ」ト叫ビ、樹ニ向カッテ剣ヲ突キ付ケル者。氷結シタ川ニ飛ビ込ム者。矛盾脱衣ヲ始メル者。ソノ光景ハ正シク地獄絵図デアッタ。』

 

(昔話の選択がおかしいだろ!確かに昔の話だけれど、御伽噺ではねぇよ!)

 

 コキュートスの無機質な読み上げる声が、逆に想像力を引き立て、中々恐ろしい物語に仕上がっている。

 

「………ソシテ救助部隊ガ見ツケタノハ、36人ノ凍死体デアッタ。一人ハ勇マシクモ直立不動ノママ絶命シテオリ、最期ノ時マデ武人デアロウトシタ高潔ナ魂ニ感涙シタ。……サテ惜シクモ時間デアル。次回デコノ御伽噺ハ終ワル。次ハ【餓エ殺シノ城】ヲ予定シテイルノデ、時間ガ余レバ導入マデハ話ヲシタイ。……ゴ静聴感謝スル。」

 

(民たちから悲鳴上がってたんじゃないか? もう昔話というか、本当にあった怖い現実の事件だよ……。)

 

『――――♪ …………こちらはAOGR.AOGR、アインズ・ウール・ゴウン魔導国ラジオ。18時30分。ご傾聴。』

 

 

「皆様こんばんは、メイド悪魔ユリ・アルファがお届けする御伽噺の世界へようこそ。子ども向けと一風変わった少し不思議な大人の童話をご提供出来ればと思います。」

 

(いや、さっき十分大人の御伽噺をしていた後だけれど……。でもまぁユリの選択なら癒しには丁度いいかな。)

 

「では一編目は、【○ッキーの陽気な囚人】。この物語は……」

 

(アウトオオオオオオオ!!)

 

 次元の壁を越えて陽気な鼠の眷属たちが、著作権の異議申し立てに来るとは思わないが、魔導国内で流行るのは流石に不味い。何でかはアインズも解らないが不味い。

 

(あとでパンドラズ・アクターに、この物語は禁止だと秘密で伝えておこう。あいつなら他言無用も出来るだろう。……はぁ、てか誰が持ってきた資料にこんな話があったんだ?)

 

 一般メイドは複数の書類を前に驚愕したり、深く悩み込んだりと、智謀の王であらせられるアインズ様をそこまで苦悩させる案件とは何なのか……息を呑んでアインズ様の邪魔にならないよう勤めを果たしていた。

 

 

 

 ●

 

 

 本格的な魔導国からの〝ラジオ〟配置が行われた、バハルス帝国帝都。その影響力は絶大なもので、まず大きなものとして臣民の暮らし……日が沈めば眠るのが当然であった生活習慣だが、〝ラジオ〟は深夜の0時まで放送されており、合わせて民の生活習慣に変動が生じた。商業的に見ても効果は絶大で、ラジオ放送で流れた子ども向けの遊具・冒険譚に出てくる英雄の拵えのされた木刀・物語に登場した盤上遊技が爆発的に売れるほど。その影響は多岐に亘り枚挙に暇が無い。

 

(娯楽だけでも、我が国と魔導国では、ここまで開きがあるか……。)

 

 バハルス帝国皇帝ジルクニフ・ルーン・ファーロード・エル=ニクスは、深夜の執務室で一人思考に耽っていた。魔導国の与える情報は現在娯楽・天気予報程度に留まっている。その中でも見えてくるものは多い。

 

(まず娯楽として提供される物語……そのベースとなる神話の多さだ。神話とは国の成り立ち、国家の歴史そのものと言える。あのアンデッドは想像も付かない悠久の時を生きてきたのか?幾つの国を滅ぼし、幾多の国を見てきたというのだろうか。ならば様々な文化・文明が複合し、かつこの世界に馴染む様アレンジまでされた放送の内容にも納得がいく。)

 

 ジルクニフは手元にある資料を見つめる。10日に30分というバハルス帝国専用の放送枠を獲得し、放送装置の設置もされた。本格的に情報省へ力を入れ、試行錯誤をしている。最初は身内贔屓で聞いて貰えているというのが正直な印象だった。

 

 最初は詩人(バード)の歌やバハルス帝国でも人気の劇などを放送してみたが、熱狂には程遠い。作り話ではまるで相手にもならない。ならばと、ジルクニフは方向を転換させた。

 

 身内贔屓で聞いて貰っているならば、バハルス帝国内の出来事と人物を虚飾を交えず、現実にリンクした物語を造り上げればいい。事実とは時に空想を凌駕するものだ。

 

(剣奴に堕ちた罪人が、同じ奴隷の恋人のため、両者の解放を願い闘う物語は中々好評だ。)

 

 帝国中の噂という噂を収集し、放送内容としたものだったが、予想以上の好評を博し、今では彼の闘技場での戦いは、元武王ゴ・ギン以上の盛り上がりを見せる。賭け金の一部が対戦者の収入にもなるということで、彼の勝利に目が飛び出る額が賭けられた程だ。……現在闘技場には、彼を殺害する行為は厳禁と秘密裏に皇帝勅令を出している。

 

(だが大衆は熱しやすく冷めやすい。しばらくはこいつで時間を稼げるだろうが、新たな駒……なるべく長続きする【放送者】をこちらも作製しなくてはな。)

 

 現在の放送人気は持って半年だろう。適度なスリルとサクセスストーリー、ハッピーエンドを大衆が望んでいる以上、現在の放送は現実でもその流れになるように工作する必要がある。新たな歌劇の題材にはなるかもしれないが、それ以上人気は続かないだろう。

 

 ジルクニフの次なる目標は【放送者】という新たな可能性の確保……、権力を用いぬ大衆煽動の駒だ。群衆が無知蒙昧な事は為政者にとって都合が良い。煽動で操縦が可能ならば尚最高だ。魔導国は既に幾つも準備している駒だ。

 

 為政者にとって群衆心理を刺激する駒とはあまりにも魅力的である。子供じみた理由であるが、今更大して役に立たないと解っていても、ジルクニフだってひとつくらい持っておきたい。

 

(それにしても現実に起きている現象を物語とする……か。ふ、わたしと魔導王の物語を流せばどうなるかな。)

 

 そんな下らない考えが過ぎり自分でも苦笑してしまう。鮮血帝とまで謳われた自分が、今更悲劇の皇帝として青史に列するつもりはない。偉大なるバハルス帝国をアンデッドの属国とした無能で十分だ。

 

(無能は無能らしく、適当に怠惰でいるべきなのだろうが……。無能と愚者は異なる。あのアンデッドにとって、無害な無能と判断される敷居は余りに高い。後継者か……いよいよわたしも正妃を取らねばな。いっそエルフを側室にし、優秀な子を成せば正妃にしてみようか?)

 

 エルフの奴隷売買も所持も禁止したが、未だ偏見と禍根は残っている。無理矢理娶っては更なる軋轢を生むだろうが、物語の構成次第では融和を後押し出来るだろう。エルフとの間ならばジルクニフと子も成せる。

 

(ハーフエルフの次期皇帝か、存外悪くないかもな。)

 

 今や国家間の権謀術策とは無縁の帝国だ。常識から解放され思考を巡らせる事を何処か楽しんでいる自分に少し驚きを覚えるが、ジルクニフは再び思考の海へ沈んでいった。

 


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