・IF設定が更に独自の進化を遂げた世界を舞台にお送りしております。
・キャラ崩壊注意です。
以上を踏まえた上でお読み下さい。
「さて、では徴兵制度復活について忌憚のない意見を願いたい。皆さまはどのようにお考えですか。」
現聖騎士団団長グスターボ・モンタニェスが議長を務め、北部の有権者を集め行われている会合。元来ローブル聖王国は対亜人を想定し、国家総動員での徴兵制度を採用していた。しかしヤルダバオトという超弩級の厄災が降り注いだあの日以来、ローブル聖王国に徴兵制度復興の目途は立っていない。
ヤルダバオト襲来において聖王室の持ち合わせる聖騎士団を始めとして、【軍隊】という国家に必要不可欠なファクターが欠けたままであることは無視していられない現実だ。しかしながら、課題は山積する一方だ。
「〝志願兵〟があまりにも少ない現状で徴兵を行っても、骨が無い状態で筋肉だけを増やすも同じ行為。まずは現在聖王室へ忠誠を誓っている人間の育成を優先すべきです。」
レメディオス元団長のように突出した個でもない限り、軍隊における骨格……【士官】【下士官】――ローブル聖王国では【軍士】と呼ぶ――の育成には時間と労力、膨大な金銭が必要だ。軍人とは高度な専門職であり、そこら辺を歩いている人間を捕まえ〝あなたは今日から○○部隊の隊長です〟という訳にはいかない。まして統率のとれない軍など有事の際、肉壁にもならない。だからこそ北部有権者である貴族のいうことは尤もな話なのだが……
「それが出来ていればこんな会議などしていない!敵対に回っている南部のバカ共もそうだが、あの忌まわしき(仮)が暴力組織としてローブル聖王国で一番の力を付けている現在、本気で聖王室が攻め込まれた場合、誰がカスポンド聖王陛下を御守りする!肉の盾でも良いから聖王陛下を御守りする存在が必要なのだ!」
「それこそ絵空事ではないか。誰が現状の聖王室に対し好んで無為に命を捨てるかね。そもそも徴兵を行うとして、あの忌まわしき(仮)の所属者かそうでないかをどう選別する?そして、入隊後(仮)へ入団することをどう防ぐ?聖王室の隊列にアンデッドを崇拝する狂信者をこちらから招くつもりかね。」
「そもそも(仮)の持ち合わせている武装親衛隊について、改めて。こちらの資料を。」
「基本となる【軍事親衛隊】の他に、武具・防具だけでなくマジック・アイテムさえ製造する【産業親衛隊】、兵站を支える【交通輸送親衛隊】、文官という名の【財政金融部隊】、武具やマジック・アイテムを研究する【研究者親衛隊】、そして有事の際動員をまとめ上げる元軍士からなる【軍士親衛隊】……他にも様々な下部組織がある。最早本当に国家の運営する軍隊、いやそれ以上ではないか。その数が20万を遥かに超えると。」
「先ほど聖王陛下をお守りするため肉の盾でも良いから必要といったが、これだけの部隊を相手にどれだけの矢玉に斃れる肉が必要となる?ローブル聖王国北部の民全員か?なんだ?徴兵とは無駄に民を殺すための制度なのか?わたしは初めて知ったぞ。」
「ではこのまま聖王室の衰退を指を咥え待てというのか!」
「そこまで言っていない。ただ、今徴兵制度を復活させても聖王室の現状を鑑みるに、民に無駄な犠牲を強いるだけ、そして忌まわしき(仮)の求心力を高めるだけだ。」
「それが指を咥え破滅を待つ行動だと言っている!!」
「忌憚のない意見に感謝します。一旦よろしいでしょうか?」
口論が不毛になってきたことを察し、グスターボは会議を一度中止させる。同時にくの字に歪めたいほどの胃痛を根性だけで我慢していた。
「最早徴兵制度を再度導入しても聖王室に何のメリットもないことは理解いたしました。そして……」
〝そしてローブル聖王国において既に聖王室に未来がないことも〟という言葉を飲み込む。どれだけ歴史や伝統を語ろうと物事とは単純にして、そして残酷なことに力の大小で決まる。ましてヤルダバオト襲来で民たちを護ることの出来なかった聖王室に大義名分などあろうはずがない。既に神殿勢力を上回り、聖王室とて国璽に付随する印を(仮)に求めなくてはならなくなった。
もちろんこの事実に南部の人間は黙っていなかったが、表立って対立には至らなかった。南部有権者とてそこまで極端に愚かではない。(仮)の有する軍事力を調べれば、いや調べずとも少し見聞を広めれば喧嘩を売れば自分の領地がどうなるかどんな愚か者でもわかる。
「……南部と北部の対立か。最早懐かしい話だな。」
ヤルダバオト騒動が解決され一番に懸念された聖王室の不安材料。だが今やヤルダバオト襲来の爪痕が残らない南部とて安泰ではない。少しでも愚昧な真似をした領主の元へは(仮)がやってきて民を洗脳し団結させ、各地で反乱を起こさせている。最早ローブル聖王国における国勢のレバーは(仮)が握っていると言っていいだろう。確かに南部との対立という民が血を流す懸念は解消された、そして民を幸せにしようとする聖王室の試みは、こうして失敗に終わった。
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二人の男が対峙していた。片や細身ではあるが弛まぬ鍛錬を思わせる活気にあふれた双剣をもつ剣士、片や筋骨隆々とした大剣を背負った剣士。銅鑼の音が鳴り響き、二人は同時に剣を振るう。
「左の同志は連撃、右の同志は一撃に全てを賭ける剣技ですが、どちらが勝ちますでしょう。」
「…………連撃使いは合間に隙が多すぎる。右の勝ち。」
「始まったばかりだというのに相変わらずですね。」
「…………右は速度に翻弄されていない。3秒後首を狙った際に隙が出来る。そこを打たれて終わり。」
『おおっとーーー!首を狙った一撃の僅か一瞬を突いて脇腹へ強烈で鮮やかな一刀!立ち上がろうにも呼吸も絶え絶えだ!……審判より勝負ありの判定が出ました!勝者は……』
「…………ね。」
「あはは、流石です。シズ先輩。」
ここは魔導王陛下へ感謝を送る会(仮)が新たに作り上げた新施設であり、聖地巡礼の中でバハルス帝国を参考にさせていただいた【闘技場】だ。とはいえ復興途上のローブル聖王国、娯楽・遊戯に人材や労力を掛けられるほど余裕などあるはずがなく――ネイアの団体が本気で造ろうと思えば容易にできるだろうが――規模はかなり小さく、収容人数は50人~100人が限界だろうか。
剣闘の娯楽を楽しむというよりは、剣技部隊の練度が高い者を把握し、大勢の前でその研いだ爪を披露し競わせあう場所としての側面が強く、これはレンジャー部隊・弓兵部隊に関してはローブル聖王国で右に出る者がいない(仮)の親衛隊であるが、練度が極端に劣る剣技・槍兵部隊の技能・意識向上を目的として作り上げた場所である。魔導王陛下のため磨いた爪と牙を披露できる場所という都合上、熱狂ぶりはバハルス帝国の闘技場に勝るとも劣らない。
また、敗北は魔導王陛下への背信という考えを持っていることから、皆死ぬまでその剣戦を止めないため、審判団を作成し、傍らには何時でも救命ができるよう看護兵団が待機している。実際この試合で敗北の判定を受けた剣士はこの世の終わりを告げられたかのように慟哭していた。
「魔導王陛下のため磨いた爪と牙を感じさせる素晴らしい試合でした!勝負とは残酷です。常に勝者がいて、そして敗者がいる。もちろん敗北は苦汁です。しかし、偉大なる魔導王陛下の背中を追わせていただく非才の我々にとって重要なことは最後に勝ち切ることです。敗北から学びを得て、次の矢を装填する。それこそが常勝への道であり、【勝利】に向かうための敗北を恥じることはありません。改めて素晴らしい試合でした、魔導王陛下万歳!」
マイクを渡されたネイアが演説を行うと改めて闘技場は熱狂に包まれ、敗北し慟哭していた剣士も地に伏して絶対指導者ネイア・バラハの御言葉に諾々と涙を流す。ネイアとしてはアインズ様の名を冠して活動している以上、敗北など許されないと気を張らせて活動していたのだが、先ほど演説に用いた台詞を誰であろうアインズ様自らが話されたとシズ先輩から聞き、同志たちへ同じ言葉を贈った。
(しかしアインズ様の名を冠しておきながら敗北することはやはり不敬……。いえ、最終的な勝利のため保身に走り敗北を恐れることこそ不敬?そもそも最終的な勝利とは一体……今の我々にとってはローブル聖王国をアインズ様の慈悲深き御手に抱擁していただくこと。ではその後は?)
堂々たる演説を終えたネイアだが、その脳裏に幾多の疑問が浮かび、アインズ様の深淵なるお考えに届かない自分を呪う。しかしすぐさまネイアの頭に天啓が降り注いだ。
「我々自身の敗北……それは恥じ入る必要はない。何故ならばアインズ様、至高の御身のため死ねることは何より尊い幸福であるからということですね!!」
「…………流石後輩。よくわかっている。」
自分の意を汲んでくれたネイアに、シズは威厳のない可愛らしい仕草で胸を張った。
「…………この世にはどんな強者がいるかわからない。アインズ様はそのことを常に俯瞰されている。」
それはヤルダバオト襲来を目にしたネイアも身に染みてわかっている。だからこそ慢心するつもりはない。……そしてそんな、人の身で敵わない理外の強者からネイアにまさかの提案がなされた。
「…………折角だから後輩の成長を見たい。折角闘技場がある。ここを使う。」
「はい!?」
そういうや否や、シズはネイアを抱え一足飛びで闘技場の中央へ着地した。
「…………わたしから攻撃はしない。わたしを一歩でも動かしたらネイアの勝ちでいい。」
「し、シズ先輩と勝負ですか。」
「…………勝負になるかはネイア次第。」
シズの挑発にネイアも矜持をくすぐられる。難度150のメイド悪魔、逆立ちしたって勝てないことはわかっている。それでもアインズ様に偉大な弓兵と賛美を頂いた自分が尻尾を巻いて逃げ出す訳にはいかない。
「わかりました!同志の皆さま、わたしは弓矢を使います!流れ弾に気を配る余裕はないので全員退避してください!」
ネイアの声に、救国の英雄シズ様と絶対指導者ネイア・バラハの一戦が見られると手に汗握っていた皆は心残りを覚えた状態ながら、ネイアの指示に従い全員闘技場を出る。そして広い闘技場はネイアとシズだけになった。
早速とネイアはアルティメイト・シューティングスター・スーパーを構え、魔法が付加された矢を放つ。しかしその矢はシズの眼前で止まる。放たれた電光石火の矢はシズの素手でいとも簡単に掴まれた。
「…………狙いどころも命中率も威力も問題ない。人間や亜人相手ならば即死。」
掴んでいた矢をハラリと地に落とし、シズはネイアを賛美する。矢を素手でつかみ取るという神業を余裕綽々とこなし、相手に賛美の言葉までかけるシズ先輩に、ネイアは苦笑いを浮かべる他なかった。
その後も火・水・氷・悪魔に有効であろう神聖属性の一撃さえ、シズ先輩はすべて素手でつかみ取り、一歩どころか髪の一房すら動かすことが出来ない。ネイアは既に息も絶え絶えで、汗だくになっている。せめて一矢報いようと、ネイアはシズに向かって走り出した。
「…………吶喊。愚策。」
ナイフによる一刀か、矢を直接刺しに来るのか。シズはネイアの動向を見つめる。そしてネイアは超至近距離で立ち止まり、聖騎士の力を弓矢に宿し自分のオリジナルである聖撃を込めた一撃を一拍おいて放った。しかし……
「…………一番いい攻撃だった。耐性を有していないクリーチャーやデーモンに有効。レベル差があってもこれならば攻撃が通る」
……その小さな手にはネイアの放った矢が握られていた。
「はぁ…はぁ…、これでダメですか……。」
ネイアはガクリと崩れ落ちそうになり、シズ先輩に掴まれ転倒を防ぐ。
「…………あ。動いちゃった。これはわたしの負け?」
「あはは、ありがとうございます……シズ先輩。」
最後まで奮闘する自分に花を譲ってくれたのだろうか、シズ先輩のそんな一言にネイアは複雑な内心を覚える。しかしシズ先輩を見ると本当に驚愕しているような感情を宿しており、その心情はネイアでは読み解けなかった。